表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のんびり素材採取生活  作者: 錬金王
美食保護区採取編
190/218

シュワシュワ泉

『異世界のんびり素材採取生活』の小説3巻とコミック2巻は7月発売予定となります。


 オリーブウのように現れた魔物をスタンニードルでスタンさせながら進んでいくと、


 涼やかな水の音が聞こえ始めた。


 ピタリと足を止めて耳を澄ますと、ただの清流の音とは違うのがわかる。


「水の弾ける音がします」


「本当ですわ! きっと、シュワシュワ泉が近いのでしょう!」


 素材が近いからといって慌てるのは厳禁だ。


 逸る心を抑え、きっちりと周囲を警戒しながら早足で進んでいく。


 すると鬱蒼としていた視界が開け、綺麗な水の湧き出る泉にたどり着いた。


 周囲を岩に囲まれており、シュワシュワと音を立てている。


「間違いありません! ここがシュワシュワ泉ですわ!」


「そうみたいですね」



【シュワシュワ水】

 天然ガスを含んだ炭酸水。口の中でシュワシュワと音が鳴る。

 自然豊かな保護区の地中で長い年月をかけてじっくりと育まれた名水。

 中央に近いほど硬度が高く、離れるほど低い軟水となる。


 鑑定してみると、シュワシュワ水についての情報が出てくる。


 やはり、炭酸水のようだ。これだけ大量の炭酸水が沸いている光景というのは中々に圧巻だ。


 傍に寄って眺めてみると、中央では常にボコボコと水が溢れている。


 あそこが源泉地であり、もっとも硬度が高いのだろう。


 炭酸が勢いよく弾けているので、屈んで覗くとすごく飛沫がかかるや。


 周囲の安全を確かめたところで、俺とフランリューレはグラスでシュワシュワ水をすくってみる。


 グラスなので炭酸ガスがとても見えやすい。まるで、シャンパンのようなきめ細かい泡だ。


 透明感も非常に高くてシンプルに綺麗だ。


「それじゃあ、シュウさん。乾杯ですわ」


「乾杯」


 フランリューレが微笑みながらグラスを差し出してきたので、俺も軽くグラスを合わせた。


 澄んだグラスの音を耳にしながら、シュワシュワ水を飲む。


 きりっとした炭酸を感じつつ、滑らかな舌触りの優しい微炭酸。


「口の中でシュワシュワとします!」


 自分でもはっきりとわかるくらいの泡立つ音がする。


 まるで口の中で潮騒が響いているかのようだ。


「シュワシュワとするからシュワシュワ水。単純ですけど、これ以上ないほどに特徴的ですわよね」


 名称を聞いた時、安直過ぎると思ったが実際に飲んでみると、このシュワシュワ感に衝撃を受ける。


 最初に見つけて名付けた人は物臭なんじゃないかと思ったけど、悩んだ結果一周回ってシンプルにいったのかもしれないな。


 清涼飲料水のようにドリンクとして使うなら微炭酸でいいかもしれないが、お酒で割るために使うのにであったり、さらなる刺激を求めるのであれば微炭酸では物足りない。


「シュウさん、どうされました?」


「中央の方が炭酸が強いそうなので飲んでみようかと」


「まあ! そうなんですのね!」


「とはいえ、このまま入って汲むのもなあ」


 そのままザブザブと泉の中に入って汲んでくるのは躊躇われる。


「お任せください、シュウさん」


 どうしようかと悩んでいると、フランリューレが杖を動かした。


 すると、シュワシュワ泉の中央の水がひとりでに浮いて水球となった。


 水球はふよふよとこちらまでやってくると、俺とフランリューレのグラスに注がれる。


「ありがとうございます。そんなこともできるのですね」


「簡単な水流操作ですわ。氷魔法が使えるシュウさんであれば、慣れればすぐに使えるはずです」


 言われて試しに使ってみると、直径二メートルほどの水球になってしまった。


「……すごくデカくなってしまいました」


「魔力が多すぎるが故に、繊細な操作が難しいのでしょうね。羨ましい限りですわ」


 俺のデカい水球を見て、フランリューレは苦笑しながらもフォローをしてくれた。


 魔力を媒体に無から水球を作ることはできるが、有るものを操作して微調整するのって意外と難しいものだ。


 持ち上げた大きな水球はマジックバッグから取り出した樽に注いで収納する。


 水はとにかく質量が嵩張るが、マジックバッグがあれば保管は楽だ。


 炭酸ガスが抜けてしまう心配もないしな。


 水球の処理をしたところで、改めて俺とフランリューレはシュワシュワ水を飲んでみる。


「――ッ!?」


 口の中で弾ける大量の泡。


 口の中で響くシュワシュワとした音しか耳に入らない。


 先ほどに比べて泡の量やシュワシュワ感が段違いだ。


 かなり炭酸が強いが、飲み込んだ時の爽快感がすごい。


 天然水の良質なミネラル分は残したまま、澄み切った味わいを出している。


「中央部はかなり刺激が強いですね!」


 サッパリとしながら感想を述べると、傍ではフランリューレが悶絶していた。


 まるで大量のワサビでも一気に食べてしまったかのような。


「フランリューレさん?」


「す、すみません。わたくしには刺激が少々強すぎるみたいで……まるで、舌を針で刺されているようですわ」


 程なくして落ち着くと、フランリューレは涙目になりながら言った。


 ああ、強い炭酸に慣れていないとそう感じてしまうのも無理はない。


「シュウさんは平気なのですか?」


「はい、平気です」


 前世でも清涼飲料水は大好きだったし、一時期は炭酸水にはまって色々な種類のものを飲んでいた。そんな前世の経緯もあって炭酸には強い耐性がある。


 シュワシュワ水の炭酸強度には、そんな俺でも驚いたが、慣れてしまえばどうってことはない。


「わたくしが楽しむ分には外側か、それよりも少し内側くらいがちょうど良さそうです」


「自分が美味しいと感じられるのが一番ですからね」


 俺のように強炭酸が平気な人もいれば、フランリューレのように苦手な人もいる。


 炭酸が強ければ美味しく正義というわけでもない。


 普段口にするのであれば、最初に飲んだ微炭酸の方がいいだろう。


 それぞれの状況に合う炭酸を使い分けるのがいい。


 そんなわけで様々な強度のシュワシュワ水を採取することにした。


 鑑定で炭酸強度を正確に数値として測り、樽へ組み上げると数値を記載する。


 数値化しておかないと強炭酸、中炭酸、微炭酸といった大まかな分類しかできないからな。


 数値があれば、おおよその炭酸の強度を把握しやすいので助かるだろう。


 地道に数値を測りつつ、採取をしていると、泉に小動物がやってくる。


 中には魔物らしき存在も混ざっているが、俺たちにまったく興味を示さずにシュワシュワ水を味わっていた。


 ごくごくと喉を鳴らしており、実にいい飲みっぷりだ。


 なんて思っていると次の瞬間には大きなゲップを漏らした。


 まあ、炭酸水を一気に飲んだらそうなるよね。


「フランリューレさん、次の水球をお願いします!」


「…………」


 苦笑しながらシュワシュワ水の採取を頼むが、フランリューレの反応がない。


 水面を見つめながら真顔で口元を抑えている。


 その込み上げてくる何かと戦っている様子を見て俺は察した。


 きっと彼女は乙女の威厳と戦っているのだ。邪魔をしちゃいけない。


 俺は彼女をそっとすることにして、黙々とシュワシュワ水を汲み続けた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用だった~』

― 新着の感想 ―
[気になる点] >きっと彼女は乙女の威厳と戦っているのだ。邪魔をしちゃいけない。 戦ってるのは乙女の尊厳じゃないです?
[良い点] いつもほのぼのとしていて、ほっこりします。 たまに「フランリューレはお嫁に行くまでに、喋り方教育されそう〜」なんて思ってますが、「待てよ?父上がフランリューレは嫁にはやらん!幸い我が家は…
[気になる点] 「シュウさん、どうされました?」 「❨中央の方が炭酸が強い❩そうなので飲んでみようかと」 と、あります。 なのでここは、 【シュワシュワ水】  天然の、炭酸ガスを含んだ炭酸水。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ