十話
「ここ……ね、うん!ここよ!ここ!」
スマホの地図アプリを見ながら歩いて、たどり着いたのは、ごくごく普通のマンションである。
今回、美麗達が借りたのは1LDKの家賃5万円の部屋である。一番上の角部屋を無事に伝手で取る事が出来た。
「愛の巣~♪私と瑛太の愛の巣~」
聞いてるのが恥ずかしくなるような歌を歌い、ルンルンとした気分でマンションへと歩いていく美麗。はぁ、とため息をつき、美麗の後を追いかけようと思った瞬間――――――
「……っ!?」
不意に、瑛太に悪寒が流れ、美麗の腕を急いで掴んでから引き寄せた。次の瞬間、すぐ隣にある物置から手が出てきて美麗がいた場所を空振りする。
「………さすがだな瑛太」
「……っ、本田、さん……」
出てきたのは、午前中にて神奈川の空港で見かけた本田である。
「……あなた、今、美麗の首を……」
「あぁ、五右衛門様からの指示でな。体が無事であればどんな状態でもいいから連れてこいとの命令でね」
「………っ!!」
美麗を抱きしめている左腕に力が入る。怒りで、頭がどうにかなりそうだった。
「……っは、ふぅ………」
怒っている時ほど、体は熱く、心を冷静に。感情と理性を上手く分断し、最善の状態で美麗を守ることに集中する。
「……ふっ、さすがだな瑛太。今のお前だったら、私なんて容易く捌かれるだろう――――だが」
本田が指をパチン!と鳴らすと周囲から本田と同じ黒服を来た屈強な男たちがわらわらと現れ始めた。
「……これは」
美麗が瑛太の腕の中で呟く、瑛太にも、たらりと冷や汗が垂れる。
「西条家護衛序列全員を相手取るのは、流石の瑛太でも無理だろう?」
西条家護衛序列。1位から12位までの人物がおり、その全員が人間離れした戦闘能力を持ち、西条五右衛門からの絶対の信頼を置かれている護衛である。
「さて、お嬢様を抱えた状態でどこまでやれるか――――かかれ!」
「――――っ!!」
(絶対に………守る!)
瑛太は、まず美麗が背負っているリュックを素早くおろし、それをそのまま向かっている護衛に蹴ると同時に、美麗の足を優しく滑らせてからお姫様抱っこで抱える。
(まず一人)
それなりの荷物が入っているリュックをモロにくらい、一人はダウン。コンビネーションで向かってくる二人には、ダメージを喰らいながらもやや強引に蹴り飛ばす。
「んぐっ!?」
「背中ががら空きだぞ」
(……ち……こん…っの!)
「ぐっ!」
回し蹴り。しかしそれは腕によってガードされる。
美麗を抱えながらも足技での攻防。いつも以上に体力を削りながらも一人一人確実に屠っていく瑛太。
しかし、それでも限界は訪れる。
「はぁ……はぁ………」
全員が全員、油断もできない手練。
「……もういい、もういいわ!瑛太!私を下ろしなさい!」
抱かれている美麗が、瑛太の胸を強く叩く。
「………絶対に離すもんか」
ペっ、と口に溜まった血を吐き出し、再度、まだ残っている8人と対峙する。
「惚れた女は命張っても守り通せ―――――普段頼りにならない父さんとの約束なんだよ!」
「…っ!ちぃ!」
縮地。意識外からの予想外の攻撃に手痛い攻撃を食らう本田。ガードをした腕が震えた。
(だが、しかし!)
「っ!?」
「捕まえたぞ!やれ!」
「……っが!?」
バチン!と大きな音が響く。その正体は、瑛太の背中にスタンガンを刺した音だった。
「瑛太!?」
「ふぅ……」
崩れ落ちる瑛太。美麗も運動神経が悪い訳では無いので、支えていた手から力が抜けた瞬間に着地をして、瑛太を抱き留める。
(…………っ!!)
『その時は、一緒に心中しましょうね♡』
美麗の頭に、そう約束した言葉がリフレインされた。
「………瑛太……」
美麗は、瑛太の頭を撫でる。
―――――先に、逝ってるわね
「………っ!マズイ!!」
美麗は、服の内側に仕込んでおいたバタフライナイフを取り出し、そのナイフを首に―――――――――
次回最終回です




