呼ばれざる来客の襲来
「いやー、マジ王宮の中広くね?此処に来るまでめっちゃ迷っちったわ。」
「それもこれもカナタ、あんたが変な所行くからっしょ!」
「まあまあ、落ち着きなよアヤカ。」
「ソーマもソーマよ!ちゃんとカナタの手綱を握ってなし!」
「ごめんごめん。」
マリア達の目の前で楽しく談笑を繰り広げる三人。
その余裕の有る様がマリア達の目から見て異常に見えた。
訝しげに彼らの様子を伺っていたエルミーヌが、前に立って彼らに尋ねた。
「わたくしの開催するお茶会の間に水を差して名も名乗らないとは無礼ですわよ。今すぐ名前を名乗りなさい!」
「うわ、なんかめっちゃおこじゃね?美人のおこ顔とかマジこわー」
「なんか上から目線でやな感じー。」
「二人共、それくらいにして。すみません、突然やって来てしまって。」
ケネーシア王国の第一王女であるエルミーヌを目の前にしても、彼らは態度を改めることはない。
まるで話を聞かない。聞く気が感じられないのだ。
言葉自体が通じず、聞くことが出来ないアイネスとはまるっきり正反対だ。
唯一まともそうな好青年が代表して、エルミーヌに会釈をして自己紹介を始めた。
「ぼくはソーマって言います。此方の二人は僕の友人のカナタとアヤカ。」
「チーッス、カナタちんでーす☆」
「アヤカでーす。」
貴族を目の前にして、礼儀も何もない自己紹介を行う二人。
「僕達はアスペル王国の招待客として今日のパーティーに参加する事になったんですけど、つい先程ある人から直々に依頼をされて…。」
「依頼?なんですの、それは?」
「別に、大したことじゃねーっすよ。」
「そうそう。」
ソーマと名乗った男の言葉に、エルミーヌが尋ねる。
すると、カナタと名乗った男が舌をベロリと出しながら言った。
「ただ、王宮に凶悪な魔物らがいて、その魔物らがとある人を傀儡のように操っているからちゃちゃっと追い払えってやつ☆」
その言葉を聞いた瞬間、広間がどよめき出す。
その中で、マリアとライアンは警戒心をMAXに上げてソーマ達を睨みつけた。
マリアは怒りを堪えつつも、笑みを浮かべて彼らに尋ねた。
「ふーん…一応聞くけど、その依頼主ってどこのどちら様なの?」
「悪いけど、それは教えられないかな。依頼主との守秘義務っていうのがあるのもそうだけど…、どうやら君がその噂の魔物の一人みたいだしね?」
「ちょっとお待ちなさい!それは何かの間違いではなくて?マリアさんはそんな事をする方ではありませんわ!」
「って、言われてるけど実際のところどぅーよ?」
「信用できないっしょ。人を傀儡のように扱う魔物なら、周囲の印象ぐらいヨユーで操れるだろーし。」
「つー訳で、退治かくてーい!」
エルミーヌが慌ててマリアを庇うものの、彼らには効果がなかったようだ。
マリアは小さくため息をついて、なおも反論しようとするエルミーヌを手で制止しソーマ達に言った。
「分かった分かった。じゃあほんのちょっとだけ相手をしてあげる。でも、此処では止めてくれない?エルミーヌちゃんのお茶会を台無しにしたくないの。」
「マリアさん…。」
「大丈夫、マリアちゃんにまっかせなさい!」
折角の祝いの日を台無しにするのはいけないと判断したマリアは、どうにか戦闘の場を変えられないかと提案を出す。
不安そうに見るエルミーヌ達に対し、マリアが胸をポンッと叩いて安心させようと声を掛ける。
そんな様子を見ながら、ソーマは言った。
「…確かにこの場で戦うと他の皆に被害が及びかねないね。何処か別の場所に移動出来るならそうしよう。」
「えー、まーた移動すんの?」
「彼女が言っている事が正しいよ。人様に、それも貴族の皆に危害を加える訳には行かないからね。すみません、何処か借りられる場所はありますか?」
「…でしたら、騎士たちの鍛錬場をお貸ししますわ。そこが嫌なら、外でやってくださいまし。」
ソーマが乗り気なのを見て、マリア達はホッと安堵の息をついた。
今ここで暴れられれば広間の中にいる令嬢子息達も怪我をしかねない。
エルミーヌはそれに便乗してなんとか鍛錬場へ移動させようと提案する。
鍛錬場に行けばアルベルト達と共にいるであろうイグニレウスもいるだろうと推測したからだ。
アルベルト達なら彼らの誤解を解くことも出来るだろうし、万が一暴れてもイグニレウスの力であればなんとか出来るかもしれない。
そう思っていたのだが、此処でアヤカが反論を上げたのだ。
「えー、ウチは反対なんですけどー。魔物って人間とそっくりな奴もいるんでしょ?もしかしたら、こん中にもいるかもしんないじゃん。貴族の子息令嬢達に紛れ込んで、こっそりと逃げ出そうとしているクズな魔物とか…ねぇ!」
「ひいっ!」
「キャァッ!」
その時、アヤカがノーモーションでその手に火属性魔法を発動し、広間の出入り口からこっそりと逃げ出そうとしていた子息令嬢二人に向かって放ったのだ。
子息令嬢達が悲鳴を上げる。
マリアとエルミーヌは突然のことに反応出来なかったが、一人すぐに反応出来た者がいた。
「<アクアシールド>!」
ライアンは火属性魔法に相対する水属性の盾を狙われた二人の前に発動し、アヤカの放った火属性魔法を完全に防御した。
そしてヘナヘナと座り込む二人に近づくと、優しく声を掛けた。
「二人共、怪我はないね?」
「は、はい!」
「このまま立てるかい?」
「な、なんとか…。」
「うん、無事で良かった。じゃあこのまま、安全な所まで逃げられるね?」
「だ、大丈夫ですわ…」
二人に怪我がないことを確認するとライアンは優しく微笑み、そしてキッと鋭い表情に変えてアヤカの方を向いた。
「なら、すぐに行くんだ!今すぐに!」
「「は、はい!」」
ライアンの言葉に返事を返すと、二人はすぐに出入り口を出て広間から逃げた。
アヤカがその二人を追い掛けようとしたが、ライアンがその前に立つことでそれを防いだ。
それまでのやり取りに、カナタが口笛を吹いた。
「ヒュ~♪かーっこいー!まるで白馬のプリンスじゃーん!」
「アヤカ、まだ確認もしない内に魔法を放つのは駄目じゃないか。」
「えー、だってー…。」
「警戒しなくても、この広間にいる魔物はそこにいるマリアとボクの2体だけだ。それ以外の子達はただこの場に招待されただけの人間の子達に過ぎない。他の皆に手出しはしないで貰おうか。」
「え、そうなの?」
「ごめん、少し確認させてもらうね。」
ソーマがそういった瞬間、ライアンに謎の感覚を覚えた。
誰かに己の内を覗かれているような、そんな感覚だ。
それが一体なんなのかを悟る前に、ソーマが声を上げた。
「どうやら、嘘は言っていないようだね。彼…いや、彼女達二人以外は皆ただの人間だ。それにしても、リリスとウィッチか…。初めて見たな。」
「え、ウィッチって…あのイケメン女ってこと?!うわ、全然気づかなかったわー。」
「いわゆる男装系女子ってやつ?ヤバイケじゃん!この世界のオンナノコってみーんなキャワワ高飛車おにゃのこ系だと思ってたわー。」
「…それは、<鑑定>かい?」
「これが一番、手っ取り早い確認方法だからね。気に障ったなら謝るよ。」
「いや、嘘を言っていないと分かってくれたなら良かったよ。強いて助言を述べるのだったら、その確認方法は魔物相手にはあまり使わない方が良いことだね。人間相手だったら気づかれないかもしれないけど、感覚の鋭敏な魔物相手に使うと気づかれて怒らせる事が多いからね。」
「肝に銘じておくよ。」
自身に<鑑定>を使われた事に驚愕しつつも、ライアンは毅然とした態度でソーマに対応する。
ライアンからのアドバイスに、ソーマは特に嫌な顔をするわけでも跳ね除ける訳でもなく、苦笑を零しただけだった。
「本当に分かっているのやら…。正直、他の二人よりもキミみたいに一見好青年っぽい人間の方がボクは恐ろしいよ。一体どんな事を考えているか分からないからね。」
「別に変なことはするつもりはないんだけど…。」
「悪いけど、一度それで散々苦しめられてきたんだ。あまり信用は出来ない…よ!」
そんなやり取りをしている合間に、ライアンは魔法陣の構築を終え、魔法を発動させた。
エルミーヌを含めた広間の人間たちの周囲に防御魔法が展開される。
避難誘導をしようにも、アヤカが許しそうにもない。
どうにかエルミーヌ達が傷つけられないようにとライアンが考えた策だった。
多少魔力を消費したものの、戦えない程ではない。
そのまま次の魔法の準備へと取り掛かる。
魔法陣の構成を始めるライアンに対し、マリアはエルミーヌに向かって静かに尋ねた。
「エルミーヌちゃん。あたしさ、アイネスちゃんと約束したの。この王国にいる間は、何かあっても出来るだけ人を傷つけちゃ駄目だって。」
「マリアさん…」
「でも、その約束の例外として相手が先に手を出して、命の危険に遭っていると判断したら手を出して良いって言われてるんだよね。だけど、やっぱり分かりづらいや。あたしってこう見えて結構強い方だし、どっからどこまでがセーフなのかさっぱり。だからさ、エルミーヌちゃんの意見も聞きたいんだけど、どう思うかな?これって、その例外だと思う?」
「…ええ、そうですわね。わたくしの目から見ても、今の状況はその例外の範疇に入っていると考えますわ。だから、マリアさん達もどうか自分の身をお守りください!わたくしが責任を負いますわ!」
「そう……じゃあ、あたしも精一杯反撃しちゃおうかな!」
エルミーヌからの許可を得て、戦闘の構えを取るマリア。
エルミーヌはマリアの姿に頷いた後、マリア達が戦闘しやすいよう、他の者達と共に広間の隅に行く。
そんなやり取りを見て、ケラケラと笑いながらカナタはマリアに話しかけた。
「ねーねー、キミってあのリリスちゃんなんだよねー?サキュバスをグレードアップしたやつ!」
「そうだけど、それが何?」
「じゃあじゃあ、今からオレと一発ヤッちゃわね?夜の女王相手にとかまだヤッたことねーんだよね。」
「ヤッ…!!」
カナタの発言に、エルミーヌが顔を真っ赤にさせた。
貴族王族の前で、此処まで赤裸々に下のネタの誘いを言う人間は悪徳貴族でもいないだろう。
しかしリリスであるマリアは特に顔を赤らめる事なく、余裕の表情でカナタに言った。
「えー、もしかしてキミって結構ヤる口?嬉しいお誘いだけどー、あたし今、そんなにお腹減ってないの♡だ・か・ら~、ごめんね?“大人しく、眠っててね。”」
その瞬間、マリアは優雅にカナタに距離を詰めカナタと目を合わせた。
そしてそのまま、カナタに向かって洗脳魔法を掛けた。
近距離からの精神に影響を及ぼす魔法。
しかもそれを掛けたのがそういった魔法に長けたリリスが行ったとなれば、耐性スキルを持つ人間でもひとたまりもない。
突然楽しい空間を台無しにされて若干怒りを覚えていたマリアは、かなり強めの洗脳魔法を掛けた。
これで一人は戦闘不能に陥る。
そう、思っていた。
「えー、まだ寝てらんねぇよ。まだまだ始まったばかりじゃーん!もっとおれと遊んでよ♡」
「!!」
舌をベロリと出し、洗脳魔法に掛かったにも関わらず先程までと変わらない反応を見せるカナタに、マリアは目を見開いて思わず後退した。
マリアの、夜の女帝とも呼ばれるリリスの掛けた洗脳魔法が完全に無効化されているのだ。
アイネスがリリィに洗脳魔法を掛けられた時だって、洗脳魔法はアイネスに掛かっていた。
しっかりと、誰の見る目でも分かるように、完全に、完璧に洗脳魔法が掛かっていたのだが、その現実的客観視によってリリィの望む答えを出さなかっただけなのだ。
しかし、目の前の青年は妨害魔法も何もなしにマリアの洗脳魔法を完全に無効化したのだ。
<鑑定>をしていないので分からないが、カナタはマリアよりもレベルが低いと直感が訴えている。
そんな彼が、マリアの魔法を無効化することが出来た理由は一つしか思い浮かばない。
「もしかしてキミ、無効系スキル持ってる感じ?」
「ピンポーン、せいかーい!おれのユニークスキルの一つに<例外者>ってのがあってさ。それが、どんな状態異常もおれがイヤだなーって思った魔法もスキルも無効出来るっつーヤバスキルなんだわ!リリス相手には効果テキメン!って感じっしょ?」
「なるほどねー、確かに、あたし相手には相性テキメンだよね…。ユニークスキルの一つ、ってことはまだある感じなの?」
「そーそー!つっても、戦闘スキルじゃねーから今は見せらんないんだけどさ!ソイツもマジ強なんだわー!」
ペラペラと自身の情報を敵の前で話すカナタを馬鹿だと思いつつも、マリアは冷や汗を垂らした。
状態異常系の魔法を使って多数の男たちを魅了し、駒のように扱って戦うという戦闘スタイルのマリアにとって、全ての状態異常を無効化出来る人間との相性は最悪と言っても等しかった。
しかもカナタの言うことを信じるのであれば、今マリアの目の前にいる男は任意の魔法までも無効化してしまうという。
魔法を操るマリアと、ライアンにとっては天敵と言ってもいいぐらいだ。
その気になれば物理で攻撃することもマリアは出来た。
あくまで魔法に長けているというだけで、ステータス的に言えばマリアが普通に殴るだけでも十分ダメージを与える事が出来る。
しかし、マリアはその手段に入る事を避けた。
どうしても、避けたかった。
その理由は、マリア達の今いる場所に関係している。
森の中やダンジョンの中であれば問題はなかったのだが、エルミーヌの住む王宮で下手に物を壊すような真似はしたくないのだ。
(それに、この格好で大暴れなんてしたら可愛い服が破れちゃうもん!)
マリアは内心そんな事を考えながら、思わず握りしめた拳をそっと解いた。
「いついかなる時も可愛く、美しく、格好良くあるべし」というのがマリアの信条である。
フリルを基調としたロリータドレスで拳を握って大暴れなど、マリアの信条に背くのだった。
一方で、ライアンもかなりの苦戦を強いられていた。
「はぁ…はぁ…。」
「アヤカ、きみはカナタの方を手伝いにいってくれないかい?」
「えー、別に良いっしょ?ウチらって、相性良いんだしさー。」
「でも、カナタ一人だと何も出来ないだろう?カナタはスキルのおかげで魔法も状態異常もスキルも無効化出来るけど、自分でもコントロール出来ないから自分のスキルも魔法も無効化してしまって攻撃手段が殆どないんだから。」
「だってー、カナタと戦うとバンバン魔法打てないじゃん。折角魔法も武器も何でも来いなのに、ただ殴るだけとか萎えるんですけどー。それに、ソーマだと手加減しそうじゃん!」
ライアンはエルミーヌ達を守る為に防御魔法を展開している上に、相手はソーマとアヤカの二人。
どうにかマリアに一人を頼みたかったのだが、上手く間合いを詰められてしまってどうにかマリアと協力体制に入る事が出来ない。
しかも、ソーマの持つ瞳がかなりの曲者だったのだ。
「リリスのスキルを操って、女性たちを魅了してハーレムを作っていた人間の男をボクは知っているんだけど、人間でそんなスキルを持っている人はボクも初めて見たよ。」
「え、何そのクズ。今どきハーレムとか馬鹿じゃないの?」
「本当、ボクもそう思うよ。けど、そこの彼…ソーマくん、だっけ?彼も結構危ういんじゃないかな?なにせ、魔眼の……それも人を魅了させるタイプの魔眼の持ち主なんだからね。」
「僕も、どうにかコントロールしたいとは考えてるんだけどね…。他に前例がないからって誰も教えてくれる人がいないんだ。普段はカナタが無効化してくれているけど、少し離れるとこうなってしまうんだ。」
ソーマの持つユニークスキル、それは<親愛の魔眼>というものだった。
目を合わせた相手に自身に対する親愛を抱かせるというスキル。
目を合わせれば合わせるほど、ソーマに対して優しくしたい、彼のためになってあげたいと思わせるスキルだ。
目があった人と誰とでも親しくなれるスキルといえば単純に交渉向けの良いスキルかもしれないが、問題は目が会った者ならば人間だろうと魔物だろうと関係なしに効果があるということ。
戦闘面で使えば、討伐するターゲットと目を合わせて戦闘意欲を失わせ、その隙に皆で攻撃、というえげつない作戦を可能にしてしまうのだ。
幸いにもレベルがソーマよりも遥かに上であれば効果は薄いため、ほんの少し目を合わせた程度では戦闘意欲を失うほどの効果は出ない。
しかしそれでも、目を合わせれば危険というのは間違いがなかった。
更にアヤカは魔法も物理攻撃もどちらも使える万能タイプで、人間とは思えぬ身軽な動きで相手を翻弄して鞭や火属性魔法で攻撃してくるのだ。
ソーマに目をそむければその隙を狙って容赦なくアヤカが攻撃してくる。
アヤカに目を向ければ必然的に側にいるソーマとも目が合ってしまう。
その連携がライアンにとっては厄介でしかなかった。
ジリジリと体力と魔力を削られていってしまっている。
このままでは、本当に討伐されかねないだろう。
「って言っても、あんまあのリリスを放置しておくのもメンドーだし、そろそろトドメに入っちゃおーじゃん!じゃ、イケメンウィッチちゃん、バイビー☆」
「くっ…!」
そう言って、火属性の魔法を纏わせた鞭をライアン目掛けて振り下ろすアヤカ。
対魔法の防御魔法と対物理の防御魔法を展開すればエルミーヌ達の防御魔法が切れてしまう。
万事休すか、と思ったその時、
「はぁっ!!」
誰かが颯爽と駆けてライアンの前に立ち塞がり、火の鞭の攻撃を剣で跳ね飛ばし軌道を逸らしたのだ。
突然の乱入に、ソーマもアヤカも、ライアンに防御魔法を掛けようとしていたマリアも目を丸くした。
ライアンがゆっくりと顔を上げれば、そこに立っていたのは今まで広間の隅にいたフェデリカだった。
「大丈夫か、ライアン殿!」
「フェデリカ、ちゃん…。」
「こう見えて、私も学園の生徒であるから、多少は魔法が使えるのだ。まあ、身体能力を上げて、剣の強度を上げる程度の魔法しかまだ使えないのだがな!それでも、誰か一人を守るくらいは出来る!」
フェデリカはハッハッハと大きく笑いながら、広間に飾ってあった模擬剣を構え、アヤカ達と対峙する。
そんなフェデリカの姿を見て、アヤカが不機嫌そうな表情を浮かべて話しかける。
「……あのさぁ、クッソ邪魔なんですけど。どいてくんない?」
「いいや、退かない!貴方達が退かない限り、わたしは絶対に退かない!何があろうとも、だ!」
毅然とした態度でライアンの前に立ち塞がるフェデリカに、アヤカは更に不機嫌そうな表情を浮かべ、魔法を使おうと手を向けた。
しかしそれをソーマが止めて、フェデリカを説得するように彼女の方に向き、目を合わせる。
<親愛の魔眼>を使い、どうにか移動してもらおうと考えたのだ。
「魔物以外の人間には、出来るだけ手を出さないように依頼人から言われているんだ。どうにか、どいてくれないかな?」
「断る!!」
「!」
<親愛の魔眼>の効果が出ているはずにも関わらず、フェデリカはソーマの提案を即答で拒絶した。
今までカナタぐらいにしか無効化されなかったスキルが通じなかったことに、ソーマは驚きを見せた。
「驚いたな、僕のスキルを無効化出来る人がカナタ以外にもいたなんて…」
「いいや、確かに効果はあるさ。」
「え?」
「目を合わせれば合わせるほど、貴方に親愛の感情がドンドン湧いてくる。見れば見るほど貴方への信頼は強くなるばかりだし、貴方の頼みに答えたいと思う自分がいる。」
「だったら、どうして…。」
「そんなの、ライアン殿も大切だからに決まっているだろう!」
「!」
フェデリカの言葉に、ライアンとソーマは同じぐらいに目を見開いた。
フェデリカは、堂々と、ハッキリとした声でソーマ達に言った。
「貴方へ抱く親愛と、ライアン殿を助けたいと願う自分の想いは全くの別物だ!今ここであれほど親しく接してくれたライアン殿を見殺しにすれば、わたしは絶対後悔することになる!むしろ、これほどの親愛を抱く貴方が誤解したままライアン殿を討伐してその後真実に気がついた時どう思うかを考えれば、余計に止めなければという想いが増す!だから、どれだけ目を合わせようが、どれだけ恐ろしい言葉を向けようが、わたしはライアン殿の前に立ち塞がり、守る!その親愛も、その友情も、私自身の想いも、全て裏切らない為に!」
会ってほんの数時間の仲でしかないフェデリカからの言葉に、ライアンは呆気に取られ、そして思わず瞳を潤ませた。
タケルのダンジョンにいた頃であれば絶対に言われなかったであろう言葉。
それは、ライアンの想像する以上に、とても暖かいものだった。
(本当に、アイネスちゃんの元に来て良かったよ。)
ライアンはこの時、改めてアイネスに対し敬意を抱いた。
人と対等に、親しくあろうとしたアイネスの信条があったからこそ、今ライアンはその人間に救われている。
これは、タケルの元であれば実感出来ないことだった。
そんなライアンとは裏腹に、アヤカは青筋を立てて苛立った口調でフェデリカに言った。
「はぁ?そんな理由でウチらが退くと思ってんの?」
「わたしはこれでもこれでもこの国では立派なパンツァーロ侯爵家の令嬢だ。もしもわたしに傷でもつけようものならば、他国からの客人とはいえどうなるか分からないぞ。極刑には出来ずとも、国から追い出すことぐらいは出来るだろうな。」
「くっ…!」
真正面から身分の話を持ちかけられたアヤカは、ぐっと息を呑んだ。
先程までは、ある人から直々に言われた魔物討伐の依頼だということで好きに動く事が出来た。
しかし、この国の貴族であり、魔物ではないただの貴族の令嬢であるフェデリカに「これ以上やらかせばただじゃおかない」と警告されれば、ただの客人でしかないアヤカ達は何も出来なくなってしまう。
それを、アヤカも理解してしまったのだ。
「それに、貴方達は何かマリア殿達に対して誤解されている様子だ。マリア殿達は確かに魔物ではあるが、人を傀儡のように操る凶悪な魔物などではない。それどころか、この国の第一王女であるエルミーヌ様と第二王子であるマルク様の呪いを解呪したダンジョンの主の配下だから今回のパーティーやお茶会に招待されたんだ。凶悪な魔物が、人を操る事が出来る魔物が、人の国に入る為にわざわざ人を救って恩を売る必要があるのだろうか?」
「なんだって?」
「そんな話、依頼人から全く聞いたことないんですけど、それってマジ?」
「フェデリカ様の言うことは間違っておりませんわ!」
フェデリカの言葉に首を傾げるアヤカ達に対し、キャシー達令嬢子息達も数人賛同するように声を上げた。
先程まで広間の隅にいたはずの彼らは、いつの間にかマリアを守るようにカナタの前に立っていた。
「このお茶会に出されているお茶や食べ物は、その方々の主であるアイネス様がエルミーヌ様に無償で渡した物ですのよ。そんな事、普通の魔物だったらしませんわよね?」
「皆、とっても優しいです~!だから、悪い魔物なんかじゃないですわ~!」
「それに、お茶会の間も皆危害を加えるような真似は全然しなかったぞ!」
「相談にも親身になって聞いてくださいましたわ!」
「マリアさんやライアンさん達は、自分の身が危険に迫っている中でも、わたくし共の身の安全を考慮してくださっていました。この国に魔物が入り込んでいるというのであれば、今まさにこのお茶会の間で心を操り暴れていらっしゃる貴方方の方が依頼通りの魔物ではありませんか!」
「うっ…!」
「これ以上マリアさん達を虐げる真似をするなら、すぐに御父様に今回のことを報告致します!アスペル王国には、魔物を前にすれば貴族の前でも平気で戦闘を始める無礼者がいると!」
「僕も父上に報告させてもらう!」
「わたしも!」
怒りの表情を浮かべて一斉にマリア達を討伐しようとしたソーマ達を糾弾するキャシー達の勢いに、ソーマ達は一歩退く。
最早、戦闘や魔物討伐どころの話ではない。
ソーマ達に残されているのは、このまま黙って引き下がるしか道はないだろう。
皆が同じ事を思っていたその時、先程アイネスから花の折り紙を渡された令嬢が声を上げた瞬間、その状況は大きく変わった。
「そ、それに、アイネス様も良い方なのですよ!先程も、このような素敵な紙の花を作ってプレゼントしてくださったのです!」
そう言って、令嬢はソーマ達にも見えるように手に持っていた折り紙の花を掲げて見せた。
それをソーマ達が見たその時、彼らの空気が変わった。
マリアとライアンがその事に気が付き慌ててかばおうとする前に、その令嬢の近くにいたカナタが動いた。
カナタはヘラヘラと笑みを浮かべたままその令嬢の側へと近づき、軽く肩を押した。
当然、その令嬢は後ろへ、後ろへと後退し、壁の方まで追いやられる。
その瞬間、カナタが大きく足を振り上げ、令嬢の身体の真横の壁を蹴った。
そして、温度のない声でカナタは言った。
「なんで、それ持ってんの?」




