53話 プレゼント・フォー・ユー
(俺にとっては)一番の難所を乗り切り、服屋を出た俺たち。自分が選んだ服を着てくれていることにより、芽衣の機嫌もすこぶるよかった。この調子なら問題なく、この先のデートも滞りなく進められそうだ。
だが今のままでは、このデートの目的を半分しか達成できないことになる。芽衣とのデートを楽しむというのも大事なことだが、それ以上に大事な目的が俺の中にあった。
それこそが芽衣の内情を探ること……芽衣が抱えているかもしれない大きな問題を聞いて、一緒になって解決していこうというものだ。傍から見たらすっごいお節介な兄貴にしか見えないかもしれないが、俺は芽衣に二度と悲しい思いをしてほしくないのだ。俺が絶望のどん底に落ちているときに支えてくれたように、俺も芽衣を助けたい気持ちでいっぱいなのだ。
(でもどうやって聞き出そうか……?)
だが芽衣から情報を聞き出す手段というのが、俺の頭の中には思いついていなかった。適当にショッピングをしていたら聞き出せそうな場面にも遭遇すると踏んでいたのだが、これはとんだ見当違いのようだ。
芽衣も昔のように、自分の辛い境遇を態度に示すということがなくなった。その辛さに我慢できず泣くしかなかった昔の芽衣はもうどこにもおらず、ある程度の辛抱と隠す力というのを身に着けたみたいだ。俺としては、少しでも辛かったら我慢しなくてもいいんじゃないかとは思う。自分に向かって同じセリフが言えるかと言われると、結構微妙なラインだが。
こんなことなら情報を聞き出す話術みたいなものを、予め壮馬に聞いておくんだったな……あまり壮馬に時間を取らせるのは申し訳なく思い、最低限のことしか聞こうとしなかったのが裏目に出たな。
とにかく、時間も時間だからどこかゆっくり話せる場所を設けないといけない。そうなるとベターなのは喫茶店か。大型ショッピングモールなだけあって、喫茶店などの一息つけるような場所はそれなりにある。特にこだわりとかないから、一番近い店にでも入るか。
そんなことを考えながら歩いていると、不意に芽衣が再び立ち止まる。なんかこの光景さっきも見た気がするな……
「どうかしたのか? また気になるお店でも見つけたのか?」
「うん。お店ではないけどね……」
はっきりとしない物言いでそう呟く芽衣。その芽衣が向いている方に、俺も視線をやる。
そのお店、もとい施設というのが、ゲームセンターのことだった。大きなショッピングモールなだけあって、入り口から漏れるゲーム音は外までばっちり響いていた。
しかしゲーセンか……芽衣にしては珍しいチョイスだな。昔から二人で出かける機会はそれなりにあったものの、二人でゲーセンに行ったことは一回もなかったな。芽衣がこういった騒がしい場所を苦手だと、俺がずっと思い込んでいたというのもあるが……
俺自身は壮馬とたまに行ったりすることはあるが、そんな頻繁にはいかない。俺もバイトがあったりして毎日暇じゃないし、向こうの都合もあるからな。
「……ゲーセンに入りたいのか?」
「うん……思えば一回も入ったことなかったから、一回くらい体験しておきたいなって……」
「ふむ……なら体験してみるか?」
「うん!」
芽衣のお願いというのもあり、俺たちはゲーセンの中へと入っていった。よく考えれば俺自身もゲーセンに行くのは、風見さんと出会ったあの日以来だからちょっと楽しみではある。ここのゲーセンに来るのも初めてだしな。
店内に入ると更にボリュームアップしたゲーム音が、俺たちの耳に響いた。俺にとってはいつものような光景だが、ほぼ初体験の芽衣にとってはびっくりすることだろう。耳をふさぐまでのことはしなかったが、身体がビクッと震わせていた。
「……すごい音」
「まぁ最初ならそう思っても仕方ないわな……」
やっぱりこういうのって、幼いころの経験が生きてくるんだよな。俺は昔父さんと二人で来たこともあったから、こういう空気にも慣れていたしな。芽衣はあまり外に出たがらない子だったから、こういう娯楽施設にも足を運ぶ機会もそうなかったと思う。
「芽衣は何かやりたいゲームはあるか?」
「ない……っていうかどんなゲームがあるかも、よくわかってない。お兄様、何かおすすめってある?」
「おすすめ、ねぇ……」
おすすめって聞かれても、俺も回答に少し困る。俺もそこまでゲーセンに精通しているわけじゃないからな。
見た感じリズムゲームやプリクラ、メダルゲームなどのごく一般的なゲーセンにおいてあるような筐体は揃っているようだ。でもゲーセンにそこまで詳しくないもので、少しでもなじみがありそうなのと言えば……
「やっぱUFOキャッチャーかな?」
「……それならちょっとわかるかも」
芽衣の合意も得たことで、俺たちはUFOキャッチャーが並ぶコーナーに向かう。
やっぱりゲーセンって言ったらUFOキャッチャーだよな。俺もよく壮馬と一緒にやってるからな、あまりやらない人に比べたらうまい方だと自負している。
UFOキャッチャーが並ぶゾーンについた俺たちは、芽衣がやりたいヤツ……というより欲しい景品がある機械を選ぶ。俺自身はゲーセンでお菓子系しかやろうとしないから、景品を選ぶセンスとかあまりない。たまに壮馬に頼まれて、ぬいぐるみ系をとったりはするけど。
「……あ」
機械を選んでいる最中、芽衣の足が止まる。芽衣の前には可愛らしい猫のぬいぐるみが景品として置いてあるUFOキャッチャーがあった。サイズ的にも結構大きめで、多分三十センチくらいはありそうだ。
そして芽衣はそのぬいぐるみをじーっと見つめていた。芽衣ってあぁいうの好きなのかな?
「それ、やってみるか?」
「うん」
挑戦することにした芽衣は、財布から百円玉を入れ早速操作し始める。おそらくやったことはないと思うが、来る最中の周りの様子からやり方だけは理解した模様だ。さすが芽衣、理解力は異常に早い。だが理解しただけで攻略できるほど、このゲームは甘くない。
「……アレ? 取れない……」
芽衣が操作するアームは、的確に景品をとらえ一瞬持ち上がった。だがすぐに景品のぬいぐるみは、アームから滑り落ちていった。比較的よくある光景である。
その後も何回もトライするが、だいたい同じように一瞬掴んですぐ放すを繰り返していた。あぁ……このタイプは確率機だな。簡単に言えばある程度お金を突っ込まないと、とれる確率がやってこないっていうヤツだな。実力機と違い才能とか技術はいらない分、金と時間が持ってかれるヤツだ……
「むぅ……取れない」
「ま、まぁ……そういうものだから」
十回くらいやったところで、芽衣の戦意はある程度喪失していた。仕方ないと言えばそうなのだが、これでまた芽衣の機嫌が悪くなるなら、結構ヤバい気もする。
「……お兄様もやってみて」
「え、俺? 別にいいけど、俺も取れるかどうかわからないぞ……」
芽衣に頼まれ、今度は俺がチャレンジすることに。と言ってもやることなど芽衣と変わらないが。
手慣れた手つきでボタンを操作し、アームで狙いを定める。標的はもちろんぬいぐるみだが、こういうぬいぐるみは結構重いため重さの重心に狙いを定めることが大事だ。それをしてもなお、確率が来ないと取れないのが確率機なんだが。
だが俺の運は相当よかったらしく、俺のワンプレイによって確立の収束がやってきた。アームでぬいぐるみを掴んだまま放すことなく、見事ゲットしたのだった。
「さすがお兄様、上手だね」
「運が良かっただけだよ……ほら」
「え?」
景品口からぬいぐるみを取り出し、俺はそのまま芽衣に渡した。くれると思っていなかったのか、芽衣は少し驚いた感じだった。
「あげるぞ。俺が持っててもしょうがないし。プレゼントだと思ってくれ」
「うん……ありがとう、お兄様」
俺からのプレゼントが心の底から嬉しいのか、芽衣はもらったぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。まるで誰にも渡さないと主張するかのように。
ぬいぐるみで芽衣の顔は見えなかったが、この反応から察するに喜んでいるだろう。そんな芽衣を見て、俺もほっこりとするのだった。
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