【番外編】魔女の集会
副題『ウィッチ達は誰であろうと自重しない』
ウィッチ達のノリに追いつけないと思った方は、そっとこの話は飛ばしてくださいませ
アイネスこと小森瞳子がイグニレウス、マリア、ライアン、サバトラ、ジャスパー、マサムネの6名と共にケネーシア王国に赴いていた一方その頃。
アイネスのダンジョンではベリアルとフォレスの指揮の元、いつもどおりの運営を行っていた。
ダンジョンマスターと最強格2名、他4名が抜けた後もダンジョンの運営は“幸運”にもトラブルはなく、いつもどおりの人気ぶり。
アイネスが考案した運営マニュアルのお陰で新入り達のミスは殆どなく、特に何も異変はなかった。
だからなのだろうか、アイネスがいない間も魔物達はいつもどおりに過ごしていたのだ。
しかし、それがいけなかった。
トラブルがなかろうと、異変が無かろうと、いつもと違う状況であるのは変わりないのだ。
いつもならいる人物が留守にしている。
そうなると、どうなるのか。
誰かがその人の代わりに行わなければならない義務が発生するということだ。
すると、事はルートを変更された列車のように別の方向へと進んでいく。
例えその先に、何が待っていようとも、だ…。
つまり、どういうことか。
「やっぱり主流はベリイグだって!」
「何言ってるのさ、イグベリだよ!」
「違う…。時代は、最強ツートップ×フォレス様の3P…。」
「それ殆ど別物でしょ?!くっ、ライアンがいたらベリイグ一派が優勢なのに…」
「ふっふーん、いい加減認めなよ!最強ツートップのメインの組み合わせはイグベリだって!」
魔物も寝静まる夜中、管理者のいないバーのカウンターで腐った言い争いを行うウィッチ達。
彼女達は定期的にマサムネの管理するバーに訪れては、こうして自分たちの妄想のネタについて話し合うのだ。
今回はマサムネがアイネスの外出に同行するため、バーの管理を任せる代わりにバーを自由に使う許可を得たのだった。
普段彼女達の会話に冷静にツッコミを入れるマサムネと、レイラと似たような好みを持ちながらも3人の仲を取り持つライアンがいないからか、三人の議論はいつも以上に熱くなっていた。
だからこそ気が付かなかった。
バーを使うのは、何も彼女達のように周囲の目を気にして出来ないような会話をする者たちだけではないということを。
「レイラは分かってないなぁ。確かにベリアルさんは攻め感半端ないけど体格で言えば断然イグニさんが優位で…ん?」
「…………」
ルーナがふと出入り口周辺を見てみると、扉の隙間からバーの中を覗き込むファインの姿があった。
ルーナがファインに気がついたのとほぼ同時に、レイラとロゼッタもファインに気がついた。
「「「あ。」」」
見てはいけない物を見てしまったという表情のファインと、予想外の目撃者に驚愕の表情のレイラ達の目が合う。
彼らは暫く静寂に包まれていたが、ふとウィッチ達が顔を見合わせた。
そしてアイコンタクトのみで会話を始め、何かが決定すると、ファインの方を向いた。
そのギラギラとした視線は、まるで獲物を見つけた野獣のようだった。
「っ!!!」
その瞬間、ファインは出入り口から背を向けて逃げ出そうとした。
我に返った訳ではない。疎外感を感じたからではない。
彼のグレーターワーウルフとしての野生の勘が、そこにいては危険だと直感していたからだ。
彼はその身体能力を駆使して、バーから逃げ出した。
しかし、出来なかった。
バーから離れようとしたファインの身体に、捕縛魔法が掛けられたからだ。
そして彼の後ろから彼の身体に、彼の手足に、彼の口に植物の蔦が巻き付いてくる。
植物の蔦はそのままファインを拘束したままバーの中へと引きずり込んでいく。
バーの扉の前には、獲物を捕まえたと言わんばかりの瞳で口元に弧を描いているレイラ達の姿が見える。
「~~~~~~っ!」
声にならぬ悲鳴を上げながらファインはバーの中へと引きずり込まれる。
それをアイネスが目撃すれば、「全米が絶叫するホラー映画並の恐ろしさじゃないですか」とツッコミを入れるだろう。
しかし、そのアイネスはケネーシア王国にいる上、今は真夜中も真夜中。
救いの手が伸びることなく、ファインは腐った魔女達の集会へと巻き込まれてしまったのだった…。
***** *****
「やっぱりさ、マリアさんやタンザさん達が攻め感半端ないので分かるように、同じ悪魔系の魔物であるベリアルさんも攻めだと思うの!イグニさんも体格や物理的な強さで言ったらベリアルさんより上だけど、イグニさんはちょっと振り回されてる感があるでしょ?普段もベリアルさんの言葉に煽られてイグニさんが喧嘩を売るって感じだし。だからやっぱりベリイグの喧嘩ップルが妥当だと思う!」
「レイラの言いたいことは分かるよ?確かにベリアルさんはこのダンジョンの中で言ったら完全攻め攻めだよね。でもよく考えてみなよ!ベリアルさんと対等に接する事が出来るのってイグニさんぐらいだと思うんだよ。そしてイグニさんのあの体格の良さ!ベリアルさんも結構な高身長だけど、そんなベリアルさんがイグニさんに壁ドンされるイグベリとか…もうドキドキしない?」
「あ、あたしは、どっちも攻めだと思う…。二人は最強ツートップって言われるくらいだし、アイネス様や子供コボルト達への面倒見の良さを見ると、本当に男らしいと思う。だ、だからこそ喧嘩も絶えない…。でも、そんな中、喧嘩をしている二人の間に入って仲裁するフォレスさんは本当に受けの鏡だと思うの…。」
「「「ファイン(くん)はどう思う?」」」
「………。」
どうして、こうなったのだろうか。
ファインは尻尾を内側に丸めながら思った。
ファインの両側にはルーナとロゼッタがいて、その向かい側にはレイラがファインに軽食を差し出す。
傍から見れば両手に花、ハーレム状態と羨まれる状態なのだろうが、彼の内心は恐怖と緊張で一杯だった。
なにせ、ファインには三人が何を言っているのか理解出来なかった。
言葉自体は分かる。
しかし、受けだとか攻めだとか、ベリイグだとかイグベリなんて言葉の意味を腐男子でもなんでもないファインは全く知らない。
それに、レイラ達が先程から上げているイグニレウスやベリアル、そしてフォレスは全員性別としては男なのだ。
特にイグニレウスとベリアルは、ダンジョンに来て間もないファインの目から見てもかなりの険悪な仲だ。
それをまるで恋人同士であることを前提に話している時点で、彼の頭では理解出来ないのだった。
それにファインは他のレジェンドウルブスに比べ、自分は不器用であると認識していた。
一ミリのズレも気になってしまい、自分の演奏で少しの音が外れるのも許せない完璧主義。
タクト達以外には「面倒な奴」と群れから孤立させられているぐらい、細かなミスやズレを気になってしまい、つい空気が読めずに余計な言動を取ってしまい周囲の足を引っ張ってしまう。
まさに不器用そのもの。
実際は、アイネスが舌を巻くほどの繊細なデコレーションや菓子作りを得意とする器用さなのだが、彼は自覚していなかった。
他のレジェンドウルブスの中で最も無口な人狼である彼には、ハイスピードで話が進むウィッチ達の議論に口を挟むことが出来なかった。
ただ小腹が空いたので夜食に何か食べようとしただけなのにこのような恐ろしい集会に巻き込まれるとは、とんだ不幸である。
「ロゼッタがフォレスさん挟みたくなるのも分かるよ?フォレスさんの戦闘スタイルって基本支援と防御っていう、相手を受け止めて支える感じだし。でもそれだったら一度一戦を交えたタンザさんと組み合わせたくならない?」
「あー、図書室でタンザさんと一緒に他の皆にアイネスさんの言葉を教えてる時とかもう夫婦か!って感じだもんね!子供コボルト達の相手をしてる時とかもう家族そのものだし。」
いや、あの二人は同じようなジャンルの本が好きだから気が合うだけなんじゃないのだろうか?
ファインはそんな事を思いつつも何も言えずに口を閉ざした。
「た、タンザさんって言えば、マサムネさんとも仲良い…。良く寝酒を共にしてるって聞いた…。」
「マサムネのおっさんってちょっと大人げない所があるけど大人の色気があって意外と面倒見が良いし、タンザさんはもう大人っぽさが凄いもんね!大人しか許されない晩酌会…くっ、妄想が捗る!」
いや、自分もあの二人が夜中に酒を飲んでいるのは見たことあるが普通にサバトラやアーシラも入っていたぞ。
ファインはそんな事を思いつつも何も言うまいと口を閉ざした。
「そういえば、マサムネさん達って今どうしてるのかな?」
「確かジャスパーくんが今回の外出に同行する事になったのってマサムネさんとサバトラさんが説得したんだっけ?」
「ふふ…自分の物を側にいさせたがるのは、攻めの独占欲…」
いや、あの二人はコボルトの族長で仲が良かったコボルトの弟のようなものだったジャスパーを気にしてやっているだけじゃないのか?
ファインはそんな事を思いつつも何も言えるかと口を閉ざした。
ファインが何も言わずとも、レイラ達の会話は順調に盛り上がってくる。
その途中でアラクネ三姉妹や子供コボルト達、更にはスケルトンやウルフの名前も出てくる始末だ。
このウィッチ、見境がないのである。
しかし、唯一アイネスとゴブ郎の名前だけ出てこない。
その事が気になったファインは、ふと尋ねてしまった。
「……アイぴっぴとゴブっちは、その中には入らないのか?」
「アイぴっぴとゴブっち?ああ、もしかしてアイネス様とゴブローくんのこと?」
「二人はねー…ちょっと難しいところにあるかなー…。」
「あ、あの二人は…良い意味で対象外…」
「対象外?」
ファインの質問に対し、うーんと悩ましげな声を上げるレイラ達。
今まで目まぐるしく行われていた議論がストップしたことにより、ファインは更に尋ねてみた。
するとレイラ達は難しい顔で説明を始める。
「ほら、ゴブローくんは凄い純粋でしょ?なんというか、世界の悪いこととか汚れた所を全く知らないような感じ。ゴブローくんって、なんというか人や魔物なら普通に体験するような苦しいこととか悲しいことには全然無縁だったみたいに思うんだよね」
「あそこまでピュアだと、ウチらも他の誰かと組み合わせにくいんだよね。なんというか、穢しちゃいけないって気がして。」
「だ、誰とでも仲良くなれるだろうけど、妄想のネタにするのはちょっと難しい…。」
「アイネスさんはというと、恋愛とかにはかなり拒絶感があるように見えるんだよね。格好いい男の子に触れられるとトキメキよりも悪寒が先に走っちゃう~…みたいなの」
「それに、アイネス様はどうもウチらとは違うように見えて感じちゃうんだよね。種族とか住んでた場所とかそういう問題じゃなくて、そもそもいる次元が違うっていうのかな?」
「あ、アイネス様は自分から目立って行動するのは殆どないし、動くにしても皆の意見を聞いてそれを支える感じだから、こういった話の中心に持ってきにくい…。」
「そんな感じで、わたし達にとっても二人は難しいところなんだよね。もっと情報があれば話は別なんだけど…。」
冷静にゴブ郎とアイネスの性格を分析し、妄想のネタにしにくい理由を挙げていくレイラ達に、ファインはただただ驚いていた。
自分たちの好きなように想像を膨らませているだけなのかと思っていたが、意外とその人のことを見て考えていたのだな、と。
口には出さずとも、彼はそんなことを思ったのだった。
「そういえば、ファインくんは誰か気になる人っていないの?」
「俺?」
「そうそう!やっぱりファインって言えばレジェンドウルブスの皆と特に仲がいいじゃん?恋愛感情抜きにしても、誰々と仲が良いとかない?」
「ふ、普段一緒にいるのは、テナーくんだよね…?何か仲良くなるきっかけとかあった…?」
レイラ達は話を切り替えるようにファインに問い詰める。
ファインはレイラ達の問いにオロオロと戸惑う。
レイラ達はキラキラと目を輝かせ、何かを期待する様子でファインを見る。
ファインは視線をあちらこちらに動かして言い逃れの方法を考えた後、諦めた様子でレイラ達の質問に答えた。
「…基本、バディになるのが多いのはオラム…テナー。俺のピアノやキーボードの演奏に合わせて、テナーがドラムでミュージックをアゲてくれるから。」
「ふむふむ、それでそれで?」
「群れる切っ掛けは、特にない。色々あってハブになってるところで、リーダーにミュージック誘われて自然と今の感じになった。」
「リーダーっていうと、タクトのこと?やっぱりタクトがまとめ上げてる感じなのか?」
「確かにそうだが…ちょっと違うと思う」
「違う?」
ルーナの言葉に、ファインは一度肯定しつつも少し考え込む。
ファインはその頭で適切であろう言葉を選びながら、ぽつりぽつりと話し始める。
「確かにタクトが率先して動いているけど、特に優位とかない。俺達はグループで、ミュージックみたいに担当がハッキリしてて、対等で…。群れを越えた、魂の仲間…ソウルメイトって感じ。俺達がリーダーをリーダーと呼ぶのは、俺達がミュージックに目覚める切っ掛けをくれたから。リーダーがいて、ブルーがいて、オラムがいて、ピンキーがいて、俺がいる。だからこそ俺達は、俺達であれる。そんな感じ…だと思う。」
不器用ながらにファインは思った言葉を口にする。
ファインはあまり口が上手くない。
タクトのように作曲の才能があるわけでもなければ、テナーのように完全記憶能力を持つわけでもない。
バリトンのようにとんでもない怪力の持ち主でもなければ、アマービレのように賢くもない。
自分は不器用で、面倒で、無能だと考えている。
しかしファインは知っている。
自分は、レジェンドウルブスに必要な存在であると。
ファインだけではない。他の四人もレジェンドウルブスという存在を形成するのに必要な存在だということを。
ファインはそう知っている。自覚している。認知している。
だからファインは、他の4人を本当に慕っているのだった。
言いたいことを言え、ほっと安堵の息をつくファイン。
ふと顔を上げ、レイラ達の方を見てみた。
レイラ達は、何故か机に突っ伏し悶えていた。
「!?」
「…っ!…っ!!」
「はぁ~~~…」
「今なら、死んで良い…」
死んでもいい、どころかもう死にかけのような状態の彼女たちに、ファインは驚愕する。
どうしたのだろうか、誰か呼んだ方が良いのか、そう頭の中でグルグルと考え込んでいると、三人が顔を上げ、ポツリと言った。
「もう、レジェンドウルブスの皆が最強で良いんじゃないかな?」
「超同意する。もはや神グループ」
「殿堂入り確定…。」
「っ!?っ!?」
レイラ達はファインに向けて手を合わせ拝み始めた。
一体何のことだかさっぱり分からないファインだけが困惑を募らせる。
その後、ファインと同じように小腹が空いて夜食を食べに来たスケさんがやってくるまで、この謎の光景は続いたという。
ファインを含めたレジェンドウルブスが、レイラ達ウィッチの中で殿堂入り扱いになった瞬間であった。




