幕間~マウィの証言4
マウィです。
先日から空の具合がおかしいです。
分厚い雲が空を覆い、日に一度は雨が降り出します。
乙女の来訪後は滅多なことでは雨具を必要としないらしいですが、もっぱら雨具が手放せません。
今、私は友人のシマリスの住む村までの道を騎獣で進んでいます。
旅路に同行しているのは、ナージャ様の部下であるジャッカルの魔導師ルカリド様です。
魔導師であるなら転移魔法が使えそうなものですが、現在は筆頭魔導師であるナージャ様から転移禁止令が出ているのだそうです。
神殿含め王宮から誰が何のためにどこに出かけているのか等の情報漏えいを防止するためなのだとか。なにやらとてもきな臭い匂いがします。
情報漏えい防止の一環として、私もどういう命を受けてルカリド様が出立されているのかは知らされていません。
転移魔法は使用できないので道程は騎獣に乗っての移動となります。
使用するのは太い足の健脚の騎獣です。ずんぐりむっくりとした体つきをしていますが、その速度はけして遅いものではありません。毛が長くて目元が隠れているのがチャーミングだと私は思っています。毛色は灰色と、私の髪の毛と同様の色をしています。愛着がわきますよね。
各地の村々を周りながらルカリド様は進んでいきます。私の目的地――シマリスの友人が住む村――は最終地点なのだとか。
リスの村は針葉樹林の立ち並ぶ森の奥深くにあります。
孤立した村ではないので、そこに続く道は舗装まではされていませんがきちんと麓の街へと繋がっています。
けれどその道も冬になると道が閉ざされてしまうので備えが大変なのだと、友人が漏らしていたことを覚えています。冬の間にせっせと作った品物を春になると卸すのです。各シーズン毎に誂えた品物たちが、王都での流行の一部を作っているのよと誇らしげに言っていましたね。
友人の無事も大切ですが、ナージャ様の下へ早く戻りたいという思いも重なって気持ちが逸ります。
日差しを遮る針葉樹林の薄暗い森を、私たちは騎獣に乗って進みます。
……あぁ、それにしても、ポクポクという騎獣の踏み固められた道を闊歩する音って眠気を誘いますね。
ポクポク、ポクポク……。
ルカリド様が帯びている命もありますが、私の急ぎたい気持ちもあって、この旅路ではあまり必要外の休憩を取っていませんからね。疲労が蓄積されているのです。
「マウィさん、寝こけて落っこちないようにしてくださいね」
横を進むルカリド様が苦笑しつつ注意を払ってくれます。
ナージャ様の部下だけあって、ルカリド様もちょくちょく人をおちょくってくるような発言をしてきます。魔導師は優しさだけではやっていけないのでしょうか。
そういえば噂ですが、魔導部は諜報活動もしているのだとかいないとか――。そういう噂が流れてくるということは、一筋縄ではいかない人が多いのでしょうね、魔道部って。ナージャ様含め、みなさんそうなのでしょう。
「手を出すことはもちろん、貴女に怪我でもされたら俺がナージャ師に殺されますから。十分気を付けてくださいよ」
殺されかねない、ではなく殺されるのですね。確実に。一気に血の気が引いてしまいます。
ナージャ様のお相手をするようになってから、最近では裏の意味までなんとなく分かるようになってきましたよ!
はっ。でもそこまで心配してもらえるということは、ナージャ様はそれくらいには私のことを大切に想ってくれているということでしょうか。これは自意識過剰に思ってもいいのでしょうか……。確認、したいけど恥ずかしくてできないですよっ。
熱くなる頬に手でパタパタと顔を仰ぎます。
「あー、何ですかねこれ……。そこで頬を染められるところがナージャ様と似合いなんでしょうね」
やだやだ、おなか一杯ですわ。そう言ってルカリド様は天を仰いで笑われました。
空はうす曇り。
時折雨がパラついています。
この空が晴れやかになるときは来るのでしょうか。いずれ、と思いつつ、出来れば今すぐにでもと祈ります。
この世界において、乙女のもたらす大気の安定性はとても重要なことです。
――乙女の心が晴れ渡り、世界が安らかになりますように。
ルカリド様に合わせて天を仰ぎ、私はそう祈りを込めて呟きました。
あくまでマウィは暢気者。




