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奇妙なダンジョンの調査記録 (冒険者、テッド視点)

今回はとある冒険者視点となっております!

彼らの運命は、如何に…!?

「おい、フレディ。本当に此方の方向で合ってるのか?」

「ああ、ギルドから貰った情報だと此方だって聞いてるぞ。この森の先に新しいダンジョンがあるそうだ」


 俺の名前はテッド。ケミーシア王国付近を中心に活動しているCランクの冒険者だ。

 職業は戦士で、普段は同じCランク冒険者の弓使いのフレディとコンビを組んで活動している。

 俺たちがこんな森の中を歩いているのには、理由があった。

 それは、冒険者ギルドからのとある場所の調査依頼だった。


『北の森の方でどうやら新しいダンジョンが発見されたらしい』


 何もなかった場所に突如ダンジョンが発生することは稀にあることだ。

 冒険者達にとってダンジョンは金のなる木、その一言に尽きる。ダンジョンの中には宝箱があり、その中には時折強力な魔法武器や高価な装飾品、人の手には作れないような魔法道具が眠っているのだ。

 ダンジョンの魔物を討伐して一部をギルドに渡せば換金出来るし、周囲の村に溢れた魔物が降りてくることもない。更にダンジョンの完全攻略を達成すれば、他の冒険者たちから一目置かれた存在となる。

 冒険者達にとって一攫千金のチャンスが存在する場所なのだ。


 しかし、冒険者たちがこぞって新しく出来たばかりのダンジョンに行くのは危険がある。なにせダンジョンの主はダンジョンの宝を奪われないよう、ダンジョン内に多くの魔物が潜ませている上に、色々なトラップで冒険者たちの命を狙ってくるのだ。

 何も情報がないままダンジョンに冒険者達が入ってしまえば、多くの冒険者達が死亡することになる。その為新しく出来たダンジョンには複数の冒険者達が調査に向かうこととなっている。


 今回のダンジョン調査に向かう冒険者は俺とフレディの二人に加えて、


「本当にこんな人気のない森にダンジョンなんてあるの? いい加減歩くの疲れてきたんだけど!」


 火属性魔法を操る女魔法使い、メアリー。


「此処らへんははぐれゴブリンやスライムしかいませんしね……」


 サポート役のヒーラー、パメラ。


「おいおい、ダンジョンにも着いてないのにそんな事言うなよ」


 片手剣と盾を所持した剣士、トビー。


「ゴタゴタ文句言う体力あるんだったらもっと歩けよ。メアリー達が何度も休憩を取ってるせいで此方のペースも遅れてんだからな?」


 先導して周囲の様子を伺う狩人、ヴィクター。


 トビー達はDランク冒険者で、普段から4人組でチームを組んで依頼に取り組む仲間らしい。


「テッドさん、メアリー達が文句ばかりですいません……」

「ハハハッ、気にすんな。そんだけ声を上げられるだけ元気なら良いってもんさ」

「それに新入りの女冒険者なら前の森の入り口でもうピーピー弱音吐いてるしな」


 先程から軽い口論をしつつも、魔物達と遭遇すれば息の合ったチームワークを見せているので、仲は悪くないんだろう。

 トビー達は全員20代前後と俺とフレディよりも若い冒険者なのだが、今回のダンジョン調査の話を聞いて自ら志願したのだった。

 若い冒険者たちは一躍有名になれるチャンスを秘めるダンジョンに強い憧れを持つ。彼らもそんな冒険者達の一人なのだろう。若いって良いもんだ。


「おいテッド、あれが噂の新しいダンジョンじゃねぇか?」

「あ、あの洞窟がそうなんですか?」

「ああ、出来たばかりのダンジョンは大抵が洞窟や塔の形をしているもんだが……、入り口の前に何か立てられてるな」

「あれは、看板か?」


 フレディが指差した方向を見ると、確かに出来たばかりのダンジョンらしき洞窟が森の先に存在していた。

 洞窟の入り口の横には、人工的に立てられたと思わしき看板が立てられていた。

 周囲を警戒しつつ入り口に近づいて看板を見てみると、そこにはなんとも変わった事が記されていた。


『注意! このダンジョンでは非常に刺激の強い内容を含みますため、心臓に疾患のある方、高齢の方、妊娠中の方や体調不良の方は事前に引き返す事をお勧め致します。また、当ダンジョン内で死亡した場合には此方は一切の責任を負いません。ルールを守って当ダンジョンの探索を試みてください。』


「……ハッハッハ、こりゃあ傑作だな!まさかダンジョンの方からご丁寧に注意喚起を促してくれるなんてよ!」

「なんというか、随分と変わっていますね……」

「フレディ、お前心臓の方は大丈夫か?」

「俺の心臓には毛が生えてるくらい丈夫だからな。今どきダンジョンごときでビビらねーよ!」

「メアリー、このダンジョンは刺激が強いってよ。漏らす前に引き返すなら今だぞ?」

「うっさいわね、トビー! 漏らさないわよ! アンタこそビビって逃げるんじゃないわよ!」


 丁寧な口調で記された注意喚起の看板に笑い声を上げる俺。

 色んなダンジョンに挑戦したが、こんな風に入り口の前に看板を立てて注意喚起しているダンジョンは初めてだ。

 他の奴らも冗談を交わしながらこの看板の注意書きの主を笑った。


 入る前から散々笑わせてもらった後、俺達は洞窟の中へと入っていった。

 あんな看板があった割に中は前と見たような出来たてのダンジョンと変わらず、ただ道が続くだけの薄暗いダンジョンだ。


「あんな看板置いてある割に、中はショボいんだな」

「気を抜くなよ、ヴィクター。もしかしたら俺たちの想像がつかないようなトラップがあるかもしれないからな」

「ですがトビーさん、いくら歩いても道中に魔物に会う事もないですし、トラップらしきものもありませんよ?」

「そうだけど、油断は禁物だ。気を引き締めていこう」

「トビーの言う通りだな。ダンジョンっていうのは場所によって仕掛けられたトラップや出てくる魔物も違う。こうやって平和なのは最初だけで、この先で何かが待ってるかもしれん。出来たばかりだからって油断するんじゃないぞ」


 トビーに賛成したものの、気を抜いてしまうヴィクター達の気持ちは分かる。なにせ、このダンジョンに入ってから一度も魔物に遭遇してないのだ。

 入り口の看板を見て少し気をつけてはいたが、拍子抜けだ。

 ここは本当にダンジョンなのだろうか?


 そうして数分程歩いていると、少し開けた場所にやって来た。

 松明の炎で照らされたそこは中心に透明なガラスで出来た箱に覆われた奇妙な模様の壺があった。そしてその壺から更に前方には3つの扉があり、そのどれもが変わった物だ。


 右の扉は貴族の家にでも存在していそうないかにも高級感が溢れた青色の扉だ。扉真上には魔導書の絵が描かれている。

 それに対して左の扉は、廃墟のもののようにボロボロに薄汚れた赤色の扉だった。扉上部についている窓の部分にはボロ木で塞がれていて、その真上には暗闇に光る鋭い目の絵が描かれていた。

 真ん中の扉は高級感もなければあからさまにボロボロな扉ではなかったが、他の2つと違って2枚の扉で構成された両開き式の黄色の扉だった。扉の上には、二人の人が握手している絵が大きく描かれていた。


「なんだこりゃ、分かれ道か……?」

「それぞれの扉で様子が随分と違いますね……」

『おやぁ、お客さんですかい?』

「ひゃあっ!」


 突然見知らぬ男の声が聞こえ、武器を構えそちらの方向を見てみると、誰もいない。声の聞こえた先にあったのは中心に設置された奇妙な模様の壺だけだ。

 気のせいだったのか、と思っていると、壺の中から『さぁ、もっと近くに来なさいな』と再び声が聞こえた。

 壺の中に何かいるのか?


「誰だお前は?!」

『わたくしめの名前はティアーゴ。このダンジョンに住む、ちょっとお喋りなだけの何の変哲もない蛇でございます』

「へ、蛇!?」

「壺の中から声が……もしかしてその中にいるんですか?」

『おおっと、壺の中を覗かないでくださいませ。まだ此方に引っ越したばかりで壺の中が散らかっているんですよ』

「蛇がそんな事気にすんのかよ……」

「というか、喋る蛇だなんて魔物じゃないの?」

「ここで討伐した方が良いか?」

『ああ、そんな恐ろしい武器をわたくしめに向けるのはお止めください! わたくしめは、至って無害なか弱い蛇。人を襲ったことなど一度もございません。それにわたくしめは、人の生き血肉なんて食しません。主食は牛ヒレのステーキなんです。こうみえてもグルメなので』

「貴族並みに舌の肥えた蛇だな……。どうする、テッド? コイツほっとくか?」

「……まあ、今は放置して良いんじゃないか? 敵意がないのに攻撃して、反撃してきたら面倒だ。あのガラスの箱に入っている限りあの壺に入っている蛇とやらが襲いかかってくる事もないだろうしな」


 ジョーク交じりに喋るティアーゴと名乗る蛇に気が抜けてしまい、武器を下ろした。俺が武器を降ろしたのを見てトビー達も武器を降ろした。

 壺の中に潜む蛇はなおも喋り続ける。


『さてさて、皆様は一体どのような目的で此方のダンジョンにお越しで? もしやわたくしめのように移住に参ったのでございますかな?』

「んなわけねぇだろ。俺たちはこのダンジョンの調査にやって来たんだ」

『ほほー、皆様はこのダンジョンの挑戦者でございましたか。ではでは、皆様はこのダンジョンに存在するルールをご存知で?』

「ダンジョンのルール、ですか?」


 ルール、と聞いて、俺はふと立て看板に書かれた注意書きを思い出した。

 たしかあの注意書きの最後にも書いてあった。

 もしかするとそのルールがダンジョン攻略とやらに関係するのか?


『ルールを知らない皆様にも、既に知っている皆様にも、このティアーゴがこのダンジョンについてご説明致しましょう!』

「喋る蛇が、ダンジョンの説明だって…? なんとも変わったダンジョンだな」

『というのもね、ここのダンジョンの主様から此方のダンジョンへの移住を許して貰う代わりにここでのルールの説明を任されているのでございます。ここで挑戦者の皆様にダンジョンについて説明するだけで一日金貨3枚の給料に加えて3食美味しいご飯にお風呂付き部屋付きの高待遇なんでございます。』

「ず、随分と贅沢してるわねこの蛇…」

「蛇相手に一日金貨3枚の給料って、俺たちが半年かけて稼いだ報酬より高いぞ…」

「3食飯付き風呂付き部屋付きかぁ。冒険者を引退する事となったらいっそのことここで働いてみるか?」

「ばっか、フレディ。相手はダンジョンの主だぞ」


 目の前の壺の中の蛇の高待遇な仕事環境を聞いて自分の冒険者としての生活を比べてしまい、落ち込みかけた。

 クッソ、俺とフレディは一ヶ月必死に依頼を受けても金貨1枚未満な上に殆ど野宿かボロい宿での寝泊まりなんだぞ。


『ルールを説明する前に、此処のダンジョンについてご説明致しましょう。此方のダンジョンは娯楽ととある物の収集を趣味にした、少々変わったお方が経営しているのでございますが、なんとその御方、このダンジョンで侵入者を殺す気はないというなんとも変わった…いえ、平和的な思考の持ち主なのでございます!』

「ダンジョンに入ったやつを殺す気がないって、そんな事有り得るのか?」

『なんでもダンジョンの主様曰く、「此方を害するつもりがないのであれば此方も無闇に殺す気はない」とのお言葉です。ダンジョンのお宝も見つけたら勝手に取っていって構わないと。』

「マジか!」

「太っ腹かよそのダンジョンの主!」

『といっても配下達の面目を潰さないためちょっとした罠と挑戦者達に戦いを挑む魔物もおりますが、此処に住まう方々は主様に命ばかりは奪ってやるなと命令されております。それに皆様のような挑戦者でしたら容易く迎撃出来ましょう!』


 ティアーゴの言葉とおだてに盛り上がるトビー達。

 確かに湧き上がる気持ちも分かる。なにせ、ダンジョンの主自ら宝箱を勝手に持っていっても構わないと言われたのだ。ダンジョンの宝は冒険者たちが喉から手が出る程求める物ばかり。それを持っていっても構わないと言われれば感嘆モノだ。

 出来たばかりのダンジョンなら魔物もトラップもそこまで強い物ではないし、命は取らないとダンジョンの主自ら宣言しているのだ。

 宝を欲する冒険者たちにとっては万々歳な情報だ。


 湧き上がる俺たちに対してティアーゴは更に言葉を続ける。


『ダンジョンの主様の所有している宝物は凄いですよ。この世界には存在しないであろう魔道具に数年間放置しても新鮮なままの美味しい食べ物、絢爛豪華な装飾品から今後の冒険に役に立つアイテムなどなど……沢山所有しているのです。因みに、わたくしめが住んでいるこの壺も主様からの頂きものなのです。どうです、美しいでしょう?』


 確かにティアーゴという蛇が住んでいる壺はかなり複雑な絵や模様が描かれており、町で売れば大きな屋敷が建てられそうな代物だ。

 そんな壺を蛇の住処として譲渡してしまえるなんて、よっぽどこのダンジョンの主とやらは宝を持っているらしい。


「しかしそんな宝を快く与えちまうなんて、そのダンジョンの主様は随分と変わり者だな」

『ダンジョンの主様が所有している財宝は全て、主様が収集しているある物の副産物なのだとか……。』

「ある物?」

『ダンジョンの主様の収集している変わった物、それは「物語」でございます。』

「なんですって?」


 物語、というと世間的に有名な童話や伝説の事だろうか?

 しかし本を集めるならまだ分かるが、『物語』自体を収集するなんて聞いたこともない。

 そもそも見聞きするしかない物を一体どうやって収集しているのだというのか。


『形のない物なんて収集できるわけがないだろうと思うでしょう? それがね、この主様は出来ちゃうのですよ。現にこのダンジョンには、主様の収集されている物語のコレクションのいくつかが置かれているのです。皆様、前方にある3つの扉を御覧くださいませ』


 ティアーゴの言う通りに前方を見てみれば、先程から気になっていた3つの扉があった。どの扉も、薄暗い殺風景な洞窟には似合わないものばかりだ。


『此方の扉は主様が収集された「物語」へと入る事が出来る魔法の扉なのでございます! 中に入れば皆その物語の主人公や観客になれるのです。継母と義姉達に虐げられる娘の逆転物語から偉大な学者の冒険物語などなど、色々な物語をその身で体験出来るのです。』

「へー、あの扉がなぁ……」

「それは凄いな!」


 一見何もないような扉がまさかそんな魔道具だとは思いも寄らなかった。もしその話が本当だとするならあの扉は相当な値打ち物だ。

 興奮する俺たちに、ティアーゴは更に語った。


『皆様にはこの魔法の扉のいずれか一つに入ってもらい、実際に物語の主人公や観客として物語の中を進んでいただく事となります。主様の財宝の入った宝箱もちゃんと存在しております。主様がお決めになったルールを守り、進み続ければそれ相応の宝を手にする事が出来るのでございます。如何です?とても素敵なお話でしょう?』

「確かに、悪い話じゃねぇよな?」

「そのルール、ってやつがまだ分からないが、進むだけで宝も手に入れられるなら良いかもしれないな」

『この扉の向こうへと進めばその物語を管理する管理人がおり、物語のあらすじを聞くことが出来ます。主様の収集する物語は、この世界とは異なる次元に存在する世界のものが多いですからね。物語を知らなくても大丈夫です。』


 物語の管理人や異なる次元の世界というのはよく分からないが、俺たちに悪い話じゃなかった。

 なにせ命の危険を脅かされる事なくダンジョンの中を探索出来るのだ。常に死と隣り合わせである他のダンジョンに比べれば良い物だ。


『物語の中に入るに当たり、挑戦者の皆様にはいくつかのルールを守っていただきます。それらは主様が決められた重要なルールであり、皆様の命綱とも言えますので絶対にお破りにならないようにお願い致します。

 まず一つ目、物語に入っている間の逆走は禁じられております。行き止まりなどにあたった場合は分かれ道まで戻ってくる事は許されておりますが、この場所まで戻ろうとする事はいけません。物語に支障が起きてしまいますから。ああ、出口に続く道は別に存在致しますのでご安心ください。』

「基本的に行った道を戻る事は駄目なのか」

「これならまあ余裕だな」

『二つ目、ダンジョンの中に存在する設置物の故意の破壊と盗みを禁じられております。物語に重要なアイテムが壊れていたり無くなってしまったりしていれば物語に支障が出てしまうでしょう? ダンジョン外まで持っていって良い物は宝箱の中身とダンジョンの主様や物語の登場人物からの許可がある物のみと覚えておいてくださいませ』

「破壊が駄目なら、広範囲魔法も簡単には使えないわね」

「戦闘する時は慎重に戦わなきゃいけないな…」

『三つ目、ダンジョンの外で物語の全貌を他の者に教えるのは禁じられております。誰だって、これから読む話の最後を勝手に教えられたら興が削がれてしまうでしょう?このダンジョンが一体どういう物か、宝箱の中身はどんな物だったか、一体どんなあらすじの物語だったかという内容でしたら構わないそうですが、物語の重要な真実をこのダンジョンの中に行ったことのない他の人に暴露する事だけはいけません。思い出は、共に進んだ仲間達のみに共有していただきたいそうです。』

「要は、扉の先で見聞きした物語のオチとかは言うなって話か」

「依頼内容的に見たこと聞いた事は全部報告するべきなんだが…。どんな物が手に入るかとこのダンジョンの構成を教えられるんだったら大丈夫か」

『四つ目…これはこのティアーゴからの助言なのですが、物語の内容を辱めるような行為だけは出来るだけ避けた方がよろしいですぞ。主様は物語と娯楽が大好きだ。それらに泥を塗るような真似を為されば、たちまち主様の怒りを買うこととなるでしょう。』

「おお、それは恐ろしいな」

「十分稼がせて貰うなら、このダンジョンの主の怒りは買わねぇ方がいいな」

『以上が、このダンジョンのルールとなっております。途中具合が悪くなっても後戻りは出来ませんので、そこはご了承ください。』

「え、これだけか?」

「意外と少ないな」


 ルールと聞いたからもっと細かいルールが沢山あるのだと思っていた。

 しかし、提示されたルールは4つだけ…しかも、少し気を付ければ破ることのない物ばかりだった。

 案外、このダンジョンの主という奴は甘いのかもしれない。


『わたくしめから話せる事は全てでございます。皆様のご健闘をお祈り致します。』

「おう、話を聞かせてくれてありがとよ」


 俺が礼を言うと、ティアーゴはそのまま静かになった。どうやらこれで話は終わりらしい。

 逆走できなくて入れる扉が一つしか行けないのだったら、別れて探索した方が良いだろう。


「俺とフレディは左の扉を進む。トビー達はどうする?」

「俺とメアリーは右の扉を、パメラとヴィクターには真ん中の扉に行ってもらうつもりです。戦闘になる場合、この組み合わせがやりやすいので」


 確かに何があるか分からない以上、近距離で戦う物と後方でサポートする役に別れたほうがいい。

 冒険者としては悪くない選択だろう。

 俺たちはお互いの健闘を祈り一時の別れの言葉を告げ、それぞれの扉の中へと入っていった。

 扉を閉める直前、ふと、壺の中からティアーゴの声が聞こえた。


『蛮勇に溺れ、狡知に回り、孤独に走る者は隠された物語の扉を見つけた~♪それこそが物語の終わりだとも知らずに~♪』


 奇妙な歌を不気味に歌うティアーゴに、俺は嫌な予感を感じた。

 ティアーゴに話しかけようとしたものの、俺たちが中に入った事で扉が閉まってしまった。


(確かティアーゴが話したルールによると、最初の部屋に戻っちまうのは駄目なんだったな。)


 扉が閉まってしまった以上、もう先へ進むしかない。

 俺とフレディは武器を構え、何が起きても大丈夫なよう気を引き締めながら先へ進んだ。


 そして俺たちはこの後、このダンジョンの恐ろしさを身に沁みて実感する事となったのだった。


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