第二百十六話 北部都市復興計画
「というわけで、人がいない北部都市に彼らの新住居を用意しようと思うんだ」
そう発言した僕は、ラウンジに集まった面々を順繰りに見つめる。
リーンフィリア様以下天界組、グレッサリア代表のアンネとラスコーリ、これに滞在中の異種族のリーダーたちを合わせれば、クラフト当初は余裕のあった会議場もだいぶ手狭に見えた。
「名案じゃ。わしもそれを考えておった」
一番に賛意を示したのはアンネだ。
「アルフレッドたちだけでは少なすぎたが、今ほどの数が揃えれば街を維持していくことも容易じゃろう。むしろそれを頼みたい」
「北部都市の問題については、近所のグレッサたちから聞いている」
次に口を開いたのはドルド。
「俺たちがそこに移れば街の守りが盤石になるっていうのなら、異論はねえぜ」
「農業についても、それ用の超兵器を研究するいいきっかけになるし。うちの大陸じゃそういうの需要がなかったからね」
入り口から入れず、ラウンジに隣接する窓の外から参加しているアシャリスも賛同する。
「わたくしたちも異論はありません。けれど、もし元の住民が戻ってきた時に、住まいについて問題になりませんか?」
メディーナが賛成しつつも懸念事項を話すと、アンネはかんらかんらと笑い、
「元々人手がたりずに困っていた土地じゃ。増える分には問題がない」
「大丈夫そうだな」
「ええ」
それを聞いてマギアとミリオが笑みを交わした。
「ちゃんとした土いじりの技術があるのはぼくらのところだけですからね。うまくグレッサリアのやり方と組み合わせて畑を復活させてみせますよ」
「頑張ろうね」
アルフレッドとディタもすでにその気になって、隣席する異種族と早くも新天地について話に花を咲かせる。
反対意見は一つもなし。北部都市を復活させる意味でも、一旦カオス化した文化をクールダウンさせる意味でも誰も損をしない有意義な提案ができた。
スムーズな流れに満足しつつも、僕らはすっかり馴染んだ彼らの様子につい本音をこぼす。
「それにしてもみんな、やけに早く打ち解けたよね。僕はもっと問題が起こると思っていたけど」
途端、ぴたり、と彼らの会話が止まった。
えっ? な、何これ。僕地雷踏んだ?
が、兜の内側で動揺する僕に対し、人間、エルフ、ドワーフの三種族は、どこか気恥ずかし気で、それでいて得意げな眼差しを向けてくる。
「全部、初代と女神様のおかげですよ」
アルフレッドが口火を切った。
「見た目が多少違っていても、大事なのは中身。変に恐れや偏見を持たず、ちゃんと向き合えばわかりあえるって、パスティスやディタが教えてくれましたから」
「アルフレッド……。ありがとう」
肩にそっと触れるアルフレッドに、ディタが手を重ねる。
「わたしたちエルフは、互いを思う気持ちがあれば、どんな困難も乗り越えていけると知っています。まずはお互いを理解し、しっかり気持ちを合わせること。それさえできれば、たとえ積年の憎み合いだって克服できるのですから」
メディーナが言うと、マギアもミリオもうなずいた。
「そして俺たちは、変わっていくことを恐れない。新しい出会いに、自分が変えられることを拒否しない。新しいものの中には、必ず古いものも息づいているものだからな。こいつも、女神様から教わったことだ」
「あれだけ渋ってたおじいちゃんも、なんだかんだで今じゃ超兵器開発の第一線張ってるもんね」
ドルドとアシャリスが言い、そうして改めてみんなで僕と女神様を見る。
心が震えた。
――そうだ。
みんなが話したことは、僕たちが向き合ってきた問題そのもの。その土地に住む者たちの心の課題だった。
外見の違い。過去の確執。変化への恐れ。
いずれも争いの温床となりうる要因。
けれど、それらを乗り越えてきた力が、今、グレッサリアで彼らの協調を生んでいる。
すべての困難は、この時のために。
僕は思わずリーンフィリア様と顔を見合わせていた。
彼女が満足そうに微笑んでうなずく。
胸が熱くなった。
今までのことがこんなふうに繋がるなんて……。
卑怯じゃないか。
こんなの、嬉しいに決まってるだろ……!
スッ……。
コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ!
【エリアを通じて育まれた心が集結:20コレ】(累計ポイント-9000)
「まさか、このように掛け値なしに美しいものを目の当たりにできるとはのう、ラスコーリ」
「うむ。長生きはするものじゃな」
アンネとラスコーリがうなずきあっている。
「このできごとを‡タイラニアスの結実‡と呼ぼうと思うがどうじゃろ」
「‡タイラニアスの聖なる結実‡じゃな」
人が感動してるそばで何また余計なことしてくれてんねん。
「よ、よし、それじゃあまずは、北部都市の状況から調べていこう。作戦が必要だ」
胸を詰まらせる熱気が目を結露させる寸前で、僕は半ば照れ隠しのように実務を議題に放り投げた。
「そのことなら心配いらん。こうなるだろうと思って、家の者を使ってすでに調べておいた」
「え、アンネ、本当?」
有能すぎる。さすがは血統家の最強格。難解な造語さえ自作しなければ非の打ち所がない。
「報告によると、コキュータルは北部都市の全体に薄く広く生息しているようじゃ。農耕地はヤツらの影響か、よくわからぬ植物の群生地になっているらしい。戦闘の際は、気遣いは無用ということじゃ」
「親玉のコキュータルを探さないと。また〈コキュートス〉近辺に居座っているのかな」
僕が聞くと、アンネは「うむ」と少し難しそうに首肯し、
「内壁に大型のコキュータルが居座っている。が、監視していた者によると、どうも動きが妙だという」
「妙?」
「強大ではあるが、ある場所に決して近づこうとしないそうじゃ。そこは、北部でも特に広い農場があった場所で、一帯にはなぜかコキュータルの蒼い灯が一つもない。――何かが潜んでおる。大型コキュータルさえ近づかせない、真の強者が」
「そいつがボスだ」
僕は断定し、仲間たちとうなずきあった。
「これから自分たちが住む場所の話だ。できることがありゃあ、俺たちも手伝うぜ」
ドルドが名乗りを上げると、
「ぼくらニーソリアン探検隊も使ってください、初代! ヴァリアブルおはようニーソR、すでに調整完了しています」
「わたしらエルフたちも戦場に出るぞ。特に貧乳エルフは狩りができないので退屈していたところだ!」
アルフレッド、マギアも参戦を申し出た。
みんなの戦闘能力は頼もしいレベルで熟知している。
北部都市に何が潜んでいようと、この戦力で一気に制圧してみせる!
まさか今までのストーリーにそんな意味があったとは(作者感)




