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異世界生活だからといって忘れちゃいけない事がある。

前略、地球に暮らしている父さん、母さん、元気でお過ごしでしょうか?

私はこの異世界で色々不便ながらもなんとか生活しています。


ある日突然始まってしまったこの異世界生活にもだいぶ慣れてきて、少しずつではありますがベリアル達の顔面偏差値カンストオーラにも慣れてきた気がします…。

いや嘘です。

まだイケメンオーラに慣れていません。

というかあれは常人が慣れることが出来るものではありません。

出来ればスキルに<美男美女耐性>みたいなのがあると良いのですが、<オペレーター>さんに「そんなスキルはない」と切り捨てられました。

相変わらずの辛辣な回答です。


新しくダンジョンにやって来た魔物達なのですが、運動会を開催したことで距離が縮まったのか、このダンジョンの暮らしに慣れてきたようです。

今では元々いた魔物たちとも壁もなく楽しくダンジョン経営に務めてくれています。

イグニなんて、アーシラ姐さんとマサムネとケット・アドマーのリーダーであるサバトラと一緒に飲み会をする仲になりました。

フォレスはタンザと仲が良いらしく、よく一緒に読書をしている姿を見ます。

マリアは徐々に女コボルト達と距離を縮めているようで、最初はぎこちなかった女コボルト達も段々心を開くようになりました。

ジャスパーさんのようにまだ心を閉ざした人もいますが、まあ時間が解決するでしょう。


私の方ですが、変わらず引きこもり生活…もといダンジョンの中で生活しています。

もちろんダンジョンの中での生活っていっても、皆の料理を作ったりダンジョンの経営を務めていたりもしますよ?

最近は自己防衛のために体力をつけ、魔法の練習をしたりもしています。

魔法といえば、ロゼッタに作ってもらった魔法道具、魔女の装具が凄いんですよ。

なんとこの魔女の装具、私のイメージに合わせて形が変わるんです。

普段はシンプルな腕輪の形をしているのですが、私が魔力を流してイメージをすることでイメージ通りに形や色を変える事が出来るんです。

実際に試した所、ライトブルーの宝石のついた銀の腕輪を某魔法少女の闇系アニメに出てくるような弓に変えることが出来ました。

これならアニメに出るような魔法少女の変身も出来るんじゃないだろうか?と内心興奮していたのですが、マリアに勧められて別の魔法少女アニメを視聴した事があるウィッチ達が私の背後で「あのアニメの変身に無駄な魔力使いすぎじゃない?なんで変身するの?」とか「なんであんなに光とか花を出すのかよく分からない…」とか「トドメの大技の溜めが長すぎではないか」と話していたのを見てそっと魔女の装具を元に戻しました。

確かにウィッチ達リアル魔女からしたらギャップが凄いだろうけど、その発言は全国の幼女と一部大人のお兄さん()達の夢ぶち壊しです。

その後試しにベリアルとタンザにも某国民的魔法少女アニメを一話だけ見せてみた所、何も言わずに失笑されました。

現実とかけ離れすぎて掛ける言葉もないってことですね。

更にイグニからの情報によるとベリアルやフォレス、その他ウィッチ達のような魔法に長けた魔物達にとって、魔法少女アニメは全て「魔法が使えない奴が考えたコメディアニメ」として認識されているそうです。

道理で良く笑い声が聞こえるわけですね。

君たちは一度全国の幼女と一部の大人のお兄さん、それにアニメの製作者に謝ってください。

魔法少女は子どもたちの夢と憧れです。


そんな私なのですが、一つ困っている事があります。

今までずっと見て見ぬふりをしていた、重大な問題です。

それは――――――――――。


「勉強つらい……。」

『アイぴっぴちょー面倒くさげじゃん。』


勉強、である。


***** *****


切っ掛けは図書室でウーノ達に日本語を教えていた時のこと…。

ツヴァイがいち早く漢字ドリルを終えたため、新しい漢字ドリルを<ネットショッピング>で購入していたのだけど、その時近くで本の整理をしていたタンザが言ったのだ。


「ソウ、イエバ、アイネス**、ハ、ベンキョウ、ハ、イイ、ノカ?」


私はその言葉を聞いて、私は硬直した。

その時手に持ってた漢字ドリルを落としてしまってウーノ達に心配されたけれど、それどころじゃなかった。


「学校の勉強…忘れてた…」


学校の勉強。それは子供の大半が嫌うものの一つ。

学校の勉強というのはするのは面倒で嫌だけど、サボるともっと面倒で嫌だ。

何故なら学校の勉強を怠ると成績が悪くなり、すぐ大人に目を付けられるようになるからだ。

大人に目が付けられやすくなると、成績を理由に付けて説教をされたり、親にゲームや漫画を取り上げられたりする可能性が高くなる。

それが嫌だから私は異世界転移前まではそこそこな成績を保っていた。

だけど、この異世界にやって来てからは突然ダンジョン経営をすることになったり、騎士達が襲撃してきたり、テオドールさん達がやって来たり、タケル青年とのダンジョン戦争があったりとバタバタしていたから、すっかり勉強のことを忘れていた。

この異世界にやって来てから2ヶ月。

タブレットやPCで検索すると新しい情報が上がることから考えると、この世界と元いた世界の時間経過はほぼ同じということだと推測できる。

つまり私は、2ヶ月先の勉強を全くしていなかったということになる。

学校の出席日数に関しては世界レベルで行方不明になってるからどうにか出来るかもしれない。

だがしかし、学校で遅れた勉強分は自分でどうにかしないと駄目だ。


たかが2ヶ月。されど2ヶ月。

あとどれだけこの異世界に留まらなくてはいけないかも分からないし、もしかしたらある日突然元の世界に戻っているなんてことも有り得てしまう。

その時に備え、勉強の遅れは出来るだけなくした方がいい。

特に私は、どうしても勉強を遅らせてはいけない理由があるのだ。


そうして私は、一時的にダンジョン経営の仕事と特訓の時間を減らしてもらい、遅れた分の勉強を取り戻すための勉強を始めることになった…。


の、だが…


「あー……」

『アイネス姉さん、口から魂みたいなのが出てるよ。』

『引っ込めて引っ込めて!』

『死ぬな、アイぴっぴーー!』

『生きて、アイぴっぴーー!』

『勉強程度で人は死なぬぞ。』

「精神は死にますけどね。」


絶賛、難航中だった。


知恵の豹であるタンザに先生になってもらう協力を貰い、ウーノ、ツヴァイ、アマービレ、テナーの横で勉強を教えてもらっているのは良いものの、遅れた分の勉強を取り戻すのはかなり難しかった。

つい魂が抜けかけてしまうぐらいには難航していた。

私はタンザから返されたテスト結果を見て机に突っ伏し、大きなため息をついた。


タンザに教えてもらっている科目は現代文、古典、地理、日本史、数学の5つ。

<魔術の叡智>の素養が出来かねない理科と、言語がそもそも違うから教えるのは難しいと判断された英語はマイホームでの自習で勉強している。


『つーか、足し算どころかやっと数字を読めるようになった俺らからしたら、十分アイぴっぴは頭良いと思うけどなぁ。ターパイセンのじゅぎょーを横から聞いてても何がなんだかさっぱりだし。』

『アイぴっぴがしてる問題集とか、そもそも何書いてるのかすらも分からないしねー。』

「こちらの学校ではこれで良いかもしれませんが、あっちの学校じゃ駄目なんですよ…。」

『アイネス姉ちゃんの故郷の学校、ベリアル兄ちゃん並に厳しいじゃん。』

「ベリアルさん並ならまだ良い方ですよ…。教師の中には黒板を一切使わずに聞き取りのみで勉強を教えようとする鬼畜教師もいたりしますから…。」

『ベリアル兄さんより鬼だね、それ。いや悪魔?』

『ベリアル殿を引き合いに出して会話をするな。』


ウーノ達と会話をしていると、教科書を読み返しているタンザにツッコミをいれられた。

レジェンドウルブスへの音楽指導と私への魔法の特訓。

その2つでベリアルがかなり厳しい指導をしていることから、最近ではダンジョン内でスパルタ=ベリアルの指導という構図が出来上がってしまっている。

スパルタだけど、ちゃんと出来ている時には普通に褒めてくれるんだけどね。


『しかし、アイネス殿の故郷の学力が驚異的なのは同感だな。算術だって、これほど高度な物は使わない。』

「え、此方では数学はないんですか?」

『商人や貴族の子供でも四則演算程度しか教わらないな。ただ、魔法陣学に携わる学者志望であれば『かんすう』や『ほうていしき』に似たものを覚える者はいる。』

「げ、つまり数学も<魔術の叡智>獲得条件を満たす可能性があるんですかね?」

『いや、<魔術の叡智>の獲得条件とは関係がないだろう。あくまで魔法陣を作る過程として『かんすう』や『ほうていしき』と似て非なるものを用いるというだけで、魔法の原理とは少し違った粋にある。』

「あ、そうなんですね…。」

『せいぜい転移魔法の座標を正確にしやすくなるか、魔法陣の構成が早くなる程度だ。とはいっても、こちらの人間や一介の魔物が一から理解するには軽く見積もっても何十年と掛かる。』

「それを聞いて安心しました。」


メガネをくいっと上げたタンザの言葉に私はホッとした。

本の虫ならぬ知識の豹であるタンザなら教科書を渡せばすぐ家庭教師になってくれると思って軽率に理科と英語以外の教科書を渡して家庭教師を頼んでしまったのだけど、<魔術の叡智>とかチートスキルが身についてしまうという心配はなかったようだ。

タンザの知性はこのダンジョンの中でも随一で、図書室の管理を任せてからというもの、彼はスルスルと水を飲むような早さで私の世界の読み書きを覚え、今では私と同じぐらいにまで読み書きが出来るようになった。

それどころか私のいた世界では様々な言語があると知るとそれも覚えたいと外国の本を要求された。どんだけ知識を得ることに貪欲なんですか。

タンザに家庭教師の件を頼んだ際、中学から高校までの教科書を渡したのだけど、たった2日でその内容を全部読破された。

しかも教え方がとっても上手い。私が通っていた学校の教師以上に分かりやすいくらいだ。

そのおかげで家庭教師を頼んでたった数日なのに半月分の遅れの学力を取り戻している。

この調子で行けば遅れを取り戻すどころか数ヶ月先の予習まで出来るだろう。


『でも、なんでアイネス姉ちゃんはこんなに疲れ切ってるんだ?』

『ボクらみたいにベンキョーが苦手とか?』

『いや、そうではない。むしろアイネス殿は良くやっている方だ。見てみるといい。』


そう言って、タンザは毎日私の学力を確認するために出している小テストの冊子を見せた。

テナー達は採点済みのそれの結果を見て、驚く。


『95、92、100、98……え、普通に優秀じゃね?』

『問題の内容は分からないけど、100点満点中これでしょ?マジ頭良いよ、アイぴっぴ!』

『これ、アイネス姉さんの所の学校だと平均点ってどのくらい?』

「低くても大体75点くらいかと…。」

『なーんだ、アイネス姉ちゃん、全然点数たけーじゃん!』

『十分すぎるぐらい賢いよね~!ボクらじゃ足元にも及ばない感じじゃない?』

『それな~!』


自慢になるかもしれないけれど、これでも頭はそこそこ良い方だと自負している。

自室に引きこもっている間はただゲームをしたりネットサーフィンしたりするだけじゃなく、一人で予習や復習をしているからだ。

真面目に勉強をしている理由は親に引きこもっている事に関してとやかく言われないためと学力を理由にゲームや漫画を取り上げられないためというなんとも私情だらけの動機だけど、結果的に勉強しているのだから良いだろう。

そのおかげで期末や中間でも学年で20位以内には入っているので、親に学力でとやかく言われた事はない。


『じゃ、なんでアイぴっぴこんな落ち込んでんのさ?』

『おそらくではあるが、理由はこれだろうな。』


首を傾げているテナー達に対し、タンザはそっと2つの冊子を手渡した。

テナー達はそれを手に取り、表紙に書かれた漢字をじっと凝視する。


『えっと…なんて書いてんの?』

『ツヴァっち、読める?』

『読めるよ。確か、『ちり』と『にほんし』って読むはずだよ。』

『その通りだ。『ちり』は地域による社会構造やその特徴を主に学ぶ科目であり、『にほんし』は歴史…それもアイネス殿の故郷である『ニホン』の歴史を学ぶ科目だ。その2枚のテスト用紙は先程採点したばかりのテストの結果だ。点数を見てみなさい。』

『点数?』

『アイネス姉ちゃんなら、さっきのと同じように90以上なんだろ?』


先程の採点済みテストの結果でテナー達は日本史と地理のテストも他と同じように平均以上の点数だと思ったのだろう。

地理のテスト冊子を開いてその点数を見た瞬間、4人はその点数を凝視する。

そしてその点数が幻覚ではないと分かると、驚愕の表情で大声を上げた。


『『『『じゅ、19点!?』』』』

「あはは…19点ですよ…。」


言い逃れることの出来ない事実に、私は乾いた笑い声を上げる。

テナー達は私以上にその点数を信じきれなかったらしく、何度も私と点数を交互に見ている。


『は、ははは…こ、これもしかして20点満点とかなんかッスか?そうでねーと話が付かねーっていうか…』

『残念ながら100点満点だ。』

『じゃ、じゃあそのテストがすげー難しいやつだったとか…。』

『アイネス殿の学校の基準だと、このテストの平均は大体80点だ。』

『採点ミス…はターパイセンがするわけがねーか。え、じゃあ…マジで?』

「これが真実ですよ…。」


私が机に突っ伏したままそう言えば、テナー達は絶句する。

よほど、私の地理の点数が信じられないのだろう。

私だって出来ればこんな点数は信じたくない。


『まあ、アイネス姉さんにも苦手な教科があっておかしくはないんじゃない?アイネス姉さんだって一応人間なんだし。』

「一応どころか絶対人間ですよ…。むしろ今まで何だと思ってたんですか。」

『そ、そーだよなー!アイぴっぴも苦手な事はあるっしょ!』

『むしろ逆に親近感出るよねー!』

『そ、そうだな!俺だってかけっことかなら負けねーけど、ツヴァイみたいに勉強が出来るわけじゃねーし!』

『だよなー!ハハハハ!』

『もう一つの結果はどうなんかな?』


何処かぎこちない笑い声を上げながら、4人は私のフォローをする。

アマービレは日本史のテストの冊子も開いて、結果を確認する。

そして今度こそ、4人は言葉を失うことになる。


『じゅ、13点…。』

『アイぴっぴ、マジでか…。』

「マジですよ…。」


4人の視線を痛いぐらいに浴びながら、私は大きなため息をついたのだった。


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