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自由戦争  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.37 能力者の覚悟

憂希はまだ着陸せずに、前線から後方にかけて氷結する雪をしんしんと降らせ、凍結エリアを拡大する。


「くそっ、雪や氷に触れるな!凍らされるぞ!」


「この場所でそれは無理だろっ!うわっやばっ。ああああああ」


憂希は敵の会話を聞き取れるということは投入された能力兵の中でまだ言語共通の能力者が生きているかもしれないと思ったが、今捜索するのは不可能だった。


「...巻き込まれないでくれ」


憂希は自分が米軍側へ広げる凍結エリアに入っていないことを祈るしかできなかった。


「っ...」


憂希は最前線から米軍部隊の後方側へ飛行で移動する。自分で裏側へ回り込み、前線側から広がる凍結との挟み撃ちを狙う。

降雪に頼っている以上、その侵攻速度は迅速とは言えない。ただ、降雪という起点を読まれにくく、氷に触れないという思考に誘導することで、対応を遅らせることができている。


「能力兵が先に投入されていたことがカモフラージュになった。...ありがとう」


まだ残存する能力者による抵抗と思わせれば、後方への回り込みはさらに奇襲の成功率と効果を上げる。

軍隊は最前線の混乱が伝染し、何が起きているかを確認することで手一杯だった。残存兵へ向けた砲撃を継続しながらも、それが有効打なのかどうかは把握できていない。


「あそこが最後尾か」


さらに後方には前線部隊の仮拠点が見えるが、そこは後回しにした。侵攻部隊の最後尾を目標に上空を飛行して、回り込むように部隊の背後を取った。


「っ...と。背中から攻めるのは卑怯だけど、俺一人で全軍を正面から相手にすればロシア戦と同じだ」


次々に対応される中で永遠にも感じる応戦の応酬は、極限状態をさらに超越するストレスと消耗で憂希を蝕んだ。同じ轍は踏まない。


「一気に軍隊を壊滅させるっ」


憂希は自らを兵器として考えると、皮肉なことに効果的な攻撃手段を思いついた。この事実が自分は常識の皮を被って綺麗事を吐くだけの狂人のようにすら感じた。本当はちゃんと残酷な人間で、冷徹な性格なのかと思い知らされる。

しかし、それでも憂希は折れることはない。ましてや躊躇することはなかった。自分を正当化する理由を持った人間はどんなことでも成し遂げてしまうという証明だ。


憂希は米軍の仮拠点からは何も見えなくなるほどの氷壁を形成する。その高さを維持したまま、濁流のように侵攻部隊に押し寄せる氷の高波を発生させた。固体であるはずの氷壁は次々に凍結させながら範囲を猛烈な速度で広げていくことで、その呑み込んでいく姿を波のように感じさせる。


「っ...」


少し距離のある場所から、消えゆく叫び声が聞こえる。その断末魔が憂希にナイフのように鋭く刺さる。現実世界では実際に聞くことがなかったはずのリアルな声。


「ぐ...」


食堂を駆け上がってくる胃液ではない気持ち悪さが、内臓を焼くような不快感を生んだ。どうしようもなく許容できないそれを憂希は全力で吞み込んだ。


「俺は...護る...」


目の前の人間を切り捨てることで、ここにいない誰かを護る。その繰り返しが目の前の命に優先順位をつけ始める。それに気づいたときの嫌悪感が、悪寒のように背筋を這う。


「っ」


しかし、その断末魔は途切れる。壁のような高さで押し寄せる氷の波が一瞬で粉砕した。木っ端微塵。雪結晶に戻ったようなほど細かく。


「何がっ....。いや、最前線の能力者か...。こっちに来る前に次をっ」


「あなたが、やったんですか」


その次の手を打つ前に、声の主の登場でその行動はせき止められた。予想よりも早い対応に憂希は少し動揺した。


「君は...最前線にいた」


「...え、僕のことも見ていたんですか。...じゃあ全部あなたが」


「...ああ、俺がやった」


まるで悪役の自白のように、憂希は何も隠すことなく事実を述べた。それがせめてもの覚悟の証明だった。


「なぜこんなことを」


「これが戦争だからだ」


「任務だからですか」


「...」


この戦争において初めて、憂希がなぜ戦っているのかと聞かれる立場になった。ただ、少年の質問に対しての回答は否だった。


「いや、任務ではないよ。...俺は俺のためにここにいる」


「...己の欲のために人を殺したんですか」


「そういう君は?何のために戦ってるんだ」


「僕はこの戦争を終わらせるためです」


「っ...」


そのまっすぐさに憂希はまぶしさを感じた。その光に映し出された己の影の色にまた嫌悪感が忍び寄る。


「この世界は、昔みたいな状態です。それぞれの国が新たな軍事力を持って、そのバランスが崩れたから起きている争いだと思っています。僕たち米軍は、もう一度そのバランスを整えるために戦争の火種である国への抑止力として軍事行動をしています。...元々はもっと、やさしい世界だったはずです」


何も色の塗っていない画用紙のような白さ。誰も手を付けられていない大自然のような綺麗さ。まるで理不尽なほどの正論を叩き込まれているような感覚。


「そうだね。俺もそう思っていた」


「じゃあなんでっ」


「...誰も犠牲にならない戦争があるなら、それは御伽噺だ。個人の抱える大義は言い方を変えれば個人的な望みかもしれないね」


「……私利私欲ですか。大義名分があってこその戦争でしょう」


「……そうだね。そうあってほしい」


憂希はかつて自分が抱えていた疑念や葛藤を思い出す。今でさえ、完全になくなったわけではない。ただ、自分の中で優先順位とそれを呑み込む覚悟で歯車を無理やり回している。


本来否定される目の前の軍人らしからぬ考えや甘さを憂希は否定できない。自らが一般的な倫理観から外れているという自覚が、憂希をらしからぬ皮肉を垂れ流させる。


「あなたは、明確に敵です。あなたを倒します」


「ああ、俺もそうする」


「僕は小龍。あなたは」


「申し訳ないけど、控えさせてもらう」


「っ…わかりました!」


名を名乗らないという無礼を合図に戦闘が開始する。


「っ」


小龍の構えは近代では見ればなにか判別できるもの。所謂、拳法そのものだった。

能力なのか自力なのか不明だが、それでも瞬発力と攻撃体勢に入るまでの無駄のなさが動きを読ませないことで、憂希への接近を許した。


「これで終わりですっ!」


小龍の攻撃手段は至ってシンプルな打撃だった。能力者同士でなければ、戦争における近接戦闘は手段を使い果たした末の最後の悪あがきにすぎない。

しかし、憂希はその攻撃を全力で回避した。


「っ……なんて早さ」


移動速度を磨いていた憂希は回避に加えて、小龍の後ろに回り込んだ。連撃を予測した回避だった。


空を切った小龍の拳は特に何も発生させず、ただ空振っただけだった。


「……」


憂希は能力を行使する打撃と読んだが、発動させたのか不発なのかすら理解できなかった。


「まずは何をされたかを探るっ」


憂希はもう攻略された氷結で相手の能力を探りにかかる。地面には既に氷床はなく、地面が露出している。雪は何故か弾かれている。


「一気にっ!」


一体の凍結と氷塊による衝突で対象の拘束と攻撃をひと息に仕掛ける。


「無駄ですっ」


しかし、そこに確かに存在した氷塊や凍結は構えの踏み込みでのみ、粉砕された。連鎖的に氷そのものが砕け散る。


「手数はっ」


霧散した結晶を起点にナイフのような氷柱を生成し、四方八方から撃ち込む。

しかし、小龍はそれを払い除けることなく防ぎ切る。まるで体に当たったのは落ち葉かのように小龍には何も効果を与えなかった。


「なっ……」


「だから無駄だと言ったでしょう!」


憂希の動揺を逃さず食らいつくように、小龍は空を叩いた。本来空を切るはずの拳は豪快な破裂音を生んだ。破裂音という副産物を生み出したそれは大気が粉砕された衝撃。小龍は大気を破壊してみせた。基本的に物体として基本霧散しているような気体でも音速を越えれば衝撃波が走るように捉えられないわけではない。物理法則を能力によって上書きするような所業で、小龍は大気を粉砕するという破壊によって大気の爆発を引き起こした。


「っ...」


しかし、憂希の爆破耐性はここに至るまでの戦場にて、無理やり引っ張られるようにして引き上げられている。目の前で引き起こされた爆破や大規模な爆発でさえ、ギリギリであったとしてもいなしてきた。よって、炎や熱線のない爆発は憂希にとって目に見える打撃のように防ぐこともいなすこともできる物理的対象となった。


「この至近距離で...当たらなかったなんて」


「俺もようやく言える。その攻撃は俺には効かない」


「っ」


憂希はまだ図り切れていない。何の能力によって発生した現象かまでは理解できていない。ただ共通するのは破壊。しかし、ただの力任せの破壊ではない。対象が明確になっている。目の前で見ただけでも氷、大気という限定的な破壊。味方から氷だけ粉砕した様子からも対象選択の破壊。そう予測できる。


「...それではこの耐久力に説明がつかない」


一番最初の接敵。その時の違和感が憂希のその結論に待ったをかけていた。飛行する中で確実に視界にとらえた姿。軍隊が凍り付く中で一人だけ活動していたその姿。単純な破壊であれば後出し。もしくは対象を認識した先行攻撃が必要だ。


「欧州軍にいた殺す能力のような無力化とは違う。無条件の抹消ではない。...無敵ってだけなら攻撃にはならない」


「冷静に考え事なんてさせませんっ」


一撃ではいなされた大気の破裂を今度は舞うような拳法の連撃で無数に繰り出す。折り重なった衝撃は波状的に憂希に向けて放たれる。


「それも...風かっ」


巻き起こった衝撃波を巻き取るように憂希を軸に回転させるようにして小龍へ流し戻す。


「っ...やっぱり何かされてるっ」


しかしその爆発的な大気の対流に対して、小龍は微動だにしない。その風自体が小龍を避けるように流れているようにすら感じる。


「やっぱりなんかある」


相手の攻撃よりも自分の攻撃が通らないことを解決することが鍵になると憂希は断定する。しかし、相手の物理的接触だけは何がなんでも避ける必要がある。それだけは明確だった。


「っ。皆さん、あの人に砲撃準備をお願いします!」


小龍も同じく、憂希への有効打を模索していた。自分からの攻撃は接触が基本となる能力により、相手に距離を取られれば、何かを介した間接的な攻撃が前提となる。小龍の中でオーソドックスな手段は兵器を用い、自分が砲撃することで自分自身の攻撃として能力を付与する攻撃に変化させる。


「させないっ」


相手が別の手段に出たことで、それらを阻止する全体攻撃として、氷床がなくなり露出した地面を剣山のように隆起させ、装甲車らを貫通して破壊する。


「撃てっ」


残存する兵器で憂希に一斉掃射する。至近距離への砲撃は発砲と共に着弾するような弾速で目標を襲う。


「くっ」


すぐに上空へ上昇し、着弾地点から迅速に離脱する。


「どうやって飛んでるんだっ、あの人」


小龍もまた、憂希の能力を探り切れていない。氷結による攻撃に加え、地面の隆起。これだけ見れば固体の操作や物体の変化などの予測はできるが、高速移動と飛行がその予測を阻んでいる。


「...いや、悪い癖だ。俺は別に彼をどうにかする必要はない」


戦ってある程度理解した小龍の能力に対して、攻略法はまだ見つけられていないが、少なくとも米軍陣営の他兵士には能力は適用されていない。つまり、憂希の目的である迎撃は効果がある。兵を退かせれば目的達成なのだから。


「対象は...武装兵だ」


憂希はすでに攻略されている氷雪系の能力を行使し、雨のような数で弾丸のような速度の氷柱を降らせた。憂希はずっと無意識に相手が活動できないように拘束するよう能力を行使していた。しかし、その甘さを殺し、能力に殺傷能力を持たせるよう出力する。


「っ!やめてくださいっ。戦っているのは僕ですっ。...っ。やめろ!!」


「っ...」


少年の苦痛な叫びに憂希は顔をしかめる。まるで自分が放っている氷柱が腕や足を貫通したかのような苦悶の表情だった。自分だってそう言う。痛いほど憂希は小龍の苦しみを理解していた。


「君とも戦っているが、俺は君だけと戦っているわけじゃないんだよ」


憂希は自分の力不足で軍に被害が出る悔しさを思い出しながら、小龍を突き放す。誰とも分かち合えない罪の意識を抱えてもなお、憂希は止まらない。


「っ...。あなたたち欧州軍は極端な能力思想によって命を軽く見てるだけじゃなく、やり方もそんななんですか!そんなだからっ、戦争になっているのがわからないんですか!」


「...」


欧州軍に対する小龍の考えを憂希は咀嚼できずにいる。能力思想で何を働いているのか。その結果、なぜ命が軽んじていると映ったのか。それらの何も知らない。


「何でっ、そこまでして能力者を増やして戦争がしたいんですか!僕たちはずっと!増やすことも含めてっ、慎重にバランスを見ながら考えていくべきって言ってるのに!能力者になれない人はどうでもいいんですか!?」


自分以外に向けられる攻撃に、ほぼなす術を失った小龍はその純粋さを無自覚にも武器にして、言葉による攻撃を憂希に向けた。そしてそれは、効果のある攻撃となる。


「能力者に...なれない人?」


憂希は思わず攻撃を緩める。能力者になれない場合はどうなるのか知っているのか。その疑問で頭の中が埋まる。その言動と口調から明らかにその結果は不穏であることを示している。


「っ...知らないんですか」


小龍は怒りのままにとぼけているのかと思い込みそうになったが、憂希の顔を見てそうではないと感じた。今にも泣くか怒るか、感情があふれ出しそうなほど歪んだ表情は、今知ったことを事実として証明しているようなものだった。


「...脳と脊髄に打ち込まれる化学物質か何かで、脳や神経を活性化させるって聞いています。それに順応できなかった人は...そのまま脳と神経が焼き切れて、何日か経てば必ず死ぬって。...強制的にドナー提供者として脳死直後に臓器だけ摘出するなんて話も聞いたことがあります」


「っ....。人体改造...。失敗したら...死ぬ?」


小龍は米軍であり、戦場においては敵ではあるが、それでも嘘を吐ける人間には見えず、流れ込む情報を否定できない。情報処理に頭が追い付かずに、憂希は軽い眩暈すらした。


「そういう...やり方なんですか?欧州は。...間違っていますよ!俺は志願者です!能力者になってできることが増えると思ったから、志願したんです!」


「志願者...」


日本所属の憂希にすらなじみのない単語だった。志願制を取れるものなのであれば、和日月の説明はどこまで真意だったのだろうか。一度呑み込んだはずの様々な事柄が吐瀉物のようにこみ上げてくる。


「欧州はいろんな国の能力者を集めてるって噂もあります。...本当に何も知らないんですか」


「...」


憂希は集めていることは知っている。実際に自分がその対象なのだ。知らぬはずもない。しかし、そうなってくるとなおさら欧州軍の狙いもわからなくなった。自国民の命にリスクをかけずに強力な戦力を増やしたいだけなのか。それとも、別の狙いがあるのか。


「...今、俺の中で答えは出ない。...君たちの被害をこれ以上増やさないために、ここは退いてくれないか」


「それはっ」


「できないと言うなら、さらに攻撃する。...俺もここに何も背負わずに立っているわけじゃないんだ。...君にとっては私利私欲の一言だとしても」


「っ...」


小龍は目の前の人間について名前すら知らないのにもかかわらず、いつも通り悪だと切り捨てることができなかった。到底許容できないことに変わりはないが、優勢となった戦場で自分以上に追い込まれている兵士に対して、何も思わない人間ではない。むしろ、苦しむ人間ほど助けたいと思う少年だった。


「...わかりました。しかし、僕たちは欧州への牽制をやめることはありませんから」


「ああ。それについては何も言わないよ」


米軍の撤退による自分の作戦成功を喜べない憂希は、ずっと能力について考え込んでいる。

強力な力が無条件なはずがない。何をするにしても対価や代償は必要不可欠。憂希はその片鱗をついに、知ることとなった。


ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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