採取者の勘
「ところで、シュウは何を目当てに掘りにきたんだ?」
気まずい空気を振り払うようにラッゾが明るく言って話題を変える。
俺が魔物の討伐を受けないことは、あの街の冒険者では皆が知っていること。魔物の討伐という選択肢はおのずと外されているようだ。
まあ、それは正しいんだけどね。
「主に硬魔石を採りに」
「あー、あの魔力を込めると硬くなる鉱石な。俺は魔力がほとんどねえから、全然硬くならねえけど」
「硬魔石っていったら地下四階だよね。あの辺は危険な魔物も多いんだけど、ドラゴンを倒しちゃうシュウなら大丈夫か」
「大丈夫じゃないと思うので戦闘は極力避けます」
「……フン、随分と謙虚なことだ」
特にゼルスパイダーという蜘蛛の魔物が毒を持っているという。少しでも噛みつかれたらアウトな魔物と戦いたくない。
「ラッゾさんたちは何を探してるんです?」
「俺たちは黒鉱石と魔力鋼だな。防具を新調するために必要なんだわ」
防具のためか……懐かしいな。俺もモンモンハンターをやっていた時は、防具を新しく作る度に必要な鉱石を採りに行っていたもんだ。
「というか、偉そうにそう言うならちゃんと掘ってよ。ラッゾの防具のためでしょ!」
「うるせえ、体力バカ! 少しくらい休ませろ!」
なんて言い合いを再び始めるレオナとラッゾ。
仲の良い冒険者たちだな。
黒鉱石と魔力鋼か。この辺りにはあるのだろうか。
密かに検索して調査を発動してみると、レオナやラッゾから離れた位置に埋まっているのが見えた。
ふむ、ちょうどドロガンから貰ったツルハシがあるし、使い心地を試してみるか。
そう思ってツルハシを振りかぶって、壁を掘ってみる。
すると、神様に貰った普通のツルハシよりも、ごっそりと掘ることができた。
おお、さすがはドロガンが作ったものだけあって、振り心地も違うな。
軽いのにたくさん土を掘ることができる。
「あー、ちょっと待てシュウ。良いツルハシ使ってるのに、そんな風に振ったら台無しだぜ?」
振り心地のいいツルハシを使うのが楽しくて、ザックザックと掘り進めているとラッゾに止められた。
「もっといい使い方がありますか?」
「おうよ、ちょっと貸してみ」
ラッゾが手本を見せてくれるというので、俺は素直にツルハシを渡す。
「元々ツルハシの金具にはそれなりの重さがある。だから、無理に振り上げて力まなくても、金具の重さを利用するように打ち付ければ体力を消耗することなく掘れるってもんだ。うおっ!? このツルハシ、めっちゃ掘れるじゃねえか!?」
そう言って、小さな動きでツルハシを打ち付けて、壁を掘っていくラッゾ。
少ない動きなのに関わらず、俺よりも速いペースで壁を掘り進められている。
「なるほど、俺の動きは無駄が多すぎたんですね」
「場所によってはツルハシを振りかぶるほどのスペースがない所もあるからな。こういう掘り方ができて損はないはずだぜ」
「ありがとうございます。やってみます」
ツルハシを受け取った俺は、ラッゾのように大きく振りかぶらず、金具の自重を生かすようにツルハシをコンパクトに打ち付ける。
すると、しっかりと金具の重みが伝わったのか、壁がボロりと崩れた。
「おお、こんなにあっさりと!」
「そうそう、そんな感じだ」
あっさりと壁が砕けていく感触がとても気持ちがいい。
無駄な力が籠っておらず、疲労が最小限になっているのを実感できる。これならツルハシへの負荷も低くなりそうだし、効率よく掘り進めることができそうだ。
なんて思いながら掘り進めていると、壁から銀色に光る鉱石が露出した。
多分、これは魔力鋼だな。というか、それがわかっていて掘り進めていたわけだし。
「おっ、魔力鋼だ」
「マジか!?」
「えっ、本当!?」
何気なく呟くと、ラッゾとレオナが驚き、羨ましそうに魔力鋼を見つめていた。
「頼む、シュウ! この魔力鋼を買い取らせてくれねえか?」
「差し上げますよ。ツルハシの使い方を教えてくれましたから」
「いや、いくら教えたって言っても、魔力鋼の方が断然価値が高いぞ?」
「ええ、銀貨五枚はするわよ?」
それを知っておきながらここで心配をしてくれるラッゾやレオナはやはりいい人だと思う。普通は、自分の利益を優先してそんな気遣いは中々できるものではない。
「いいんですよ。その代わり、また何かあったら力を貸してください。俺はまだ冒険者になって一か月程度でわからないことばかりなので」
依頼人とは依頼を通じて仲良くなっているが、冒険者の知り合いはあまりいないのが現状だ。
冒険者として活動している以上、同じ冒険者の知り合いも欲しいと思っていたところなのだ。
「そっか。私たちと同じランクCになったけど、シュウってばまだ街にきたところだもんね」
「わかった。また何かわからないことがあったら先輩冒険者の俺たちが教えてやるよ」
「……知っていることなら教えてやる」
「ありがとうございます」
頼りになる先輩冒険者と仲良くなれるなら、魔力鋼を譲ることくらい安いもの。
彼らの知識や経験にはそれ以上の価値があるからな。
「よっしゃ、シュウが見つけてくれた魔力鋼を掘りだすぜ! エリク、手伝ってくれ。お前、こういう細かい作業得意だろ」
「……そういう仕事なら任せろ」
ラッゾとエリクが早速剥き出しになった魔力鋼を掘りだす作業に入る。
さて、ここにいても邪魔になるだけだし、俺も目的の素材を採りに向かうか。
その前にせっかく素材の場所がわかるのだ。場所を教えておいてあげよう。
「レオナさん、なんだかこの場所と、あの場所に魔力鋼や黒鉱石がある気がします。俺の勘ですけど」
「えー? ほんとかな? でも、一発で魔力鋼を当てたシュウの勘だし、信じて掘ってみることにするよ」
鉱石の在り処などわかるはずもないので、流されることも覚悟していたがそんなことはなかった。
冗談半分の気持ちや退屈しのぎもあるかもしれないが、レオナは俺が印をつけた部分を採掘し始めた。
割と浅いところに魔力鋼があるので、レオナは直に掘りだすことができるだろうな。
「それじゃあ、俺は先を進みますね」
「おお、ありがとな!」
「気を付けてねー!」
ラッゾたちと別れて坑道をしばらく進むと、レオナのはしゃぐような声が微かに響いた。




