百十一話 帝国ガンスミスの影
「おれたちゃ 穴掘り ドワーフなのさ」
『朝から 晩まで 穴こさ掘るのさ』
「きんきら がちがち こつこつ ぱらぱら」
『地面にゃ 星が 埋まっているのさ』
ドワーフたちのマッスル炭坑節が、洞窟の奥から聞こえてくる。
彼らの仕事は、戦闘街プロジェクト開始に際し、大量の岩ブロックを用意すること。
雪合戦の前に、大量の雪玉をこしらえておくようなものだ。
これが揃えば、いよいよ町作り決行となる。
僕も混じってツルハシを振るおうとしたのだけど、親方ドルドに呼び止められた。
「騎士殿、アンサラーをちょっと見せてくれ」
彼の家では、特にすることのない女神様や、他のメンバーが掘り炬燵式の穴に足を投げ込んで暇を持て余していた。
そんな中、ドルドがアンサラーをためつすがめつし始めたのだから、全員の興味は自然とそちらに集まる。
一通りチェックを終えた彼は、感嘆の息を吐いた。
「なるほど。こりゃアンサラーだ、間違いねえ」
「そりゃそうでしょ」
見ていたアンシェルが呆れたように言う。
「ドルドはアンサラーを知ってるの?」
僕がたずねると、
「ああ。アンサラーを造ったのは、ドワーフ族だからな」
「え、ウソ!?」
これはアンシェルも初耳だったらしく、目を丸くして背中の小さな羽をぴこぴこさせている。
「ウソなもんかい。大昔、天界に頼まれて千五百挺の聖銃を拵えて、そいつはアンサラーって名づけられ候っていうご先祖様の記録がある」
マジか……!
天界から武具の製造を任されるとか、ドワーフの技術力は混じり気なしに世界一だな。
ひょっとして『Ⅰ』で僕らが集めた武器の中にも、彼らの作品があったのかもしれない。いや、確実にあったろう。だからこそ、強力すぎて天界に封印されたんだ。
ん!? 待てよ。ドワーフたちがアンサラーを造ったなら……!
僕は思わず腰を浮かせて発言する。
「ドルド親方、アンサラーを複製することはできないかな!?」
「ッッッッ! 騎士、あんたねえ!」
アンシェルがすぐさま噛みついてくるけど、ドルドは首を横に振った。
「悪ィが、アンサラーの製造は天界に禁止されてる。製造方法も封印されて、地上には残ってねえ」
「そうなんだ……」
残念だ。アンサラーをドワーフたちの標準装備にできたら、戦闘街での戦いがもっと楽になると思ったのに。
アンシェルがほっとした顔になりつつも、じーっと僕を見つめてくるのは、「こいつなら別の方法でやりかねない」と警戒しているからだろう。ちいっ。身内の分析は的確だ。
「言っておくけど、アンサラーの複製なんかやったら、本気で神々があんたを潰しに来るからね」
「へえ……」
「ちょっと今嬉しそうにしたでしょ! 冗談じゃないわよ。女神様だってただじゃ済まないのよ。そんなことになったら、真っ先にあんたの首をちょん切って天界に持っていくからね!」
息巻くアンシェルの発言を追いかけるように、ドルドも首肯する。
「天界と正面からドンパチできる力があるなら、そもそもアンサラーなんていらねえやな。強力な武器ではあるが、神々の力には及ばねえ」
「そうか……。そりゃそうだね」
素直に同意する。
地上を救う戦いに来ておいて、戦火を広げちゃ意味がない。もちろん、納得できない場合はとことん噛みつくけど。
と、ここでドルドが不思議なことを言い出す。
「ただよお、騎士殿。このアンサラー、ちょっと変なんだよな」
「え?」
彼は、丁寧な手付きでアンサラーを撫でながら、
「デチューンされてるみてえなんだよ」
デチューンってことは、性能を意図的に抑えられてるってことか。
「威力を抑えて連射力を上げてるとか、熱暴走しないようにしてるとかじゃなくて?」
デチューンの主目的は扱いやすさの向上だ。
扱いにくいハイエンド機より、扱いやすいミドルスペックの方が重宝されるのは、戦場だろうと一般家庭だろうと一緒。
「結果的にはそれに近いものにはなってるんだが、全体的に見れば単なる劣化だな。色々と手を入れてやれば、威力を上げたまま今と同じ使い方ができるようになるだろうぜ」
「アンシェル、何か知ってる?」
僕がたずねると、天使はむっとした顔で、
「わたしは何も知らないわよ。天界が支給したものを届けただけ」
と返してきた。
ということは、恒例の天界からの嫌がらせか? ほほう、野郎……。
「まあ、一種の安全装置かもしれねえがな」
ドルドが言う。
「安全装置?」
「アンサラーが、天使の突撃隊が使う銃だってことは知ってるだろう?」
「うん。うちの天使がそう言ってた」
「その天使の突撃隊が使う必殺技に、〈驟雨〉っていうのがあるんだが、こいつは魔法〈ヘルメスの翼〉で敵の頭上に一気に移動して、隊員全員でアンサラーを斉射する戦法でな。洪水直前の大雨のように弾を撃ち込んだ結果、そこにあった山が穴ぼこになっちまったらしい」
げえっ……。地形を変えるほどの威力があるのか……。
「敵を倒すために陸地がなくなっちまうのは、神様としても問題だろうからな。それで抑えてあるのかもしれねえ。騎士殿一人が使う分には、全然問題ねえと思うが」
過ぎたるは及ばざるがごとし、か。
想像以上に攻撃力を持ってるな、天使の突撃隊。
僕が知ってるのは、ガチレズのアンシェルと、守銭奴のDLCコンビだけだから、ちょっと甘く見てた。
ただ、地上の地形が変わるくらい、神様連中が気にするとは思えないけどね……。
「騎士様がいいって言うなら、アンサラーを本来の性能に戻すぜ。それなら、特に天界から禁止もされてねえしな。どうだ?」
即答したいところだったけど、僕は仲間に意見を求める。
アンサラーはすでに僕だけの銃じゃない。
「マルネリア、属性弾との相性は大丈夫かな?」
すると彼女は、
「元々、アンサラー自体にルーン文字を刻んでるわけじゃないからね。大丈夫だと思うよ。もし不具合が出るようなら、ボクが調整するよ。ボクはそのためにいるわけだし」
と、どこか嬉しげに胸を張って答えた。……揺れた。
「じゃあ、ドルド親方。頼む」
「おう、任せてもらおう」
ドワーフは、お気に入りのオモチャを手にした子供のように笑った。珍しい武器をいじれるのが嬉しいらしい。それが、先祖が作った伝説の武器ならなおさらだろう。
……っとと! てことは、ここでアンサラーのパワーアップイベントか……!
アンサラーの意外な出自もわかったし、世界観を深める意味でもなかなかの良イベントだ。ただ武器を銃にチョイスしただけじゃない。ちゃんと新武器の価値を高める掘り下げができてる。
いいぞ! こういう細かい気配りに対し、ファンたる僕はきちんと評価しないとな!
スッ……。
コ……ん!? ちょっと待て!?
アンサラーを造ったのがドワーフだっていうのなら、アレはどうなんだアレは!?
ヤツが持つ、もう一つのアンサラーはッ……!
「ドルド親方、ドワーフの歴史の中に、アンサラーを勝手に造った人って、いない?」
僕は前のめりになりながら聞いた。
彼は怪訝そうに、味海苔のように太い眉をひそめる。僕の質問は、さっきまでの彼の説明を真っ向から否定するものだ。手短に事情を説明する。
「つい最近、別のアンサラーを見たんだ。それは銃じゃなくて、剣の形をしてたんだけど……」
「あんた、またそれ?」
アンシェルが呆れたように唇を尖らせた。
何度でも言うさ。ヤツは、絶対に「アンサラー」って言ってた。「あんたさぁ……」とか「あのさぁ……」などでは決してない!
「詳しく聞かせてもらおうか」
ドルドが気になったように身を乗り出した。
僕は〈ヴァン平原〉からこっち、僕らの行く先にちらついている帝国騎士の影について伝えた。
「今は亡き帝国の黒騎士が、アンサラーという名前の剣を、か……」
ドルドは眉間に深いシワを作る。うんうん唸った彼は、結論として、
「いや、アンサラーを無断で造ったって話も、剣の形ってのも、聞かねえ……。少なくとも、この砂漠じゃ」
と、悩ましげに吐き出した。
ううん、手がかりなしか。もしやと思ったのにな……。
「だが、帝国ってのがちょっと気になる」
「と言うと?」
「帝国が悪魔と組んで、天界を巻き込むような大事件を引き起こしたって話は、ドワーフにも伝わってる。何せ、当時、人間の大陸じゃあ最大最強の国家だったからな」
ドルドは太い指をひげに突っ込み、あごをかくと、こんなことを言った。
「帝国にはな、ドワーフがいたと思うんだよ」
「えっ……」
「昔、ドワーフが海外に招かれたって話はしたよな。その話の一つで、帝国に渡ったドワーフがいるはずなんだ」
「はず?」
「ああ。誰がどこに行ったとか、あんまり細かい記録はねえんでな。だが間違いねえと思うぜ。何しろ、帝国の騎士が身につけてる鎧には、どこからどう見てもドワーフの意匠としか思えねえもんが入ってるからな」
帝国騎士の鎧が、ドワーフの作品……!?
これは『Ⅰ』にはなかった情報だぞ!?
「装甲の重ね方から、関節部の確保の仕方。何より重厚なシルエットが、もろに俺たちの趣向に合致してる。渡来品を初めて見たときは、思わずうなったぜぇ。こいつは傑作だってな」
確かに、あれだけの力を持つ国なら、海を渡ってドワーフを招聘するくらいできたかもしれない。だとすると……。
「そのドワーフが、アンサラーを秘密裏に製造していてもおかしくはない……?」
「可能性としてはな」
なるほど……。天界に内緒で帝国が、か。
国民の命と引き換えに兵器を欲するくらいだ。それくらいやりかねない。
なら、やっぱりあいつは帝国騎士の生き残り……? でも、二百年前だぞ……?
「ただ、そいつが持っていたってアンサラーが本当に剣なら、あんまり意味はねえのかもな。アンサラーはやっぱり、魔法の銃という脅威であって、ただ物質化が解除できるだけの剣なら、持ち運びに便利ってくらいにすぎねえ」
「そっか……。あ、でも、アンサラーを改造して、銃剣モードみたいなのを追加したとしたら?」
「悪くねえアイデアだが、アンサラーってのは、ものすげえ緻密な作りをしててな。このフォルムじゃねえと、うまく内部で魔力生成ができねえのよ。改造して刃をくっつけることは俺にもできるが、そうすると弾丸の威力がいくらか落ちちまう」
「意外にデリケートなんだ?」
「あくまで魔力の循環器系に限っての話だけどな。ドワーフの武器は、頑丈、手入れ知らずがモットーだから、こいつで敵をぶん殴っても平気だぜ」
ドルドはそう言って、誇らしげに笑った。
確かに、これまで色んな局面で酷使してきたけど、アンサラーが動作不良を起こしたことは一度もない。その外圧に対する強さのせいで、マルネリアのルーン文字も受け付けなかったんだけども。
「そうだ、騎士殿。アンサラーをチューンナップするときに、その銃剣モードとやらを足してやろうか? うまくやれば、今のデチューン状態くらいの威力は保てるだろうさ。二つの形態を使い分ければ、面白い戦い方ができると思うぜ」
銃モードと剣モードの切り替えかあ……。
銃と剣の二刀流もいいけど、一つの武器を流れるように変形させていくのもロマンだよなあ。
少し黙考する僕は、ふと、肩に<○><○>みたいな猛烈な視線が当たっていることに気づいて、兜の内側から目線だけで出所を探った。
リーンフィリア様だ。
どうしてそんな顔を、って、ああ、そうか。
「いや、通常のチューンナップだけ頼むよ。僕にはこいつがある」
言って、右腰に差したカルバリアスを軽く撫でた。
リーンフィリア様からもらったこれがある限り、やっぱり銃剣モードは必要ない。
完璧に忘れ去られてるけど、こいつをエクスカリバーに成長させる計画も進行中なのだ。
ドルドは納得した様子でうなずき、もう一つ、
「あと、さっき帝国騎士の話が出て思い出したが、騎士殿の今の鎧に、新しい装甲を付け足してやることもできるぜ。ルーン文字が刻んであるみたいだが、それよりほんのちょっと頑丈にできるはずだ」
ここに来てパワーアップ案が次々と……。これはどうだろ?
「それはちょっと待ってよ騎士殿」
マルネリアがすかさず口を挟んできた。
「今の鎧だからルーン文字が適応できるんだよ。新しい鉄板なんか貼ったら、ルーン文字は使えなくなっちゃうよ」
そう言えば、ルーン文字は樹鉱石じゃないとうまく機能しないんだっけ。天界の物質で作られた鎧だから何とかなってるけど、ドワーフの扱う素材じゃダメなんだろう。
「ドワーフの鎧を使うなら、ルーン文字の技師としてのボクはお払い箱だよ」
どことなく不安そうな眼差しで、唇を尖らせてくるマルネリア。
ああもう、みんなしてそんな疑いの眼差しで僕を見なくとも。
ルーン文字は、防御以外にも多くの恩恵がある。ルーンバーストだってあるしね。選択を間違えるつもりはないさ。
「鎧は今のままでいいよ。これからもマルネリアの世話になる」
「……。う、うん。そういうことなら、末永くお世話するよ……」
なぜか少し顔を赤くしてそっぽを向く魔女さん。なんだろ。何か意外な反応だな……。どういう話の流れだ? あと、今度はパスティスが<○><○>という目で僕を見てるのはなぜだ?
「よし、星形城塞用の素材が揃うまでに、ちゃっちゃと整備しちまおう。仕上がりを楽しみに待っててくれよな」
ドルドはそう言って、自分の工房へと向かった。
「え、ええと、パスティス、どうかした?」
「何も<○><○>」
「そ、そうですか……」
と、とにかく、休んでいられるのも今だけだ。
再スタートは目前に迫っている。
そして結局コレを忘れるツジクロー。
再開したその日にちゃんと読んでもらえて感想までもらえて、本当に嬉しいです。
どうもありがとう!




