羊の沈黙
私は翌日ログインする。まだ誰もログインしておらず、私一人の状態だった。
私はとりあえずミカボシたちを待つために椅子に座っていると扉が開かれる。NPCだ。オーバーオールを着たでっぷりお腹のひげ面おっさん。頭には麦わら帽子をかぶっており、見た目はすごく人当たりがよさそうな格好をしている。
「少しいいべか」
「はい、なんでしょう」
「ここはアマノイワトチームで間違いないべな?」
「はい、大丈夫ですよ。アマノイワトです。あいにく今はリーダー不在ですがメンバーです」
「よかっただ。実は頼みてえことがあってだな」
と、一枚の紙を渡してくる。
羊だった。
「その羊が生まれたんだわ」
「ほうほう」
「そいつがすばしっこくてなぁ。捕まえられんで。捕まえてほしいのよ。少し痛めつけるぐらいならええが殺すのはやめてほしいだ」
生け捕りにしろということか。
この人は羊飼いの人か。まあ、そのでっぷりお腹ではあまり速く走れないだろうな…。なんて失礼なことを考えてしまった。
「あなた一人じゃ捕まえられねーからもう少し人を呼ぶだ」
「いや、私だけでいいですよ」
私はにやりと笑う。
このNPCはメリィ・シープと言う人らしい。
羊飼いの中でも結構有名な人で羊と馬と言えばこの人という。
「すげー広い…。で、どの羊ですか?」
「あっこの銀色の毛玉の奴だ」
と、羊の群れから少し離れたところに銀色の羊がいた。
私はなんとなく近づいてみると、しゅばばばっと風を切りながら走っていく。とりあえず戦闘状態になったので私はスキルを発動。
闇の二面性を発動し、走る。
すると、すぐに銀色の羊に追い付いたのだった。
私は銀色の羊を両手で押さえつけた。ヒツジはメェーと鳴き、放してあげると私にすり寄ってくる。
私は闇の二面性を解き、その場に座るとヒツジは私の膝に足を置く。頭を足にスリスリ。撫でろと言わんばかりにスリスリ。
「メェー」
「撫でてほしいの?」
私は頭をなでる。
私って昔から動物に好かれやすいんだよなー。だからなんとなく動物の言葉がわかるようになったというかなんというか。
何してほしいのかがわかるんだよね。特技です。
「メェー」
撫でているとヒツジが心地よさそうに鳴く。
シープさんがやっと到着したようだ。
「あらま、すんげえ懐いてる。嬢ちゃん羊飼いむいとるかもなぁ」
「あはは。昔から動物には好かれるんですよ。馬とか犬とか猫とか」
「羨ましいべなー。そだ。ならその子の毛も剃ってくれると助かるべ。毛を剃ろうとしたら逃げ出したんだ」
と、バリカンを手渡される。
銀色の羊はやってくれと言わんばかりに座った。私はバリカンで毛を剃っていく。銀色の羊毛がドロップしていく。シープさんはそれを拾う。
あー、羊の毛を剃るのはイギリスのおばあちゃん家以来だなー。おじいちゃんが馬と羊を飼っていて世話してたんだよなー。懐かしいなー。
おじいちゃんが飼ってるはずなのにおばあちゃんによく懐いてたのは笑ったけど。
「おろ、嬢ちゃん初めてじゃないな?」
「あはは。亡くなったおじいちゃんがやってて私もやってたんで。一応は慣れてますよ」
「おじいちゃん結構な手練れだったんだべなー。孫にこんな技術を教えるなんてうまいもんだ」
私は剃り終わったのでヒツジを立たせる。
「それにしても銀色の羊って珍しいですね。見たことないって言うか」
「まあ、変異種だべ。どこかで魔力草でも食ったヒツジが生んだ子だべな。進化したんだべ。わしらはメタルシープと呼んでる」
メタルシープ…。
「毛も鋼みたいに固まるし鋼みたいに頑丈なんだ。これがまあ売れるのなんの。まあ、魔力草はヒツジにとっては本来毒だしあまり食わせられねーけどな」
毒を克服したヒツジがいるんだなぁ。
魔力草か…。
「魔力草って売ってたりします?」
「人間にとっては非常にありがたいもんだから売ってるべ。なんだ? 興味あんのか?」
「魔力草についてよく調べたらその羊がなぜ食べても無事だったかがわかるかもしれませんよ。消化液の成分がーとか。もともと魔物だったヒツジとか」
「ほー、考えたことなかったべ。わかった。調べてみる。あんがとな! 報酬はこの羊毛と毛刈りもしてくれたからお金も上乗せするべ。2万ギンでどうだ?」
「そんなにいいんですか?」
「わしも手を焼いてたヒツジだからな。それに、ヒントもくれたべ」
「ああ、魔力草…」
私も適当にいったんだけど…。
「もしかしたらヒツジにも魔力器官がある個体とない個体があるんだべな。人間と同じだべ。いいヒントだ。もっと繁栄できるかもしれんべ…」
と、ぶつぶつ言いながら去っていった。
とりあえず、依頼達成!




