地中から現れし飛竜ドボルザーク
「うわっ!?」
地面から出てきた魔物に驚き、ロスカが尻もちをついてしまう。
現れたのは体が岩で構成されているのかと思うような魔物。形態としてはドラゴンに似ているが、その翼は小さい上に尻尾も短めだ。
顔立ちもレッドドラゴンとは違って、非常に鋭角的でゴツゴツとしている。
レッドドラゴンとは違って、洞窟内で生息することに進化した魔物なのだろうか。
【ドボルザーク 危険度A+】
また危険度Aの魔物!? いや、今回は+が付いている。ということは、森で遭遇したレッドドラゴンよりも危険ということになる。
俺は素材を採取していたいだけなのに、どうしてこうなってしまうのか。
こんな魔物といきなり戦うだなんて冗談ではない。
ドボルザークは地中から出ると、体を震わせて岩や砂埃を落とす。
「ロスカさん、逃げましょう!」
「は、はいっす!」
立ち上がったロスカと即座に合流して俺たちはドボルザークから距離を取る。
足も短く、岩を纏ったようなドラゴンだ。レッドドラゴンのように空を飛ぶことも、機敏に走り回ることはできないだろう。
あの魔物が入れない狭い通路にでも避難すれば、こっちのものである。
そう思って後ろを確認すれば、ドボルザークの姿は既になかった。
まさか、あの鈍重そうな体で空を飛べるのか? そう思って、上を見上げるがそれらしい姿は見えたらない。
ということは、まさか地中を潜って――
その考えにたどり着いた瞬間、地面が振動して、真下からドボルザークが飛び出してきた。
ドボルザークが飛び出してきた衝撃により、走っていた俺とロスカは空中に投げ出されて地面に落下。
「ぐっ!?」
「痛いっすっ!」
なんとか頭からの落下は避けることができたが、腰とか腕とかを打ってしまって痛い。
ロスカも腰を打ってしまったのか痛そうな声を上げた。
狭い通路に入り込んでしまえば逃げられると思っていたが、地中から突撃してくるので安全とは言い難いな。
「ゴアアァァッ!」
ドボルザークが大きくのけぞり、口から燃え盛る火炎弾を飛ばしてくる。
斜線上にいた俺は思わず体を投げ出した。
すると、後方で大きな爆発が起こり、地面がメラメラと燃え上がる。
それは俺たちが逃げようとしていた方角。
どうやらドボルザークは俺たちを逃がすつもりは毛頭ないらしい。
背後では炎が燃え盛り、運よく逃げ込んだとしても地中からの攻撃がある。
……ここでコイツと戦うしかなさそうだ。
「ロスカさん、戦いましょう!」
「やってやるっすよ!」
幸いロスカも怪我は大したことないのか、即座にハンマーを構えて闘志を露わにした。
ハンマーを構えながらロスカがドボルザークの下に一直線に向かっていく。
ロスカは素早い身のこなしでドボルザークの噛みつきを躱すと、そのまま懐に入り込んでハンマーを振るった。
金属と金属がぶつかるような甲高い音が鳴り、派手に火花が散る。
「~~っ!? なんつう硬さっすか!」
ロスカの振るったハンマーはドボルザークの硬い体に阻まれ、弾かれてしまっていた。
あの岩を纏った体では生半可な攻撃は通じないということか。
前衛であるロスカを頼りにしていただけに、その結果は少し辛い。
「おっ、わっととっ!」
弾かれた衝撃で体勢を崩したロスカにドボルザークは噛みつきや、体当たりを繰り出して追撃を入れる。
ロスカは危なげない体勢ながらも、獣人の身体能力を活かして何とか躱して近くにある岩陰に退避。
しかし、その岩が妙に赤黒いのが気になって鑑定を発動。
【爆発石】
可燃性のガスを含んだ石。火気や衝撃を与えると爆発を起こす。
気付いた時には既に遅い。ドボルザークは爆発石を爆破させようと、先程の火炎弾を飛ばそうとしていた。
「アイスシールド!」
俺は警告の声を上げることをやめて、ロスカと爆発石の間にかなり多めに魔力を込めた氷壁を生成。
その直後、ドボルザークの火炎弾が引火し、爆発が巻き起こった。
「うわっ!」
「大丈夫ですかロスカさん!?」
「シュウさんの魔法のお陰で助かったっす!」
爆発の衝撃を受けて転がったようだが、ロスカに目立った傷はない様子。
俺はロスカが大勢を整える時間を稼ぐために、氷魔法をドボルザークの足元を凍り付かせる。続けてアイスピラーを発動して飛ばすと、体に纏う鉱石をいくらか削った。
レッドドラゴンと戦ってから練習していたので、魔法の精度と威力は上がっているはずだが、相手がそれ以上に硬い。
一体、どれほどの防御力があるんだ。
「ああっ! ちょっとシュウさん! 背中の水晶に傷つけないでくださいっすよ!?」
「無茶言いますね!? それにさっきと言ってることが逆になってますよ!」
アントルを倒す時はロスカが素材を気にせずに倒していたというのに、装飾に使う素材はダメですか。
まあどっちが稀少だと言われると後者なので仕方のないことではあるが、ちょっと釈然としない気分だ。
ドボルザークが足元の氷を砕いている間に、ロスカは体勢を整えて距離を取った。
「あの石。すごい爆発っすね」
俺が生成したアイスシールドは結構な魔力を込めたというのに、ヒビが入ってしまっている。生半可な防御魔法では、ロスカを守り切ることはできなかっただろう。
「火気や衝撃に反応して爆発するみたいです。気を付けてくださいね」
「…………」
返事がないロスカを心配して視線をやると、彼女はドボルザークと爆発石を交互に見つめていた。
「どうしました、ロスカさん?」
「……いや、ちょっとあの石を利用できないかなと考えていたんす。ほら、生半可な攻撃じゃ通じないみたいっすから」
確かに、あの爆発をドボルザークに当てることができたら、かなりの威力になりそうだ。
チマチマと魔法を当てたり、ロスカが必死にハンマーで叩くよりもよっぽどいい。
上手くいけば、体表の鉱石を剥がせるかもしれない。
「いけそうですね。それでいきましょう」
「じゃあ、囮は――」
「ロスカさん、お願いしますね!」
「いやいや、ここは普通男であるシュウさんがやる場面っすよね!?」
「獣人のロスカさんの方が俺よりも遥かに身体能力が高いじゃないですか。それに俺は火魔法も使えるので、ドボルザークに直接ぶつけさせなくても遠くから爆発を当てることができます」
ロスカの言い分はわかるが、俺が囮になってもすぐに潰されるだけだ。
ここは機敏に動き回り、驚異的な反射能力のあるロスカの方が適任だ。
「ふぐぐぐっ! 言い分はわかるっすけど納得いかないっす!」
納得はできなくとも理解はできているらしく、ロスカはふくれっ面をしながらドボルザークに向かっていった。




