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闇の悪役令嬢は愛されすぎる  作者: 葵川 真衣
 

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番外編 二人の風邪1


 魔術学園の女子寮は、最上階すべてがクリスティンの部屋となっている。

 大貴族の令嬢で、更には王太子の婚約者なので、便宜が図られたのだ。


 寮の階段を降りていたら、隣のメルが足を踏み外しそうになり、クリスティンは、彼の腕をとっさに掴んで支えた。


「メル?」

「……すみません、クリスティン様」


 彼はふらついている。


「どうしたの?」


 俯き加減の彼の顔をクリスティンは覗き込んだ。

 瞳が潤み、どこかぼうっとしている。

 

「ひょっとして具合が悪い?」

「いいえ」


 彼は否定するが、額に手を置いてみると、とんでもなく熱かった。

 

「熱があるじゃない!」

「……少し……」


 少しどころではない。高熱である。


「来て、メル」 


 彼の手を掴んで、クリスティンは部屋へ急いで引き返す。

 

 彼とは同室ではあるものの、互いの占有スペースは扉で仕切られており、別々となっていた。

 メルの使っている室内は、美しく整理整頓されている。

 

「今日は、休んだほうがいいわ」

「いえ、出席します」

「こんなに熱があるのに」


 メルが階段を踏み外すくらいだ。

 かなり体調が悪いに決まっていた。

 窓際にある寝台に、彼を座らせる。

 

「医師を呼んでくるわね」

「本当に大丈夫ですから」

「駄目。ここで横になって待っていて」


 クリスティンは立ち上がろうとするメルを、その両肩に手を置いて、寝かしつける。

 が、勢い余って、上に乗っかってしまった。

 

(──!) 


「ご、ごめんなさい、メル」

「……いえ」


 クリスティンは赤くなって身を起こした。

 

「戻るまで、ここにいてね」

「わかりました」


 彼が頷くのを確認し、クリスティンは廊下に出て、階下におりた。 



 

 メルは風邪だった。

 

「発熱しているので、今日の授業は欠席したほうがよいでしょう」


 深刻な病ではなく、クリスティンはひとまずほっとしたが、滅多に体調を崩さないメルが熱を出したので心配だ。

 

 医師は帰り、クリスティンは寝台で半身を起こしているメルに言った。

 

「わたくしも今日は休むわ」

「いいえ、いけません」


 彼はかぶりを振った。


「クリスティン様はどうかご出席を」

「あなたを放っておけないもの」

「処方された薬を飲み、私は安静にしておりますから、ご心配なく。クリスティン様はご登校なさってください」


 強く言われ、彼に送り出されて、クリスティンは渋々、登校することになった。

 


◇◇◇◇◇



 メルの体調が気にかかり、クリスティンは一日中、うわの空だ。

 気だるく過ごす。


(寮長にメルの食事、頼んでおいたけれど……彼はちゃんと食事摂れているかしら……?)



 授業を終え、ようやく放課後になれば、クリスティンは足早に校舎から出た。

 早くメルのもとに行きたい。

 すると前方からアドレーらしき、きらきらしい人物がやってくるのが視界に映った。

 

(え……あの後光……アドレー様……!?)


「クリスティン」


 やはり彼だった。忍びのように、さっと木陰に身を隠したが、一足遅く、発見されてしまった。

 アドレーは輝くような笑顔である。

 

「今日は生徒会のある日だ。君を迎えにきた。どこへ行くの」


 完全に忘れていた……。

 覚えていてもサボったが。

 早く帰りたい。


 クリスティンは、早口で答えた。


「寮に帰ろうと。体調が優れませんので、申し訳ありませんが生徒会は休みます」

「体調が? 大丈夫なの、クリスティン」


 具合が悪いのはメルだけれど。


「はい。次回は出席いたしますわ。では失礼いたします」


 横を素早く通り過ぎようとすれば、アドレーが言った。


「寮まで送るよ。途中で倒れてはいけないからね」


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