入浴イベントでグレーの方はNGです
クラスさんが帰った後アルベルトさんに短刀術と短杖術を時間ギリギリまで指導してもらった。
やはり二つの武術をほぼ同時に教わっていたからかどっちも完全にマスターすることは出来なかったけれど、それでも基本というのは少し触れる事が出来た。
ダンジョンに帰った後は武術の訓練はイグニに加えてコボルトの誰かが指導してくれるらしい。
因みに短刀術を教えてくれるのはジャスパー。
アルベルトさんからの名指し推薦である。
一人隅っこで佇んでたつもりが、その佇まいと腰の武器の具合を見られてそこそこ腕がある短刀使いだと悟られてしまったのだ。
ジャスパーはかなり嫌そうだったが、サバトラさんに煽られたこともあって勢いで引き受けることに。
ジャスパーさん、本当色んな人に振り回されるな…。
ダンジョンに帰ったら、一応本当に指導を頼んで大丈夫か尋ねよう。
身体中汗と泥で汚れてしまったので、私達は夕食前に王宮の風呂に入ることになった。
王宮には王族用の大きなお風呂があるらしく、私を含めた女性陣はエルミーヌさんと一緒にそこに入らせてもらうことになった。
タオルやお風呂アイテムは私が持ち込んだ物を渡した。
エルミーヌさんの侍女さん達が『お身体お流しします』って声かけてくれたんだけど、それは必死に断った。
流石に誰かに身体を洗われる年頃じゃもうないです。
「じゃあ、お邪魔します」
「オジャマ、シマース!」
「シツレイ、スル*。」
「**、***?」
「***************。」
脱衣所に入る前、私達が日本語で挨拶を述べると通訳を切っているため内容は分からないが、エルミーヌさんは私達が言った言葉が何か尋ねたようだ。
エルミーヌの質問に対し、隣にいたサバトラが意気揚々と答えた。
……って、ちょっと待て。
「ストップ、サバトラさん」
「ニャ?」
私はぐるりと方向転換して、サバトラに向かい合い、サバトラの肩を掴む。
サバトラは何がなんだかさっぱりとした様子で首を傾げた。
「サバトラさん、性別どっちですか?」
「ミャー、ハ、ミャー、ニャ。」
「いや、それじゃあちょっと駄目なんですよ。いくらミステリアス系中性美人って言っても王族の人もいるお風呂イベントに参加させるわけにはいけないんですよ。」
私の言葉でハッと気づいたのか、マリアとライアンが二人してサバトラの方を見る。
サバトラは今の今まで性別が判明していない。
他のケット・アドマー達は性別に合わせて片方の耳にピアスを付けているけれど、このサバトラは両耳に同じようなピアスを付けている。
付き合いが長そうなマサムネさんもサバトラさんの性別は知らないって聞く。
亜人化した今も見た目から性別が分からないし、誰もサバトラの性別がなんなのか分からないのだ。
漫画とか二次元だったら中性美人がどっち入っても問題ないだろうが、生憎として此処はリアルの世界だ。
ダンジョン内ならまだしもエルミーヌさんも入るお風呂に同行させることは出来ない。
「*******、サバトラ******************…。」
「*、******、サバトラ**?」
「***************。」
「**************!」
マリアとライアンが両側からサバトラさんに問いただすが、サバトラさんはのらりくらりと躱してハッキリ答えてくれない。
本当にどっちなんだ、サバトラさんの性別。
こうなったら<鑑定>使って性別を確かめてもらおうか…。
そう思っていると、客室のある方向から凄い勢いで此方に向かってジャスパーとマサムネが走って来た。
二人はサバトラさんの背後までやってくると、がっしりとサバトラの腕をホールドした。
「**サバトラ!*******************!」
「*****************!」
「****!**************!」
「********!」
「******!」
「******!」
サバトラと言い争いをしながら、マサムネ達はそのままサバトラを引きずって自分たちの来た道を戻る。
後からマリアに聞いた話だと、性別不詳のサバトラさんは私達が入った後に個人風呂で入浴する予定だったらしい。
しかし一人で風呂に入るのは嫌だったサバトラは私達の入浴にしれっと入り込もうとしたわけだ。
流石にそれは見逃せないよ、サバトラ。
性別不詳はジャスパー達が連行していってクレたので、私達は脱衣所へと入った。
ドロドロになった運動着を脱いでいたのだが、ふとマリア達三人から視線を浴びせられているのに気がついた。
「………。」
「………。」
「………。」
「あの、なんですか?」
無言で私を見つめるマリア達に耐えられなくなった私は思わず三人に尋ねる。
三人は私の問いに答えず、口々に言った。
「C…**、D**?**、*********…。」
「アイネス***、*************************…。」
「いや、何処見てるんですか。」
通訳は切っているけど胸からウエストのラインに向けられる視線とライアンさんの言ったアルファベットですぐに理解した。
思わず二人の顔にタオルを投げてしまったが難なくキャッチされてそのまま視線を向けられる。
タオルをキャッチするな。そして胸を見るな。
私のスタイルなんてマリアやアラクネ三姉妹達に比べたら全然なんだ。
注目するならマリア達にすべきだろう。
マリアは今グラマーな体型な本来の姿ではなく通常状態なのでロリっ子体型だけど、ただ幼児体型というだけでスタイルが良いのは変わりない。
体全体ほっそりしつつも程よく肉がついていて、ロリっ子体型としては完璧といってもいいぐらいだ。
一部の男性陣が大喜びしそうである。
対してライアンは高身長のモデル体型って感じだ。胸はそこまで大きくないけれど、上半身は痩せ型でスリム。
しかしお尻から下はちょうど良い具合に引き締まっていて凄い綺麗だ。
見事な脚線美である。
その美脚よりも特徴的なのが、背中に刻まれたタトゥーだ。
ライアンの背中には、ランやバーベナのような花を模した黒いタトゥーが大きく刻まれている。
とても神秘的で、ライアンの綺麗な背中で咲き誇っているようだ。
私は気になって、つい尋ねてしまった。
「ライアンさん、その背中のタトゥーってなんですか?」
「コレ?コレ、マジョ、コクイン。」
「刻印?」
「ソウ。ウィッチ、ウマレル、コロ、ズット、アル。」
ライアンさんの話によると、ライアンの背中にあるタトゥーは魔女の刻印と呼ばれるもので、ウィッチ族に付く生まれつきの痣のようなものらしい。
特に何か意味や効果のあるものではなく、ただウィッチと人間を区別するためだけに付いているような刻印なのらしい。
そのウィッチによって魔女の刻印の刻まれる場所や形は違っていて、大抵は服で隠れる所にあるのだとか。
実に興味深い話である。
さて、話が少しそれてしまった。
最後に残ったエルミーヌさんはというと、所謂砂時計タイプの体型だった。
胸はネア姐さんに一歩及ばずとも結構大きいし、女の子なら憧れるような体型だ。
「***、***********…。」
「**?エルミーヌ************!」
「****。**********…。」
「**********!*******…****…」
「「**…」」
エルミーヌさんが悔しげな表情を浮かべてお腹を抑えたり二の腕を摘んでいたりするのを見て、マリアとライアンが納得した表情を浮かべた。
どうやら、全体的にちょっとムチムチしているのが彼女はコンプレックスらしい。
貴族の女性となるとシャロディさんと違って筋トレや運動はしないから運動不足な上、普段からカロリーの高い肉やパンを毎日食べてるから自然と肉がついてしまうんだろう。
特にエルミーヌさんはここ数年アレルギーのせいで籠もっていたし、それが顕著なのだ。
それでもその脂肪が殆ど胸やお尻に付いてる時点で羨ましい所なのだが、本人としては十分コンプレックスになり得ることなのだ。
「良ければ女性向けのストレッチやダイエット方法を教えましょうか?」
「ソンナノ、アル?」
「ランニングとか筋トレするのが一番効率良いのでしょうけど、一応部位的に身体を引き締めるストレッチというのはありますよ。時間もそんな掛かりませんし、室内で出来るからアレルギーの心配はしなくていいですし。毎日続ければまあまあ効果が出るはずで…」
女性向けのストレッチについて説明していると、隣でマリアから通訳してもらっていたエルミーヌが私の手をがっしりと掴んだ。
そして目をキラキラと輝かせ、有無を言わせない表情で言った。
「アイネス*、**************…、***********!」
「あ、はい…。後でストレッチ方法とかダイエットとか教えますね…。」
通訳なしでも、瞬時に何を言っているのか理解した。
こういう所、テオドールさんによく似ている。
取り敢えず、写真やイラストの多い本を選んでピックアップしないとな…。
***** *****
「はぁ~…。」
持ってきたシャンプー類で身体を洗い、湯船に浸かる。
流石王宮にあるお風呂。温泉施設のお風呂並に湯船が広い。
程よく暖かい湯船に、4人で寛ぐ。
普段お風呂はマイホームで済ませてしまっているのだが、たまには外出先でこういったお風呂に入るのも良いかもしれない。
「にしても、こんな大きなお風呂だと一度お湯を張るのも大変じゃないですか?」
「******************?*******。」
「*****************。************************************。」
「オウキュウ、マジュツシ、ミズト、ホノオノ、マホーヲ、ツカッテ、オユヲ、タメル、ダッテ。」
「なるほど、そういう事ですか…。」
王宮魔術師なんて役職を持つリドルフォさんがいるから一体どんな仕事を使うのか分からなかったけれど、こういった事をしているのか。
地味な仕事だけど今は普通に有り難い。
リドルフォさん達魔術師に感謝しなければ。
「……」
「あれ、どうしたんですかライアンさん?」
ふと、横を見てみると、隣にいるライアンが訝しげな様子で周囲を伺っているのが見えた。
まるで何かに気がついたようだ。
私はライアンに尋ねると、ライアンはにこりと笑みを浮かべて此方の方を向いた。
「ナンデモ、ナイ。」
「いや、明らかに何かありましたよね?なにかあったなら誰か呼んだ方が…。」
私が誰かを呼ぼうと湯船から上がろうとすると、ライアンが私の腕を掴んで湯船に戻した。
突然のライアンの行動に驚いていると、ライアンは私の肩を掴んで上がらせないように抑える。
「イヤ、ダイジョブ。モット、クツログ、ベキ。」
「え、ですが…。」
「オネガイ、アイネス***。モット、タノシム、ベキ。」
食い気味に湯船に浸かっていようと訴えかけるライアンに、私は何か嫌な予感を感じ取った。
そして、マリアの方にちらっと視線を動かす。
「エルミーヌ***、*************!」
「**、アイネス****************。」
「*********!」
「***、***********?!」
マリアはいつもの愛らしい笑顔でエルミーヌと仲良く談笑をしながらスキンシップをしている。
しかし、そのスキンシップの仕方にどこか違和感があった。
エルミーヌを湯船から上がらせないように肩に手を乗せて、やたらとスキンシップが多いのだ。
まるでタオルで自分の体を隠すように誘導させているような……。
私はふと、ある一つの推測を立てた。
そこで、何でもない様子でライアンに話しかけた。
「一度周囲の視界を奪うので、話を合わせてください。」
「!モチロン。」
私の言葉に対し、ライアンは爽やかな笑みを浮かべて頷いた。
そして私はエルミーヌさんの方へ向いた。
「魔術師っていえばエルミーヌさん、実は私魔法の特訓を始めたんですよ。」
「!」
「アイネス******?」
「アイネス***、**************!」
「**、*****?************?」
「ナンノ、ゾクセイ、ツカエル?ダッテ。」
「そうですね…そこそこ使えるのは火と水属性の魔法でしたね。」
「*********。」
「**、*****!******************。」
「エルミーヌ***、ハ、ヒ、ツチ、カゼ、ツカエル、ダッテー。」
「へえ、凄いですね。私はまだ始めたばかりでして、魔法のコントロールもままならない状態なんですよ。見ててくださいね…。<アクア>!」
私はそう言って、水の球を出してエルミーヌに見せる。
そしてエルミーヌが注目しているところで、水の球の温度を上げて水蒸気に変化させた。
風呂場一帯を湯気で満たしたことで視界が悪くなり、突然湯気が出現したことに驚いたエルミーヌさんが目を瞑った。
「今です」
「……っ!」
私がそう言えば、ライアンとマリアは魔法陣を瞬時に構成し、風呂場の壁の数箇所に向かって魔法を発動した。
その瞬間、何かが割れるような音が聞こえた気がした。
湯気が晴れると、風呂場のどこも壊れている様子はない。
破壊系の攻撃魔法じゃないとすると、魔法で何かを阻害したのか。
私やエルミーヌをお風呂から上がらせないようにしたことを考えると…まあ一体何があったかなんてなんとなく想像はついてしまう。
「***?エルミーヌ***。」
「*、**。*********…。」
「すみません、また魔法が失敗したようです。」
「*****。****************。」
私が頭を下げると、エルミーヌはしょうがないなぁという笑みを浮かべて許してくれる。
チラッとマリアを見ると、にっこりと笑って親指を立てて来た。
どうやら、もう大丈夫なようだ。
「あんまり長湯するとのぼせますし、そろそろ上がりませんか?」
「*************、****。」
「******。**********。」
このような風呂場にあまり長居しない方が良い。
マリアを介して風呂場への退出を促せば、エルミーヌは呑んでくれた。
エルミーヌを先に脱衣所へと行かせてから私は最後に風呂場の方を振り返る。
風呂場は入った時と何も変わりはないようにしか見えない。
私はそのまま、その場を後にしたのだった。




