16 昇格祝い
「これが欲しいです」
リーナが選んだのはリボンだった。
「リボンがいいのか。帽子をかぶっているとわかりにくいけど、髪が長いのかな?」
「それもありますけど、木箱の鍵につけるものが欲しいのです。ほとんどの人が自分の鍵だとすぐにわかるようにリボンやチャームなどをつけています」
リーナは何もつけていない。
目印になる何かをつけたいと思っていた。
「チャームもいいね」
パスカルは勝手にチャームのコーナーに移動した。
「沢山種類がある。どれも女性が好きそうなものばかりだ。どれがいい?」
「チャームではなくリボンが欲しいのです」
「リボンとチャームにしよう。リボンだけだと他の者と同じになってしまいそうだ。チャームと組み合わせた方がわかりやすくなるよ」
そうかもしれないとリーナは思った。
「二つ選んで」
「二つも?」
「一つだと同じチャームをつけている者がいるかもしれない。二つつけたほうがいいよ」
「でも、チャームは高いです!」
「リーナにはそうかもしれないけど、僕にとってはそうじゃない」
「でも」
「じゃあ、こうしよう。一つはリーナが選ぶ。もう一つは僕が選ぶ。時間もあるし早く選んで」
パスカルは諦めそうもない。
リーナは仕方なく花のチャームを選んだ。
「一番安いのを選んだね」
花のチャームを選んだ理由を見抜かれたとリーナは思った。
「じゃあ、僕は一番高いのを選ぼう」
パスカルは金色のチャームを手に取った。
とても小さい飾りだというのに、リーナの月給よりも高い。
「困ります! 高すぎます!」
「贈り物だし、気にしなくていいよ」
「月給よりも高いです!」
「侍女はこういうのを持っているよ」
「身分が違います。私は召使いです!」
「関係ないよ。それに僕が安いのを選んだらかえっておかしいよ。不名誉な事態は避けたい」
「自分で選びます! だから、これはやめてください!」
「安いという理由では選ばないで欲しい。気に入ったものを選んでくれるならいいよ」
「わかりました!」
リーナは銀色のケーキのチャームを選んだ。
「これにします」
「ケーキが好きなのかな?」
「そうです。両親が生きていた頃によく食べていました。幸せだった頃を思い出します」
「両親は亡くなられたのか」
「七歳の時に。それからは孤児院で育ちました」
パスカルはお茶のカップのチャームを手に取った。
「ケーキだけじゃのどが渇く。お茶も一緒がいいよ」
「チャームなので関係ない気がします」
「僕がそうしたい。これはセットだよ」
「でしたら、花のチャームはやめます」
「三つでいい。テーブルには花を飾る。思い出をより美しく飾るための花だよ」
パスカルに押し切られ、チャームは三つになった。
「リボンは何色にする?」
「ピンクがいいです」
「女性はピンクが好きだね」
「ピンクは幸せの色だと聞いたことがあります」
「僕は黄色だと聞いたことがあるよ」
「黄色は希望の色です」
「じゃあ、ピンクと黄色、お祝い事だから金色でいいかな」
パスカルは三つのリボンを手に取った。
「一つでいいです」
「お菓子も買おう」
パスカルは様々な種類の菓子が詰め合わせになった箱を選び取ると、他の商品と一緒にカウンターで購入した。
「はい。昇格おめでとう」
「……ありがとうございます」
すでに買ってしまったものだけに、受け取るしかないとリーナは思った。
「本当は借金があるからお金の方がいいと思うかもしれない。でも、賄賂になると不味いからね。これで我慢して欲しい」
「我慢だなんて……とても嬉しいです」
「これからも頑張って欲しい。リーナは掃除が仕事だと言ったよね? 後宮が綺麗で清潔なのは良い事だ。僕も時々後宮に来るから、綺麗だと嬉しいよ」
「そうなのですか?」
「主に購買部でお菓子を買う為だけどね」
パスカルはそう言って苦笑した。
「荷物が増えてしまったね。一度部屋に戻って、荷物を置いて来た方がいい。このまま行くと上司への贈り物だと思われてしまうかもしれない。お菓子は友人や同僚に配ってみんなで食べるといい。でも、上司への贈り物にしてはいけない。賄賂になる可能性があるから注意して」
「……わかりました」
「早速鍵にチャームをつけて貰ってもいいかな? どんな感じか見てみたい」
「はい」
リーナは買った三色のリボンを一つに束ね、手早く三つ編みにしてまとめた。
それをポケットから取り出した鍵にチャームと共につけた。
「とても素敵です」
「三本のリボンを編んでまとめたことには少し驚いた。リーナらしさが表れているよ」
「本当にありがとうございます。一生大事にします」
一生という言葉にパスカルは反応した。
パスカルにとっては軽い気持ちでしたこと、飴をあげるのと大差ない。
しかし、リーナにとっては違うというのがよくわかる言葉だった。
「今日はラッキーデイです。昇格もできましたし、贈り物もいただきました。ありがとうございました」
パスカルは優しい表情で頷いた。
「荷物を置きに行っておいで。ここで待っているよ」
「はい!」
リーナは急いで自分の部屋に戻った。





