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貴族って…怖い

遡ること数十分前…


シャワーで汗を流し運動着から外の人との交流用の衣装に着替え、ゴブ郎と合流してから会議室の方に向かってみると、既にテオドールさんとリドルフォさんが待っていた。

彼らの向かい側にはベリアルとマリアがいて二人の対応をしている。

テオドールさんは私に気がつくと、にこやかな笑みを浮かべて私に話しかけてきた。


『やあ、アイネス嬢。久方ぶりだね。』

「テオドールさん、####(久しぶり)です。えっと…エルミーヌさんとマルクくんの########?(体調はどうですか?)」

『エルミーヌとマルクだね。二人なら元気にしているよ。エルミーヌは肌荒れもすっかり治ったし、マルクも過剰な症状が出ることがなくなったんだ。』

「######(良かったです)。」

『ふふ、前回よりも此方の言葉が上手くなっているね。誰かに教わっているのかな?』

『アイネス様は最近タンザ…最近新しくやって来た魔物に此方の言葉を教わっていますからね。彼の教え方が上手いのもそうですが、アイネス様自身頭が良いのもあるのでしょう。』

「突然の褒め止めてください?」


軽い雑談を交えながら私はテオドールさんにエルミーヌさんとマルクくんの薬を渡す。

どうやら今回はエルミーヌさんとマルクくんはいないようだ。

そんな事を思いつつも、ある意味当然だと思った。

エルミーヌさんとマルクくんは王族だ。

前回は謎の呪いの原因を突き止める為に特例として連れてきたけれど、本来ならこんなダンジョンに来るべき人ではない。

……同じ王族であるテオドールさんが来ていることも不思議だけれど。


「はい、これが一ヶ月分のお薬です。」

『ありがとう。前回と同じ薬かな?』

「##(はい)。そうですよ。」

『そうか。今回は薬のお礼として相応の礼金は持ってきているけれど、次回の薬の処方の報酬はどうするべきかな?』

「報酬ですか…。ベリアルさん達は何か希望はありますか?」

『私たちの希望ですか…。では本を幾つか譲り受けるのはどうでしょうか?アイネス様の読み書きの勉強に役立つはずです。』

「私はベリアルさんが欲しい物を聞いたんですけど…。まあ本はタンザさんも読むか。」

『あたしは王国の香水が気になるかな~。アイネスちゃんがくれる香水も凄く良いけど、他のも試してみたいし!』

『勉強用の本を数冊に香水だね。勿論用意させてもらうよ。』

『また薬が切れたらダンジョンにお越しください。』

『ああ。次回もよろしく頼むよ。』


何事もなく薬の譲渡を終え、次回の報酬も決まった。

このままだとトラブルも問題もなく済みそうだ。

しかし、そう上手く行くほど異世界は甘くなかった。

握手を交わした後、薬を持って会議室を出ようと立ち上がったテオドールさんをリドルフォさんが止め、慌てた様子でテオドールさんに小声で話し掛け始める。


『殿下、あの件を伝える事を忘れておりますよ!』

『あれか…。しかし僕はあまり賛成出来ないよ。』

『だからといってこのまま何も言わずに薬だけ貰って帰ってしまっては駄目でしょう…!国王様にお叱りを受けますよ!エルミーヌ王女も彼女らが来るのを待ち遠しく思っているのですから…。』

『そうは言うけれど、此方の都合を無理に強いる訳には行かないだろう。』

「うわぁ、とんでもなく不穏な予感がする内緒話。」


ヒソヒソと内緒話をするテオドールさん達の様子にそこはかとない嫌な予感を感じ取る私。

テオドールさんはため息を付いた後椅子に座り直し、渋々口を開いた。


『実は、このダンジョンに来る前に僕の父…つまりケネーシア王国の国王陛下に頼まれた事があってね。』

「頼まれた事…ですか。」

『ああ、頼まれた事と言っても君にまた問題事の相談をするわけじゃない。それは絶対に保証する。』

「そ、そうなんですか…。」

『頼まれた事、というのはアイネス嬢、君を招待する事なんだ。』

「招待?」

『招待というと、どういったものへの招待なのですか?』


言葉を濁すテオドールさんにベリアルが尋ねる。

テオドールさんは小さく深呼吸をした後、にっこりとプリンススマイルを浮かべて私に言った。


『僕たちの王城で行われるエルミーヌとマルクの快気祝いのパーティーに参加しないか?』

「お断りします。」


私は即答した。

それはもう間髪入れず、首を思いっ切り横に振って断った。

何を喜んだらそんな貴族なリア充しかいなさそうなパーティーに参加するのだろうか。

外に出なくてはいけないということでワンアウト、貴族が集まるパーティーということでツーアウト、言葉が殆ど通じない人間たちしかいないということでスリーアウトチェンジだ。

此方はゴブ郎という安定剤とウルフという癒やしがあるから美男美女の集まりでしかないこのダンジョンでなんでもないように過ごしているけど、それがなかったら私はただの非リア女子でしかないのだ。

王族からの招待とか関係ない。私は引きこもらせていただく。


テオドールも私が断ることを察していたようで、苦笑を浮かべて言った。


『やっぱり無理かぁ…。断られるとは薄々分かってはいたんだけどね。』

『当然ですよ。いくらアイネス様が人間で、そこそこ交流があるとはいえ我々は人間の国とダンジョン…本来なら争い合う関係性なのですから。』

『でも、なんで突然パーティーの招待なんて来たの?』

『それは、わたくしめが説明しましょう。』


マリアの問いに、リドルフォさんが代わりに説明を始めた。

その表情にはかなりの疲労が見える。

……なんか大変なことでもあったのかな。


心底疲れ切った様子のリドルフォさんから聞いた話によると、今回のパーティーの招待が私に掛かったのはプライドと欲が天元突破した貴族達の訴えが原因だった。

私のダンジョンにあるダンジョンアイテムはこの世界の情勢から見ればかなりの一級品。

一級品や流行り物が大好きな貴族達にとっては喉から手が出る程欲しがる代物だ。

そしてプライドが高い彼らはより良い物を欲しがる。

だから彼らはこぞって私のダンジョンに兵や雇われ冒険者を出しては私のダンジョンの攻略をさせ、より高価な、より希少なダンジョンアイテムを手に入れようとした。

ところがどっこい、私のダンジョンは一筋縄ではいかないダンジョン。

ただ強ければ攻略出来るダンジョンではなかった。

貴族達が望むような高級な物があるのは知恵を試す青の扉ルートと決断力を試す紫の扉ルート。

直接参加した訳ではないので私のダンジョンがどうなっているかを知らない貴族達はとにかく力の強い冒険者や兵を出したが、半数以上の者が貴族達の望むような品物を手に入れる事が出来なかった。

もしも手に入れたとしても、大体の者がその宝に目が眩んで貴族たちの依頼をバックレて自分の物にしてしまう。

適当な冒険者や傭兵に依頼を出してその後逃げられるなんてことは良くある事だったけれど、今回の場合は十分痛手だった。

結果として、前払金を掠められるだけで貴族たちが手に入れられた宝は少ない。

何十人もの冒険者や傭兵を頼んで手に入れられた宝がたった一つ二つというのは、貴族達にとって損でしかなかった。


そんな貴族達の元に何処からかダンジョンの主…つまりは私なのだけど、ダンジョンの主が人間であるという情報が出回ってしまった。

魔物相手には傭兵や冒険者といった他の人に任せて後方の安全地帯で宝が来るのを待つ弱気な彼らだけど、人間の少女相手だと聞いて一気に行動を変えた。

貴族たちは王城の大臣やリドルフォさん達、更には国王にまで何かと理由を付けて私をダンジョンの外に連れ出せないのかと訴え始めたのだそうだ。

テオドールさんの推測によると、私に媚を売ってどうにか直接ダンジョンアイテムを貰えないか交渉するつもりか、過激な性格の貴族だったら私を魔物達から引き離して脅迫して私の財宝を全て奪い取ろうと考えているのではないかということだ。

今まではテオドールさんの父、つまりはケネーシア王国の国王様がそういった訴えを却下していたのだけど、エルミーヌさんとマルクくんの呪い…もといアレルギーと小児喘息を私がどうにかした件でケネーシア王国の王族に貢献した実績が付いたことで抑え込めなくなってきたらしい。


エルミーヌさんの肌荒れが治り、マルクくんの喘息が殆ど収まってきた今の時期を機に快気祝いとして他国の人間を呼んでのパーティーを行うことは元々決まっていたけれど、私をダンジョンから外へ引きずり出そうと目論んでいる貴族達が声を上げたらしい。


「二人の呪いの解呪に貢献したかのダンジョンマスターを是非このパーティーに呼ぶべきだ。」と。


そんな肉食動物のような人間しかいないパーティーに行くなんて自殺行為だ。

エルミーヌさんやマルクくんの体調がよくなった件は普通に祝いたい気持ちではあるけれど、そんなパーティーに参加しなきゃいけない理由が全く分からない。

私からしたらそんなのは正直言ってありがた迷惑でしかない。

しかし、自分のことが一番な貴族達には私がどう考えているかなんて関係ない。

どうにかして私の持ってる宝を手に入れたいのだ。


貴族たちの魂胆は分かっているものの、表面的にはダンジョンマスターと人間の国のトップという立場を越えて交流を深めると装っているので、国王も貴族たちの言葉を却下出来ない。

なので丁度私に薬を貰いに行く予定だったテオドールさんとリドルフォさんにパーティーへの参加の意があるかを聞くように白羽の矢が立ったらしい。

国王様直々の命令だったため王太子であるテオドールさんも断れず、私が拒否するだろうと分かった上で先程の言葉を伝えたのだった。


『それはそれは…実に困ったものですね。宝が欲しければ自らこのダンジョンに挑めば良いものを。』

『パーティーに参加するのはアイネス嬢の財宝を狙う者だけじゃない。パーティーには他国の人間も呼ばれているし、その中には魔物は全て討伐するべきという考えを持つ宗教国の者だっている。下手をしたらアイネスに危害を加える者だっているかもしれない。』

『でも、アイネスちゃんがパーティーに参加しなくても厄介そうだよね。ただ断っただけだとその人間たちにアイネスちゃんには人間と仲良くする気がないって色々騒がれそー。』

『それにあの貴族達のことですから、快気祝いのパーティーを断っても諦めないでしょうね。パーティーの参加を断ればその後も何かと理由を付けてアイネス殿への接触を試みるはずです。最悪の場合、手段を選ばない者も…。』

「貴族って怖いね…」

「ぎゃーうー…。」


どうやらただパーティーの参加を断ってハイ終わりという話では済まないらしい。

ベリアルとマリアがテオドールさんとリドルフォさんと一緒になって色々議論を行っている。

私はそういった社交界の闇は関係なしにパーティーの参加自体が嫌だ。

私はあくまで地球の一般庶民だから貴族のパーティーの振る舞い方なんてわからないし、前回のパーティーではタケル青年との揉め事が起きた事があったので出来ればパーティーなんて参加はしたくない。

更に今回のパーティーでは招待状による転移もなく半日以上外にいなければいけないのだ。

長時間外を出歩くなんて御免こうむりたい。


しかしベリアル達の議論を遠目から聞いている限り、このパーティーの参加を断るのもデメリットがあるようだ。

参加してもデメリット、参加を断ってもデメリット。

貴族の世界とは本当に面倒だ。


『因みにパーティーに私達は同行出来るのでしょうか?』

『数人なら大丈夫だよ。国王からもちゃんと許可は貰っている。ただ、先程も言ったように宗教国からの参加者もいるだろうから出来れば亜人や人型に近い魔物の方が良いだろうね。』

『そうなると、ベリアルさんやゴブローくんはパーティーへの同行は止めておいた方が良いってことかな?』

『そうだね。マリア嬢はエルミーヌから同行者がいるなら是非って推薦があるからそれを盾にすれば大丈夫かもしれないけど、アークデビルロードであるベリアル殿やゴブローくんがパーティーに同行するのは止めた方がいい。』

「絶っっっ対にお断りします!!」

『『『『!?!?』』』』


私はその言葉を聞いた瞬間、大きな声を上げた。

突然声を上げたからかベリアルさん達がぎょっとした様子で此方を向いた。

私は両手で大きなバッテンを作り、拒絶の意を示す。


ゴブ郎だけが、「ぎゃ?」とキョトンとした表情で首を傾げたのだった。




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