相応しくないモノ
千五百くらい書いたヤツが全部消えた。
死にたい。
「……遅い!」
両脇にそびえたつ岩壁、その先には照り付ける太陽と青空。その光景を一言で表すなら、「渓谷」だろうか。
そんな場所で、腰ほどの大きさの岩に座った俺は、口端をぴくぴくと引き攣らせていた。
「………………(こてん)」
なんだかとっても久しぶりな気がするアヤメが、「大丈夫?」とでも聞くように首を傾げる様子に癒され、何とか荒立っていた精神を落ち着かせる。
さて、なぜに俺がこんな場所にいるのか。それは、昨日。【フラグメント】のメンバーとの自己紹介を終えたところまで遡る……。
「おいリーダー、ワイはやっぱり納得出来へんで」
「……なんのことだ? ライゴ」
「そいつのことや、その新人。ワイは、そいつが【フラグメント】に加入するのに反対や」
おっと、やっぱり嫌われてましたか。
金髪ツンツンの似非関西弁くんことライゴさんがそんなことを言い出した時、俺は困惑するよりも納得していた。そりゃ、あんだけ分かりやすく拒絶されれば嫌でも……ねぇ?
このタイミングでライゴさんが言い出したということは、もしかしてもう一人も……。
「ボクも反対だね。そんなヤツ。いくらギルマスと仲の良い人でも、ボクは絶対にそいつを受け入れられない。……サファイアさんに気安く近寄りやがってこの○○野郎が」
「パルケス、お前もかよ……」
アポロが珍しく困ったような表情を浮かべて頭をかく。というか、パルケスさんから向けられる視線に殺意を感じるんですけど……。この人は、ライゴさんとはまた違った理由で、俺のことを嫌っているらしい。というか、神経質そうな目で睨みつけられるのって結構怖いからやめてもらえませんかね?
「えっと、ライゴさんとパルケスさん? 俺に何か不満でもあるんですか?」
「そら、あるからこう言ってんねん。アホちゃうか、自分?」
「存在自体が気に食わない」
「……パルケスさんは置いといて、ライゴさんは、なにが不満だと?」
「はんっ! ンなこと言わんくてもわかるやろ。自分のレベルの低さや! なんやね36って! なめとんのか!」
「そう言われましても……」
「いいか自分、このギルドはなぁ、最強のギルド目指しとんねん! そんなかに自分みたいなざっこいヤツがおったら台無しやろ!」
……喧嘩売ってんのか、この似非関西弁野郎は?
俺が内心で若干キレかけていると、アポロが間に入って来た。ううむ、今日はなんだかこいつの知らない一面をよく見ている気がするな。予想外にちゃんとリーダーしてるみたいで、安心した。まぁ、からかえなくて残念ではあるけどな。
「おいおい、ライゴ。それは言い過ぎだ。それに、リューはまだFEOを始めて十日くらいしかたってないんだぞ? 逆にレベル36まで上がってるのがおかしい」
「そういうことやないんや。最強のギルドに一時的にでも雑魚いのが入ってくるんが我慢ならんねん。レベル上げて出直してこいや。……そもそも、ウチのギルドの加入条件に、『上位職に転職していること』ってあったはずやろ?」
「それを言われると……」
いや、そんな条件があったとか初耳なんだが? 曲がりなりにも組織のトップなんだから、そういうところはしっかりしておけよ……。
それはさておき、上位職ってなんぞ?
「リューにぃ、上位職っていうのは、レベルが50になった時に出来るようになる『転職』でなることができる。簡単に言えば、職業のパワーアップ。ちなみに私は魔法使いから魔女に転職した」
「ふぅん、というか、このギルドにそんな条件あったのかよ。そういうことはちゃんとしないと、後々面倒なことになるんだぞ?」
「ん、今度から気を付ける」
とてとてと近づいてきて説明してくれたサファイアの頭を撫でていると、どこかから背筋が凍るような視線が送られてくる。視線の主を探すと……ああ、うん。やっぱりパルケスさん……いや、もうパルケスでいいや。さん付けするのめんどくさくなってきた。あの似非関西弁野郎もライゴでいいだろ。
「サファイアさんをなでなで……だと? 羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい……」
……彼はもう、手遅れかもしれない。隣を見ると、サファイアも嫌そうな顔をしていた。
……とまぁ、こんなことがあったわけである。いや、最後の方はあんまり関係ないけどさ。
この後、俺の加入に反対し続けるライゴは、俺に一つの条件を出してきた。それは、あと三日でレベルを50まで上げ、上位職へと転職すること。まぁ、戦闘に集中すればやってやれないことは無いだろう、というレベルの試練だ。
そして、その試練に置いてパワーレベリングのような真似をしないように、【フラグメント】のメンバーから監視役が付くことになったんだが……。待ち合わせの時間になってもこない。
うーん、あっ! こういう時こそ昨日購入した本を読めばいいのか。よーし、いくつか買った中に英雄譚みたいなのがあったよな。あれから読もうっと。
「アヤメー、今から読書するけど、一緒に見r「せ~んぱい! お待たせしたっす!」…………最悪のタイミングで入ってきおって……」
近づいてきたアヤメを膝に乗せ、本を開こうとした瞬間に、重役出勤の監視役様―――後輩が姿を見せた。
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