第九十九話 終末羅刹兵器を作ろう!
「ここが、超兵器用の資材置き場だ」
弾む声のアルルカに案内されたのは、ドワーフ洞窟の深部にある広大な空間だった。
よほどよい鉱脈があったのか、天井も他の部屋とは比べものにならないほど掘削され、地下とは思えないような解放感だ。
入り口からすぐのところに、黒ずんだ小さな山がいくつか見えた。
「テスト中に壊れてしまったものや、試作中に欠陥が見つかって中止されたものをここに置いているんだ」
つまり、これまで作ったもの全部。
資材というより、スクラップの山と言った方が正しいかもしれない。
しかし、ドワーフが編み出した特殊な工法によって造られたこれらの部品は、分解・接合が極めて簡易に行えるのだという。
これらは決して鉄屑ではなく、一つ一つがいまだ有用なパーツなのだ。
つまり、組み立てれば、オリジナル兵器がすごく簡単に作れてしまうのである!
あれから――イグナイトに吹っ飛ばされた僕とアルルカが、反対側の壁にそれぞれ叩きつけられた後、今後の方針についての話し合いが持たれた。
もちろん、アルルカの研究は続行される。
しかし、僕らも横で旗を振って応援しているだけではない。アルルカと共同で、珍兵器――もとい、超兵器を考案することになった。
そう僕が発案した。
この超兵器は、僕らにとっても重要なアイテムになるからだ。
普段は、石版にイメージを書いてから、粘土による試作を経て、実際に部品を作るそうなのだが、今回は初めてということもあって、自由にやってみようという話になった。
習うより慣れろ。
アルルカは鉄の山の前で、二つの歯車のようなパーツをみんなに示す。
「こっちが動力源。兵器一つにつき、一つ必要だ。こっちは、駆動部分に使うパーツ。はめ込むと、関節のように自由に動いてくれるようになる。この両方にはイグナイトのカケラが組み込まれているが、サイズが小さいので爆発はしないので安心してほしい。他に、わからないことがあったら、そのつど何でも聞いてくれ」
説明にみんながうなずき、それぞれがパーツの山へと向かい始めた。
僕が積極的にこの兵器作りに携わる理由、もうおわかりだろう。
この第三エリア〈ブラッディヤード〉では、建造物だけではなく、兵器をクラフトするのだ!
そして彼らに町を守らせる!
こいつらは自ら動き回り、昼夜を問わずに町をディフェンスしてくれる。無敵とはいえ数の少ないドワーフ戦士たちを補う戦力としては十分すぎるだろう。
これは、アニメじゃない世界からやって来た僕が、得意顔で提案したアイデアじゃない。
武器そのものを戦士とする――アルルカは、その存在をすでにほのめかしていた。
僕はその発想を追認してあげたにすぎない。
超兵器は、このエリアのクリアに必須の要素になる。
でも、僕が見知った知識を披露してゴールにたどり着いたとしても、それはアルルカの勝利にはならない。
僕は彼女に協力することを決めた。
それは、戸惑い顔のアルルカを、ゴールまで手を引っ張っていくことじゃない。
彼女が立ち止まったとき、背中を蹴っ飛ばす役目だ。
彼女がぶっ倒れたとき、石のベッドまで運んでやる役目だ。
勝つのは僕ではなく、“僕ら”でなくてはいけない!
ところで、これからクラフトする自律兵器がどうやって敵を識別するかとか、どうやったら思い通りに動いてくれるのかって話だけど……。
気合いだよ!
あとは仕様。
「き、騎士殿、どうだろう? 進捗は……」
黙々と作業に更けること、小一時間ほどだろうか。そわそわした様子でアルルカがやって来た。彼女は今回、監督役ということで、兵器作りには参加していない。
「その、みんな夢中になってるみたいで、誰もわたしに質問しにきてくれないんだ……」
何だろうね、この不憫な少女は……。
うちは本当にそういうのが多いな。
「できたよ」
「えっ、もう? ど、どれだ、見せてくれ。あっ……」
アルルカは僕の足下にある物体に気づいたようだった。
「これは……犬か?」
それは秋田犬くらいのサイズの、機械の犬だった。
構造はすごく簡単で、胴体に使えそうなパーツに、足と頭を造って接合しただけ。
デフォルメが激しく、犬とわかってもらえただけ御の字のようなできばえだ。
僕に造形センスなどを求めてはいけない。
「あごが不釣り合いなほど大きいな。それに、下あごの牙だけ鋭い」
アルルカは不思議そうに言った。
「カニの弱点は腹だから、それを狙い撃ちできるように造ったんだ」
「あっ……! なるほど……。そういうふうに、造るんだ……」
ふんふんとうなずいているアルルカ。
仮想敵というのは大事だ。敵がこっちの装備に合わせてくれるわけがない。常に苦手なものを突きつけてくる。それは、こっちもしかり。
僕の作ったこいつは文字通りの番犬だ。
量産の暁には町中に放って、カニを見つけ次第噛み殺してもらう予定。
同じ戦いの犬同士、頑張ろうぜ。
「一応、マッドドッグ一号と名づけたよ。でもこれ、どうしたら動くの?」
イグナイトが組み込まれた動力部は、青白い光をゆっくりと明滅させているけど、鉄の犬が動き出す気配はない。
「ああ、起動にはわたしのイグナイトを使う。これをこうして……」
アルルカが持っていたイグナイトを近づけると、マッドドッグ一号の動力源が大きく輝き、硬そうな金属の身を動物みたいに震わせた。
「おお!」
マッドドッグ一号は元気に駆け出そうとして、
前のめりにコケた。
「ギギギ……」
何か、うなってる。
「しまった。頭が重すぎたか……」
何しろ、頭と胴体の比率が1:1くらいになっている。
あの黒金のカニを噛み殺すために、アゴのパーツに力を入れざるを得なかった結果だ。バランスは最悪だろう。
アルルカにあれだけツッコんでおいて、自分でも欠陥兵器を作ってしまうとは、浅はかさは愚かしい。
胴体もでかくしないとダメだな。作り直し!
と思ったときだった。
「おう騎士殿、こんなところにいたのかよ!」
ドルドの土間声が、広大な資材置き場に響き渡った。
「すぐに地上に出てくれ! 補強したテントの仮設をしてたら、ヤツらが来やがった!」
「! わかった!」
「ギギギ! ガギンガギン!」
突然、マッドドッグ一号が鋼鉄のあごを打ち鳴らすと、頭を上に持ち上げてバランスを取り、出口の方へと駆け出した。
ちょうど真正面にいたドルドが面食らい、
「うおっ、何だこのバケモノ!」
と声を上げている。
まさか、一緒に戦う気か、マッドドッグ一号!
「ドルド! そいつは僕の相棒だ! 通してやってくれ!」
僕はそう叫び、
「みんな、ここに待機してて。ちょっと防衛戦してくる!」
仲間たちにも一声かけて、洞窟の外へと急いだ。
※
外ではすでに戦闘が始まっていた。
骨組みが強化されているらしいテントの前を駆け抜け、砂塵の舞う戦場へと突入する。
「おお騎士殿、来てくれたかよ!」
「うわっ、何だこの頭のデカいの! 新手か!?」
「違う、そいつは味方だ! 間違って攻撃するなよ!」
ドルドが釘を刺す中、
「ギアー!」
吠えているのか軋んでいるのかよくわからない声を上げながら、マッドドッグ一号がデザートクラブに早速噛みついた。
上あごには丸まった牙しかなく、これはもっぱら標的を固定するためのものだ。先を尖らせていないのは、カニを噛んだ際に歯が欠けて、自爆ダメージが発生するのを避けるため。これには整備班もにっこりだろう。
強大な防御力を誇る背中への攻撃は一切せず、弱点である腹に、本命である鉄製の牙を正確に突き立てる。そして――
「ギギギ!」
バギャッ、と金属の絶叫を奏で、デザートクラブの腹部が割れた。
やった、成功だ!
機能を停止したデザートクラブを口から吐き飛ばすように投げ捨てると、マッドドッグ一号は再び頭を高々と掲げ、次の獲物へと向かっていく!
ヒューッ! 見ろよあの獰猛さを! これは、今のままでも十分戦力になる!
「騎士殿、よそ見すんじゃねえ、後ろだ!」
!?
マッドドッグ一号の活躍に気を取られているうちに、背後からグラススティンガーを小型化したようなサソリが迫ってきていた。
振り上げられた尾は、すでに僕を捉えるための予備動作に入っている。
野郎!!
咄嗟に防御態勢に入った僕の視界を、サソリの尾の正面図が埋める。耐えられるか――
と。
ギンッ! という、鼓膜を撃ち抜くような切断音が、僕の頭部を揺さぶった。
この体が鎧ごと刺し貫かれた音――じゃない。
こちらの顔が映りそうなほどに鋭利な尻尾の切断面が、その答えになる。
「…………!?」
砂埃を立てて“着地”したのは、鉄屑をかき集めて造ったような人影だった。
どことなく、僕の鎧に似ていなくもない。
決定的に違うのは、尻尾があることだ。
竜、いや、パスティスのような……。
「鉄騎様、行って!」
「ギギギ、ギッ」
その澄んだ叫びに応えるように、人影が動いた。
鉄の塊とは思えないほど優雅な宙返り。
その宙返りは、逆上がりのように後ろ向きの回転なのに、体自体は前進している。
いわゆる“シューティングスタープレス”の飛びなのだけど、それよりサマーソルトと言った方が簡単だ。
ギィン! と金属が震える鋭い音がして、小型のグラススティンガーがよろめいた。
サマーソルトにより、跳ね上げられた尻尾に斬られたのだ。
さっき、僕を狙った尻尾を見事に切断したのもこのサマーソルト“テイル”だった。
鉄騎と呼ばれた人影は、それしか方法を知らないみたいに、ひたすらサマーソルトテイルを繰り返し、とうとうサソリの胴体を断ち切ってしまった。
「騎士様、大丈、夫……?」
「パスティス!?」
戦場を覆う薄い砂埃の奥から出てきた顔に、僕は驚きを隠せなかった。
「ということは、あの鉄の塊は」
「わたしが、作った……の」
パスティスは少し恥ずかしそうに、肩をすぼめた。
「強そうなのを作ろうとしたら、自然と、騎士様みたいに、なってた……。名前は、鉄の騎士様だから、鉄騎様」
「そ、そうなんだ。それは嬉しい……のかな。でも、尻尾が生えてるみたいだけど……」
「おそ、ろい……に、したくて……。ご、ごめん、なさい……」
真っ赤になった顔を両手で隠したパスティスの背後では、黒い尻尾が、唐辛子を飲んだ蛇みたいに猛烈に身もだえしていた。恥ずかしくてたまらないといったふうに。
「いや、良い! 最高だ!」
僕はそんなパスティスの肩に手を置いて叫んだ。彼女の手の隙間から、涙ぐんだ目の光が見えた。
「いい、の? 一緒、で……」
「ああ。僕にパスティスみたいな尻尾が生えてないのが残念になったくらいだよ!」
「っ!!」
顔どころか、肩あたりまで真っ赤になるパスティス。
照れる必要はない! このセンスはもっと世に発信していい!
尻尾のある騎士って格好良くない? しかも、その尻尾も鎧みたいになってるの!
いいか、男の子は外部パーツが大好きなんだよ!
角とか翼とか尻尾とか、バインダーとかスラスターとかレドームとか、そういうものが外側についてるだけで心のコレボタン連打しちゃうんだよ少なくとも僕はそうだね!
腕にバルカン内蔵とかもいいけどね(無節操)。
「うれ、しい。騎士様も、わたしと、おそ、ろいが、いいんだ……」
パスティスがおずおずと僕の手を取ってきた。
顔にはまだ余熱の紅色があり、吐息も熱い。
ん……ん……?
あれ? 何か反応がおかしくない?
僕は、尻尾のある騎士のデザインを褒めたんだよね? 他の要素はなかったよね?
どうしてそんな、熱っぽい視線をしてるんですか、パティさん?
荒んだ戦場の熱気の中、不自然に生まれた生暖かい空間に、戸惑いを覚えたときだった。
ギギ、ギ……。
赤い砂煙のカーテンに表面に黒い影をにじませ、奇妙な物体はゆっくりと姿を現した。
ダ……。ダイ……。ダイ……。
!?
こいつ、ダイ(死ね)とか凶悪なこと言ってるけど、これは……!?
ダイラーニア……。
あっ……。
書いてる間中、ソフィーのアトリエの「ドールメイクのうた」が頭の中を流れていました。




