126話
慶長19年、秋。
大御所となった信親は福原長堯、増田盛次、長束正家、垣見一直を呼び出していた。
「大御所様の麗しきご尊顔を拝し……」
「そのような挨拶はいらん。何故ここに呼び出されたか分かっておろうに」
信親がギョロりと4人を見回すと養女(吉良親実の娘)を妻としていた盛次が前に出る。
「恐れながら、豊臣家のことにございますな」
「左様。先日、豊臣秀頼が片桐且元を追放した。知ってのとおり、且元は将軍家と豊臣家の間を懸命に取り持とうとしておった。その片桐を秀頼は追放しおった。これがどういうことか分かるな」
「それは大野修理の仕業にて……!」
福原が言うが信親は首を横に振る。
「秀頼ももう21。分別の着く年頃であろう。仮にも太閤殿下の御子があれでは困る」
「大御所様……はっきりと申してくだされ。豊臣家をどうなさるおつもりでございますか」
この中ではすっかり年長者となった長束正家が信親を睨みつけて言う。
「豊臣家には、大坂から退去し京に移り摂関家に連なって頂く。これが最後通告じゃ……。これを断るようなら天子様のご要望を無碍にしたとして討伐致す」
正家以外の3人が目を丸くして硬直する。
「さればこの長束正家。太閤殿下への最後の奉公として豊臣家をこの手で滅ぼしてみせまする」
「長束殿!」
盛次が驚いたように声を上げるが正家は続ける。
「今の豊臣にはもはやかつての栄光はございませぬ。このまま堕ちていくくらいなら、この辺りでいっそ歴史の中に……」
「私も長束殿に同意致します。我らは太閤殿下よりは格別のご恩を賜っておりますが秀頼君と茶々様とは深い関係にはありませぬ。されば豊臣家をかつて天下を統一した武家として歴史に名を残す事こそ肝要かと……」
垣見一直が言うと福原と盛次も腹を括ったように頭を下げる。
「この長束伊賀侍従に先鋒をお申し付けくだされ。片桐且元らを率いてケジメを付けまする」
「まあまだ決まった訳では無い。されどお主の心意気はしかと受けとった。義姉上が正しい決断をしてくださるのを祈るとしよう」
が、信親らの期待虚しく茶々と秀頼はこの勧告を拒否。
大坂側は浪人達を集め、幕府に対して実質的に宣戦布告した。
これ対して信親は全国の諸大名に出陣を命令。
後に言う大坂の陣である。




