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自由戦争  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.32 切り開く戦火

兵器の使用が制限された上で、能力兵としての攻撃手段も限られる日本軍は奇襲作戦がほぼ失敗となっているこの状況。

普通であれば撤退を余儀なくされ、敵の兵力を削った上で、襲撃に備えた作戦と態勢を構築するのがセオリーだ。


「...」


しかし、和日月の頭にその選択肢はない。ここで引いて、敵の侵攻を食い止める戦力は日本軍側にはない。この機を逃せば、削った兵力を補充した状態で畳みかけてくるだろう。

自分たちが総力戦を敷いた瞬間に、この戦場から退くことは完全な敗北に直結する。


「能力兵各員、この陣から侵攻する準備を整えよ。離脱先の拠点確保のため、本隊は後退。順次臨戦態勢のまま待機せよ」


「おいおい、旦那。こっから侵攻ってのはさすがに無理難題だろ」


矢場はその命令に異議を唱える。撤退を余儀なくされたと思っている兵士は矢場以外にも多数いた。その中での侵攻命令。軍隊にはどよめきが発生していた。


「兵器を一方的に使用される敵陣に乗り込んだところで、能力兵とて数と武装で対処されれば、敵兵を削れたとしても勝てやしない。能力兵が全滅するぞ」


「たった今、敵陣に単独で突入している花菱中佐と神崎上等兵。元々投入されていた敵勢力は、振動少佐の能力で観測した結果、連隊規模からおよそ中隊規模までこの二人が敵兵力を削った。敵陣は先の能力で兵器を封じたことで、援護および追撃の手段を失ったと見ている。こちらの警戒が薄まった今を最大の好機とし、戦況を転じねば我々はここまでだ」


仁野と和日月の能力では対岸戦闘において有効打はない。憂希が本隊側にいてもそれは同じだろう。攻撃のすべてが反射され、兵器も利用されるこの状況で接近すらまともにできないとなれば、手の打ちようはない。

しかし、実際はそうではない。憂希は花菱と共に奇襲に出ており、敵軍の過半数を削っていた。主力の能力兵はまだ残っているが、軍隊としては半壊している。逆に言えば、ニコとネスメヤナがいなければとっくに崩壊している状況と言えた。


グレード1の能力はグレード1の能力でしか淘汰できない。憂希の能力がその幅と規模の大きさで大立ち回りができるとはいえ、限界が近いことを和日月は悟っていた。


「あの大規模は爆発で作戦成功の通信がないということは、まだ臨戦態勢は継続中。現状維持では数の不利を重ねられ、あの二人は潰されるだろう。こちらから動かねば機は転じない」


「あいつらが苦戦する相手に俺らが突っ込む。...勝算はあるってことか?」


「秘策を投じる。しかし、接近しなければ使えん」


「わかったよ、旦那に命懸けるんは今に始まったことじゃねぇ。編成は任せてもらう」


「よかろう」


矢場は突入隊の編成のため、能力兵を集合させ、命令を下した。


「矢場隊長っ!なんでうちが本隊待機なの!」


「振動はこの混乱する戦場における目。仁野、お前は兵器が使えない今、広範囲迎撃の要だ。突入部隊に全部突っ込んだら本隊がおざなりになる。そこを叩かれたら日本軍は壊滅なんだ。わかるだろ。この戦いに勝っても、それじゃ戦争に負ける」


「っ...」


戦争の理解が浅い仁野でも、その説明には文句が出てこないほど説得力があった。憂希をいつまでたっても助けられない自分に、仁野は心底苛立った。


「ごめん...憂希君」


編成が完了し、突入部隊のメンツが決まった。和日月を筆頭とする能力兵と幾人かと歩兵部隊。合計は十人程度だった。中隊に突入する隊としてはあまりにも頼りない人数に見える。


「それでは、二人のもとに転送します」


印章院が突入部隊をテレポートさせる。目的地は戦火の渦中。その中心だ。


「突入開始」


和日月の命令直後、突入隊は本体から離脱した。



「っ...」


敵軍から放たれた銃弾を風圧で地面に叩きつける。敵に向ける攻撃は一方的に反射されたことを頭に入れ、憂希は銃弾を再起不能にすることだけに集中した。

漂う煙にすら対流を制御した光景と爆発の衝撃制御から、憂希は方向操作まで推理していた。一口に言っても常識外の能力を初見ですべて理解するのは不可能。ただ、その発動条件だけは把握しなければならない。反応できないまま能力を押し付けられるのは死以外の何物でもない。


「これならっ」


ベクトルが存在しない攻撃として、憂希は敵陣営の足元を溶岩に変化させる。徐々に加熱することなく、一気に温度を上昇させ、敵を呑み込むように焼き尽くす。


「っ...」


しかし、それは一部の範囲を除いてでしか、発動しなかった。熱ですら伝達するもの。その伝達は地表に向けられたものが地下に向けられ、ネスメヤナを中心とした一定範囲のみ、常温を保っている。


「...熱を操る。やはり似ていますね」


「うわっ、熱っ。熱いって!」


溶岩でもってしても、その表情を崩すことはない。まだAZのほうが表情豊かであっただろう。


「っ...」


主力の能力者にまだ有効打は打てていないが、それでもじりじりとその兵力を削れている。その功績の実感と共に、何をやっても効果のない敵の姿に、絶望感が忍び寄ってくる。

のどの渇きや冷や汗が鬱陶しい。足の震えさえ苛立ちを感じさせた。


「でも...能力はわかった」


自分たちの周囲、一定範囲に設置している全反射の領域。これには風も氷も、熱すらも方向を制御され、外側に向くようになっている。外側から何かをしても無効となる。


「っ」


瓦礫の下に空洞を作り、花菱をその中に隠す。厚い土砂の壁と氷でミルフィーユ状にして瞬間的な突破が困難なシェルターを生成した。


「まずはここから離れるっ」


姿を晒せば、能力で任意の方向に体を持っていかれ、自分自身での制御を失う。しかし、隠れている現状はそれをやられていない。

憂希は制御対象の視認が発動条件と推測し、今出せる最速でその場を離脱する。電気信号の過剰伝達で加速し、その初速のまま空中へ飛行しながら空気抵抗を対流操作で可能な限りゼロにする。空気をかき分けるようにして進むその移動は衝撃波を生む速度を生み出し、相手からはその場から消えたような印象すら与える。


「ぐっ、うぅぅうう」


その速度は空気抵抗を減らしているとはいえ、障害物を感知しながら戦闘機のように飛行するにはあまりに速すぎる。憂希の体にかかる重力加速度は戦闘機を越えていた。能力者の付加価値とも言える身体能力の向上をもってしても、その許容量はとうに越え、限界と戦いながらの飛行をなんとか制御する。


「あれっ!二人とも消えたよ!」


「...瞬間移動?その場に誰か、一瞬でも現れましたか?」


「ううん、誰もいなかった。こっちが熱くなった時、向こうはすごく冷たくなってたんだけど、それでも一人は絶対にいたんだ」


「可能な限り全体に向けて銃弾を発射しなさい。乱射ではなく、一定間隔をあけ、上空全方位に放射しなさい」


「わかった!弾はなんでもいいの?」


「ええ、構いません」


「うわ~!撃ち放題!いっけ~!!」


銃を使用することなく、銃弾のみが弾倉から連射される。普通の軍隊ではありえない、ニコを中心とし、上空へ向けた全方位への一斉掃射。


「くぅっ」


憂希は速度を維持しながら雨のようにばら撒かれる弾丸を回避し続けることは不可能だった。自分に飛んでくる弾丸をかき分けた風を利用し、自分から射線を逸らす。


「あっ、あっちの方でずらされた!なんかっ、すごい速度で飛んでる!」


「っ...なるほど。そんな芸当もできるのですね。ますます、能力が不明確ですね。連射は維持しつつ、撃ち落としなさい」


「おっけ!弾丸より速い人間なんて聞いたことないよね!」


追尾ミサイルが戦闘機を追いかけるように、ニコが新たに発射した弾丸は真っ直ぐに憂希を追いかけ始める。


「距離を取れば、私の能力でまた地面に引きずりおろします」


視認できる速度になれば、またネスメヤナの能力の餌食になるため、憂希は上空ではなく、地上ギリギリを飛んでいた。瓦礫や岩石を避けるのに必死で、迫りくる弾丸には気づいていない。


「各兵士は対岸への砲撃、周辺の消火を」


憂希の襲撃に混乱していた兵士たちはネスメヤナの命令でまた統率を取り戻し、軍事行動に移る。


「撃てっ」


ニコの能力を使用しない砲撃がまた日本軍に向けて放たれる。放物線を描きながら洗練された弾道で目標を捉えにいく。


「ぐっ、また日本に」


憂希もただ飛行しているだけでは何も成せない。敵も攪乱だけしてくる対象より動かぬ的を狙う。


「もうこれ以上はさせないっ!!」


憂希はそれでも足止めをする。これ以上、日本軍側に被害を出さないために。

ネスメヤナの展開する反射領域よりも広大な分厚い氷のドームを形成する。その内側に砲弾が直撃し、氷の飛沫が舞い上がりるも、その亀裂すらすぐに氷で修復する。


「攻めさせないっ」


その氷のドームの内側から強固に氷結させた氷柱の雨を降らす。弾丸のように速く、槍のように鋭い氷柱でニコの銃弾連射を再現する。


「煩わしいですね...」


大地の融解と氷結の豪雨を敵陣に集中させ、ベクトル操作の注意を逸らす。

ネスメヤナはこれ以上、ロシア軍の兵力を削られるわけにはいかず、軍全体を護る範囲まで反射領域を広げる。


「一点集中砲火っ」


ニコの指令を受け、対岸砲撃から氷壁の破壊へ移行する。各砲身は氷壁の一点を狙い、集中砲火で突破を図る。


「っ!」


憂希は飛来する砲弾やミサイルに火炎を発生させ、空中で燃焼による爆発を引き起こし、迎撃する。


「っ...」

 

憂希はそこでハッとする。明らかにネスメヤナの反射領域内であったが、炎は発生した。熱という広がりまでどうなったかは、その一瞬では感知できなかったがそれでも領域内で憂希の能力がイメージ通りに行使できた。


「...これなら」


憂希は自分の中でこの状況の打開策にわずかな希望を見出した。しかし、これに対応されれば今の憂希に策はない。ここで離脱する選択肢は本隊同様、憂希たちにもなかった。


「っ...どうする」


初動よりは慣れてきたものの、それでもまだ敵を分析しながら戦闘できるほどの余裕は憂希にはなかった。意識をさらにかく乱させるために氷柱の大きさと量をランダムに撃ち込んでいるが、その程度の工夫をするのがやっとだった。


「砲撃止め。弾込め用意。そのまま待機」


ネスメヤナは迎撃され続けている砲撃を中止するように命じる。


「一点集中」


自分たちに触れない高さから上空に向けて、一点に向かい続けるベクトルを発生させる。引力にも似たその力は、あらゆる慣性やベクトルをすべて支配し、その点に向かうように書き換える。


「ぐあっ」


真っ先にその点に吸い込まれたのは、このエリアで一番速度の速い憂希だった。そこに自分で生成した氷柱や氷壁が次々に押し寄せる。


「ニコ、あの氷塊に集中砲火を」


「そう来るってわかったよ!」


既に宙を浮いている銃弾や砲弾、弾道ミサイルはニコが標的目掛けて指を差した瞬間、統率の取れた軍隊のように一斉に発射する。

訓練された兵士の砲撃よりも正確に点を突くように放たれた砲撃はネスメヤナによって無理やり形成された氷塊を粉砕する。


「全弾命中!え、絶対あの人グレード1だよね!」


「...おそらくですがね。熱だけではあの速度は理屈が通りません。弾丸も逸らしていたようですし。...数はかなり減らされましたが、敵側の兵器を封じている以上、作戦続行します。対岸砲撃の準備を」


対象の沈黙からネスメヤナたちは作戦続行に切り替える。


「まだっ、終わってないぞ!」


「っ!?」


砲撃の瞬間、自分の後方の氷塊を水に融解し、拘束から離脱。そのまま粉砕に乗じて、最速の移動を駆使し、敵の後方に回り込んだ。


「燃えろっ」


敵全体への燃焼。ネスメヤナとニコには複数の発火点を設定するような炎上をイメージし、炎を放つのではなく、狙った位置に炎を発生させた。


「っ!?」


「あああああつううあああああ!?」


「ぐああああああ!?」


ロシア軍の兵士たちがその場に転げまわる。


「今っ」


すぐさま、配備されている砲弾や装甲車を起爆させる温度で炎上させ、破壊する。


「っ....やってくれましたね」


「なっ」


振り返るとネスメヤナに帯びていた炎はどこかに消えていた。

炎という現象には本来、天に向かって燃え上がる以外、方向性はないが、ネスメヤナは無理やり方向性を付与し、自分から引きはがした。


「っ...」


すぐさまその場から移動しようとするが、体の軋みと消耗で膝が崩れる。復帰にさして時間はかからないはずだが、それでもその動き出しで躓いたのは戦場において致命的だった。


「あなたの四肢をもぎり、そのままあなたをAZの補填とさせていただきます」


「くぅっ」


絶体絶命と言えたその瞬間、無音で状況は一変する。


「体力切れ」


「っ....」


その場に伏せるように倒れこんだのは憂希ではなく、ネスメヤナのほうだった。


「なにが....」


ネスメヤナは急激に植え付けられたような倦怠感で手足にすらうまく力が入らない。体力の限界まで全力疾走したような体力の消耗が全身を支配にしていた。


「っ...」


燃え上がるニコの炎を残る力を振り絞って、剥がす。グレード1の能力こそ軍隊に匹敵する価値を持っている。何が起きたかよりも、ニコの命を優先する。


「...和日月総司令」


切断の能力にて体力という概念を切断し、対象の体力を燃料切れにした。接近と視認が条件の敵兵の無力化。和日月の秘策とはこの一手のことだった。


「...間一髪か、ご苦労だった。君の作戦は成功と言える」


「...そうとは思えないが」


「連隊をここまで殲滅したのだ。それは十分奇襲として成功と言える。そして何より、本隊の我々が前線に侵攻できている」


一気に形勢逆転となる状況。憂希が持ち込んだ消耗戦においての粘り勝ちと言えた。


「...さて、敵兵の拘束および装備の奪取を優先する。数名を残して敵兵は殲滅せよ」


残存兵への慈悲はいずれ、たばこの不始末のように自分の身を焼くことになる。この戦争において人道は地に伏せている。


しかし、その目の前から捕獲すべき敵兵どころか、破壊した装甲車や武装もろもろが消えた。跡形もなく、その場から瞬きする間もないまま。


「なっ...どこに」


長時間続いたロシア軍奇襲作戦は、その対象となる敵軍の存在ごと消失することで幕を閉じた。



ロシア軍能力兵特殊部隊の本部。

その場所に極東に配置されていた連隊の残存兵たちは帰還していた。


「っ...申し訳ありません」


「珍しいですね、キリエル。あなたがいながらここまで追い込まれるとは」


「...AZに似た能力者による奇襲攻撃を受け、連隊が壊滅し、こちらの対応を許さぬ侵攻を受けました。私の落ち度です」


「いえ、意義のある作戦でした。日本軍がかなり消耗していること。敵の主力も把握できました。撤退を余儀なくされましたが、焦る必要はありません。他国に情報を流して襲撃を誘います。状況を確認しつつ、介入し、日本軍の進化技術ごと侵略することにしましょう」


「...はい」


「私も誤算でした。総力戦は考慮しておりましたが、かのラストサムライが出てくるとは想定外でした。ただ、それほどに消耗しているという事実の裏付けです。さて、次の作戦を考えますので、回復を優先してください」


「了解」


ロシア軍の上官と思われる男性。ロシア軍の離脱は明らかに彼の能力によるものだった。


ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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