ライラート家への帰還
頼まれた食材のすべての採取が済んだ俺たちは、美食保護区を抜けて、ライラート家の屋敷へ戻ってきた。
俺たちが戻っていたことが先に知らされたのか、馬車が屋敷の前に止まると既にアルトリウスが待っていた。
「お父さま! ただいま戻りましたわ!」
「お帰り、フランリューレ。無事に戻ってくれて嬉しいよ」
馬車から降りたフランリューレに歩み寄って抱きしめるアルトリウス。
ダイニングルームでは平然とフランリューレの同行を頼んでいたように見えたが、実際のところはかなり心配していたようだ。
「どこも怪我はしなかったかい?」
「大丈夫ですわ! シュウさんに守っていただきましたから」
笑みを浮かべながらのフランリューレの報告にアルトリウスは安堵の笑みを漏らす。
多少の擦り傷なんかはルミアのポーションで治療したので、フランリューレの身体には一切の怪我はない。アフターケアも完璧だ。
フランリューレと俺の無事が確認できたところで俺たちは屋敷に入る。身体を休めるために寝室のふかふかなベッドにダイブといきたいところだが報告をするのが先だ。
応接室に入ると、アルトリウスとフランリューレがソファーに腰を下ろし、体面に俺が腰掛けた。
「二人とも無事に戻ってきてくれてよかった。それで素材の方はいくつ集まったかね?」
アルトリウスの問いかけに、俺とフランリューレは顔を見合わせてクスリと笑った。
どうやら彼は、俺たちが一日ですべての素材を集めてきたとは思っていないようだ。
「すべての素材を採取いたしました」
「おお、そうか! すべての素材を――って、全部かね?」
「はい、すべて採取してきました!」
アルトリウスが困惑する中、俺はマジックバッグから取り出した素材を取り出した。
テーブルの上にはボムコーンから採取した爆裂コーン。
シュワシュワの泉で汲んできたシュワシュワ水。
バイローンを倒して得た、バイローン各部位の肉。
巨大樹を回遊していた天空魚。
そして、巨大樹の頂点にのみ生っている巨大樹の実。
アルトリウスから採取を依頼された食材のすべてが並んでいた。
食材を目にしたアルトリウスはわなわな身体を震わせ、大きな声を漏らした。
「お、おお、おおおおお! まさかこの短時間ですべての食材を採取してくるとは思わなかった!」
どうやらかなり驚いているようだ。
これには俺もフランリューレもしてやったりといった顔を浮かべる。
こういう人の驚かせ方は結構好きだ。
「採取の仕方も完璧だ。お陰で品質が高く、鮮度も抜群だ」
素材を手に取り、ルーペのようなものでじっくりと確認しながら感想を漏らすアルトリウス。
「フランリューレ様に手伝って頂いたお陰です」
「あまりにもシュウさんの知識が豊富で腕がいいものですから、わたくしがお役に立てたのは微々たるものですわ」
「そんなことはありませんよ。保護区を熟知しているフランリューレ様が、いたからこそ迅速に移動し、素材を見つけ、魔物に対処することができたのです。私一人ではこうも短時間で採取を終わらせ
ることは不可能でした」
「……あ、ありがとうございますわ」
控え目な意見をする彼女の代わりに活躍を語ってみせると、フランリューレは顔を赤くして俯いた。
父親の前ということもあって恥ずかしかったのかもしれない。
フランリューレが同行してくれて助かったのは事実なので、しっかりとアピールしておかないとな。
「娘が役に立ったようで何よりだ」
フランリューレの活躍をしっかりと伝えると、アルトリウスは満足そうに頷いた。
「ちなみに他にも保護区内で採取できた素材はあるかな?」
「もちろん、ありますよ」
頼まれた素材とは別に採取した素材もアルトリウスが買い取ってくれる契約だ。
俺は個人的に採取した素材の数々をテーブルに載せていく。
カニカマキリ、千本タマネギ、ゼリンの実、魔木、スルメネギ、オーガニンニク、岩じゃが、オリーブウオイル、魔猿の肉、スパイシーの樹皮、草海老、ベジタブルドライフラワー、豚薔薇、濃縮果
汁の実、枝キノコ、枝豆、水梨、黄金コーン、クイーンアントの蜜袋などなど、とにかく保護区内で採取できた食材を提出した。
応接室のテーブル一つでは乗り切らず、執事の人が追加の台座を持ってくることですべての食材が載ったほどだ。
こうやって採取した食材を眺めると、随分と採取したものだと思う。
「む? この金色に輝くコーンは?」
数多の食材の中でアルトリウスが驚きの表情を浮かべた。
「ボムコーンから採取した黄金コーンです」
採取したというより、貰ったという方が正しいが。
「……美しい輝きだ。保護区では何体ものボムコーンを飼育しているが、こんな食材が採れるとは今まで知らなかった」
どうやらフランリューレだけでなく、アルトリウスも知らなかったようだ。
「シュウ殿、これはいくつある?」
「一つだけです」
未知の食材とあれば、アルトリウスが欲しがるのは予想がつく。
だけど、たった一つしかない素材となると、できれば俺も手放したくはない。
「黄金コーンについてはお譲りできませんが、代わりに採取方法をお教えするというのはどうでしょう?」
本来ならば依頼人の要望ということもあって譲るべきなのだろうが、ボムコーンは美食保護区に複数体いると聞いた。だったら、一つを無理に取り合うよりも分母を増やした方がいい。その方がライ
ラート家の大きな利益になるわけだしな。
「……その方法はシュウ殿以外でも可能なのかね?」
アルトリウスもそのことがわかっているのか、すぐに否定することはなかった。
興味深そうな視線を向けながら尋ねてくる。
「保護区の警備の方が同伴していれば、フランリューレ様でも可能だと思います」
フランリューレだけでは少し荷が重いが、前衛を張ってくれる者がいれば何とかなるだろう。
「では、それで手を打とう。聞かせてくれ」
「ボムコーンから黄金コーンを手に入れる方法は、戦闘でボムコーンを屈服させることです。頭頂部に生えている髭を燃やすなり、切るなりすれば、相手は繊維を喪失して差し出してきます」
ここで肝なのが完全に髭を潰してしまわないことだ。
髭がなくなればボムコーンは急激に弱ってしまい、黄金コーンを手に入れることはもちろん、爆裂コーンの鮮度も落ちてしまう。
黄金コーンを手に入れるために髭を集中狙いして、壊してしまっては今後の生命活動も危ぶまれ、爆裂コーンの採取すらままならない。
「なるほど。ボムコーンにそのような特性があったのか。わかった。留意して採取を狙ってみよう」
黄金コーン採取の注意事項を伝えると、アルトリウスはしっかりと頷いた。
理性的な瞳の奥にはギラギラとした炎が見えている。
きっと落ち着いたらすぐにでも採取に向かわせるのだろうな。
「それにしても頼した食材を採取しつつ、これだけの食材を採取してくれるとは……」
「保護区に自生している素材は見たことがないものばかりでしたので、ついたくさん採取してしまいました」
「シュウさんってば、わたくしが先を促さないとずっと採取をしているんですよ?」
「すみません」
でも、俺は悪くない。豊かな素材で溢れている美食保護区が悪いんだ。
見たことのない素材や良質な素材を見つければ、調べて、採取するのが採取人の性というもの。むしろ、自生して依頼を優先させたことを褒めてほしいくらいだった。
「これらの食材はどれくらい売ってくれるかね? こちらの要望としては魔木は売ってもらいたい。クイーンアントの蜜袋に関しては二瓶ほど欲しい」
「魔木に関しては、個人で楽むために一本だけ頂きたいのですが構わないでしょうか?」
「それくらいならば問題はない」
こちらの要望を伝えると、アルトリウスはホッとしたよう笑みを浮かべた。
魔木に関しては、かなり稀少なためにフランリューレからできる限り売却してほしいと頼まれているからね。
自分で燻製料理を楽しんだり、お裾分けするには一本もあれば、十分なのでそれ以外は全部売っても構わなかった。
「あとはゼリンの実、オーガニンニク、枝キノコ、水梨なんかは買い取らせてほしい」
「構いませんよ」
これらの食材は多めに採取してある。マジックバッグで保管しておく最低分と、自分が楽しむくらいの量が残っていればいい。それ以外は売ることにする。
「あとはそうだな……クイーンアントの蜜も欲しい」
「クイーンアントの蜜ですが、半分ほどこちらで頂いてもよろしいでしょうか? カルロイド様の奥様や、お世話になっている方々に贈りたいので……」
クイーンアントの蜜は貴重な甘味でありながら、即効性の高い美容液でもある。
こちらは是非ともお土産として確保しておきたい。というか、全部手放してしまったら後で怒られそうで怖い。
「ああ、彼の奥方は美容に目がなかったな。今回はカルロイドにシュウ殿を紹介してもらった借りがある。クイーンアントの蜜については譲ることにしよう」
「助かります」
こちらの背景を察してくれたのか、アルトリウスは譲歩してくれた。
とてもありがたい。これで俺は大手を振ってグランテルに帰ることができるというものだ。
「他の食材や素材についてはどうしたい? 買い取ってほしいのであれば、相場に色をつけて買い取ろうと思う」
どうやら要求されなかった他の食材に関しては、稀少性はそこまで高くなく、ライラート家でも確保が簡単なようだ。
「では、残りのものは持ち帰ってもいいですか?」
「構わないさ」
特にお金には困っていないので、残りの素材は売却せずに手元に保管することにした。
クイーンアントの甲殻などはロスカのお土産にしたいし、魔猿の肉は魔木で燻製にするという目論見があるからね。
「これで採取した食材や素材は全部かね?」
「あっ、最後にとびっきりのものが残っています?」
「おお、それは楽しみだ。見せてくれるかね?」
「もちろんですが、この部屋には入りきらないくらい大きなものでして……」
「お父さま! 庭に移動しましょう!」
俺がこれから出すモノが何なのか察して、フランリューレが顔色を変えて提案する。
「……庭? 採ってきたモノはそこまで大きいのかね?」
「口で説明するよりもご覧になった方が早いですわ! とにかく、移動いたしましょう!」
首を傾げるアルトリウスの背中をフランリューレが押し、俺たちは応接室を出て庭に移動。
ライラート家の屋敷は庭も広大だ。
大きな道の傍には噴水が設置されており、綺麗な花畑が広がっている。
ここなら例の食材を出しても問題なさそうだ。
「では、食材をお出ししますね」
アルトリウスやフランリューレには離れてもらい、俺はマジックバッグを解放。
そして、冷凍されたガラルゴンを取り出した。
その瞬間、周囲で控えていた使用人たちが悲鳴を上げた。
アルトリウスは悲鳴こそ上げなかったものの、躍動感あるガラルゴンを前にして激しく動揺している模様。
常に落ち着きのある彼だが、これだけ大きい食材は想定外だったらしい。
「――ッ!? シュ、シュウ殿!? こ、この魔物は……!?」
「巨大樹の頂上に棲息していましたガラルゴンという魔物です」
「聞いたことのない魔物だ。危険度は?」
「Aです」
「……そんな魔物と遭遇するとは不運だったな」
「遭遇した時は終わりかと思いましたわ」
「本当によく無事に帰ってこられたものだ」
え? 不運というか、いつものことなんだけど、二人の口ぶりからするとそんなことは言えなかった。魔物をおびき寄せる疫病神とか言われそうだし、無駄な口は挟まないようにしよう。
「……それにしても恐ろしい形相をしているな。これが空を自在に飛んで襲ってくると思うと、恐怖で身がすくんでしまいそうだ」
「ちなみにガラルゴンですが、私の鑑定スキルによると食べられます」
「ほう! 食べられるのか!」
「えっ!? 食べられるんですの!?」
俺の一言にアルトリウスだけでなく、フランリューレも驚きの声を上げる。
美食一家だけあって美味しいものには目がないようだ。
ガラルゴンの氷像を回収する時に、食べられるのか鑑定をかけてみたら、見事に食べられる旨が表記された。そんなわけでガラルゴンは食べられる。
「はい。とても美味なようです」
「……買い取らせてもらってもいいだろうか?」
改めて伝えると、アルトリウスは唾液を呑み込んで述べた。
「最低限の素材を頂けるのであれば、残りはお売りします」
「よし、では買い取ろう!」
ガラルゴンに怖れを露わにしていたアルトリウスだが、ケロリと態度を変えた。
さすがは美食貴族。
その食材が美味であると知れば、危険度Aの魔物でも躊躇なく買い上げるよう。
態度の変わりようと胆力に、俺は思わず苦笑いするのだった。
新作はじめました!
『スキルツリーの解錠者~A級パーティーを追放されたので【解錠&施錠】を活かして、S級冒険者を目指す~』
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自信のスキルツリーを解錠してスキルを獲得したり、相手のスキルを施錠して無効化できたりしちゃう異世界冒険譚です。




