採取した食材で夕食
浴場から上がり、寝室でゆったりと寛いでいると扉がノックされた。
返事をすると、入ってきたのはメイドさんだ。
「シュウ様、お食事のご用意が整いました」
「わかりました。今、行きます」
俺はソファーから立ち上がると、寝室を出てダイニングルームへ移動。
ダイニングルームにたどり着くと、既にアルトリウスとフランリューレが席についていた。
「お待たせして申し訳ありません」
「気にしないでくれ。シュウ殿は客人のようなものだ」
依頼を受ける前よりもアルトリウスの態度が遥かに柔らかいものになっている。
きっちりと依頼された食材を集めたことで信用を獲得できたようだ。
メイドがイスを下げてくれたので、遠慮なく腰を下ろす。
体面に位置するフランリューレの服装は薄手のワンピースではなく、真っ赤なドレスとなっていた。髪型はツインテールのままだが、薔薇の形を模した髪留めが付いている。
「どうかされましたか?」
「そのドレスもお似合いだと思いまして」
「……あ、ありがとうございますわ」
素直な感想を告げると、フランリューレは顔を赤くして俯き気味に言った。
前回、食事を一緒にした時や、保護区に行く前に服装を褒めた時は、余裕の笑みで受け止めてくれたのだが、今回は妙にしおらしい態度。
先ほど湯上り姿を見られたことを引きずっているのだろうか? 彼女にとってこの程度の社交辞令くらい慣れているだろうし、本気で照れていることはないだろう。
グラスを傾けると、水梨の炭酸割りが口の中で広がった。
濃厚な水梨の味がシュワシュワ水によって程よい味わいになっている。
そのまま水梨のジュースとして味わうのもアリだが、個人的にはシュワシュワ水で割ったこのくらいの味わいの方が甘みとフレッシュが際立って好みだ。
喉を潤したところで、アルトリウスが口を開いた。
「さて、夕食は二人が持ち帰ってくれた食材をメインとして料理にしてある。存分に楽しんでくれ」
「ありがとうございます」
アルトリウスが声を上げると、使用人たちがワゴンを押してダイニングルームへ入ってきた。
「爆裂コーンの濃厚スープでございます」
次に差し出されたのは黄色いスープ。
「コーンの香りがすごい!」
顔を近づけなくても濃厚なコーンの香りが漂ってくる。
甘い香りだけで美味しさが伝わってくるようだ。
匙ですくってみると、とろみがある。口の中に入れると、スープが舌の上で消えていく。
スープの中で溶けているタマネギやバターの甘みが感じられた。
ごろりと入っている大きなコーンの粒はとても食べ応えがある。
弾力があり、噛むとコーンの旨みが染み出てくる。食感のアクセントとしても楽しい。
「美味しい」
「爆裂コーンの美味しさが凝縮されていますわ」
シンプルな材料だけで構成されているお陰で、コーン本来の香り、旨み、甘みがダイレクトに伝わってくる。
スープとして食べても美味しいが、パンに塗って食べたり、パスタに絡めたりしても美味しいだろうな。
爆裂コーンのスープを食べ終わると、小さなグラスがちょこんと置かれた。
「草海老のカクテルサラダです」
茹でた草海老、きゅうり、パプリカ、ブロッコリーなどの鮮やかな野菜が詰まっており、とてもオシャレだ。
「フリットにするか迷ったが、フランから素揚げにして食べたと聞いてな。今回はサラダにさせてもらった」
「お気遣いありがとうございます」
道中で俺とフランリューレがどういうものを食べたかも把握済みらしい。
異なる調理をされた草海老の味も気になっていたので大変嬉しい配慮だ。
フォークで突いて食べてみる。
プリッとした食感が心地いい。草海老の甘みと潮の旨みが広がる。
陸地に棲息しているのに、どうしてしっかりとした磯の風味を感じるのだろう。
ちょっと不思議だけど、そんなところも含めて草海老の味は面白い。
「草海老の甘みがしっかり感じられます」
「素揚げもいいですが、茹でたものも美味しいですわ」
フランリューレも顔をほころばせる。
甘いクリームをベースにしたソースとの相性も良く、他の野菜と一緒に食べると食感がさらに心地いい。というか、他の野菜の甘みや旨みも尋常ではない。
「一緒に入っている野菜は保護区にあるものですか?」
「ああ、どれらもうちで栽培している野菜だ。森林ブロッコリー、三色パプリカ、ガスパラガス、根キュウリを使っている」
尋ねてみると、ライラート家で栽培に成功している野菜のようだった。
食べながら鑑定してみると、それぞれの野菜についての情報が出てきて面白い。
とはいえ、食事中なのでサラッと概要を確認する程度にとどめておこう。
草海老のサラダを食べ終わると、平皿の上にこんもりとした黄色い生地の載った料理が出てきた。
「王葱と岩じゃがのガレットです」
【王葱】
万能葱の変異種。千本の一本の割合でしか出現しない稀少食材。長さは二メートル。
通常の万能葱よりも遥かに甘みや旨みが強い。
生で食べても美味しく、齧ると果汁のような勢いで甘みが出てくる。
王葱という食材が気になったので鑑定してみると、情報が出てきた。
どうやらこちらもかなり貴重な食材のようだ。
その稀少性と手に入れる手間暇を考えると、胃が痛くなりそうなので何も考えないようにしよう。俺は出された料理を美味しく食べるまでだ。
香ばしい油の匂いのするガレットにナイフを入れると、ザックザックと小気味のいい音が鳴った。口に入れるまでもなく、絶対に食感がいいやつだとわかる。
食べやすい大きさにカットしたところで、フォークで口の中へ運ぶ。
歯を突き立てる度にザクザクとした食感が響き渡る。
対面に位置するフランリューレや斜めに座っているアルトリウスの口からも音が聞こえてくるほどだ。
「素朴な甘みがいいですね」
「ああ、チーズとの相性も素晴らしい」
ガレットの中にはチーズが混ぜ込まれており、その塩っ気が岩じゃがの甘みととても合っていた。
「岩塩をかけて食べても美味しいですわよ」
「やってみます!」
フランリューレにおすすめされて、削られた岩塩を振りかけて食べてみる。
チーズとは違った、爽やかな塩味が素朴な岩じゃがの甘みとマッチしている。アクセントとしてとてもいい。
「確かにこちらも美味しいですね!」
「お口に合ったようで何よりですわ」
感想を述べると、フランリューレが嬉しそうに微笑んだ。
ガレットを食べ終わると、今度はメイドではなくコック服を着た料理人がワゴンを押してきた。恐らく、メイン料理の登場だろう。
「メインの魚料理、天空魚の揚げタタキです」
料理人の差し出してきらお皿にが、細長い天空魚の身が横たわっていた。
「……身が綺麗だ」
驚くのは天空魚の身の美しさ。火がしっかりと通っている外側は半透明で、ほとんど加熱されていない中央は透明だった。奥にある皿の模様がくっきりと見える。
「鮮度の高い天空魚は、身が透き通っているのだ」
「まるで、ガラス細工のような美しさですわ」
空を飛んでいる姿も綺麗だったが、調理された姿も美しい。
美しさを堪能したところで、その真っ白な切り身を少量の塩につけて口へ。
外は少し弾力があるが、中はしっとりと柔らかい。
太刀魚やアジのような淡泊な味わいながらも、しっかりと磯の風味と旨みがある。
「舌の上でとろけてなくなった!」
味わっていたら突如として口の中から身が消え失せた。そう錯覚するほどの柔らかさだ。
そして、口の中に余韻が広がる。たった一切れなのに、とても満足度が高いな。
「……美味しい」
「白身魚において、これほど複雑な味わいをする魚を他に知らないな」
アルトリウスが依頼した食材は、そのどれもが段違いの美味しさをしている。彼がちょっと自慢げな様子をするのも頷けるというものだ。
新作はじめました。
『異世界ではじめるキャンピングカー生活〜固有スキル【車両召喚】はとても有用でした〜』
異世界でキャンピングカー生活を送る話です。
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