聞こえてる聞こえてる
『顔を上げてくれ。娘と息子の恩人に頭を下げさせていては後で娘に怒られてしまう。』
国王に顔を上げる許可を貰った為、私は顔を上げる。
すると改めて国王と王妃達の顔がよく見えた。
どちらも顔が良かった。
テオドールさんとエルミーヌさんの黄金のような金髪と青い目は父親譲りのようだ。
テオドールさんの顔は母親である公妃に似たらしい。
顔面偏差値最高×顔面偏差値最高=顔面偏差値最オブ高のハイブリッドなんですね。
ありがとうございます。
というか二人共、見た目の年齢が若すぎませんか?
明らかに20代か30代前半にしか見えないんだけど。
異世界は人間だろうとアンチエイジング特化なのか。
『そなたのダンジョンに直接来訪出来れば良かったのだが、如何せんこの身分故大臣達に止められてしまってな。』
ハッハッハッと笑い声を上げる国王だったが、両サイドにいる大臣たちは全く笑っていない。
そりゃあ一国を纏めている王様が何処の馬の骨とも知らない怪しいダンジョンに来訪なんてしようものなら大騒ぎだ。
私の精神メンタル的にも大ダメージ間違いなしだ。
グッジョブ、大臣さん達。
『この三日間、そなたを我が国の賓客として歓迎させて欲しい。勿論、そなたの同行者である彼らも含めて、だ。』
『うむ。アイネスも此度の招待に感謝しているぞ。』
『貴様!国王様になんて口を!』
『良い。招待したのは此方側で、本来ならダンジョンの主殿達は断っても良かったのだ。作法など構わぬ。他の者達も堅苦しいことはせず、普通に喋って貰って構わないぞ。』
『あ、そうなの?じゃあそうするね!』
「いや、気を抜き過ぎでは?」
深窓の令嬢にしか見えなかったマリアが国王の言葉を聞いて普段のお茶目な雰囲気に戻ったのを見て思わずツッコミを入れてしまった。
よく見ればジャスパーやライアンも少し肩の力が抜けた様子だし、マサムネに至っては余程堅苦しかったのが性に合わなかったのか軽く首を曲げてストレッチをしている。
いくら国王が許したっていっても、そんなすぐ気を抜いちゃ駄目だろう。
と、言いたかったけれど、言えなかった。
私の社交性では、ツッコミを入れるのが限界だった。
私のツッコミは国王にも聞こえたようで、『ふむ、』と顎を手において興味深しげに私を見た。
『息子から事前に聞いてはいたが…、本当に此方の言葉とは違う言語を操るのだな。』
『そうだよー。アイネスちゃんは此方の言葉が分かんないし話せないの。あたし達もアイネスちゃんの言葉は勉強してるけど、まだ分かんない所があるし。』
『言葉が通じないとは…。普段はどうやってやり取りをするのだ?』
『普段は身振り手振りを使ったり絵を描いたりしてやり取りしているな。案外言葉なしでも十分通じるぞ。』
『特に、アイネスちゃんは頭が良いからねー。すぐ此方の言いたいことを理解してくれるから結構不便じゃないよー。』
『そうかそうか、言葉を介さずとも相手の意図を汲み取る事が出来るとは良いことだ。』
国王の疑問にイグニ達が代わりに答える。
国王はその答えに笑顔を浮かべ、言葉を返す。
最初は国王という事で堅苦しいイメージだったけど、案外気のいい人らしい。
王妃も国王の横でイグニ達の会話に相槌を打ちながら楽しげに聞いている。
とても温厚そうだ。
この二人が国を纏めているからこの国はあれほど人で賑わっているのだろう。
『さて、すぐにこの王宮内を案内したいのだが、まずは幾つか礼を言わせて欲しい。』
「礼?」
『というと、エルミーヌちゃんの『あれるぎー』のこと?』
『それもあるが、他にも礼を言いたい事はある。第二騎士団の三人の救助をしてくれたことと、タケルとその仲間についてのことだ。そなた達の協力のお陰で、各国で行われていた行方不明事件や変死体の謎が解明され不届き者を知ることが出来た。この場で感謝を述べよう。ありがとう。』
国王の言葉を聞いて、私は目を丸くした。
アルベルトさん達を助けたことについてはまだ分かる。
しかし、まさか此処でタケル青年の名前を聞くとは思わなかった。
やはりマリアはタケル青年達の調査を頼み、彼らの罪状の証拠をテオドールさん達にも見せたらしい。
あれはマリアが調査ついでにしたことだっただろうし、私自身仕返しのつもりで敢えてマリアの好きにさせていただけだったから国王に感謝を述べられるとは思わなかった。
マリアも此処で国王様から礼を言われるとは思わなかったらしいのか、キョトンとした表情を浮かべている。
『あれは、此方が必要だった調査のついでに確認してもらっただけだよ。別にお礼を言われる事じゃないよ?』
『それでも、タケル達の罪を知る良いきっかけになったのには間違いない。もしもそなた達が調査を頼まなければ今でも私達はあの男に騙されていただろう。』
『ああ、前のボスらは善人ぶるのだけは十八番中の十八番だったからなぁ…。』
国王の言葉に賛成するように、マサムネがポツリと呟いた。
確かに、最初会った時のタケル青年の印象はそこまで悪いものじゃなかった。
パワーレベリングについて聞いてなかったら私の印象もそこまで下がることはなかったはずだ。
タケル青年達は冒険者をしていたし、国王達が噂だけ聞いて騙されたとしても無理はない。
『そなた達とは今後も良い関係を築きたいと思っている。出来ればアルベルト達の救助の件を含めて何か謝礼を渡したいのだが…。』
『アイネスはそちらに望む物はないと言っていたぞ。』
『だろうな。なんとなくそう言われると思っていた。ダンジョンの主殿の無欲さは此方も知っている。なので今後そちらに用があれば気軽にこの王宮に来てもらっても問題ないように入国許可証を渡そうと思っているのだが、どうだろうか?』
『ふむ、入国許可証か…』
入国許可証なら今後マリアがエルミーヌに会いたくなった時とか、マサムネさんが馬車の改良品を広めるために王国に来る時に役に立つ。
魔物なんて本来なら入国許可どころか討伐の対象だから、他に行ける場所が出来るというのは良いだろう。
貰っておいて悪い物ではない。
マリアに目配せをすると、マリアはすぐに此方に気がついてくれて、笑顔で国王に言った。
『そういうことなら喜んで貰っちゃおうかな!アイネスちゃんも良いみたいだし!』
『そうか、ならばすぐにでも用意しよう。勿論此方の法律を最低限守り、民に不安や混乱を招かないと約束してくれるのであればダンジョンの主殿以外の同行者の入国も大丈夫だ。』
つまり、「人間に害を成さないのならダンジョンの魔物達を一緒に連れても良いよ」ということらしい。
出不精の私はともかくコミュ力高めの社交性高めのマリア達には嬉しい話だろう。
サバトラのお陰でコボルト達のような半獣型魔物も人間や亜人に化けられるようになりそうだし、これは良い物を貰えたかもしれない。
宝石とか服とか大金とか渡されるよりは全然良い。
『国王様、お待ち下さい!』
その時、国王とイグニ達の雑談を静かに聞いていた一人の大臣が声を上げた。
見るからに丸っとしていて、ちょっと頭が寂しそうな、典型的な『オヤジ』風の男性だ。
その大臣に顔を向けながら、国王は彼に尋ねた。
『どうした、何か私の決定に何か不満があるとでも?』
『ダンジョンマスター殿に入国許可証を出すのは良しとしましょう。しかし、危険な魔物まで入国を許可するのは如何なものかと。』
『ほう…。それはつまり、この者達が人間に危害を加える可能性があると言いたいのか。』
『断言はしません。しかし、あのタケル達の件があります故、その可能性がないと言い切れないですから。』
その大臣の嫌味っぽい言葉に、イグニ達がムッとした表情になった。
此処で言い返そうとしないのは、ダンジョンを出る前にした私との約束を守ろうとしてくれているからだろう。
イグニ達が何も言わないことを良いことに、その大臣は嫌な笑みを浮かべて話を続ける。
『ダンジョンマスター殿は人間とのことですから良いですが、彼女の周りの者たちは皆ダンジョンの魔物達です。今でこそ人の姿をして大人しくしているようですが、いつ本性を現すかどうか…。』
『デーヴェ。それ以上の言葉は慎め。彼らに失礼だ。』
『とは言いますが国王様、可能性はないとは言えないでしょう?なので、今回は特例として、次回から入国を許すのはダンジョンマスター殿一人に致す事を提案します。』
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら私を見るデーヴェと呼ばれた大臣。
なるほど、私一人が入国している時を狙って話しかけようという寸法か。
確かにイグニやジャスパーがいる時よりも話しかけやすさはマシだろう。
その大臣がイグニ達に対し見下した発言をしたのを良いことに、謁見の間にいる他の大臣や騎士の数名がヒソヒソと陰口を叩き始めた。
『確かに、相手は魔物だからなぁ…』
『しかも、女の同行者の一人はあのタケルの仲間の一人と同じリリスだと言うぞ。』
『今も精気を搾り取る男を狙っているやもしれない。』
『あの赤髪の魔物なぞ、ドラゴンではないかという噂だぞ。』
『なんと!そんな魔物が王国内で暴れたら一溜まりもない。』
『犬の獣人の男の目のなんと恐ろしいことか…!』
『今にも喉元を噛みちぎられそうだ』
『他の三人も、人間に対して何をするか分かったものではないな…』
おーい、聞こえてますよー。
好き勝手にイグニ達の悪口を言う人たちの姿に思わずため息が出てしまいそうになる。
この人達、私が此方の言葉が分からないと思って好き勝手に話してるな?
彼らは陰口を叩くならその人が居ない時にするって考えは思いつかないのだろうか?
『『『『『………。』』』』』
ほら、現にイグニ達が陰口を聞いて段々と怒りが顔に出かけてるじゃないか。
人間よりも魔物の五感って強いんだから、そんな陰口なんて余裕で聞こえるに決まっている。
君たち、魔物怖いとか恐ろしいって言う割に勇気ありすぎではないだろうか?
イグニ達は私との約束を守ってくれているから堪えてくれているだけで、私か国王が許可をすればこの謁見の間に血の雨を降らせるなんて余裕なんだぞ。
現にイグニは既に青筋を立てて拳を握っているし、マサムネやジャスパーは腰の銃やナイフを手に取ろうとしているのにそれが見えないのだろうか?
あ、自分しか見えてないから見えないんですね。
国王や王妃も諌めてはくれているが、彼らの陰口は収まりそうになさそうだ。
イグニ達はいい加減キレて彼らに怒りの言葉を向けそうな様子。
私はまだ異世界の動物達を見ていないし、初日から大事を起こすのは些か面倒だ。
仕方ない、此処は私がどうにかするべきだな。
「***(国王様)、**(少し)、**(良い)?」
『!』
『なっ!ダンジョンマスター殿は此方の言葉は喋れないのでは…。』
「***(覚えた)。***(だけど)、*(私)、***(未熟者)、***(だから)、**(まだ)、**(拙い)。」
『お、覚えた、だと…!?』
どうせ、パーティーとか謁見の時に誰かが私がこの世界の言葉を分からないのを利用してイグニ達を煽るつもりだろうとは予測がついていた。
だからタンザに頼んで陰口対策用のセリフを叩き込んで貰ったのだ。
これを知っているのは私の勉強に付き合ってくれたタンザとウーノ達子供コボルト組だけ。
私がこんなに喋るとは思わなかったイグニ達はとっても呆気を取られた様子で口を開け驚いている。
「***(国王様)、***(発言の)、**(許可)、***(欲しい)。」
『うむ、許可しよう。』
「**(感謝)、***(します)。」
国王に発言の許可を貰うと私は国王に一礼し、陰口を叩いてた人たちにも聞こえるように話し始める。
「**(私は)、***(この地)、**(では)、**(異質)。**(それ)、**(事実)、***(認める)。***(だから)、**(私は)、**(何も)、****(言わない)。」
突然彼らの言葉を片言でも喋り続ける私にオロオロと慌てだす大臣。
当たり前だろう。
何を言っても私が理解できない愚か者だろうと好き勝手言ってたのに、実は自分たちの言葉をちゃんと理解していたからだ。
「***(しかし)、イグニ、**(達を)、***(馬鹿に)、**(する)。***(それは)、**(駄目)。」
私はベール越しに視線のみで周囲を見渡し、先程まで陰口を叩いていた騎士達や大臣を見据える。
彼らは蛇にでも睨まれたように固まった。
「***(言葉と)、***(場所は)、**(よく)、**(選ぶ)、**(べき)。***(魔物の)、**(尾を)、****(踏まない)、****(ためにも)。」
そこまで言って、私はこれ以上の発言は止めた。
もっと他に言いたい所だけど、タンザに教わって覚えられたセリフはこれが限界だったのだ。
まあ、イグニの威光も相まって十分な威嚇にはなっただろう。
現に先程まで好き勝手言っていたデーヴェ大臣は反論を述べようと口を開こうとしたが、イグニ達が不穏な空気を纏っているのにやっと気がついたようで悔しげな表情を浮かべ口を閉ざした。
イグニ達の方を見てみると、ジャスパー以外の5人が親指を立て此方に良く言った!と言わんばかりの笑みを向けている。
「アイネス、ナイスニャ。」
「アリガトー。」
「私も、イグニさん達が此処まで見下されるのは癪でしたからね。」
こっそりと感謝の言葉を述べられ、私は小声でイグニ達に返す。
コミュ障とはいえ、イグニ達を馬鹿にされたらこれくらいの反論はしますよ。
問題は、国王様達の前で反論を述べてしまったことだ。
一応許可は貰ったけれど、小娘があんな口を聞いて失礼だと思われていないだろうか。
『フッ、ハッハッハッハッハッハッハ!』
そう思っていると、静まり返った謁見の間の中で国王が大きく笑い声を上げ始めた。
私を含め、全員が国王の笑いに驚きを見せる。
国王は笑いが収まると、口を開いた。
『エルミーヌの『あれるぎー』を貴族たちに知らしめるために出した妙案といい対価に大金を求めぬその無欲さといい、そなたは実に面白いな、ダンジョンの主殿。』
「はぁ…、それはどうも?」
突然の褒め言葉に、私は目をパチパチとしながらも褒め言葉を受け止める。
というか、これは褒め言葉なのだろうか?
国王は未だにやまない笑いを堪えながら、デーヴェ大臣に向かって口を開いた。
『デーヴェよ、そなたの意見は分かった。しかし、このダンジョンの主殿がいる限り彼らはきっと大丈夫だろう。』
『なっ、しかし…』
『現にそなたが彼らを侮辱するような言葉を放ったにも関わらず、すぐに手を出さずに静観してくれていたのが彼らに人に害する考えがないという大きな証拠だ。それに、もしも彼らが人に危害を加える魔物だというならアルベルト達は生還していないだろうし、エルミーヌの呪いの件をテオドール達が持ちかけた時点で手を掛けられていただろう。』
『ぐっ…。』
『それに、エルミーヌとマルク、そしてテオドールがダンジョンに滞在していた間、彼らは食事から寝床まですべて配慮してくれていたと聞く。このダンジョンの主殿がしっかり彼らに人を無闇に害さないように取り計らったからだろう。そんな平和的な思考を持つダンジョンの主がいる側で、彼らが他の魔物と同じように人に襲いかかると思うか?』
『お、思いません…。』
『ならば良い。納得してくれたようでなによりだ。』
デーヴェ大臣が反論しなくなるのを確認すると、国王はそれだけ言って私達の方に向き直る。
デーヴェ大臣がその贅肉をプルプルと震わせて怒りの表情を浮かべつつも、国王の前であるからか大人しく引き下がった。
『大臣たちがすまなかったな。同行者がいることは伝えていたのだがな。』
『ふん、気にするな。俺様達が反論する前にアイネスがしてくれたからな。』
『それで、結局あたし達の同行は良いの?』
『勿論だ。先程も言ったように、私はダンジョンの主殿がいる限りそなた達は人に危害を加えないだろうと考えているからだ。』
国王はそう言うと玉座から立ち上がり、此方に近づいてくる。
騎士や大臣達がざわついたが、国王は歩みを止めることなく此方に真っ直ぐと近づき、私の前までやって来た。
国王はそっと手を差し出し、握手の意を示した。
私はその手を握ると、国王は私に微笑み掛けた。
『改めて、我が国の来訪を歓迎しよう。ダンジョンの主、アイネスよ。』
そのまま、私と国王は友好の握手を交わした。
一国の王と握手だなんて、普通の一般人には絶対に起こり得なかったことだろう。
そんな一般人には起こり得なかったであろう事を体験し、私はあることを思った。
(テオドールさんと同様、この国王も顔が良いなぁ……)
マサムネとは違ったナイスミドルを目の前にして、そのイケメンオーラを間近で浴びた私の、現実逃避の一言だった。




