68話
「えっ、久さん!?」
突然の来訪に長重が困惑し奉行衆と家康の家臣もあたふたしている。
信親の方はすっかり頭を抱えた。
「徳川様、加賀方面の総大将はこの堀久太郎にお任せして頂きたい!犬とは古い付き合い故にあれのことはよう分かっております!」
あまりの勢いに家康も引いている。
「あのなぁ!お前を総大将にしたら岐阜中納言殿と七兵衛殿のお立場はどうなる?その辺よく考えろ」
「黙れ土佐守!どちらにしろ加賀中納言の後釜となる宿老が必要にござろう。某がその役目を見事果たし宿老に……」
そう喚く秀政の背後に現れた長谷川秀康が彼をガッチリと掴む。
「徳川様、面目次第もございませぬ。この阿呆にはキツく言っておきますので」
「い、いや……。確かに宿老の後釜は考えねばならぬ。堀殿は殿下とは40年に渡る付き合いで官位も十分。ワシとしても堀殿が居られと心強いが……」
「ほら、徳川様がそう仰せなのだ!どうだ土佐守」
「と、徳川様がよろしいならそれで良いが奉行衆の方々は?」
家康が言うのなら仕方ないと奉行衆も頷く。
「では前田利長討伐後は堀殿を宿老にワシと土佐殿、三奉行の連名で推挙致す。討伐軍も副将に任ぜよう」
「流石は徳川様!副将に任ぜられた以上、必ずやお役目を果たし利長が首を取って参りましょう。それでは準備があるので御免!」
そう言うとさっさと秀政は出ていってしまった。
「はぁ……あれを宿老にするとやれ官位だのやれ所領など煩いですぞ」
「はっはっはっ。しかし前田が消えたとなると政権内で外様の宇喜多上杉がのさばる可能性が出てきますからのう」
「えっ、宇喜多殿は外様じゃぁ……」
そこまで言って長重も察したようだ。
「まあ確かにあの男は上様がご存命ならいずれは天下を仕切る一人となっていたでしょうが何とも言えませんなぁ」
「ここに居る貴殿らは皆、同じ畑の出ゆえに言わせてもらうが豊臣家はあくまで織田政権の後継政権じゃ。中納言様の御母上の淀殿は前右府様の姪。宇喜多や上杉の好きにはさせぬしそれで前田が役に立たないなら潰すのみじゃ」
石田三成や加藤清正が聞いたら卒倒しそうな言葉だが信親も長重もただ頷く。
家康も含めてこの三人は全員織田家の縁戚でありそれが出世に繋がったのは明白。
三奉行も全員が元々は織田家の関係者なので反論しない。
「では各々、そろそろ解散と致す」
こうして加賀征伐の軍議は終了したのだった。




