後悔先に立たず。コミュ障すぐに克服せず。
「なんか勢いでパーティー行くことになったけどやっぱりパーティー行きたくない…!!!」
『めっちゃ拒絶してんじゃねえか、嬢ちゃん。』
『ふん、物に釣られるのが悪い。』
「いやだって、こっちの生き物私知らないし見たことないんですよ。気になるじゃないですか。」
『アイネスはみゃー達と初めて会った時も凄い喜んでたからにゃあ。見たことにゃい動物も興味津々だろうにゃあ。』
「動物は見たい…けどパーティーには行きたくない…。精神が削れるのと回復するのを同時に受けたくない…。」
パーティーへの参加が決まりテオドールさん達が帰った日の夜、私はバーで盛大に愚痴を零していた。
バーにはバーの管理を任されているマサムネと、偶然バーにいたジャスパーとケット・アドマーのリーダーだったアメショのケット・アドマー…サバトラがいた。
最初はゴブ郎も一緒にいたけれど、ゴブ郎はつい先程子供コボルト達とのパジャマパーティーのためにウーノ達と一緒に行ってしまった。
なので今いるのはマサムネ達3人と私だけだ。
そこがバーという場所だからだろうか、それともその場にいるのが年上の大人だからだろうか、私の愚痴はドンドン溢れていく。
「てか、なんでわざわざ人間の国に人類の脅威って呼ばれる人たちを入れようとするんですかね?命知らずなんですかその人達。」
『そりゃ嬢ちゃんのダンジョンのモットーが9割ノーキルで、嬢ちゃん自体他人に甘いからだろ。』
「別に甘くした覚えはないんですけどねぇ…。」
『外の人間の偉い奴なんて基本選民主義ばっかしだにゃ。アイネスの全員平等に見る考え方は甘く見られるにゃ。』
「テンプレ貴族のような考え方じゃないですか。」
『貴族だよ。』
『むしろ貴族で人間である以外に何があるんだ』
マサムネとジャスパーの鋭いツッコミが突き刺さる。
確かに貴族であるのだからその通りだ。
『アイネスのいた場所には貴族はいにゃかったのにゃ?』
「別の国や昔の日本にはいたはずですけど、今の日本ではそういった人はもう殆どいないんじゃないでしょうか?いたとしてももう目立ってはないですね。」
『貴族がいねーって、どうやって国をまとめてるんだ?』
「市民が多数決で決めた代表が国を纏めるんですよ。国の決定を決めるのも代表たちが話し合いをして決める感じです。一応国王的な存在もいますけど、確か基本はその代表たちの議論で決定するはずですよ。」
『ほー、そんな政治をする国があるんだな。』
「まあ王国の政治問題と同じぐらいの闇を抱えてたりするらしいですけどね。賄賂とかそういうの」
『どこの国でもそういうのは変わらずあるのかよ。』
『やはり人間はクズだな。』
日本の政治の闇を聞いて、呆れた様子でため息を付くマサムネと唸り声を挙げるジャスパー。
私はマサムネが注いでくれたジュースのカクテルを飲みながら、二人に言った。
「人間がクズってのもありますけど、人間の場合はそのクズさをひた隠しにしようとするから余計に陰湿さが出てるんですよ。堂々としてたら多少性格がクズだろうが人はスルーします。」
『いや、クズさを無視しちゃいけないだろ。』
「現に私の元いた場所で通っていた学校じゃ、笑顔のリア充を装って女だったら同級生とか先輩とか教師とか関係なく肉体関係を持ってた男子もいましたよ。同級生でした。」
『なんだその絵に書いたようなクズは。』
『前のボスと同じようなクズじゃねえか。』
「因みにその男子は肉体関係を持った女性達とは皆遊びだと公言していました。一回肉体関係持ってハイ終わりってのもあったらしいですし。」
『前のボス以上のクズじゃねえか。』
『一周回って逆に清々しいにゃ。』
『此処まで堂々としてるとクズ以外の罵倒が思いつかん。』
あれは多分男子の中でもかなり特殊なクズだっただろうけど、意外と周囲には溶け込んでいた。
女性とは全員遊びだからって公言しているからか、その彼とそういった仲になるのも遊び目的の女性ばかりのようだし、ある意味充実した生活とも言えるだろう。
そこでふと思いついたように、ジャスパーが私に尋ねてきた。
『ん?おい待て。女性なら誰だろうと肉体関係を持とうとする男ってことは…』
「あ、はい、私の方にも声が掛かった事がありますよ。『一回おれと遊んでみない?』って。」
『は?』
「私は勿論断りましたけどね。恋愛関係持つのにも興味ないですし、そんなドロドロの関係に巻き込まれるのはゴメンです。一回断ったらすぐに引いてくれる方だったのでそれ以降の誘いはないですよ。」
因みになんとなく何故私にそんな誘いをしたのかと理由を問いただしたところ、
「興味本位☆」という答えを頂いた。
クズである。
きっと彼は将来女の子に刺されるのではないだろうか?
そんな事を思っていると、マサムネとジャスパーがそれぞれの懐から拳銃とナイフを取り出し、手入れを始める。
マサムネは銃をその手に構えたまま、笑顔で私に尋ねる。
『よーし、嬢ちゃん。そいつが誰だか教えてくんねえかな?ちょっとソイツと話をしなきゃなんねえ。』
「マサムネさん、銃なんて構えて一体どんな話をするつもりなのでしょうか?」
『なーに、ちょいと大人として有り難い話をしてやるだけだ。』
「どう考えてもそれは話(物理)では?」
『………。』
「ジャスパーさん、無言でナイフを弄ばないでください。」
『にゃっはっはっはっは!おみゃーら素直じゃにゃいにゃ!』
不穏なオーラを出しながら武器の手入れをするマサムネとジャスパー、そしてそんな二人を笑うサバトラ。
一体何故急に雰囲気が変わったのだろうか?
何がなんだかさっぱりだ。
『そういえば、そのパーティーとやらに同行させる奴はもう決まったのにゃ?』
「いえ、まだです。最大6人まで同行者を連れて行って良いって言われてて、イグニさんとマリアさん、あとライアンさんが来ることは決まってるんですけどね。」
『確か、亜人か人型の魔物が同行の条件なんだよな。』
「そうです。ウィッチ4人組やシルキーズには誘ってみたんですけど、ライアンさん以外は外の王国には興味がないらしくて…。」
『亜人も良い、ってことは、同行者はオレでもいいって事だよな?』
「ええ、そうですけど…。もしかしてマサムネさん、同行したいんですか?」
『おう、人間の国に行く機会なんざ早々ねえ話だろうからな。そのパーティーに出る酒がどんな物か飲みに行きがてら一緒についてってやんよ。』
「動機が圧倒的私欲ですね。」
殆ど酒飲み目的である。
ここまで清々しいと先ほど話していた彼の事を言えないのではないだろうか?
まあ、マサムネは此方に来て数日後に私に直接エロ本が欲しいってリクエストするぐらいだもんなぁ。
男性っていうのはそういう人もいるんだろう。
「まあ、同行してくれるなら是非頼みたいです。」
『おっ、同行していいんだな。うっし、高級な酒が楽しめるぜ!』
『にゃはっ、にゃんだか面白そうだにゃあ。みゃーも同行したいにゃあ。』
「え、サバトラさんが…ですか?」
楽しげにガッツポーズをするマサムネを見て、サバトラがマタタビ酒の入ったコップを置いてパーティーへの同行を希望する。
私は思わずサバトラの方を見てしまう。
サバトラはどう見ても人型というよりは獣型…というかまんま猫だ。
どう考えても同行者の条件に満たしていないようだけど…。
『おい、人間共のパーティーに行けるのは人型の魔物だけだろう。お前の見た目を良く見ろクソ猫』
「クソ猫って…。まあ、確かにサバトラさんは見た目が猫まんまなんでパーティーについていくのは難しいんじゃないかと…。」
『安心するにゃあ。<変化>を使ってちゃんと亜人に成りすますから大丈夫にゃあ。』
「<変化>?」
『まあ、実物を見た方が早いにゃあ。ちいと見てるにゃ。』
サバトラはそう言うとカウンター席から立ち上がり、カウンターから少し距離を取った。
そしてサバトラが私達の見ている前でその場に宙返りをすると、サバトラの姿がどんどん人のような姿に変わっていく。
サバトラが地に着地した時には、サバトラの姿は灰色と黒の入り混じった髪をした高校生か大学生ぐらいの猫目の猫の獣人の姿に変わっていた。
見事な変身ぶりに、私は思わず拍手してしまう。
「おおお、サバトラさんが獣人の姿になった。」
『みゃーらケット・アドマーの十八番芸だにゃん。野良のケット・アドマーはこれで他の魔物や亜人、人間に化けて生活をするんだにゃ。これならパーティーについていっても問題にゃいにゃ?人間に化けることも出来るけど、ダンジョンマスターって立場なら猫の獣人の振りをするのが良いにゃ?』
「これなら全然大丈夫ですよ。サバトラさんが来てくれるんでしたら私も嬉しいです。主に精神的な意味で。」
サバトラの変身した姿はどこからどう見ても猫の獣人そのもので、<鑑定>系のスキルでも使わない限りケット・アドマーだって分からないだろう。
ライアンさんとはまた違った中性的な美人だけど、どこか人懐っこさのある感じだ。
……にしても、サバトラって性別どっちなんだろうか。
『おい、お前がこんなスキルを使うのを初めて見るぞ。』
『今までは隠してたからにゃん。バラしたら意味がないにゃん。』
「あー、もしかして仕事をサボったり隠れてどっかに忍び込んだりするためですか。」
『それに加えて悪戯をするためって理由もあるにゃん♡』
『…前のダンジョンにいた時、たまに見たことのない魔物が現れては悪戯をするという噂があったが、まさかそれは…』
『みゃーか、他のケット・アドマーにゃ。』
『やはりか、このクソ猫!お前達が仕掛けた悪戯にオレを含めたコボルト数名も被害にあったんだぞ!』
『にゃはっ、引っ掛かる方が悪いにゃん。』
「そんな悪戯なんてしてたんですか、サバトラさん達…。」
『そういや、一時期ダンジョンのあちこちに落とし穴が大量生産されてた時があったような…。』
『ジャスパーが5回連続落とし穴に落ちたのは見ものだったにゃ!』
『この、クソ猫があああ!ガルルルル…!』
『にゃっはは~♪』
前のダンジョンで引っ掛かった悪戯の犯人が判明し、ジャスパーがキレ気味でサバトラに襲いかかる。
サバトラはジャスパーの猛攻を手慣れた様子で身軽に躱す。
結構縦横無尽に動いてるのに私とマサムネの方まで被害が飛んでないあたりイグニとベリアル達との違いが見える。
「マサムネさん、二人っていつもあんな感じなんですか?」
『アイツらは前のダンジョンの頃からあんな感じだったぞ。』
「やっぱり猫と犬だから種族的に相性が悪いんですかね…。」
『いや、ありゃあ種族の相性じゃなくて性格の相性が悪いだけだな。ジャスパーのやつは見て分かるように生真面目で頑固な奴だし、サバトラは頭が良いがマイペースな奴だから前のダンジョンでもたまにこんな風になってたぜ。ま、イグニレウスの兄ちゃんとベリアルの兄ちゃん達と違ってこっちはサバトラがジャスパーをからかって、ジャスパーのやつがそれにキレるって構図だがな。』
「アニメに出てきそうな関係性ですね…。」
『ジャスパーに限っては他の奴らに対しても大体こんな感じだぜ。そういやウィッチの姉ちゃん達はジャスパーのことを『天性の受け』っつってたけど、嬢ちゃんはなんか知ってるか?』
「そこはノーコメントでお願いします。」
ライアンさん達、ジャスパーもネタにしてたのかぁ。
こんな所でウィッチ達がジャスパーをどう思ってるかなんて聞きたくなかった。
というかウィッチ達、マサムネさん達の前でもそんな話してるのか。
そっちも十分衝撃的だ。
絡み合いに飽きたのか、サバトラが元の姿に戻ってなんでもない様子でカウンター席に帰ってきた。
サバトラの背後ではもうサバトラを追いかけるのを諦めたらしいジャスパーが頭を抱え眉間に皺を寄らせている。
どんまい、ジャスパー。
サバトラは私たちの元まで戻ってくると、私に声を掛けた。
『そういえば、アイネスにはもう一つ面白い事を教えてあげるにゃ。』
「面白いこと?」
『みゃーらの使う<変化>はアクセサリーなんかに付与することが出来るんだにゃん。』
「<変化>を付与…ですか?」
『<変化>が付与されたアクセサリーをつければみゃーらの<変化>ほど自在に変化は出来にゃいけど、他の奴らでも亜人や人間に変身できるんだにゃ。』
「え、それってとんでもないことじゃないですか。要はそれ、ケット・アドマーじゃなくても人間の街に溶け込む事が出来るってことでしょう?」
『そうにゃ。バチバチにとんでもないにゃ。』
突然告げられた内容とは裏腹にあっさりとした様子でマタタビ酒を飲むサバトラ。
誰でも<変化>を使用して別の姿に化ける事が出来るアクセサリーなんて諜報や潜入にはもってこいすぎる魔法道具だ。
国に渡してしまえば戦争なんかで悪用されてしまいそうだ。
サバトラは自分の服のポケットから金色の腕輪を取り出すと、私達に見せる。
『で、これがその<変化>が付与された腕輪にゃ。』
「なんでそんな物を今持ってるんですか?!」
『元々アイネスに渡してあげようと思ってウィッチ達に頼んで作ってもらった腕輪に<変化>を付与したんだけど、すっかり忘れていたにゃ。』
『そんなヤバイ物を忘れんなよ…。』
『これを、ジャスパーの腕に付けるにゃ。』
『ちょ、おい!』
サバトラはそう言って、ジャスパーが抵抗する間もなくジャスパーの腕に魔法の腕輪を取り付けた。
そしてジャスパーの腕に取り付けられた腕輪を操作すると、ジャスパーの姿が光に包まれた。
光の中でジャスパーの姿は獣人の姿へと変わっていく。
光が消えると、ドーベルマンそっくりなコボルトだったジャスパーの姿は黒と茶色の髪で薄い茶色の肌の色が特徴的な生真面目軍人系イケメンの獣人姿へ変身していたのだった。
マサムネはその美丈夫っぷりに口笛を吹き、私は口をポカーンと開けてしまう。
ジャスパーはそんな私達の様子に首をかしげ、自分の体を確認し、大きな声を上げた。
『な、なんだこれは?!獣人か!?』
『ヒュ~♪なんだよ、随分と男前になったじゃねえか。』
『このように、腕輪をつけてちょいと操作すれば獣人になら誰でも変身することが出来るにゃん。腕輪を外すか腕輪の調整を元に戻せば元の姿にも簡単に戻れるし、今回のパーティー行きにはもってこいにゃん。実際にそれを試すのは初めてにゃんだけども、成功して良かったにゃん。』
『オレで実験をするな!クソッ、妙に顔がスースーするな…。』
『体毛がなくなったからだろうなぁ。にしても、こりゃあ面白いじゃねぇか。なあサバトラ、これを上手く調整して一つの魔法道具で2、3種類ぐらい<変化>できるようにしてみねえか?』
『面白そうだにゃ!早速明日から早速やってみようかにゃ!』
『ったく…アンタ達には付き合ってられない。おいアイネス、コイツらをどうにかしろ…、って…。』
マサムネとサバトラが<変化>付与された魔法のアクセサリーの改良を話し合っている姿に獣人姿のジャスパーが大きくため息をつく。
私にどうにかしてもらおうと思ったのか、ジャスパーが私にむかって声を掛けたが、その声は徐々に消えていった。
それはそうだろう。
私は今、獣人姿のジャスパーから顔を逸らしているからだ。
ジャスパーは訝しげに私を見ながら、私と目を合わせようと私の周りを移動する。
私はジャスパーの動きに合わせ、顔を背けてジャスパーの獣人姿を出来るだけ見ないようにする。
『おい。』
「……。」
『おい、アイネス。』
「なんでしょうか。」
『何故俺から目を逸らしている。』
「先程も言った通り、私って動物やゴブ郎くん以外にはコミュ障を拗らせてるんですよ。ジャスパーさんとは見知った仲ですけど、獣人姿はどうも私には見慣れなくて…。」
『コミュ障云々は置いといて、目を逸らすな。なんか無性に腹が立つ。』
「ちょっと今は難しいです。」
コボルトの時からなんとなく分かってはいたけれど、獣人の姿となったジャスパーはかなりイケメンだった。
肌黒でありながらツヤのある肌、品質の良いシャンプーとトリートメントによってサラサラした髪。
眉間に皺が寄っているものの、十分顔面偏差値の高いイケメンだった。
コボルトの時は顔が良いと言っても犬の姿だったため大丈夫だったけれど、獣人の姿となった今、私の中でアウト判定に掛かってしまった。
今は必死にそのイケメンオーラに目を潰されないよう、ジャスパーから目を逸らしている。
しかしジャスパーはそれが気にいらなかったのか、ジャスパーは私の手首を掴み、顔を此方に向けようと強硬手段に入った。
『良いから此方を向け!』
「あー、ジャスパーさん。イケメン顔を近づけないでください。目がイケメンオーラで目が潰れます。コミュ障の非リアにそれはキツいです。」
『「ひりあ」とか「いけめん」とか訳が分からん言葉を並べるな!見慣れてないというなら今すぐ慣れろ!そしてその底辺のコミュニケーション能力をどうにかしろ!』
「そんなのでコミュニケーション能力が上がったら苦労しません。私のコミュ障は筋金入りなんです。」
『元の姿の時は普通に目も合わせられたし会話も出来ていただろうが!』
「コボルトさんやケット・アドマーさん達は別なんです。私の中でその皆さんは愛らしい生き物なんですよ。精神負荷も人型相手するのとじゃあ段違いなんですって。」
『そんな言い訳が通じるか!平等主義を掲げてるんじゃないのか!』
「平等主義なんて掲げてませんし、平等主義者でも相手によっては相性があるんですよ。それを人目に出さないか内に秘めているかいないかというだけです。」
『それはクズと似たようなもんじゃないのか?!』
「人間なんざ基本利己主義のクズしかいないんですよ。一見優しい人だって、巡り巡って自分の為になるから人に優しくしてる人が殆どです。『情けは人の為ならず』って諺があるぐらいですので!」
『そんな身も蓋もない事を人間のアンタが言うか!?』
ジャスパーの言い分も分かるけれど、こればっかりは退く訳にはいけない。
イグニとかに見られたらまたジャスパーが命狙われそうだけど、ただいまバーはマサムネの図らいで貸し切り状態になっている。
扉はちゃんと閉まっているし防音設備もしっかりしているので、イグニ達が気づくことはないだろう。
『大体アンタは表情が全然動かなさすぎなんだ!ゴーレムだってもっと感情豊かだぞ!』
「表情筋については言わないでください!人前や外だとどうしても緊張して表情筋が固まってしまうんですよ。何度か努力は試みましたがもう諦めました。」
『諦めるな!作り笑顔くらいやろうと思えば出来るだろう!』
「それ言ったらジャスパーさんだって笑わないじゃないですか。無表情か怒りの表情ぐらいしか見たことないですよ?」
『お、俺は良いんだ!だがアンタは立場上人前に出ることだってあるんだから作り笑いぐらい出来ないと駄目だろ!』
「笑顔なんてそう作れませんって。家族の前だって笑顔も出来ないんですよ。一度バラエティ番組見て大笑いしてる時に父が家に帰った瞬間笑いが止まって表情筋が無表情に固定されてビビらせた時があるぐらいですよ。」
『どんだけ酷いんだ!実の家族が急に笑顔を止めて無表情になるって軽く恐ろしい光景だぞ?!』
「ということで私のこのコミュ障を克服するのは難しいです。」
『克服しろ!』
「無理です。」
必死に攻防を繰り広げながら口論を続ける私とジャスパー。
ジャスパーの力だったら本気を出せば無理矢理顔を向けさせることも出来るというのに私が怪我をしないように手加減されているようで彼の優しさが見える。
そんな私達の攻防を遠目に見ながら、ジャスパーが強硬手段に入った段階で魔法の腕輪の改良の話を中断させたマサムネとサバトラが呟いた。
『こりゃ、ダンジョンマスターとその配下って言うよりは…』
『ただの兄妹みたいだにゃん。』
和やかに私たちの攻防を見守りながらお酒を嗜む二人。
にぎやかなバーの中で、時計の針が静かに時を刻んだ。




