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自由戦争  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.36 極北の解放戦線

憂希は今自分がいる場所すら理解できていないまま、戦争に参加することになった。

しかし、欧州軍側としても当初の予定から狂ったとはいえ、日本軍側にヘルプを求めては勢力に穴があることを露見させるようなもの。


「しばらくここから様子見でもしていてくれ。君にとって、米軍と我々の戦闘を堂々と視察できる機会は願ってもない好機だと思うからね」


不測の時代ではあるが、ジェイムスと名乗る男性はそれでも余裕を感じさせる。


「あと、すまないが君に会わせるはずだった兵士たちはまさに、前線へ侵攻している能力兵だ。状況的にこちらで待機は難しくてね。作戦終了後となることを許してほしい」


「はい、それは全然」


積極的に前線へ部隊を投入している様子から、憂希は身構えていた自分の前線投入はどうやらすぐには来ないようだった。


「敵軍の砲撃に能力兵の迎撃が有効であることを確認っ。....いや、一部訂正っ。すぐに迎撃効果が消失っ。次弾以降の迎撃に効果がありませんっ」


「...」


兵器による迎撃が困難という状況だけを見れば、能力によって砲弾そのものの性能向上や何かしら追加効果を付与されていれば、まだ説明がつく。しかし、能力に対しても兵器の砲弾が勝るとなれば話は別だ。


「物理衝撃の能力が効果的ではないとすれば、他の能力で対処を。時間をかけずに防戦から殲滅に切り替えるように進軍して」


冷静に戦況を分析して、次の手を指示する姿に、憂希は和日月と同じ雰囲気を感じた。


「...あなたが軍の指揮を?」


「本来であればその役割の者がいたんだけど、この状況だからね。前線側の指揮を任せたんだよ。ただ、能力者が相手となれば状況判断は難しいから、私も微力ながらサポートをね」


憂希はまだ自分の立場を隠し続けるジェイムスと名乗る男性が、やはり信用できなかった。


「不測の事態で、手の内を明かすような戦闘。普通なら俺みたいな部外者にはすぐにこの場からいなくなってほしいって思うのが普通だと考えるんですが、なぜ」


「これから支援すると言った手前、君に都合が悪いからとここから立ち去ってもらっていては、矛盾が生じる。まずは少しずつ信用してもらうしかないからね」


「...なら本当の名前を教えてください。あなたはジェイムスという名ではないですよね」


「...なるほど、君はこの名が気に食わないのか。中々繊細だね」


まるで憂希が冗談を本気で捉えたかのような反応で、ジェイムスと名乗る男性ははぐらかす。


「すまないね、本来の名はあまり人に言うことはないんだ。私自身が好まなくてね。軍内でもそう、立場や組織内の相性で呼ばれることが多い」


「...あなたも繊細じゃないですか」


憂希の嫌味にジェイムスと名乗る男性は面を食らったような表情をした。


「ははは、君もかなり砕けてきたね。いいじゃないか」


まるで自分だけがムキになっているような状況に、憂希は気恥ずかしさを感じた。


「...私はね、どうにか欧州軍に能力兵を囲いたいんだよ。神崎 憂希君、日本の総司令官ではなく君にコンタクトを取っているのはそういう意味だ。ここだけの話、米軍にコンタクトを取ったら兵士を引き抜かれると捉えられてね。今や戦争状態にまで発展した」


「っ...」


中立を維持している欧州軍が米軍と交戦している理由を知り、憂希は戦争の引き金の軽さに驚いた。どこまで交渉中にこじれたのか、なぜ修復不可能な状態にまで関係が悪化したのかは定かではない。しかし、それでも戦争状態に至るには相当ないざこざが発生していたに違いない。


「軍事利用しかされない能力兵は貴重な存在にもかかわらず、その数を減らす一方だ。国同士の交渉は能力者という人間を資源や軍事力扱いを前提としたバカげた話し合いだ。だからこそ、当事者である前線に立たされる能力者に直接コンタクトを取ることにした。...彼女をこちらに捕えたのはもちろん、捕虜という交渉材料にするのが一番の目的だが、それ以上に我々の国を体験してもらうというのが狙いだよ。君だけを捕えれた場合は君に体験してもらう予定だった」


「...なぜ今それを俺に」


「腹を割るのが正体を明かすよりも信用に足ると思ってね」


憂希は胡散臭さや掴めない雰囲気をずっと感じていた目の前の男性の言葉をどうしても疑うことができなかった。今までと同様の飄々とした表情にどこか真剣さを感じる。捉えきれない態度の中でも、感じ取れるものがあった。


「それなら日本が派遣しているという先兵たちでも」


「いや、それでは意味がない。軍人に染まった人間は我々の提案を甘言だと決めつけ、一切聞こうとしない。一般人を能力者にして半強制的に兵士にするそのやり方には目をつむり、その兵士たちに豊かな暮らしをという提案は目の敵にする。ある種の洗脳を受けた者には客観的視点は欠如している。その行く先がこの米軍との戦争だ」


どこか悲し気な目をしたまま、前線を見つめる。


能力兵を中心にした軍編成を敷いている欧州軍。どの国よりも軍備に能力兵を投入しているという解釈もあるが、それでも米軍に対して投入する先陣は兵器中心の軍隊だった。ただ、兵器を凌駕する軍事力として能力兵を投入しないという方針は不可能に近い。それをするだけで圧倒的に不利になり、戦いにすらならないだろう。その矛盾こそが欧州の抱える苦悩の種なのかもしれない。


「なぜそこまでして、能力者を」


「...私が能力者になったからだ」


その答えの真意を聞こうとしたが、状況が憂希の口からその問いが出ることはなかった。


「伝令!前線部隊との通信途絶っ。敵軍との接敵を確認しており、恐らく壊滅させられたものと推測っ」


「っ....。すぐに偵察を出し、状況を確認して報告を」


さすがに表情に焦りが見える。嘘がなければ、前線に投入された兵士は本来、日本軍に派遣される増援部隊のメンバーとなる者たちだったはずだ。能力兵を投入しても打破できない米軍の侵攻は、当初の推測をはるかに超越した戦力と予想される。それはつまり、現時点で欧州軍が投入している軍隊規模では対応できない可能性があるということに他ならない。


「...グレード1が投入されていると考えたほうがいいね。いつもの小競り合いではないということは、ここを落としに来ているか」


「ここはどこなんですか」


憂希は痺れを切らして現在地について質問した。自分の能力により無意識に温度調節をしている状態から、気温による気象予測ができない。その便利さが故に、生物的な情報収集が欠落しているとも言える。


「ここはグリーンランドのヌーク防衛戦線の前線基地だ。米軍はグリーンランドに侵攻し、欧州軍への牽制力を高めるためにグリーンランドの占領および、軍事基地建設に動こうとしている。ここを取られれば立て続けに占有地拡大に拍車がかかる。とはいえ、ここに全戦力を投入してはロシア軍等に付け入る隙を与えかねないからか、今までは牽制程度の小競り合いだったんだけどね」


憂希は現状から考察する。先ほどの主張が仮に正しいとすれば、米軍の狙いは単純に他国に追従を許さない国力ということだろうか。経済国家かつ世界屈指の軍事力を保有していたアメリカが、能力という新要素によりその覇権から少し遠のいたと仮定すれば、その覇権を揺るがないものにするため、領土拡大と軍事力強化に力を注いでいるようにも見える。


「...日本への増援を渋っているのは....ロシアや中国への前線基地扱いをしているからか...?」


憂希は自分でも極論すぎるかと思ったが、それでもその可能性を否定できない以上、米軍の腹の内を探らなければならないと感じた。


「神崎 憂希君。私はそうは思わない。前線基地的な意味合いがないとは言えないが、米軍は日本軍を米軍頼りの状態で維持するのが狙いだと予想している。敵対しないどころか、支援の見返りに更なる技術提供を得て、自国の成長に繋げるのが真の狙いかな」


「っ...。その確証はないでしょう?頭ごなしに全部疑っていては味方を作れないですから」


「賢いね。憶測はまだ妄想だ。それを確信できる状況証拠を収集するというその思考は、軍人らしいね。ただ、今はそう言ってられないがね」


「...ジェイムスさん。一つ、提案があります」


憂希はこの状況を利用することを考えた。グレード1を配備できていない状況で、米軍のグレード1と思われる能力者への対抗手段を見いだせていないピンチ。完全に打つ手がないわけではないだろうが、それでも想定外の状況。


「なんだい」


「ここで俺が最前線に出撃し、米軍の迎撃に協力する代わりに安楽堂さんを解放してください。欧州軍の兵力投入はお任せします」


「...単独で敵軍を打破できると?」


「グレード1と思われる能力者はわかりません。ですが、撤退させるくらいはできます。俺も...グレード1なので」


「...なるほど。しかし、それでは私の当初の目的である日本とのパイプという関係性に変化が生まれてしまうのでは?」


「...どちらにしろ、欧州軍の増援を要請しなければ日本は現状を抜け出せません。...前向きに検討してもらえるなら、別に捕虜がいなくても俺は継続してあなたとコンタクトを取ります。...ていうか、俺の部屋に勝手に入ってこれるんだから捕虜なんていらないでしょう」


「...ふむ。やはり君は要領がいい。最初はそれこそ甘言で欧州軍に引き抜くつもりだったんだけどね。話が通じるパイプ役は私としてもほしいからね。君の功績を見てから判断ということでどうかな?」


「...交渉材料は自分で用意するってことですね。わかりました」


憂希自身、米軍への敵対行為が火種になりかねないことは重々承知の上での提案だった。ただ、交渉できるチャンスはもう二度とないかもしれないという考えと、更なる状況悪化で介入せざるを得ない状況になってからどちらにしろ戦闘に巻き込まれるよりはましだという考えから判断した。


「偵察部隊から入ってきた情報によれば、敵軍の規模は中隊程度。侵攻速度緩めることなく、前進を続けているとのことだ。...米軍であれば基本的に武装中心の編成だと思うが、能力者の数までは不明だ」


「了解です。...ちなみに、今の気温は」


「気温?...今は華氏三十五度くらいだね」


「えっと...華氏の変換は...」


「ああ、すまない。摂氏二度くらいだよ」


「...わかりました。ありがとうございます。...それでは出撃します」


「ああ、君の活躍を楽しみにしているよ」


憂希はその場から一気に気流で上昇し、上空から飛行にて米軍に接近する。ロシア軍にも有効だった接近方法だ。


「...そんなに寒いなら雪か」


憂希はじっくりと上空の気温を下げ、雪雲を生成して敵軍に向けて流す。自然に雪を降らせ、自分の姿を隠しながら接近し、奇襲の前準備を兼ねる。


「っ...さすがに視界が悪いな」


雪雲をかき分けるように進んでいるため、雲の切れ目から地上がちらっと見える程度。とはいえ、建造物もないような氷床と平原が広がる中で軍隊は異様に目立つ。


「...あれか」


飛行速度は訓練の成果により、戦闘機に迫るほど向上していた。一瞬で前線基地から敵軍が進行する最前線へ移動する。

目下には一方的に蹂躙される欧州軍の残存兵が見えた。


「...やるしかない」


しんしんと降り続ける雪が、地面に触れる。本来、その結晶から広がることのない氷結を生み、触れたところからどんどん凍結していく。しかしその規模はごくわずかで、雪になれた者たちには違和感にすらならない。目の前の敵兵を漏れなく殲滅することに集中した兵士は、天候など意識外だった。


「よかった。...元々氷がたくさんある国で」


地面の氷床と雪による凍結を合わせ、敵軍を氷との接地面からすぐに氷像に変える。雪に濡れた範囲の多いものから、氷結に侵略されていく。

その異常事態にようやく自分たちが攻撃されていることに気づくも、何が起きたかわからないまま次々に兵士たちは武器や兵器諸共、氷結になっていく。


「...なっ!?」


誰も逃すことなく捉えたはずの氷河期に、火炎放射器を振り回し、兵士の凍結を溶かす一人の兵士が見えた。その行動により、その一帯の氷床は溶け、地面がむき出しになっている。


「だ、大丈夫ですか!?さ、寒いけどこんなの...変だ。す、すぐに、と、溶かしますから!」


「...子ども?」


いくら雪に降られても、いくら氷床を歩いても凍らないその少年は、一生懸命味方を助けるために動いている。


「...能力兵か」


憂希はすぐに察した。自分よりも明らかに年下の少年が、こんな戦場の最前線にいる。現地民が住む居住区からもかなり距離があるこの戦闘区域で、兵士を助ける行動をとる人間は能力兵としか考えられなかった。


「くそっ」


覚悟を上回るような状況に、憂希は思わず悪態をついた。どの国も結局、能力兵はただの兵器でしかないのかもしれない。そんな考えさえ頭をよぎった。


「...まずは軍を壊滅させる。彼はそのあとだ」


憂希は美珠のために己を奮い立たせる。ここで躊躇っていては、米軍側に猶予を与えることになる。自分の功績がなければ、美珠は解放されない。

この時だけ、憂希は自分を兵器だと思い込むことにした。



ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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