Q. 何故彼らは彼女を心配していたのか?
話はアイネスこと小森瞳子が女神により異世界転移させられた直後にまで遡る。
『では皆さんはこれからとある国に召喚されます。そこで皆さんは冒険者になるか、その国を繁栄させるか、好きな方法で文明を進展させてください。では、良い異世界ライフを! 』
そんな女神の言葉とともに、ソーマ達はアスペル王国の王宮に存在する、魔法陣の敷かれた部屋に召喚された。
周囲にはフードを被った王宮の魔術師らしき人達がいて、ソーマ達を見るなり歓声を上げる。
「おお、成功したぞ!」
「異世界からの勇者達だ!」
「これでまた、この国は繁栄するぞ!」
ソーマ達を見てそんな事を口々に言う魔術師達。
黒子と呼ばれた少女と、筋雄と呼ばれた少年はそんな彼らの様子に困惑した、しかし何処か期待に満ちた表情を浮かべていた。
カナタはヘラヘラと薄笑いを浮かべ、王女らしき人物の品定めを行っていた。
そんな中、ソーマとアヤカだけは笑みを浮かべる事ができなかった。
女神と対峙していた時の余裕っぷりは一体何処に行ったのか、顔を俯かせて何も言わずに立っている。
周囲の魔術師達と黒子達は今の状況に浮かれてか、ソーマとアヤカの様子に気がつくことはない。
彼らの異変に気がついていたのは、カナタだけだった。
すると魔術師達の前に出るように、一人の美少女が前に出た。
「よくおいでくださいました、異世界の勇者様方! 私がこの国、アスペル王国の第一王女の――」
「アンタ邪魔」
名乗ろうとしたアスペル王国の第一王女が言い終わらない内にアヤカがそうぴしゃりと言い放ち、さっさとその部屋を出ていこうとする。
ソーマも何も言わずにアヤカの横で外へ出ていこうとし、カナタはポケットから持っていた棒キャンディーを咥えて二人を見ていた。
そんな三人にポカーンと口を開けて唖然としていたのだが、慌てて第一王女が制止した。
「お、お待ちください! 一体何処へ行こうとしているのですか⁉」
「こもり子ちゃん探しに行くつもりに決まってんでしょ?」
「こ、こもり子?」
「召喚されて早々申し訳ないですが、僕達はこのまま王宮を出ていこうと思います。ではこれで」
「お、王宮を出る?!」
「ふ、二人共、どうしたんですか? 小森さんを探しに行くだなんて……」
ソーマとアヤカの言葉に更に困惑を見せる一同。
しかしソーマとアヤカは本気なようで、部屋を出ようとして近くにいた魔術師達に抑え込まれている。
そんな中、この中で唯一動じていなかったカナタが、この場を更に混沌に陥れるような発言をした。
「あ、こもりん探しに行くんならオレもついてこーかなー」
「はぁ!? 東雲まで何言ってんだよ?!」
「だってー、そっちの方がオモシロそーじゃん☆あとそこのプリンセスちゃんより胸大きい姉ちゃんに会えそー」
「なっ……?!」
カナタの発言に絶句する第一王女。訳が分からず動揺する黒子と筋雄。アヤカとソーマを力ずくで引き留めようとするものの、ステータスの差で引きずられかけている魔術師達。
この場にいないアイネスがいたのなら、「いやカオスすぎでは?」と冷静にツッコミを入れていただろう。
しかし残念ながらその場に彼女はいないため、誰もこの場にツッコミを入れる者はいない。
その時、アヤカが青筋を立てながらキレ気味に大声で上げた。
「うっさい、邪魔すんじゃないわよ! この場にこもり子ちゃんがいないならこんな異世界ゴメンだわ!」
「彼女が一緒にいたから異世界転移に賛成していたけれど、彼女が反対なら話が変わってくる。僕達は彼女を見つけたら、すぐにでも元の世界に戻らせてもらうよ」
「「「ええええッ!?」」」
二人の発言にカナタ以外の全員が驚愕の叫びを上げた。
カナタは二人がそう言うことを分かっていたのか、「あー、やっぱりぃ」とだけ呟いて笑った。
周囲がパニックになっている中、アヤカとソーマは苛立たしげに言葉を続ける。
「あーもー、あのクソ女神ホント最悪! まさかこもり子ちゃんだけ別の場所に転移させるだなんて!」
「まさか、小森さんが異世界転移反対派だったとはね……。完全に最初の反応を間違えてたよ……」
「ホントそれよそれ! あの時すぐに反対派に移っとけば一緒の場所に行けたかもしれないのにー! あの時のウチ、本当バカー!」
「小森さんの現実的客観視をもっと理解しておくべきだったよ。言われてみれば異世界転移なんて彼女にとってデメリットだらけじゃないか……。でも、小森さんも小森さんだよ。普通は本のジャンル程度にこんなに考察なんてしないよ」
「マジでそれ。オタクなら異世界転移は憧れるもんでしょ?! なんで乗り気じゃないのよ! こもり子ちゃんの癖に考え方が変わりすぎなのよ!! この、考察厨! 引きこもり! 陰キャ女!」
「小森さんはもっと高校生みたいな考え方をした方が良いよ。それにもっと自分の身とか考えてくれないと此方も困るよ……」
「「でも推すのが止まらない~~!!」」
普段のアヤカとソーマの姿からは考えられないような熱情。
あまりの熱狂ぶりに、その場にいる者全員が唖然とした表情になる。
ハッと我に返った筋雄が近くにいたカナタの肩を掴み、表現し難い表情でカナタに問い詰める。
「お、おい、東雲。あれどういう事だよ?」
「んー、あれって何?」
「早乙女と桃住だよ! 早乙女と桃住の様子が普段とぜんぜん違うぞ?!」
「あー、あの二人? 別に普通じゃね?」
「いや普通じゃねーだろ! あんなのいつもの早乙女と桃住じゃねーだろ?! あんな、小森コールしてるのなんか今まで見たこともねーよ!」
「あれじゃあまるで、その、オタクみたいな……」
「んー、オタッキーってのは当たらずとも遠からず的な? なにせソーマっちとアヤッペはKHFの会長副会長だし。」
「KHF?」
「な、なんでしょう、それは…?」
カナタの口から出てきた謎の名詞に首を傾げる黒子と筋雄。
話を遠くから聞いていた第一王女も会話に参加し、3人でカナタに詰め寄る。
カナタは薄笑いを浮かべたまま、ちゃらちゃらした口調で言った。
「K(小森瞳子)H(非公式)Fの略。あの二人、小学生時代からこもりんの大ファンなんだわー☆」
「「「は、はぁぁぁぁぁ!?」」」
突然の衝撃的暴露に3人は王宮内に轟くほどの大きな声を上げた。
カナタはそんな3人の様子が面白いのか、腹を抱えてケラケラと笑う。
「「こもり子ちゃーん(小森さーん)!!!」」
そしてその一日、アヤカとソーマのアイネスを呼ぶ声が王宮内に何度も響いたのだった……。
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「オレとソーマっちとアヤッペってこもりんとは同小じゃん? それでその時に色々こもりんに助けられた事がある訳よ。それ以来ソーマっちとアヤッペはこもりんの重度のファン。オレは二人が陰でこもりんの事ワイワイキャッキャッしてるの見たことあるから知ってた☆」
「あ、あっちの世界にもいたんだ、アイネスちゃん至上主義者……」
「こもりんって影薄いし周囲との付き合いクッソ悪いけどー、どんな事でも卒なくこなすし引き受けた事は大体完璧にやり切るから知ってる人的には好感度結構高めなんよ。あと料理とかちょーうめーし。更にはソーマっちとアヤッペみたいに困っている所を助けられるともうどっぷりのめり込むのめり込む」
「あー……」
「その気持ちだけは分からなくもないですわね……」
「アイネスちゃん、普段無表情で近寄りがたい雰囲気だしてるけど、普通に優しいし頼まれた事は真剣に考えてくれるからねー。あまり良い印象を持ってない所から助けられて好感度が一気に引き上げられる事になっても可笑しくなさそう~」
ソーマとアヤカが別席でお互いの事情を共有し合っている中、広間の反対側では未だに正座させられているカナタからソーマとアヤカの急変ぶりに対する説明を受けていた。
カナタの話にジャスパーと半数の貴族令嬢子息は話中の二人の熱狂ぶりに若干引き、マリアとライアンとエルミーヌ、それに数名の令嬢達は多少なりとも理解した様子を見せ、サバトラは腹を抱えて笑っていた。
カナタはそのままファンクラブについてを話し始めた。
「で、気がつけば二人が立ち上げた非公式ファンクラブのメンバーは50人弱~☆500人超えるソーマっちとアヤッペのファンクラブに比べたら全然小せえしメンバーも少ねえけど、一人ひとりのハマり方が超ディープ♡メンバー作成の応援うちわや法被からこもりん名言集まで絶賛販売中~」
「作ったんだ、うちわと『はっぴ』……」
「売ってるんだ、名言集……」
グッズ販売まで行われているという事実に呆れた表情を見せる一同。
マリア達魔物達はこもりんファンクラブの熱狂ぶりに対し、ベリアルの事を思い浮かべた。
ふと、サバトラはアイネスが先程言っていた彼らの謎のちょっかいについて尋ねた。
「そんにゃら、さっきアイネスが言ってた外出するようにしつこく言うっていうんにゃ……」
「「もっと外に出ている姿を見たい♡」ってことじゃね?」
「面倒な相談を持ちかけるっていうのは……」
「相談持ちかけられてーこもりんなら良い解決方法見つけられるんじゃね?って思ったの3割、こもりんとの会話のチャンス増やすためなの7割、ってとこじゃねーかな? あとこもりんファン増やすための推し活アピールとか」
「友情と信頼からの行動と思いきや、まさかのアイネスちゃんの支持者故の行動かー!」
「こんなの、ただの友情からのものにしか見えないよ……」
ソーマ達が何故鬱陶しがるアイネスに対しちょっかいを掛けていたのかをマリア達は漸く理解した。
アイネスの話を聞いて当初はアイネスが思っていたよりも友人として見られていたのだろうとマリア達は推測していたが、実際は推しとそのファンというかなり斜め上の関係性だったのだ。
こんな事実、誰も推測出来ない。
「……放課後無理矢理連行して街を歩かされたというのは……」
「あ、それ多分オレー。ただの放課後予定空いて暇な時に遊んでもらってた♡」
「いやそれアンタだったのか!」
「こもりんってばゲーセンとかマジ無双だしー、映える店とか意外と知ってるから昼の遊び相手にはめっちゃ良いんだわ~☆絶対ヤラしてはくれねーけど」
「婚約関係でもない一人の少女と肉体関係を結ぼうとするのはお止めなさい!」
カナタの最後の言葉にエルミーヌが叫ぶ。
アイネスの配下が目の前にいると分かってもそんなことを言うのかとその下品な思考に呆れてきた。
カナタは悪びれる様子もなく肩をすくめて言った。
「だから、今の今まで手ぇ出してねーじゃん。オレ、意外とそこら辺ちゃんとするタイプよ? 一度直接お誘いしてからはそれっきりオレからは誘ってねーし、人妻と婚約者と恋人にはその子の相手から合意貰わなきゃ関係持たなかったし、避妊とかもちゃーんとやってたー。此方じゃスキルで<避妊>ってのがあるから気にしてねーけど」
「そういう問題じゃないですわ! 複数の女性と関係を持っているのが問題ですのよ!」
「というかそれ、結構な人数と肉体関係なかったら取れないスキルじゃん。一体何人と肉体関係持ってるのさ」
「んー、前いた場所では中学ン時から遊んでたし、高校入ってからは週に4,5人とヤッてたから覚えてねーや。アスペル王国来てからはざっと60人ぐらい?」
「ろっ……!?」
「多いなっ!!」
「どんだけ性欲が強いんですの?!」
「あはっ、それよく言われるセリフベスト3~」
あまりの数に驚愕を示すエルミーヌ達。
無理もない。
この世界において女遊びが激しい男性でも精々10人弱。
カナタの人数はその平均を遥かに凌駕しているのだ。
種族は夢魔だ、と言ってもきっと誰も驚かないだろう。
「オレから言わせれば、人なんて全員性欲つえー方だよぉ。みーんなそれを理性で抑え込んでるだけ。リリスちゃんなら、それって分かるんじゃね?」
「まあ、そうだねー。それは分かるよ。君はどうやら、そんな理性というのは殆どぶっ飛んでるみたいだけど。もしくは、抑えきれてない…とか?」
「まさしくそれ~。オレって人の何倍も性欲強いし、親父らも性に奔放してたからそういうリミッター的なのは殆ど機能してねーの。でも、ヤっていい人とヤっちゃ駄目な人ぐらいは区別つくよ? そこの折り花ちゃんも、ただの脅しであんな事言ってただけだし。」
「そうには思えませんでしたが?」
「いやいや~、プリンセスちゃんがそういうのに疎いだけっしょ。本気でクズな男なら、壁ドンどころかドレス破ってキスの一つぐらいやらかしてたぜ? オレ、壁に追い込む以外に一度でも折り花ちゃんに触ったぁ?」
ヒラヒラと手を見せて告げたカナタの言葉に、マリア達はカナタの様子が変わった時の事を思い出す。
言われてみれば、彼は壁に追い込む為に軽く肩を押した以外はその令嬢に触れていなかったし、いかがわしい真似もしなかった。
言葉でこそ身体に直接、などと言ってはいたが、実際にその令嬢自身に手を出してはいないのだ。
そうなると、カナタは本当に令嬢に手を出すつもりはなかったのだと分かる。
「アスペル王国にいる時も、関係もって遊んだのは婚約者とか恋人とかいない人か、そいつらに合意を得た人ら。あとはいくらでも遊んでも怒られたりとかしない貴族達とか。全員オレに口説き落とされてホイホイ遊び目的で体の関係をオッケーした子達ばっかなの。性欲はつえーし女遊びは激しいけど、意外とちゃんとしてるんだぜ、オレって♡」
舌舐めずりをしながら告げるカナタの言葉に信頼なんてものはない。
しかし、実際令嬢に本気で暴行を働いてなかったのも事実だ。
カナタという人間像が段々と分からなくなってきてエルミーヌ達が彼への対応を掴めずにいると、リディアーヌが「あれ~?」と何か疑問が思いついたように手を上げてカナタに尋ねたのだ。
「じゃあ、なんでアイネス様とは関係を断られた後も外出に誘ったりするんですか~? 一度断られたら、すぐ引くんですよね~?」
「そういえば、あの二人はアイネスちゃんの支持者だったからアイネスちゃんを必死に探してたようだけど、聞いてる感じキミはそのファンクラブの人間じゃないんだろう?なのにどうしてアイネスちゃんの作品を見て驚いてたんだい?」
「え、そんなのこもりんが心配だったからに決まってんじゃん」
当たり前のことを聞かれたように答えるカナタに、マリア達はキョトンとした表情で彼を見る。
カナタはヘラっと薄笑いを浮かべて、言った。
「そりゃあ、ソーマっちみたいにこもりんのガチファンって訳じゃねーけど、普通にこもりんのことは友達ぐらいには好きだよ? こもりんがどう思ってるかは知らねーけど。」
「意外だにゃー。おみゃーの口からなんともまともな答えが出てくるにゃんて」
「ただの遊び関係だったらこんな必死に探す訳ねーじゃん。この二ヶ月間、マジ大変だったわ。アスペル王国の人らにこもりんを探すの手伝うからーって言われたからアスペル王国を本拠地にしてさ。ソーマっちとアヤッペと3人で冒険者登録して依頼こなしながら周辺の場所探してみたりとかしたし、めんどい訓練とかも受けてたしさー。リリスちゃんら討伐依頼だって、きなくさかったけどソーマっちが「小森さんを捜索する範囲を広げるために受けよう」っつーから受けた訳だし?普通友達だって思ってなかったら此処までしねーって。」
そう言いながら、カナタはソーマ達と話し合いをしているアイネスの方を見る。
アイネスは転移前と同じように特に傷も何もなく、綺麗な服を着ていつもどおりの無愛想な表情をしている。
ただそれだけの姿を見るだけでもどれだけ安心出来ることかアイネスは知らない。
アイネスは確かに存在感が薄い。
無愛想で、何を考えているか分からなくて、誰に対しても愛嬌なんて見せないし、小学校からの仲であるカナタ達相手にも鬱陶しいと言うぐらいドライだ。
しかし、いなくなってほしいと思っている訳ではないし、いなくてもいいと思っている訳ではない。
むしろ、いて欲しいとカナタは思っている。
アイネスはいつの時でも誰かに任された事は、問題に巻き込まれた時は、迅速かつ冷静に行動していた。
彼女が何も言わず、問題を解決する姿はまさに英雄。
見ていて飽きないのだ。
しかし、彼はそれを言うつもりはない。
アイネスがそういうのは嫌いだというのを知っているから。
「つーかさ、この時間暇じゃね? 誰か一緒にどっかの部屋でしけこまね?」
「この流れで良く行けると思いましたわね?! そんなのお断りですわ!」
「え~。じゃあリリスちゃん達は?」
「あたしらもパース! それよりお茶会を早く再開したいしさ!」
「じゃ、そこの犬の人でも良いよ? オレと一緒にヤラね?」
「はぁ?!」
「なんだって?!」
「オレってば、男でも女でも万事ダイジョーブなんだわ。さっきの経験人数も男も含まれてるし? ねーねー、一発遊ぼうよー。オレ、男役でも女役でもどっちもオッケーだからさぁ」
「断る!!!! 誰が受けるかそんな誘い!」
「そんなことより、その過去に経験した話についてを詳しく聞かせてもらっても良いかな?!」
「ライアン殿!?」
カナタは薄笑いを浮かべたままジャスパーに誘いを持ち込み、ジャスパーに凄い表情で睨まれる。
ライアンはカナタが男もイケるという発言に腐魔女として興味を示し、メモ帳片手にカナタに問い詰める。
先程までしていた話などまるでなかったかのようだ。
カナタはチャラチャラとした笑みを浮かべたまま、目を細めた。




