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27話 新たなスタート

「メイドシリーズ」、総合評価1万ポイント達成しました!

皆様のブックマークと評価のおかげでございます、本当にありがとうございました!



 風見さんからの運命の告白から、一夜が明けた。

あれだけのことがあったにも関わらず、昨晩はゆっくり寝れたようだ。もちろん横には風見さんもいて、彼女も当たり前のように寝ていた。それでもなお、今日はちゃんと予定通りの時間に起床できた。

あくまで憶測だが、お互いがお互いに変な気を使うことがなくなったのが大きいのだと思う。他の誰にも知られたくないような秘密を共有しているような間柄だ、ある程度の恥ずかしさなんてもうない。


 さて怒涛の休日を終え、今日からまた学校が始まる。例え大事件に巻き込まれようが、学校には行かなくてはならない。それが学生なのだ。

 それ以前に、仮にサボったときの赤羽さんの顔が死ぬほど見たくない。おそらく鬼の形相で追いかけていた漆原など、子どもの笑顔に思えるくらいには……

 だから俺は疲れた身体を起き上がらせ、学校に向かう準備をしていた。いつもの日常と化した風見さんの朝食を食べ、制服に着替え、適当な準備を整えたら家を出る。いつもと変わらぬ流れだ。

 だがそんな日常も、いくつか変わった点ならある。まず一つ……俺が直で学校に行かなくなったことだ。具体的には通学路の途中の公園で、適当に時間を潰している。さしずめ誰かとの待ち合わせのように。

 基本的に俺は朝、誰かと待ち合わせはしない。何かと慌ただしいと言っていた壮馬は、登校時間が超不定期なので約束のしようがない。赤羽さんは生徒会とかで、びっくりするくらい早く学校に行っているようだ。

 となると消去法的に、俺が待ち合わせする相手は一人しかいない。


「ごめーん! 待った~?」

「全然……てか知ってるでしょ?」

「うん! 言ってみたかっただけ!」

「さいですか」


 時間潰し用のラノベを閉じ、俺は待ち合わせ相手……風見さんの方に視線をやる。

 事件が解決しようが関係性に変化が出ようが、俺たちが一緒の時間に家を出るということはない。「俺たちが一緒の家から出てくるところを誰も見ることはない」なんてことは絶対ないのだ。しかも相手が風見さんともなれば……その危険性はぬぐいきれない。

 だが「一緒に家を出ることはあり得ないとしても、適当な場所で待ち合わせて一緒に登校するくらいならいいんじゃない?」というのが風見さんの主張だ。それだけでも十分注目の的になるから、本当は止めてほしい……だがアレもこれも制限をかけても可愛そうなので、一緒に登校することに関しては妥協したのだ。最悪俺が頑張ればいいだけの話だし。


「それじゃあ行こうか、楓馬君!」

「お、おう……」


 久方ぶりに堂々と異性に名前を呼ばれ、少しだけ照れ臭くなってしまう。

 これがもう一つ変わったこと……俺に対する名前呼びだ。昨晩もチラッと聞こえた気はしたが、今朝になったらもう当たり前かのように呼んでくるのだ。慣れないだけあって、ちょっと心臓に悪い。


「でも不思議なものだな。こうして誰かと学校に……しかも風見さんと一緒に行く日が来るなんて……」

「大げさだよ楓馬君。あ、あと……」

「ん?」

「風見さんじゃなくて、明日香って呼んでよ~!」

「あ~うん……そうだったな」


 そう、実は俺にも変化があった……と言うか強いられたわけで。言葉の通り、俺も風見さんのことを名前で呼ばなくちゃならないんだ。それを今朝言われ、飲んでいたコーヒーを噴き出しかけたのは記憶に新しい。

 風見さんの「楓馬君呼び」はまだハードルが低いかもしれない……だが俺の「明日香呼び」は死ぬほどハードルが高すぎる! それこそスカイツリーくらいの高さはありそう……

 仮にそんなこと学校でしたら、俺の学園生活は即終了だ。だからこれも妥協案として、「二人きりの時限定」ということになっている。これで一応学園生活は守られたのだが……


「さすがに慣れないな……今まで女性を名前で呼んだことなんてほとんどなかったし……」

「そのうち慣れるよ! いつの間にか学校でさらっと呼んでるくらいには!」

「安心して、それはない」

「即答⁉」

「当たり前だろ。俺の学園生活が終わりだけならまだしも、かざ……」

「むぅ~」

「……明日香の学園生活まで壊したら意味ないだろ」

「……そ、そうだね。うん」


 名前呼びを半ば強制したにも関わらず、風見さんも俺からの名前呼びにちょっとだけ照れているようだ。こういうのには滅法強いイメージがあったから、正直意外ではあった。


 そんな感じで適当に雑談を交わしながら電車にも乗り、学校近くまでやってきた。

 ここまで来るとウチの生徒もチラホラと見受けられる。そして周りにいるウチの生徒のほとんどが、俺たちの方を向いていた。

 これに関してはしょうがないことだ。学園の二大プリンセスの一人であり、接しやすそうな性格ながら今まで浮いた話を一切聞かなかった風見さんの隣に、よくわからん男が一緒にいたらこうなるだろう。逆に俺に全部ヘイトが集まってくれているお陰で、風見さんに変な視線がいかなくてよかったまであるがな。


「……さすがにそろそろ離れとくか?」

「え~大丈夫だよ? このまま教室行っても問題ないって!」

「いや大丈夫じゃないから……」


 そんなことすれば、今度こそ教室でリアルファイトが行われることだろう。それだけは回避せねば……

 そんなことを考えていた矢先、俺のスマホからメッセージの受信音が鳴る。こんな時間からメッセージとなれば、考えられるのは一人だけだが……一体何の用だろう?

 そっと開き、その内容を読み取る。差出人は予想通り壮馬なのだが……なんだこれ?



『死にたくなかったら今すぐ家に帰れ!』



 壮馬らしからぬ結構荒めな口調だ。壮馬がここまで感情をむき出しにして指摘することなんてまずない。しかもこのメッセージの内容……まさか漆原がまた……!




 そう思っていた時期もあったが……その時期に戻りたく感じる時期もあるんだなと、後の俺は思ったのだった。




「おはようございます、増井君」

「あ、あぁ……おはよう、赤羽さん……」


 足は着実と学校に向かっており、いつの間にか学校には来ていた。そして校門の近くには、我が青葉学園の生徒会長でもある赤羽さんが立っていた。めちゃくちゃお世辞のような笑顔を添えながら。

あとよく見ると奥の方には、頭に手を当てている壮馬の姿も見えた。朝から二人が揃うなんて珍しいな……


「どうかしたんですか? こんな朝早くから呼び止めて」

「えぇ……ちょっと聞きたいことが……いえ、聞きそびれたことがありまして」

「聞きそびれたこと?」


 そんなの何かあったけ? おとといに関することで、何か言い忘れたことなんて……





「増井君……今、風見さんと一緒に住んでいるらしいですね? それに関して、詳しくお話を聞かせていただきますわ」





「あ」


 そうだったー! そういえば忘れてたー!

 確かにしゃべったことは記憶にある! だがあの時は状況が状況なだけに、その場では聞き流されたのだ。そしてそのまま忘れ去られているものだと、俺は思い込んでいたようだ。

 壮馬が今すぐ帰れって言った理由……今ならわかったぜ。完全に遅いけどな!


「あはは……やだなぁ赤羽さん……俺が変なことするわけが……」

「……風見さんに、メイド服」

「あ」


 詰みました。話し合いによる解決の道は、今絶たれてしまった。俺に残された道は……尋問されるか、逃走して僅かな命をつなぐだけしかない。どっちにしろ尋問させられるんだけどな。


「楓馬……骨はちゃんと拾ってやる」

「が、頑張れ~ご主人様~」


 まるで他人事かのように、壮馬と風見さんは俺たちをすり抜けそのまま校内の方に向かおうとしていた。

 逃がすものかと二人のあとを追おうとしたが、すぐに首根っこを掴まれ自由がなくなる。視線を上げれば素敵な笑顔を浮かべている赤羽さんがいた、ただし目は笑っていない。


「なんでだーーー!!!」


 魂の乗った不幸の叫びが、俺の口から放たれる。それが増井楓馬の最期の瞬間になろうとしていた……願わくば、優しい尋問であってほしいものだ……






というわけで1章完結しました、ここまでの応援ありがとうございました。

明日から2章に入ります。新キャラも登場させる予定なので、お楽しみに!

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