気まずいとやってしまうよね
お茶会の開催場所は窓から庭園が良く見える王宮の広間の一つだった。
エルミーヌさんのアレルギーが収まったとはいえ、庭でやるのは不安があったからだろう。
既に招待客の令嬢と息子達が十数名ほど広間にいて、広間へ入ってきた私達に注目している。
いや、私達に、じゃなくて私以外の4人に、かな?
私は黒髪以外特に目立った点はないけど、マリア達は顔面偏差値と個性が殆ど爆発状態だもんね。
『アイネス様、此方に来てくださいませ』
途中で私達と合流して共にやって来たエルミーヌに導かれ、私はある令嬢らしき少女3人と対面した。
『アイネス様、此方がわたくしの友人であるキャシーとリディアーヌとフェデリカ。キャシー、リディアーヌ、フェデリカ、此方が手紙で話していたアイネス様ですわ。』
「**(名前)、アイネス。****(よろしく)」
『まあ、この方が噂のダンジョンの主様の?』
『綺麗な黒髪ですわ~。』
『貴方の話はエルミーヌ様から聞かせてもらっているぞ!』
エルミーヌさんが紹介した三人はキラキラ目を輝かせ、私を見る。
噂とか話ってどんなものなのだろうか?
とっても気になるのだけど。
『あ、自己紹介を忘れるところでしたわ。わたくしの名前はキャシー・クルックですわ。よろしくお願いします。』
『リディアーヌ・マスロンと申しますわ~。』
『フェデリカ・パンツァーロと言うものです。是非仲良くしてもらいたい!』
上品にお辞儀をするエルミーヌさんの友人達。
右から眼鏡っ子お嬢様系、ほんわかお嬢様系、騎士の家のお嬢様系か。
なんともアラクネ三姉妹を彷彿とさせる三人だ。
『あたし、マリアだよ!アイネスちゃんの同行者兼通訳やってるの!』
『ボクはライアン。よろしくね、レディ達。』
『で、後ろにいるのが右からサバトラさんとジャスパーくん!』
『よろしくにゃ。』
『……。』
『知ってるとは思うけど、アイネスちゃん以外は皆魔物だよ。と言っても人に危害を加える気がない安全な魔物だけどね!』
『貴方方のこともエルミーヌ様から聞いていますわ。是非仲良くさせてください!』
マリア達も自己紹介をして挨拶をすると、キャシーさん達は態度を変えずに接してくれる。
エルミーヌさんの友達とあって、皆性格の良い子のようだ。
そんなことを思っていると、フェデリカさんが思い出したようにマリア達に話しかけた。
『そういえば、アラクネ殿は元気にしているだろうか?』
『アラクネ?』
『うむ、髪が黒くて腰まである、精錬とした所作のアラクネ殿だ。』
『それってラクちゃんのことかな?』
『ラクちゃんなら元気だけど……なんで知ってるの?』
首を傾げるマリア達とエルミーヌさん達に対し、ニコニコと笑みを浮かべているフェデリカさん。
そういえば、フェデリカさんは何処かで見た覚えがあるような…。
横でライアンに通訳を聞いていたのだが、フェデリカさんの言葉でその既視感の正体を理解した。
『うむ、以前父が大事な家宝の剣を崖下に無くしてしまった時に世話になったんだ!』
『えっ、貴方あの剣を無くしてしまったの!?』
『結局あの時はそのアラクネ殿に拾ってもらったのだが、後で「危険な行為は控えてください」と説教を受けてしまった!いやー本当に世話になった!』
「あ、あー…あの時の挑戦者でしたか。道理で既視感があると思いました」
『アイネスちゃん、知ってるの?』
「エルミーヌさん達がやって来る前あたりに来た黃の扉ルートの挑戦者かと。あの時は男性二人とフェデリカさんらしき人の挑戦だったんですが、フェデリカさんのお父さんっぽい人がウルフとの戦闘途中に持ってた剣を崖に落としたんですよ。それを拾うためにその人が橋から飛び降りたんですよ。」
『飛び降りた?!』
『自分から!?』
私の言葉を聞いてギョッとした様子で私を見るマリアとライアン。
私はそのまま説明を続ける。
「それで、剣を拾ったその方が向かい側の崖をそのまま素手でよじ登ろうとするという出来事があったんです。でも途中で何度か転げ落ちたもんで、最終的にラク姐さんに頼んでその方を引き上げてもらったんです。あそこ、よじ登れるようになってないはずなんですけどね…。」
『どうやら、覚えていてくれたのだな!本当に父が世話になった!』
『なんというか、とんでもないパワフル一家だね…。』
『そういえばそんな話、ラクちゃんから聞いた気がするよ…。』
『というかフェデリカ貴方、アイネス様のダンジョンに行った事があったのね』
『噂を聞いて、是非挑戦してみたい!と思ったんだ!あの時得た麺の食べ物は本当に美味しかった!また今度挑戦に向かおうと思う!』
ハッハッハ!と高らかに笑うフェデリカさんを軽く引きながら見るマリア達。
此処でダンジョンの挑戦経験者に会えると思わなかった。
というかあの時の三人、フェデリカさんとフェデリカさんの家族だったのか。
監視カメラで見てて、「ファイトー!いっぱーつ!」の言葉が似合いそうなパワフル家族だったよ。
『それにしても、フェデリカさん達でもクリア出来るダンジョンなのですね…。』
『ルールさえ守ってくれれば、ボク達のダンジョンは危険も何もないよ。良かったらキミ達も是非来てくれると嬉しいな。』
『あたし達でも攻略出来るでしょうか…。』
『大丈夫、ダンジョンの中には令嬢でもクリア出来るものもある。気分が悪くなれば途中退場も出来るようになっているんだ。』
『不安なら、男の子に任せちゃえばいいよ!お宝の中には指輪とか装飾品もあるし、ダンジョン内で見つけたお宝をプレゼントされたら女の子ならとっても嬉しいだろうね~。』
『なるほど…確かにプレゼントされたら嬉しいですわね。』
『物語のダンジョンで手に入れられる装飾品は貴族の中でも有名ですからね~。兵や使いを使わずに宝を手に入れてプレゼントされたら、思わずときめいてしまいそうですわ~。』
女性陣の会話に、遠くから耳を傾けていた貴族の子息達がピクッと反応を示した。
きっと、自分たちの気になる令嬢へのプレゼントに持っていけたらどうだと考えているんだろう。
流石マリア、宣伝が上手い。
女の子のアピール方法としてダンジョンへの挑戦を紹介するとは…恐ろしい子である。
伊達に種族リリスやってないな…。
『今日、このお茶会に並んでいるお茶やお茶菓子はアイネス様から頂いた物ですの。是非楽しんでくれたら嬉しいですわ。』
『まあ、机に並んでいるのがそうですの?』
『どれもすっごく美味しいよ!毎日アイネスちゃんのご飯を食べてるあたしが保証するわ!』
『ふふ、でしたらとても楽しみですわね。』
『では、早速お茶会を始めましょうか。』
エルミーヌの言葉と共に貴族の子息令嬢達のお茶会が始まる。
私はライアンとマリア、エルミーヌさんとフェデリカさんと一緒の席でお茶を楽しむようだ。
さてさて、私は料理長さん達が作ってくれたアレンジスイーツを楽しむとしましょうか。
***** *****
………気まずい。
とっても気まずい。
私は目の前のお茶を飲みながら、そう思った。
初日の鍛錬場の時のような重い空気ではない。
むしろ、空気はかなり軽い方だ。
だからこそ、気まずいのだ。
『この前ダンジョンのキッチンでシシリーちゃんにクッキーの作り方を教えてもらってたんだけどね、それが渾身の自信作だったの!炭にも生焼けにもなってない!』
『まあ、そうですの!?わたくしはまだ焦がしてしまっているのに…』
『それで早速アイネスちゃんに試食してもらおうとしたんだけど、滑ってクッキーを全部トン吉くんに向かって放り投げちゃったんだよね。』
『あら!トン吉さん、大丈夫でしたの?』
『それが、クッキーが落ちる前に振り返って手に持ってた皿で全部受け止めてくれたんだよ!凄くない?』
『それは凄いですわね!わたくしも見たかったですわ…。』
『だよねだよね!トン吉くんは「ただの慣れ」って言ってたけど、普通に凄いよね!』
『なんと、貴方は女性なのか?』
『ああ、こう見えてもウィッチなんだ。男装が好きでこういう格好をしているんだけど…びっくりしたかい?』
『実に素晴らしいな!』
『!』
『人間社会では男女差別や身分の差別が多いが…なるほど、自身の好きな服を着て己を体現する事が出来るだなんて、とても良い考え方だ!わたしも良く周囲から「女のくせに口調が上品じゃない」だとか「女が男と混ざって鍛錬なんてはしたない」なんて言われる事が多いからな!そういった自由があるのは羨ましいと思う!』
『う、うん。アイネスちゃんのダンジョンは本当にそういう事を気にしないから楽なんだよ。』
『なあ、アイネス殿のダンジョンに行けば、貴殿が着ているような女性用の男性服は手に入るだろうか?』
『うーん、ボク達の服はアイネスちゃんのアイディアを元にアラクネ達が見繕ってくれたものなんだけど…アイネスちゃんに頼んでそういった服も宝箱に入れてもらえるか頼んでみようか?』
『ぜひ頼む!その服は本当にお洒落だからな!』
左隣ではエルミーヌさんとマリアが料理の話で盛り上がり、右隣ではライアンとフェデリカさんが男装服について語り合う。
『にゃはっ、そりゃあおみゃー、アピールの仕方が悪いにゃ。花や宝石をプレゼントしてるだけじゃ好きな子は振り向かにゃいにゃ。もっとその子が興味を引くような話題を考えるにゃ。』
『なるほど…!勉強になります、先生!』
『先生、今度は俺の話を聞いてください!』
『あ、おい!次はオレの番だぞ!』
『先生、わたくしも最近悩んでいることがあって…!』
『構わんにゃ。順番に話していくのにゃ。飽きにゃければいいアドバイスをしてやるにゃ。』
『……。』
『うわ…凄い顔が良いな…。』
『体型や筋肉量も、俺達より優れてるんじゃないか?』
『ああいう男が令嬢達にモテるんだな…。』
『おい、誰か体型維持の秘訣でも聞いてこいよ。』
『む、無理だよ!あの人めっちゃ近寄ってくんなってオーラ出してるじゃないか!』
『バカ、行ってみて秘訣を聞けたら男ってもんだろうが!』
『あんな風になれるならなってみたいよ!』
『……はぁ。』
あちらではサバトラが何故か恋愛相談を受けて先生と尊敬され、その反対側では壁の花になっているジャスパーが子息達にマスク付けても分かるイケメンぶりを羨まれている。
魔物と人間ということで、少しぎこちなくなると思ったのだが、意外なことに皆上手く溶け込めているのだ。
その結果、私だけアウェーである。
いや、マリアやライアンは積極的に私を会話に参加させてはくれているよ?
けど私の言葉が皆に伝わらない以上、どうしても相槌だけになるんだ。
しかもマリア達も貴族感があるからどうしても私の場違い感が凄い。
これはあれだ。
家庭科の授業で仲の良い女子グループに一人参加させられたような気分だ。
気まずい上に場違い感が凄い。
どうにかならないかとジャスパーにヘルプを求めてみたが、鼻で笑われてスルーされた。
うーん、この人でなし。
あ、人じゃないか。
こうなってしまうと、私はただお茶とお茶菓子を楽しむくらいしかやることがない。
壁の花ならぬ、お茶会の人形という訳だ。
あ、このフルーツケーキ美味しい。
しかし、本当にこういう時言葉が通じないというのはやってけない。
マリアやライアン達には私の言葉は分かるし、<オペレーター>の通訳のおかげで皆の言葉を理解することは出来るようになったので生活していく上では問題ないけど、こういった会話メインの場ではどうしても溶け込めない。
どうにか翻訳機のような物があれば良いのだけど、難しいところだ。
スマホの翻訳アプリでどうにかなれば良いのだけれど、あれは駄目だった。
地球言語しか翻訳が出来ない。
マサムネやタンザに相談してみるか?
それだと問題解決に結構な時間を要するだろう。
本当、難易度が高い。
まさにクソゲーである。
いやあもう、なんで学校でもない場所でこんなアウェーな場に立ち会わなければいけないのか。
初日の謁見の間の件といい風呂場での騒ぎといい二日目の拉致騒ぎといい今日のこのお茶会といい…。
ダンジョンに出てから面倒事が多発している。
これじゃあまるで、ラノベの主人公みたいではないか。
止めてください。そんなの私は望んでいません。
ラノベの主人公なんて、殆ど良い所がないじゃないか。
毎日のように誰かが引き起こした事件や騒ぎに当然のように巻き込まれ、仲間の異性達は勝手に主人公を狙って修羅場を起こし、無知を晒せば呆れられ、強すぎれば慄かれる。
一体これの何処が良いのだ。
異世界転移ものの主人公になりたがっていたタケル青年の気が知れない。
『…アイネス様、アイネス様!』
「はい、アイネスです。どうかされました?」
思考を巡らせていると、ふとエルミーヌさんに声を掛けられて意識を戻してエルミーヌさんの方を向いた。
気がつけば先程まで別の机でお茶を嗜んでいたはずの子息令嬢達が周囲に集まっていて驚いた。
エルミーヌさんは私に詰め寄るように問いかける。
『アイネス様、それどうやっているんですの?!』
「それ?」
「テモト、テモト!」
「手元…?」
マリアに言われて、私は手元の方を見てみた。すると、私の手にはお菓子の下に敷いてたペーパーナプキンで出来た折り鶴があった。
あまりにもやることがなくて、無意識に手元にあった物で作ってしまったんだろう。
よく見れば同じような折り鶴が数個テーブルの上に並んでいる。
いや、どんだけ作ったんだ。
「ああ、すみません。お茶会の途中にこんな物作ってしまって。」
『アイネス様、一体どうやってこんな作品を短時間でお作りになったのですの?』
「え?」
『すみません。良く見せてもらってもよろしいですか?』
「あ、どうぞ。」
キャシーさんに頼まれ、私は折り鶴の一つを彼女に手渡した。
あれ、お茶会の途中に変なものを作って怒っているのではないのか?
キャシーさんは折り鶴を丁重な手付きで手の上に乗せながら、感動した様子で声を上げる。
『ただのちり紙一枚でこんな精巧な作品が出来るだなんて素晴らしいですわ…!』
『しかも目にも留まらぬ早さで作っていたな…。まるでドワーフが武器を作っている時の洗練された動きだった!』
『これ、一体どうやって出来てるんでしょう…。』
『アイネス様、コレと同じ物を作っては貰えないでしょうか?』
『あ、自分にも一つ!』
キラキラと目を輝かせ、感動を見せる貴族の子息令嬢達。
…そういえば、海外では日本の折り紙って結構絶賛されてるんだっけ?
しかもこの世界の人たちにとっては折り紙という存在自体初めてだろうし、初めて見る日本の遊びに興味を引かれるのも当然だ。
どうしようかと迷っていると、どこからともなく折り紙の束を差し出された。
そちらを見てみると、サバトラが面白そうな顔で此方を見ている。
なんで今折り紙を持ってるんですかね。
私はサバトラの方をじっと見ながら、折り紙の束の一番上にある赤い折り紙を手にとった。
そして、黙々と折り紙を折っていき、立体な花を作って一人の令嬢の手に乗せた。
途端に周囲から歓声が上がる。
『まあ、紙から花が出来ましたわ!』
『とても可愛らしいですわ~』
『どんな物でも作れるのだな…』
『アイネスちゃん、「ホカニモ、ナニカ、ツクッテ!」』
「良いですよ。」
私はマリアのお願いを了承し、今度は黒の折り紙を手に取る。
そして先程と同じように黙々と、静かに折り紙を折っていく。
そして完成した作品を見せた。
すると、サバトラが大きな笑い声を上げた。
『これは…』
『ジャスパーくん…だね。』
『なっ?!』
『にゃはは、めちゃくちゃそっくりだにゃ!』
「正確には地球にいるドーベルマンって言うのなんですけどね。」
『これはみゃーの部屋で飾っておくにゃ!』
『止めろ、そんな物を部屋に飾るな!』
ドーベルマンの折り紙を片手にキャッキャッと遊ぶサバトラを、ジャスパーが追いかける。
本人より犬の作品に喜ぶ猫って結構凄い光景だな…。
『それにしてもアイネス様は本当に器用ですわね…。こんな物まで作ってしまうなんて…』
『ふっふーん、アイネスちゃんは凄いんだよ!魔法も使わずどんなカードを持ってるかも分かるし、指パッチン一つでコインを別の場所に移動させたりとかするんだから!』
『ボク達が今着ている服も、アイネスちゃんが用意した服のデザインを元にアラクネ三姉妹の三人が作った物だしね。』
『作るご飯もとっても美味しいしにゃあ。物静かだけどとても器用にゃんだにゃ。』
『それにそれに、他にもアイネスちゃんは凄い所があるんだよ!あのねあのね…』
先程まで以上に興奮した様子で目を輝かせて私のことを褒めまくるマリア達。
私は照れくさくなって、思わず<オペレーター>の通訳を切ってしまった。
これ以上聞いてしまうと恥ずかしさのあまりに引きこもってしまう。
私は黙々と折り紙を折り続ける。
一つ完成する度に歓声が上がる。
マリア達がエルミーヌ達に何か言っているのは聞かない。
聞いてあげない。
だって、恥ずかしいし。
10個目の作品が完成すると、私はその場に立ち上がる。
私が出口に向かおうとしていると、マリアが尋ねてきた。
「アイネス***、ドウシタノ?」
「ちょっとお花を摘みに行こうかと。お茶飲みすぎてしまって。」
「ミャー、ツイテイク、ニャ。」
「……女子トイレの中には行かなくて良いですからね?」
「ワカッテル、ニャ。」
サバトラは当然のように肯定してるけど…本当に分かっているのだろうか?
結局サバトラさんとジャスパーがついていくことになった。
ジャスパーがついていくことになった理由は、サバトラさんがトイレの中まで入ってこないように見張っているためだ。
広間を出た後、サバトラが小声で私に話しかけてくる。
「ヨカッタ、ニャ?トチュウ、オチャカイ、ハイレテ。」
「……ありがとうございました。折り紙を持っていてくれて。」
「ドウイタシマシテ、ニャ。」
全く、油断も隙もない猫である。
***** #####
「アイネス様、楽しめなかったのでしょうか?」
「ううん、あれは多分照れちゃっただけだよ。アイネスちゃん、恥ずかしがり屋な所があるから。」
「そうだと良いのですが…。」
アイネスがサバトラとジャスパーを連れて広間を出ていった後、エルミーヌはマリアとそんな話をしていた。
他の子息令嬢達は、アイネスが作った折り紙の作品に夢中になっている。
エルミーヌはアイネスの力に改めて感銘を受けていた。
本来ならそのままゴミとして捨てられるはずのちり紙を、たった数分で価値のある作品へと作り変えてしまったその技術力。
無価値の物を有価値に変えるなど、まるで錬金術のようだ。
アイネスは錬金術の魔法なんて一度も使ってなんかいない。
それは、錬金術が使える以上に凄いことだった。
(これをお兄様やお父様に話せば、またアイネス様への評価が上がりそうですわね。…アイネス様は嫌がりそうですけれど。)
これでもエルミーヌは物事を冷静に見ることが出来る人間だった。
アイネスの能力が彼女自身の思う以上に凄いことであると認識しているのと同時に、周囲が思っているほどアイネスは人離れしている訳ではないとも認識していた。
ただ周囲の人とは違った常識と能力を持っている、内向的な人間の少女なのだ。
周囲が過大評価を付けるのはきっと彼女の望まないこと。
どうにか彼女に関する噂をコントロールした方が良いだろう。
そんな事を考えていたその時、広間の扉が大きな音を立てて開かれた。
「おっじゃま~☆」
「お邪魔しまーす」
「二人共、ノックぐらいしなきゃだめじゃないか。すみません、急に入ってきてしまって…」
ノックもなしに、ズカズカと入ってくる三人の人間達。
年はエルミーヌ達と同年代かその下のように見える。
一人の青年はその耳や舌にピアスを幾つも付け、その身なりもかなり派手だった。
一人の少女はかなり化粧が派手で、令嬢らしからぬはしたない所作だった。
最後の青年は顔が良く、礼儀も最低限守られていて他の二人に比べればかなりまともそうに見える。しかし何処か、優柔不断な印象を得た。
エルミーヌ、それにマリアとライアンが最も注目したのは彼らの無礼な言動ではない。
彼らの身につけている装飾品だった。
(あれは、アイネス様が持っている物と似ている…いや、その物?)
彼女達の付けている髪飾りや紐で出来た腕輪、ピアスやネックレスなど、どれもアイネスがダンジョン内に所有している物と雰囲気が似ていたのだ。
否、雰囲気が似ているのではない。
アイネスが<ネットショッピング>で出すアクセサリーとまるでそっくりなのだ。
この世界の技術ではありえない、世界を越えた技術で生み出された物。
そんな物を、彼らは付けていたのだ。
「ねぇ、君たち誰かな?」
広間にいる者が全員警戒心を上げる中、マリアが突然の来訪者達に問いかけた。
すると、来訪者の一人が顔の横にピースをして、楽しげに答えたのだった。
「チーッス!通りすがりの、勇者でぇ~っす♪」




