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ミネルバ-望郷の町-  作者: 近藤 回
第六章

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保たれたもの 1

 お姉ちゃんへ


 ククラというお姉ちゃんの同僚のひとが来て、お姉ちゃんに手紙を届けてくれるというので、これを書いています。ひとが同じ部屋にいるところで手紙を書くのは、緊張します。


 何を書いたらいいんだろう。こっちの暮らしは、心配ないです。お世話になっているひとの厚意に甘えているから、つけ込んでいるわけだし、引け目を感じて嫌だけど。でも、そっちにはいたくなかった。お姉ちゃんに甘えているのが、すごく嫌でした。重荷になっているのがわかっていたし、あたしはいったいなんで生きているんだろうって、考えていることが頭の中にいっぱいになって、そこから離れたくなりました。離れても変わらないのはわかっていたけど、わがままを言ってごめんなさい。文章ならこうして素直に書けるのに、面と向かって言えないなんて、嫌な妹だよね。


 お姉ちゃんには、ずっと、ありがとうって言いたかった。そばにいてくれたのに、その時に言えなくて、こっちに来てからずっと後悔しています。いくらでも言う機会があったのに、あたしはどうして大事な時に大事な言葉が言えないのか。


 とても怖いです。あたしたちは一度死にかけているってあの女のひとが言っていたけど、それでも怖いです。あたしもお姉ちゃんと同じように階段から落ちたのは思い出したけど、その時はすごく冷静に、自分は死ぬんだろうなって思った。体の感覚がなくて、星空を見上げていたのを覚えています。でもいまは違う。自分の体が弱っていくのを感じていると、心も弱くなって、ひとりでいるのがすごく怖い。ひとりで死んでいくのかと思うと、どうして生き返ってしまったのかと恨みさえ出てきます。でもこの世界に来て、生き返っていなかったらお姉ちゃんに会えなかったのに、そう思うのは間違いなのかもしれない。


 お父さんのことだけが気がかりです。六年前にお姉ちゃんも消えて、つい二、三ヶ月前にもうひとり娘を失ったと思っているお父さんのことを思うと、悲しくて涙が出そうになります。向こうの世界では、あたしたちは失踪扱いになっているのでしょうか。なんにしても、お父さんは、もうひとりです。お姉ちゃんが向こうに帰れない以上、ずっとひとりです。


 もう手紙は書けないかもしれません。

 いつまでも元気でいてください。あたしの分まで、長く生きてください。

 難しいかもしれないけれど、幸せになってください。

 さようなら。


 如月 司

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