No.42 時が満ちた会戦
作戦開始の前日。
各兵士は作戦目標である前線基地にすでに現地入りし、明日に向けた最終休養で待機となっていた。
だが、作戦前日ともなれば落ち着いて休むことほど難しいものはない。最前線での作戦となればそれは自然だった。
「ラプちゃんの能力ってマジ疲れるんでしょ?大丈夫?」
拠点で夕飯を済ませた後、同世代組は集まって明日の作戦を具体的にイメージするためにそれぞれの能力理解を高める。
仁野は能力により体力も超増幅されていることから、能力での疲労は他の能力者と比べて感じにくかった。
「大規模や連続でなければ支障はない。訓練し、魔力操作の練度は上がっている。消耗するが、致命的ではないよ」
「ふ~ん、でもどのくらい時間を操るかって、イメージ超むずそうだよね。うちはもうバチーンって感じだから」
「それで言えば...憂希の魔力操作に近いかもしれない。単純な操作であれば特段難易度は高くはない」
「うん、確かにそうだね。俺も自然現象の延長とかであれば特に。でもそれでは通じないことの方が多い」
「傀っちは?どれに能力使うかって感じ?」
「まあ、大体そうだな。お前らみたいなでかい規模で能力使えねえからわかんねえよ。作戦として効果が出るにも時間がかかるしな」
「やっぱ一瞬でドカーンって能力使えるほうが強いのか。美珠ちゃんはどんな感じなの?治れ~って感じ?」
「わ、私は傷の状態を見て...治療のイメージというか、元に戻るイメージというか」
「え、そうなの!?治療のイメージって、救護ってそういうのも勉強するの!?」
「いや...私、その。看護師とかになりたくて...勉強してたから...その少しだけ」
その発言の瞬間に沈黙の時間が空間を支配するように切り込んできた。
「え!美珠ちゃんって何歳だっけ!?」
「えっと...今年十九...かな」
「え!大学生だったの!ごめん!同い年くらいかと」
憂希を始めとするその場の全員が驚いていた。傀に限っては完全に年下と思っていたこともあり、同い年のことに戦慄さえした。
「いや、全然っ。一つ二つ違うくらいでそんな壁作らないよっ。ほら、皆だってそうでしょ?」
柔らかな物腰で小さな体躯をさらに丸くしながら、美珠は皆の反応に困惑する。傀がどこなく気まずそうにしている。憂希はまだ敬語だからだろうか。
「まさか勉強よりも先に実戦投入とは思わなかったけど。でも、救える人がいるならそれだけで...」
どこか複雑そうな反応をする美珠。病気やケガでの入院患者とは違う戦場での救護は、現代の医学生が想定する未来ではなかったことだろう。
「俺も何度も救われている。安楽堂さんがいなければ危なかったことも何回もある。...いつもありがとう」
「え、あ、いや。それが私の役割だから気にしないで」
「え~!めっちゃ頭いいんじゃんっ。美珠ちゃんすごくない!?また学校とか戻ることになったら絶対美珠ちゃんに教えてもらお!...あ、でも医大生って勉強大変そ~」
「大変だったけど...楽しかったよっ」
まるで同じクラスにいる同級生同士の会話のように、いつしかそれこそが非日常になってしまった学校生活や勉学の話でリラックスした。まるでもう、戻ることがないのが前提のような会話が少し寂しく響いた。
次の日の朝9時。作戦は開始される。日本海側に艦隊を配備し、トマホークミサイルを中心としたミサイル爆撃とバンカーバスターを併用した爆撃作戦を陸海同時に決行する。
日本軍側の規模増大はおそらく、中国側も察知していることだろう。ただ、それらへの対策を講じても、能力への対策は容易ではない。
「作戦開始だ。発射態勢に入り次第、全弾発射。陸軍前線部隊は侵攻開始せよ。陽動並びに地上部隊の制圧が目的だ。前線維持を継続せよ」
「「了解」」
陸軍、海軍共にそれぞれがスムーズに発射態勢を整える。同時に陸上部隊は敵前線基地に向けて侵攻を開始する。
憂希と仁野はその前線部隊に属している。装甲車の隊列は陸路を地道に突き進む。
「っ...」
仁野はまだ記憶に新しい苦い思い出の地に思わず体が強張る。能力の一切が通用しない戦場で、絶体絶命の窮地に至った場所に自然と体が反応してしまうのは無理もない。下手すればトラウマになっていてもおかしくはないくらいだ。
「大丈夫だよ、ニノ。今度は俺や皆もいる。何かあれば助ける」
不意に声をかけられた仁野は、無意識の反応を自覚し、それを憂希に見抜かれたことが恥ずかしくなる。
「な、何言ってんのっ。今回はうちが皆を護る番だから!リベンジマッチだよ!」
「うん、頼りにしてる」
「っ...。任せといて!」
『こちらの動きに敵方も気づいているはずだ。そろそろ敵軍の射程距離も近い。各員っ、戦闘態勢を取れ!』
振動が命令を下し、全体に緊張が走る。国境付近には地雷原もあることから、陸空どちらからも迎撃警戒をしながらの侵攻となる。
『上空に機影確認っ。数は六。爆撃機と思われる。各自迎撃態勢っ。地上部隊、敵軍への攻撃開始せよ』
『第一艦隊、巡航ミサイル発射っ。着弾までおよそ四十二分』
攻撃命令が下され、艦隊からもミサイルが発射された。ラプラスの能力行使までカウントダウンが始まった。
ミサイルは数や弾道の違いから遠距離での迎撃は難しく、ある程度の距離まで接近させ、正確な対ミサイル迎撃システムを用い、撃ち落とすことがほとんど。
それを逆手に取り、迎撃のみに集中させず攪乱しながら、ミサイルを陽動、侵攻部隊を本命と思わせる作戦。
「爆撃機はうちが堕としてきますっ」
「ここに戻ってくるだぞっ」
「余裕ですっ。降りる場所間違えたら、走って合流しますっ。じゃあ、行ってきますっ!」
装甲車から勢いよく飛び降り、その着地をバネにして上空へ射出するように跳躍する。まるでミサイルのように敵機に向かって一直線に。
「っ...。憂希君からもらったヒントっ」
その剛腕と爆発的な脚力で空中での軌道修正をまるで空中に壁があるかのように行う。勢い良く投げたスーパーボールのように空中を跳ね回りながら目標に向かって音速を越えて接近する。その勢いだけでも人型の砲弾だ。
「見つけたっ。『エンジェル・ムウ』!!!」
敵は推進力による熱源を持たずに接近してくる仁野を感知できず、仁野自身を剛体とした突貫に成す術なく貫通され、空中分解しながら爆破する。空中で飛行する機体を稲妻が伝達するように一瞬で風穴を開けた。
「っ...よしっ。風や羽がなくても飛べるのがヒーローだからねっ」
憂希の高速移動をフィジカルだけで再現し、放出される推進力だけで飛翔するその手段は、仁野の完全オリジナルと言える。
『仁野一等兵が敵機を撃破。対空迎撃は不要っ。...敵前線基地周辺より恐らく対地ミサイルの発射を確認っ』
「振動さんっ。うちがこのままミサイルも堕とすからっ」
『ミサイルを捉えているのかっ?まだ視認は不可能の距離のはずだっ。無理をするな』
「軌道はわかりますっ?」
『まだ判別は難しいが、恐らく巡航ミサイルだ。比較的低空飛行で接近していると思われる』
「じゃあどっちでも大丈夫なようにしますっ」
その無茶とも捉えられる仁野の言動は、彼女にとってはそちらの方が単純でイメージしやすい迎撃だった。
「っ...よっと」
地面に急降下し、小さめのクレーターを形成しながら着地する。小さめの隕石が落下したようなエネルギーが地面を抉る。
「あっちの方だから...そっちに向かって」
仁野は思い切り右腕全体に力を込める。人間の体では考えられない熱量が集中し、爆弾にも似たエネルギーが右腕に溜まっていく。
「『ステラ・インパルス』っ!!!!」
大地を支えにして敵の前線基地上空を狙って、全力の突きを放つ。凄まじい轟音と暴風が天変地異のように大地を震わせ、仁野が踏ん張った地面は元のクレーターをさらに肥大化させ、ドーム状に大地を抉る。
その日、仁野を震源とした震度5強の地震が朝鮮半島を広く揺らした。
仁野が放った一撃は大気を凄まじい速度で押し出し、その波が通り過ぎるすべてを木っ端微塵にしながら薙ぎ払っていく。撃ちだされた空気は空力加熱により高温化し、ミサイルに到達するころには熱でも爆破するほどの熱量を保有した衝撃波となり、灼熱の赤い波が波紋の様に一瞬で広がった。
『対地ミサイル消失っ。よくやった仁野一等兵』
「うち、作戦の直前までここにいますっ。何発撃たれても全部ワンパンしちゃいますっ」
『...承知した。合図はこちらから伝える』
味方に近づけばここまで大規模な能力行使はできない。またある程度の距離がなければ味方ごと吹き飛ばしてしまう可能性がある。
前線部隊はそのまま足を止めることなく侵攻する。敵軍からの砲撃は憂希を中心に迎撃し、現代兵器を通用させない。
『見えてきたぞっ。敵の本隊だ』
目の前には圧倒的物量で待ち構える中国軍が見える。迎撃で飛び交う光の雨を憂希たちは払いのけながら侵攻する。接近するたびに迎撃の量は増え、能力行使も混ざってくる。
日本軍の前線基地に向けた対地ミサイルも継続して放たれているが、上空で爆発四散しているのがわかる。
『ミサイル着弾までおよそ十五分。作戦開始準備』
日本の前線基地より通信が入り、前線部隊にもさらに緊張が走る。
『仁野一等兵っ、前線部隊に合流せよっ。作戦開始する』
「了解っ」
『中国軍の地上部隊が進行開始っ。地上部隊は距離を維持しながら応戦せよ』
中国側が日本軍に接近すれば日本の爆撃に巻き込まれる可能性があるため、距離を取って地上からの砲撃を行う。
「俺が陽動しますっ」
距離があっても効果のある憂希の能力で中国軍の地上部隊へ攻撃する。爆撃の衝撃波が日本軍側に到達しないように、大地の隆起で波を発生させ装甲車や戦車ごと地上部隊を吹き飛ばす。
攻撃は地上側が本命だということを中国側に示す。
『ミサイル着弾まで残り十分。作戦開始っ』
本隊でその合図を待っていたラプラスが満を持してその能力を行使する。その能力は世界の理に手が届く能力。時間という人間が制御できない絶対ルール。
「『The world is mine』」
ラプラスは世界を手中に収めるが如く、時間という固定概念を支配する。
ご拝読ありがとうございます。
皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。
素人の初投稿品になります。
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