69話
加賀方面への出陣の段取りを決めるために信親、織田秀信、堀秀政、織田信重、丹羽長重、福島正則が長宗我部屋敷に集まっていた。
信親と秀政の軍勢はまだ到着していないが他の諸将の軍勢はそれぞれの本拠に集まりつつある。
「徳川様より加賀方面に関しては俺の自由にせよと命じられておる。それゆえにやり方もこちらで決めさせてもらう」
「七兵衛様や若君の手を煩わせずとも某が利長の首を討ち取りますぞ」
「まてよ鍋(長重)。お前と与力の越前勢を併せても前田勢の全軍には及ばないぞ。無理はしない方がいい」
「久太郎の申す通りじゃ。五郎左はそのように焦る男では無かったぞ」
血気盛んな長重に秀政と信重が苦言を呈す。
「某は若君が来られる前に周辺を安全にしておきたいだけです」
「うむ、良き心がけじゃ。我ら大津勢も見習わなければ」
旧織田家臣のやり取りに福島正則は不愉快そうだ。
「先程から若君、若君と申されるが岐阜中納言様は若君ではござらぬぞ」
「黙れ市松。中納言様はいつまで経っても我らにしてみれば若君なのだよ」
反論したそうな正則だったが自分以外全員織田家一門格なのですこんでしまった。
「まあまあ、福島殿も困っておるようじゃし中納言殿で良い。織田家は今は豊臣家の家来じゃ」
戦国時代ならこんなことはよくある事だがいざ自分がその立場に経つとなかなか受け入れられないようだ。
だから織田信雄は改易された。
そんな風に揉めながらも軍議を進めていると増田長盛が飛び込んできた。
「申しあげます、前田利長が江戸に自らの母と子を送り内府様に降伏致しました」
「おお、其は祝着なり。戦わずして前田を潰せるなら早い話だ」
もはや自分の宿老就任が確定したと思った秀政が姿勢を崩す。
「いや……内府様はそれを受け入れて前田家をこれまで通り扱う事をお決めになられました」
「は?」
一気に秀政と長重から血の気が引いていった。
「承服出来ぬ!それでは徳川の独裁ではないか!!」
「私が前田の事をどれほど憎んでおるか徳川殿はご存知ないようだな!」
「ですが徳川様が……」
「これでは我らの面子を潰された事になる!かくなる上は徳川相手に!」
「たわけ!冗談でも左様なことを言うでは無いわ!」
怒り狂う2人を諌める秀信だが彼の声は2人には届いていないようだ。
「ともかく我らは国許に帰らさせて貰う。行こう久さん」
「クソ喰らえ」
そう言うと二人も出て行ってしまった。
「2人を怒らせてしまったな。流石に此度の徳川様の横暴は某も承服できぬ。西国大名達も出陣の準備を始めておると言うのにな」
そう言って信重が出ていくとそれを追うように秀信も出ていく。
「あ、ワシも帰るわ。ワシは徳川様に怒ってないぞ」
付け加えるようにして福島正則も出ていく。
怒らせれた時の織田家のメンツの面倒さには正則も引いているようだ。
「これは面倒な事になったなぁ……」
残された信親と長盛は深くため息をつくのだった。




