王は英雄を望む ③
私たちは王めがけて突っ走っていく。
「この中で一番火力が高いのはミーミルだ! 惜しまずスキルを使って攻撃しろ! 隙は私たちが作ってやる!」
「任せろ」
私は威風蓋世:残夢を使用する。
王は私たちめがけて剣を振る。私たちは難なく躱し近づいていく。ミカボシは剣を構え前のほうに移動するとクロムと一緒に脛を攻撃した。
そして王はそのまま前のめりになって転ぶ。さっと、左手を首筋にもっていこうとしたとき王の手付近で爆発が起きた。
「爆薬! 作っておいてよかったぞ!」
「サンキュー! これでも食らいやがれ!」
私はそのまま高く飛び上がり首筋を爪で切り裂いた。結構なダメージが入る。王は瀕死状態になるがそのまま私を振りのけて立ち上がった。
すると、王は頭を押さえる。
『ウガッ……』
「なんだか様子がおかしいぞ」
クロムが手を出し私たちが近づくのを止めた。
『本当ニ目障リダ小娘……! コレデ終ワラセテヤル!』
「やばっ、範囲攻撃かも……」
「相手の攻撃一度だけ無効化する!」
威風蓋世:残夢の効果を使用した。
すると、王を中心として黒い靄が爆発を起こす。その爆炎に私たちは包まれてしまう。前が見えなくなるほどの黒い靄。攻撃は無効化されているがエフェクトだけはあるようだ。
『ナゼ帝国ニ嫁イデシマッタノダ愛シキアリーシャ……』
王のつぶやきが聞こえてくる。
目の前に流れてくるのは王の過去らしき映像だった。映像の中には若かりし王と同年代の女の子が写っている。アリーシャというのはこの子だろう。
アリーシャは笑顔を見せていた。王も笑顔で手を取っている。だがしかし、その光景にひびが入る。
次の映像はアリーシャのウエディングドレス姿だった。
『ソル様……。私は父の意向で帝国に嫁ぐことになりましたの……』
『なっ……! アリーシャは私の婚約者だろう! 王太子と婚約破棄できるものか! 陛下はお許しにならないぞ!』
『あちらから望まれたのです。私を帝国によこせ、と。帝国にはこの国は逆らえません。陛下もわかっていたのかすぐに解消していただけました』
『なっ……。やめろ。いかないでくれ、アリーシャ! 私の隣に立って公務を手伝ってくれるのだろう!? 私はお前と一緒なら側妃も取らないと誓ったのだ! 私はお前が好きなのだ! だからいかないでくれアリーシャ! おい、アリーシャぁぁぁぁぁ!!』
映像の中の王太子は泣いていた。
映像が途切れ、あたりが晴れる。先ほどの映像を見た私たちは顔を見合わせていた。この映像が本当ならばこちらが悪いのではないだろうか。
愛した人と結婚できずに離れてしまう。そういうつらさはわかる気がする。恨むよそりゃ。
『ナゼ生キテイル! 俺様最大ノ一撃ヲ食ラッテ……!』
私は再び攻撃しようとしてくる王に待ったをかける。
「アリーシャ」
そう名前を告げると王の動きは止まった。
『ナゼソノ名ヲ』
「王が望むなら王のところに戻せるかもしれない。今更遅いかもしれないけど」
『信ジルモノカ……!』
「信じてほしい。アンタの婚約者は帝国に嫁いだんだろう? 私ならなんとかできる。だからもうやめよう。戦争を止めてくれ」
王は頭を押さえた。
そして、王の体から黒い靄が出ていくと王はその場に倒れこむ。
「大丈夫ですか、ソル王」
「……アリーシャを、本当に」
「大丈夫です。多分貴族として子をなしてるとは思いますが生きていたらあなたのもとに」
「ばか、余計な一言を……」
「子をなしている、か。それはわかっている。それでも頼みたい。もしアリーシャが残りたいというのならばそちらの意向に従う。だから、俺様をアリーシャの下に」
「任せてくださいませ。嫁ぎ先とかは知らないんで皇帝に聞くことになるんですけどね」
私はソル王をおんぶし、戦っている最中の帝都に向かって走り出した。
英雄になるというのはソル王が強大な帝国を倒す英雄となることでした。ソル王の恨みが戦争を引き起こしたんです。どっちも悪い。




