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第二百十一話 大量失踪

 グレッサリア南部都市。

 地上神殿、ラウンジにて。


 一堂に会した面々は、すぐ手前に置かれたティーカップから湯気の最後の一筋が昇り終えた後でも、その強張った姿勢を崩せずにいた。


「うーむ……」


 時折誰かの唸る声が聞こえては、幾人かの視線がそちらに向くものの、何の収穫もないまま、またすぐにテーブルの上に置いた自分の手に戻される。


 何度それを繰り返したか。


 天界組。グレッサリアからはラスコーリとアンネ、それからカルツェまでが揃っても、僕らの議題は暗礁に乗り上げた切り、元の海へは戻ってこられずにいた。


 事の発端は、昨日、僕が見つけた北部住人たちの避難村。

 徹底的に破壊され、とても人が住める状況ではなかった。


 結論から言ってしまうと、発見できた住人はゼロ。

 全滅、という剣呑な話じゃない。


 廃墟を調べた結果、あの村はもうだいぶ前に、コキュータルの介入から逃れるために放棄されていたことが判明した。

 とある瓦礫の山に張り紙がされており、そこにはグレッサリアを捨て、北部住人全員で他の安住の地を探す旨が記されていたのである。


 僕が引っかかったのは以下の部分。


「我々は長らくこの都市を守ってきた。しかし、暗黒騎士姫の担い手は減少し、この先、状況が好転する兆しもない。できることはやった。もう我々は解き放たれてもいいはずだ」


 解き放たれるとは、どういう意味か。

 単に、先祖の伝統から自由になるということなら、わかるが。

 そして。さらに別の個所。


「そもそも、おれたちはまだ本気を出していない。その気になればもっとビッグなことができるはずなのだ。根拠はないが自信はある。自信があるということは、きっとできると本能的に理解してしまっているのだ。やったことないが。とにかくおれたちは明日から本気出すし、全然大丈夫。まあ見とけって。 北部住民一同」


 この、ナチュラルな感じのセントラル病。

 本気でチャレンジしたことがないから大きな失敗もせず、失敗したことがないのですなわちオレ万能という、古典的中学二年生の病理、発想そのものだ。


 このクッソ不安になる書置きを残し、グレッサリアの北部住人はごっそり失踪してしまった。


 今、北部都市を解放しても住めるグレッサ人は皆無。守り手がいなければ、すぐにまたコキュータルが蔓延りだしてしまうだろう。


 街の一区画が完全にゴーストタウン化するという、突然の過疎化問題への解決案は、今のところただの一つも出ていなかった。


「たっだいまー」

「あー。まだみんなで集まってるー。おーい、ばかー? ちゃんと動いてるー?」


 神殿入り口から小さな人影が二つ。停滞した議場に場違いな声を吹き込んでいった。

 DLC天使である。


「あー、のど渇いた。あっ、お茶あんじゃーん。その兜じゃ飲めないだろ兄弟。代わりにもらってやるよ……って、ぬる! とっくに冷めてんじゃんこれ! 淹れ直せよなー」


 ショートヘアが僕のティーカップを奪い取り、すべて飲み干した後でケチをつけてきた。


「それでー。話は進んだのー? えへへ、ばかー?」


 ロングヘアの方も意味もなく僕の鎧をガシガシ叩いてくる。自由人かこいつら。


「進展はないよ。そっちは?」


 僕が鎧の奥から我慢しきった声を出すと、二人は急に不満げな顔になり、


「全然ダメ。あの鹿見つからなかった。あんなでかいくせにどこに隠れてるんだよって感じ」

「でもー。次こそは絶対見つけて殺るー。あれ絶対にレア中のレアー。オメガの本命だよー。わたしたちが仕留めれば、さいきょー天使待ったなしー。えへー」


 お聞きいただけただろうか。

 こいつらは、僕がオメガの槍を回収に行っているうちに例の〈雪原の王〉を目撃したらしく、それを仕留めるまでここに居座ると一方的に宣言したのだ。しかも部隊ごと。


 なので、みんな揃ってこの地上神殿に勝手に住み着いている。

 幸い、神殿の敷地は広いので住む場所には困らないが、予備隊の連中はマジでどこででも寝ているワイルドさなので、ぼーっとしているとうっかり踏み潰してしまいそうで冷や冷やする。


 あと、ディノソフィアといつエンカウントするかも悩みの種。まあ、こいつらの腐った目では案外、ディノソフィアが契約の悪魔だと見抜けない可能性も高いけど。


 気がつけばスケアクロウも姿を消してるし……。あの野郎……。

 もう状況が好き勝手動き回ってて全然制御できないよ。


 フリーシナリオゲームで、何も考えなしにイベント起こしちゃった感。

 いくつかは確実に進行不能になる。


「そんなにヒサンなのー? えへへー」


 ロングの天使が、僕の背中に這い上がりながら聞いてきた。


「最悪の状況ではないんだ」


 気分転換のつもりで僕は事情を説明する。話を脇道にそらしたところで、本道がまったく進展しない今、支障はない。案外こういうところから名案が出たりするかも。


「北部住人は農家が多くて、元々体が強い。それに、暗黒騎士姫の供給もある程度は頑張れていて、最近引退した人も含めれば、狩人級は七、八人はいるそうだから。よその土地に移っても、どうにかやっていけるんじゃないかなって感じらしい」

「ふーん? 全然わかんないー。えへへー」


 まあ、そうだよね。君らこの街にも全然興味なさそうだし。


「北部のことは一旦保留として、東部都市の解放を優先させるのはどうか?」


 僕の雑談に誘われたようにラスコーリが口を開くが、


「だが、いずれは直視しなければならん問題じゃ。先送りにする意味はない。それに北部の農地を蘇らせれば、豆ばかりの食生活も改善される。それを楽しみにしていた住人たちも少なくない」


 アンネにすぐに反論され、彼はため息と共に伊達眼帯を撫でた。


「セルバンテスたちがいくら頑張っても、一隻の商船に運べる量などたかが知れているしな……」


 西部都市は芸術、学術の中心であるのに対し、北部都市は農業の中心として栄えていたらしい。ちなみに、ラスコーリたち南部は商業と交易がメインだった模様。神罰で海運が途絶えたせいで、ものすごい勢いで廃れてしまったそうだけど。


〈不滅なるタイラニー〉で土壌を復活させる計画も、この北部の土地を中心として考えられてきただけに、この停滞は手痛い。いや……シャレじゃなく。


 過疎化問題は避けられない。

 だが、劇的に人口が増える要因もない。


 再び沈黙に戻ってしまったラウンジに、不意に、慌ただしい足音が近づいてくるのがわかった。


「女神様、大変です! 空から何か奇妙な黒い船のようなものが近づいてきてます!」


 駆けこんで来るなり、その南部住人は叫ぶように報告した。


「空から? ナグルファル号ではないのですか?」

「我々も最初はそうだと思ってのんきにしていたのですが……近づいてくるにつれ、まったく違うものだとわかって。それも、一つや二つではないんです!」


 空飛ぶ黒い船が、複数……!?

 何だその状況!


「げええ!? まさかオメガじゃないだろうな!」

「わたしたちの獲物を横取りするつもりー!? 悪辣ー! おにー!」


 相変わらずこの天使たちはすげえ精神構造してるな。

 だが、この状況でオメガ侵攻とかカオスすぎる。

 つうか、完全に現れるタイミング見誤ったぞオメガさん!


 とにかく、確認しなきゃ!


 僕たちは大慌てで神殿を飛び出した。

 外に出るなり、その飛行物体の存在はすぐにわかった。

 曇天に溶け込むように、黒い流線形が浮かんでいるのだ。


 何だありゃ……!? 確かにナグルファル号じゃない。

 そして形状で言うのなら、ナグルファル号よりよほどクジラみたいな姿をしている。

 飛行船か……?


 子供の頃に一度だけ実物を見た記憶を呼び戻しながら、僕は仲間たちと街の外を目指す。


「何だあのでかいの!? 突撃隊の装備じゃなさそーだぞ」


 ショートヘアが低空飛行しながら叫ぶ。

 黒い飛行船団は、ゆるゆると高度を下げ、雪原に降り立とうとしていた。


 オメガたちじゃないのか。しかしこの〈ダークグラウンド〉に外界から進入してきたのだから、ただ者であるはずがなかった。

 天界でも悪魔でもない第三勢力……? ここに来てか?


 僕らの方が先に雪原にたどり着いた。

 ほどなく地表に近づいてきた飛行船のデッキから、無数の長いロープが放られる。


 それを伝って降りてきたのは、どうやら人らしい。

 全員が、ゴーグルと、そして強盗のような黒いスカーフを口元に巻いている。


 降下用の装備らしい装備もなく、ほぼ人力のみで着地した様子は、彼らがかなりの手練れであることを予感させた。

 何か作業を始める。ロープを地面に埋め込んでいるようだった。いわば、錨の代わりか。


 一体何者?


 作業を終えた彼らが一様にこちらを振り向き、ゴーグルのガラス面に暗い空の光を宿す。僕らの緊張感が高まった、その時。


「初代! こんなところで会えるなんて!」


 最後に降下した長身の男が、異様な風体とは正反対の、爽やかで明るい声を発した。


 ……?? 初代?


 僕らが身構える中、男は小柄な付き添いを一人つれ、雪に足を取られながらこちらに駆けてきた。


「ああ、やっぱり女神様も。それに、パスティス……」


 え、え?

 次々とこちらの素性を言い当てられ、困惑する僕ら。すると彼は何かに気づいたのか、


「ああ、すいません。顔を隠してたら誰だかわかりませんよね。ぼくですよ!」


 そう言って、彼はゴーグルとスカーフを取り去った。

 現れたのは、理知的で、しかしどこかたくましい顔つきの青年。

 彼は。


「あ、アルフレッドォ!!!?」


 二代目ニーソマン、いや、その上をいくニーソマスター! 

 アルフレッドその人だった!


シリアスさん「こいつが出てきた時点でもう何も期待しない」


※ 御礼

いつの間にか、感想が1000件を超えていました!

これはすごいです。読者の方々が!

毎回のように感想くれている人もいて、200件とかいってるんじゃないでしょうか?

もう普通に小説一冊分くらい文章打ってるんじゃないかな……。


いつも色んな感想をもらえて本当に元気になってます。

ツッコミとか、本編よりキレてるボケかましてくる人とか、キャラクターを正確に見抜く人とか、見ててニヤニヤしています。

あと女性キャラの趣向のアレコレが合う人とか(小声)


たった一言でももらえると本当に嬉しいものなので、

今後とも、何かちょっとでも感想があればどうぞお気軽にお書きください。


今話も読んでくれて本当にありがとうございました。

また次回お会いしましょう。

                       伊瀬ネキセ


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