表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

後編

王様のセリフと、叔父たちが引き込んだ愛人や縁戚の処分で抜けがありました。ごめんなさい

◆後編

     *****


 叔父叔母が執務室で見つけた品は、叔父に胡麻を擦って取り入るのが上手いが本当の価値がわからない商人に、勝手に売り払って二束三文で買い叩かれたとも知らずに換金して手に入れた資金で、愛人たちを堂々と邸に連れ込み貢ぐようになった。


 従姉も社交だお茶会だと出かけて遊び回るようになり、本当に使用人なのか掃除をする様子もない妖しい使用人たちは遊び惚けて応接間や客室はパーティか宴会場と化した。


 そんな彼らの様子を見て、執事と侍女長は執務書類を届けるついでに、モモに相談した。


「申し訳ありません、お嬢様。こんなにお痩せになって……わたし如きの権限では、解雇された使用人たちに紹介状と色をつけた退職金を渡すことぐらいしか……


 それと後見人の確認をしようとしたのですが、オジロ様に書類を見つけられてしまい……」


「リチャードソンのせいではないから気にしないで。食事は、たまにダグラスとヤーマネが夜中に袋に隠し入れて差し入れしてくれて何とかなってるから。


 必要書類については、最初に破棄したのはあちらだし……でも後見人の確認ができない以上、正式に誓約書を交わしてもらうこともできないけど……あの人たちにわざわざ面倒な説明する手間が省けるから、これ以上何もしなくていいわ。


 残っている使用人達だけでもできるだけ、自分自身でできる範囲の職務を全うするように伝えて頂戴」


「お嬢様……それならわたくしも、少しでも彼らに反感を買わないように人員を配置するように努めます」


「ケープにまで苦労かけるわね。貴方もムチ打たれたのでしょう? ごめんなさいね。頼りない主人で……叔父家族に出来るだけ関わらない職務につけてあげてね。もちろんケープ自身も必要最低限、関わらないように。邸の維持で働いてる時まで、さすがに邪魔しないでしょうし」


「お嬢様は本当にお優しい……わたくしは大丈夫でございます。リチャードソンとわたくしがいなくなったら邸内が維持できないとわかっておりますから。せいぜい彼らの部屋だけ埃とゴミ塗れにしてやりますわ」


「お嬢様。彼らが引き入れた新しい使用人や騎士達の目から、どうにか隙を見て外に連絡する手段を考えます。それまでご辛抱を強いてしまいますが」


「リチャードソンも無茶しないでね」






 しかし、叔父家族の横暴はそれから、さらに酷くなった。


 先ずユタが、モモが着ていた型は古いが高級な生地で細かな編み目のレースと刺繍がされたドレスを目ざとく見つけると、


「お前よりも、あたいに相応しいわ。お前が着ていいのはせいぜい下女服よ!」


と、女性の新規の使用人たちと寄ってたかってドレスをはぎ取り、くたびれたお仕着せを投げつけてきた。


 更に執務室のドレッサーにあった、シックだが高級な生地の服。レースやフリルを惜しげもなく使った服。何か月かかったか知らぬ見事な刺繍のされた服。小さな宝石が細かく施されたドレスや男性用トップスや靴やサンダルを次々と手に取った。


 装飾品も、モモが身に着けていた叔父に奪われた宝飾品だけでなく、執務室にあるこれまた見事な細工の宝石棚のそれぞれの引き出しに納められた装飾品たちまでも。デザイナーの知識と想いのすいを現したような一点ものばかりで、大粒のルビーやエメラルドやサファイヤやダイヤや真珠などを使った髪飾りやブローチやネックレスや指輪や腕輪も無造作に取り扱った。


「これ素敵だから借りるわ」


「んまあ。見てよこの素敵な宝石。あたくしが使っても構わないわね」


「んむ。これはいい家具だ。お前にはもったいない。もちろん、わたしに貸すよな」


 と見つけた傍から、承諾も聞かないうちに奪っていく従姉……だけでなく、叔母も叔父も、家具や置物まで何もかも勝手に持っていくのだ。






 もちろん人までも全て。


「そこの護衛騎士の貴方。いいわねえ! 好みだわ。今度外出する時に腕の立つ護衛が必要なのよ。もちろん、あたいに貸してくれるわよね」 


 いやいや……貴方たちが勝手に雇い入れた親戚連中や平民のお友達騎士がいるでしょうに。彼らは腕の立たない見た目だけいいお飾りだったのかしら。


 たまたま叔父が呼びつけた強欲そうな商人を、門番をしていたガンビアノキだけでは対応しきれず、見かねた赤毛の騎士が手助けした時、運悪くユタに目を付けられたのだ。


「……リース。不甲斐なくてごめんなさい。貴方は当家での護衛騎士としての本分を全うすることだけ心がけて頂戴」


「……承知しております」






 それからも


「ほお。これなら高く売れそうだな……あ、否。うむ、ちょと借りるぞ」


「今度のパーティでどうしても必要なの。少しの間貸してよ。いいじゃない」


「お茶会に使えるのがちょうど欲しかったのよ」


 まるで王族が使うかのような豪奢なビロードか絹を使った天蓋付きのベッドと背もたれ付きの肘掛け椅子。


 古そうだが高級素材で作られただろう重厚で細かな植物の彫り物のされたタンスやら可愛らしい棚など。


 精巧な動物模様で装飾され年代がかった応接用の長方形やら小型の丸テーブルやら台座など。


 精緻な切子や透かしや絵柄のグラスやコップや食器類。


 これまた今にも生きて動き出しそうな等身大の威張った王様風の人物画や、雪景色の湖が描かれた絵や、大小の絵画など。


 黄金やミスリルや水晶を加工したカエルや亀や竜や鳳凰や熊の置物など。


 珍しい生き物の毛皮を使った敷物やタペストリーや掛け布。


 周囲に色とりどり大小の宝石で飾られた丸い壁掛けの鏡やら、用途不明の壁に掛かったお面など。


 桐箱に納められたワインやブランデーやウィスキーなどの酒類。


 お洒落な飾り付きの万年筆。


 『借りるよ』『貸して』『使う時だけ』の一言だけで承諾もなしに次々と奪っていった。




 


 さらに、モモ宛てに来た手紙まで勝手に開封して、


『~上記略~ そろそろご葬儀も落ち着き、新伯爵様においては、仕事の引継ぎも無事にお済になった頃と存じます。


 つきましては、こちらで最近また手に負えない逸品物が発見されましたので、速やかに受け取りされたし。即連絡乞う。~以下略~』


『~上記略~ 新伯爵様におきましては、未だ肉親を失くしたお心の隙間が癒える時間も足りぬことでしょうが、即対応していただきたい逸品物を入手のため、速やかに仕事に復帰していただきたく ~以下略~』


「ほほお。この封蝋の家紋はあの公爵家に、こちらは隣国の外交官からか。いいだろういいだろう。私自らが出向いてその贈答品を受け取ってやろうではないか」


 ……いやいや前提が間違ってるのに。何処にも誰にも寄贈するとも書いてきてないはずだよね。何をどこをどう読んだら自分のモノにできるって勘違いできるのかしら?


 こうして身勝手な思い込みと理屈を捏ねて先方まで自ら出向き、受取代理人と称して預かる予定の品を何処かへ隠してしまうのだ。否、むしろ現物を確認される前にと売り払ってるのかも。






 ちなみに、叔父のスキルは金目になるのものなら小さな石ころ一つでも嗅ぎ分けれるスキル。だから手紙まで嗅ぎつけて奪えたのね。


 叔母のスキルは異性が好む香水の様ないい香りを匂わせるスキル。同性からは臭くて耐えれないのだけどね。


 従姉のスキルは微弱な魅了。自分より強力なスキル持ちや身を護れるスキル持ちには効果ないって気付かないのかしら。


 三者三様な微妙なスキルだけど、彼ら自ら自慢げに吹聴していた。






     *****






 しかし、何週間か経つと、叔父家族や叔父家族が勝手に引き込んだ遠戚や愛人たちが体調を崩して寝込むようになり、外出していた人たちは不運な事故に遭って死亡したり、重傷を負った。


 モモと両親がもともと雇用していた使用人たち以外は。






 執務室だった保管部屋にも家具にも置物にも宝飾品やドレスにも全て、呪いがかけられているというのに、説明も聞かずに奪っていくものだから、不実な叔父叔母と従姉たちは相応の報いを受けただけなのだ。ただ呪いとはいっても多少、生前は父母たちが、管理部屋を追い出されるまではモモが効力を軽減していたので威力は弱まっていたが。






 保管室の部屋自体も呪われた部屋になっているのに、一歩でも入ったことがあれば、身体中から生ごみか汚物みたいな悪臭が出続ける呪い。


 何処に捨てても必ずつきまとってくる呪いの人形。


 内臓が徐々に爛れて腐っていく呪いの花瓶。


 奪った寝具や椅子からは、悪夢を見続ける呪い。


 この世に存在しないはずのモノが見える呪いに取り付かれるタンスや棚。


 奪った長方形や丸テーブルなどの家具に一度でも触れると、机や扉の角に足の指をぶつけたり小さな不運に遭う呪い。


 過食症になる呪いの食器。


 毎日事故に会い続ける呪われた不遇な死に方をしたらしい王様の人物画。


 平凡な景色を描いただけの絵なのに気に入られれば絵の中に封じ込められる呪い。


 外出するだけでなく、建物の中にいようと虫に襲われ続ける呪いの置物。


 外出する度に雨に見舞われる呪いのカエルの置物。


 嫌っているモノほど好かれて執着される呪いの毛皮を使った敷物やタペストリーや掛け布。


 姿が映される度に寿命を奪う呪いの鏡。一度でも手にすれば若さや生気を吸い取る仮面。


 着用した服や靴やサンダルの部分からミミズばれみたいに肌が赤く変色して痒みが止まらなくなり爛れていく呪い。


 一度身につけた呪われた装飾品たちは二度と外せなくなる呪い。


 嵌めた指輪から指が腐っていく呪い。


 髪飾りから髪が抜け落ちる呪い。


 イヤリングからこの世の者と知れぬ不気味な声や音が聞こえ続ける呪い。


 ブローチから毒針が出て肌に傷をつける。


 腕輪は人面痩が浮かび上がる呪い。


 毒入りや、徐々に精神が犯されていく呪いの酒。


 手が勝手に動き出す呪いの万年筆。


 元々の呪いの効果が何処まで軽減されたかはわからないが、管理部屋の品を持ち出して数週間から一ヶ月は無事に動けていたのだから温情だろう。


 しかし徐々に呪いで身体中を蝕まれ、悪夢や得体の知れないモノに脅かされ、身動きできなくなって、やっと奪った品が呪われた道具だと思い当たった叔父家族は、急いで手放そうとした時には後悔しても遅かった。






 また、呪われた品々は盗んだり奪ったりした物だろうが、正式に譲られた物だろうが、素手で触れた人間を所有者と認め、捨てても埋めても遠くへ投げても売ってもどんなに処分をしようとしても、絶対に必ず所有者と決めた人物の下へ戻ってきてしまう。


 もちろん、呪われた品々を破壊したり破ったり燃やしたりしても解呪はできない。むしろ逆に効果が倍増したり複雑な処理を余分に施さないと解呪し難くなるので、やむを得ず移動したり触らざるを得ない時は、両親やモモはもちろん父母の代から雇った元の使用人たちも、取り扱いの際は厳重な注意を払って取り扱ったし、決して素手でベタベタ触れたりせず、手袋を二重三重くらいして持ち運びした。


 それを知らずにモモや父母たちの部屋から奪ったモノのせいだと気付いた宝石や置物を粉々に破壊したり、ドレスなどを引き裂いたり、焼却しようとしたものだから、更にますます叔父一家への呪いの効果が悪化した。


 もちろん既に換金のために売り払った呪いの品も、売った店主から苦情が出て買い戻す羽目になったり、違法な質店は何故か火事に合ったり、店主が行方不明や悲惨な事故に遭ったり自殺をして、売ったモノは必ずどんなことをしようとも手元に戻ってきてしまうのだった。






     *****






 実はモモの父のサザビー伯爵は、呪われた物や不穏なモノを招き寄せたり、封じ込めれる2種類のスキル持ち。


 母のマーゴット伯爵夫人は、万が一呪いに罹った人を癒したり、凶悪な呪いに罹った人でも時間を掛けて軽減したり呪いをかけた相手に反射させる光魔法とか微弱だが神聖な魔法に近いスキル持ち。微弱なので、重度の呪いに罹った人は神殿や魔塔の魔法使いなどに委ねることになったが。


 父が生まれて物心がつき、スキルが制御できるようになると、最初は王命で国中や懇意にしている隣接する国から、呪われた品々を封印するようにと呪いの品物が預けられるようになった。


 父のスキルだけではできるだけ小さな範囲に呪いを封じ込めることしかできなかったし、母と結婚後も、光魔法で呪いの効果を完全に無くすことはできず薄めることまでしかできなかった。


 それが、モモが生まれた時にスキルを鑑定したプレイリー神官によって、呪われた物の呪いの強さで期間が異なるが、使用したり身につけたり側に置いておくと、浄化と解呪ができるという2種類のスキル持ちだと判明した。国王陛下や一部の上職位についてる高位貴族や、必要とあれば裁判所関係者や監察官などだけしか閲覧できない希少なスキルの一つだと通達された。


 それで父の代で預けられた品々を、今度は浄化や解呪をするようにと王命が下った。というのも、預けられたモノのなかには先祖代々由緒あるとか、大事な人の思い出の形見だったモノもあり、呪いの効果がなくなれば、その人にとって何物にも代えがたく捨てがたく大切で、もう一度手に出来るならと望まれたモノもあったから。封印するだけでなく、普通の道具として生まれ変わらせることができると判明したから。


 それと以前、父の代では土地のない子爵家、モモが生まれてからは伯爵家と説明したが、住んでる庭付きの邸の外も実は呪いが染みついた大地で、王家と神殿から選りすぐった場所から指定された土地だった。そのため邸内だけでなく、周辺も浄化するために管理し続けなければならなかった。


 モモが生まれたおかげで初めて解呪や土地の浄化が当てにできるようになってこその伯爵家だったのだ。






 但し買い物や、依頼された呪いの品を受け取りに出かけないわけにはいかない。モモも邸から離れて学院などに通うことができない。


 ある程度の身を護れるスキル持ちの商人を呼びつけるか、家庭教師を雇うしかなった。


 そこで希少な父母やモモのスキルを、王家や神殿から派遣された魔法使いや錬金術師たちが魔石に保管する研究が成され、短期間ではあるが力を込めた魔石を入れたお守りが作られた。もちろん作られたお守りの数も悪用されないように王家と神殿とで管理された。


 ただ保管室だけは半永久的に長時間呪いを封印し神聖力の結界で覆うことができるようになり、父母が出かけている時でも呪われた部屋内は護られるようになった。父母が亡くなって効果が薄くなっても、父母と似たスキル持ちが遅くとも数十年内には生まれるはずだから。この国はそういう国だから。


 そのおかげで父母亡き後も、伯爵家内には父母やモモの力が働いているおかげで、各地から送られ預けられた呪いの力が伯爵家から外に漏れだすことがほとんどなかった。






 そうとは知らない叔父家族は、浄化が終わる前どころか解呪に手を付ける前に奪っていくものだから、身体中呪い塗れになったと言うわけだ。






 また、本来伯爵家で働ていた使用人たちは王家や神殿から派遣され、父母とモモのスキルの秘匿と口外しないと言う魔法の誓約書をサインさせてから雇用していた。もちろん僅かでも何かしら呪いに対抗できるような厳選されたスキル持ちか、または父母やモモの力で呪いの力を弾けるお守りを身につけた者でないと雇えなかった。


 例えば侍女長のケープや護衛騎士の何人かは母ほどではないが邪悪なものが苦手な微弱な光魔法とか聖なる魔法が使えたし、侍女のヤーマネは邪悪なものを寄せ付けないスキル。光系魔法を使えない他の護衛騎士たちにはリースを始め自分自身の周囲にだけだが小さな結界を張れるスキル。家の采配や領地経営などで外せない優秀な執事のリチャードソンは、ある程度の弱いスキルや悪意や呪いを無効にできるスキル。庭師のガンビアノキは妖精たちの加護があるおかげで邪悪なモノが近づいても妖精たちから守って貰えるスキル。料理人のダグラスは水や火の魔法で小さな結界を作ったり多少の癒しや浄化に近い魔法が使えるスキル。


 という風に呪いの効果が多少漏れ出ても対処できるスキル持ちたちばかりか、呪いに対処できないスキルの使用人や護衛騎士で優秀な者にはお守りを肌身離さず持たせていた。






 それを叔父たちが勝手に断りもなく気に入らない使用人を解雇したり、遠戚や愛人を邸内に呼び入れるようになったため、誓約書を交わさない使用人たちにはモモのスキルや呪いのことを説明するわけにもいかず、呪いの力は新しく雇われた使用人や出入りする愛人たちにも影響を与えていった。モモと両親がもともと雇用していてお守りを肌身離さず持たせた使用人たち以外は。


 そう。だから呪いを封印できる保管部屋から持ち出された呪いの品の効果が弱まっているだろうとはいえ、もともと雇用していた使用人や護衛騎士達には、自分の身だけでも護ることに専念させたのだ。






 それら特殊な事情を考慮して、王家と神殿が使用人も騎士も家庭教師も全て手配してくれていたのに、叔父家族が使用人や護衛騎士達のほとんどを勝手に解雇したり入れ替えたので、解雇された使用人から国王陛下に叔父家族の所業が報告された。


 おかげでやっとモモに対する冷遇虐待が発覚し、お守りや結界魔法で身を固めた王宮騎士団たちが、呪いで身動きできない叔父家族を取り囲んで王宮へ連行していった。


「モモ・フィンレイソン伯爵でございますね。我々はこのまま罪人を連行いたしますが、罪人の取り調べ後、正式に陛下から登城に必要な書類と恐らく今回の罪人に対する処分に関する文書などが送られますので。早ければ数日後に。いつでも呼び出しに応じれるようにご準備していただくことと、今まで通りの管理の仕事にお戻りくださいとのことです」


「え? ……あの、私まだ成人しておりませんので正式な当主では……それに登城ですが……」


「ああー……その問題については便宜上、伯爵家当主と同等の権限を使って構わぬとの、陛下からのお達しでございます。登城についても、代理人を寄越していただければそれで十分だそうで」


「そういうことでしたら。後見代理人のリチャードソンに、必要な書類を持たせますわね」






     *****






 王宮の断罪の間で中央の玉座に座ったプレボス・ソノラアンテロープ国王陛下は、金髪を怒らせ金色の瞳を冷たく睥睨するように目の前の人物たちを見下ろした。王宮騎士と衛兵たちに呪われた体のままで引きずり出された叔父家族は、


「本来フィンレイソン伯爵家と言うのはな、解呪のために周辺国や王家や貴族家や商家から依頼があった時に、伯爵位ならば問題が起きたとしても対処しやすかろうと、王命で授けられた爵位であったのだぞ。本来はモモ嬢の浄化と解呪のスキルを見込んで彼女のためだけに与えられた爵位であったのになあ。ましてや後見人である王家の意向も王命も無視し、その本来の爵位の持ち主に相応しい伯爵令嬢を冷遇してお家乗っ取りを画策したのか!」


 と陛下自らお叱りを受けても


「あ……兄のモノを弟が『貰って』何が悪いのだ? どうして、わたしがこんな目に合わなけりゃならん!」


「そうですわ陛下! 親戚だったのだから『少し借りただけ』ですのに!」


「あたいだって、ただの従妹が持ってたから『ちょっと貸して貰って』どこが悪いのよ!」


と、何処までも自分本位で身勝手な考えを変えようとしなかった。


「黙って聞いて居れば……ふざけるな! この愚か者どもめがっ! 国内の有数貴族から預かった希少品だけでなく、周辺国から預かったモノまで破壊したり売りさばいたのに、何のお咎めもなしだと思ったか?


 このような身勝手な愚物が我が国の男爵家だったなど……むろん爵位は剥奪! 領地も没収! 二度と顔も見たくない!


 念のため伝えておくがな。余のスキルは真実を見抜く神眼と嘘を見極める看破だ。貴様らの身勝手な屁理屈に騙されるわけなかろうが!


 衛兵。こ奴らをとっとと一番魔獣の被害の多い辺境にでも捨ててこい!」






 結局、特殊なスキルのおかげで本来は王命で伯爵家当主に指定したモモを蔑ろにし虐待や冷遇をしていたことがばれただけでなく、王家や貴族や周辺国の要人たちから預けられた大切な呪いの品々まで奪っただけでなく、勝手に売り払ったことがばれた男爵家族は、呪いを解呪されないまま魔獣が蔓延る辺境に追いやられた。






 男爵家族が辺境に追いやられる前、王宮騎士団に捜索された後も見つからず、肌身離さず隠し持っていた呪われた品々を渋々差し出すと


「なあ、モモ! 叔父とお前の仲じゃないか。『貰った』モノを返す! 返すから呪いを何とかしてくれ!!」


「そうよ! 叔母を見捨てるの? 『借りた』宝石もドレスも全部返したじゃない! 助けなさいよ!!」


「『ちょっと貸してもらった』だけじゃない! お姉ちゃんの呪いを解いてよ!!」


 と涙ながらに無事に返却された呪われた品を、なんとか伯爵家の封印と結界で守られた部屋に戻すことはできたが。


 ……いやいや。どんな仲だよ。暴力振るわれたり、使用人代わりにこき使われた上に暴力振るわれた待遇しか思い出せないわ。


「ごめんなさいね。呪いを解呪するスキルは、物に対してしか私も使えないのよ……本当に残念だわ……」


 と気の毒そうな顔で見送るモモの返答を聞いた叔父家族の絶望に染まった顔を、モモは一生忘れることは……否、即忘れることにした。


 ただ人間に対して解呪したことがなかっただけなので、もしかしたらモノに対する扱いのように四六時中彼らと寝食共にしていたらいつか解呪できるのかもしれない……と考えたが、その案は気分が悪くなるので黙っておくことにした。


 それか、呪いのかけられた人間を相手にしなくとも、叔父家族に呪いをかけた全ての品物を解呪できれば効果が消えるかもしれないが。ただ、いくつか彼ら自身によって破壊されたり燃やされた品物の呪いの効果は消せなくなったので。


 母のように微弱でも人間に対して呪いを軽減できる光魔法や神聖魔法持ちはいるけど、叔父たちみたいに複数の呪いを何重にもかけられて、それだけでなく複雑に変質してしまっている場合はさすがに何年か、下手すれば何十年もかかるだろうし。修復スキルや時間を戻せるスキル、強力な光や神聖魔法の使い手で人間を解呪出来るスキル持ちが見つかるまで、半永久的に解呪できないだろうなと。


 どちらにしろ全ての呪いの効果を解呪できないという答えで正解だったのだ。と納得することにした。






◆エピローグ


 結果……


 叔父家族は強欲で身勝手な性格を悔い改めないせいで、本来持っていたスキルまでもが呪いで変質してしまい、魔獣を呼び寄せ易くなり食い散らかされて無残な末路を迎えた……


 余談だけど。叔父家族の遠戚や愛人たちで生き残った者は、神殿や魔法塔預かりになって大人しく治療を受けているそうだ。






 人のモノを承諾もなしに借りると言って勝手に持っていって返さないような性根の腐った人って、それ相応の人生を送ることになるのね……


 両親が事故に合った時に高位貴族から預かっていた呪われたワインが解呪されたことを、手袋越しに確信して、モモは独り言ちた……



 END


 ……動き回り付きまとうストーカーみたいな人形……どの呪いも怖いけど人形怖いよな……


 よく勢いで書いて後から大量の修正でひどい目に合うことが多く、まとめて修正ができないこともあります。初期の頃は投稿の使い方が下手で、場面ごとにページ変えてたので頁毎の文字数少ないのもありますが、最近の投稿は1頁1万文字前後で書いてます。文字数が多いか少ないか人によって違うと思いますが、1000文字だと物足りない気がしてしまい、今後?……次回がいつになるかやる気次第ですが(汗)……は、5000文字前後でも良いかと考え中です。


 とりあえず様子見で今後も同じスタイルで投稿予定?次回の投稿は何年後?(汗)あくまでも架空の話として、ちょっとでも楽しんでいただけたら嬉しいです。 合掌


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ