洞窟探索
「雨はまだ弱まる気配が見えませんね」
「それどころか強くなっているように思えます」
沼シャコ料理を食べ終わってからしばらく。
洞窟から見える外の雨は未だに激しいものだった。雨あられを思わせるような強い雨が強かに地面を打ち続けている。
テラフィオス湿地帯では年中雨が降り続けることは知っていたし、対策できるように道具を揃え、アイテムまで持ってきているがここまで強いとなると探索するのも難しい。
海守の腕輪を使えば、俺一人は平気で活動することができるが二人はそうはいかない。仮にそうできたとしても、これだけ豪雨だと視界もかなり悪いだろう。今、外に出て探索をするのは危険だ。
「……ふむ、この様子だとしばらく雨が弱くなることはないだろう」
雨雲の様子を眺めながらレイルーシカが呟く。
沼地をよく知る彼女がそう言うのであれば、その可能性が高い。
「このまま待機しているか、洞窟の奥を探索するかですかね?」
調査スキルで確かめてみた感じでは、この洞窟はかなり奥まで広がっている様子だ。
ラビスが教えてくれた情報では、洞窟では良質な鉱石などを採掘することができ、綺麗な群晶が形成されている場所もあるのだとか。
外に出られない以上、それらの素材を目当てに探索してみるのもアリだと思う。
「二人が求めている他の毒性素材がどんなものか聞いてもいいか? 洞窟には一部の毒を持った魔物や動植物も存在する」
もしかすると、洞窟を探索するのが得なのかもしれない。
「探している残りの毒性素材はカイシードルの毒針とタラントの毒棘ですね」
「タラントは外にしか生息していないが、カイシードルであれば洞窟にも生息している」
「それなら洞窟を探索するのが良さそうですね!」
レイルーシカの言葉を聞いて、ルミアが明るい表情で手を叩いた。
「ああ、それが効率的だろう。私も洞窟の様子を確かめておきたいので、そうしてくれると助かる」
全員の目的が一致していることもあり、俺たちは洞窟を探索することになった。
出していた魔道コンロやお皿、コップなどをマジックバッグに収納していく。
乾かしていたコートもすっかりと乾いていたので羽織った。
「すまない、少しだけ後ろを向いてもらっていいか? 乾いた衣服に着替えたい」
「それなら俺がまた壁を作りますよ」
「いや、私一人のためにそこまでしてもらう必要はない。魔力というものはできるだけ温存しておくものだからな。後ろを向いてもらうだけで十分さ」
「わかりました」
別に魔力ならたくさん余っているので全く問題ない。というか、壁無しに真後ろで着替えられる方が気まずいのであるが、無理に言っても仕方がないので素直に後ろを向くことにする。
スライムシーツの上でシュルッと衣服が落ちる音がした。
今回は傍にルミアが立っていることもあって余計に気まずい。
だからといって会話を振るのも意識してると思われて変だし、俺は無心で降り注ぐ雨を眺めることにした。
「待たせたな。もう大丈夫だ」
その声に振り返ると、最初に出会った時と同じく動きやすい戦装束に身を包んだレイルーシカがいた。
やっぱり、俺なんかが用意していた予備の服よりもこっちの方が似合う。
「では、着ていた服は荷物になるので回収しますね」
「あ、ああ、ありがとう」
本来ならば一度着た服なので洗って返したいかもしれないが、今は探索中なのでこうするのが一番楽で早い。
「では、行きましょうか」
「はい!」
「うむ!」
スライムシートを水で洗って収納して出発準備が完了すると、俺たちは洞窟の奥へと歩き出した。
●
「洞窟の奥は意外と明るいんですね」
「奥へ進むにつれて光を放つ水晶が増えてくるからな。もう光源も必要ないだろう」
「そうですね」
レイルーシカに言われて、俺は光源として浮かべていた火球を消す。
洞窟の奥は真っ暗かと思いきや、進むにつれてドンドンと明るくなっていた。
それは壁際にほのかな光を発生させている水晶があるからだ。
【発光水晶】
ほのかな光を放つ水晶。へし折ったり、傷をつけると発光することはなくなる。
不純物が多いために装飾的な価値は低い。
鑑定してみると、発光水晶というらしい。
「……私の錬金術を使っても、綺麗に使える部分は少なそうです」
ルミアがこう言うってことは不純物が相当な割合なのだろうな。それだったら、デミオ鉱山で採掘してきた水晶を研磨する方がよっぽどいいのだろう。
でも、これも素材の一つなので小さなハンマーで割って、いくつかの水晶を採取する。
手の平にゴロンと転がった水晶は、儚い光を放っていたもののすぐにそれを消失させた。
「見ての通り、装飾的な価値も低いし、光を放つわけでもないぞ?」
発光水晶を採取する俺を見て、レイルーシカが不思議そうな顔をする。
「素材の価値がなくたっていいんです。俺はこういうのを集めるのが好きなので」
「やっぱり、シュウは変わっているな」
きっぱりと主張する俺を見て、レイルーシカはおかしそうに笑う。
俺はあくまで素材コレクターだ。その素材に大きな価値があろうと、なかろうと素材であることに変わりはない。
特に使い道がなくなって俺はこういうものを集めるのが好きなのだ。
自分でも変わっている自覚があるのでレイルーシカの意見には反論する余地もないや。
「ここにやってきた思い出にもなりますし、私もいくつか持って帰ります!」
「そういう捉え方もあったか。私も一つ、記念に持って帰ろう」
ルミアの意見に触発されてか、レイルーシカも小さな発光水晶をポーチに入れる。
この世界では前世の写真のような記録物がない。が、こういった物で思い出を積み重ねることはできる。
冒険に出た時に採取した素材を見て、その時の会話を思い出すこともできるだろう。
写真と違って酷く曖昧で精度は低いかもしれないが、これはこれで赴きがあっていいと思う。
将来、年をとって冒険ができなくなってしまっても、数々の素材を眺めて思い出を振り返れるようにしたいものだな。
発光水晶の観察を終えると、俺たちは洞窟の奥へと足を進める。
ぴちゃぴちゃとあちこちで水が滴り落ちる音が響き、俺たちが足を進める度にパシャパシャと音が鳴る。陽の当らない洞窟なので滴り落ちた水が乾くことがないのだろう。
外のように地面はぬかるんでいないものやけに静かなので、自分たちの足音が気になってしょうがなかった。
洞窟の中は発光水晶のお陰で明るくなっているものの、全体としては薄暗い。
完全な影になっている部分もあるので注意は必要だ。
念のために魔石調査でしっかりと警戒しておく。
すると、前方で三つの魔石を捉えた。
「前方に魔物が三匹います」
「私は耳がいいので察知できたが、よくこの距離で気付いたな?」
ダークエルフであるレイルーシカは耳がいいが、普通の人間である俺では気付くことは困難だろう。
そういった技術に長けていたとしても、洞窟の中は絶え間なく水音が響いており、聞き分けるのが非常に難しい。
「感知系のスキルがありますので」
「なるほど、それは頼もしい限りだ」
感知系のスキルがあると明かすと、レイルーシカが納得したように頷く。
調査スキルがなかったら絶対に俺じゃ気付けないな。
「いるのはどんな魔物なんです?」
「ヤドカリのようなシルエットが見えますね」
「恐らくシザーズだろう」
その魔物ならラビスから聞いたので知っている。水辺によく棲息している甲殻種の魔物であると。
「回り道をしますか?」
「いや、その必要はない。シザーズは基本的に温厚な魔物だ。私たちがちょっかいをかけねば、襲いかかってくることもあるまい」
「それならば、通り過ぎることにしましょうか」
襲い掛かってくることがないのであれば、無理に相手をする必要はない。
それでも念には念を入れて、一応いつでも動けるようにはしておく。
近づくにつれてシルエットだけでなく、しっかりと相手を目視することができる。
青い外骨格をしたヤドカリ。サイズは俺たちの腰くらいまであり、背中には茶色い大きな貝殻を背負っている。
両手の爪はとても発達しており、発光水晶の光を反射して鈍く光っていた。
【シザーズ 危険度D】
樹海、湖畔、砂漠のオアシスなど、水辺に近い場所に生息する甲殻種。
全身が青い外骨格に覆われており、高い耐久力を持つ。
未発達ながらも鋭い鎌のような爪を持っており、機敏の動きで襲い掛かってくる。
背中は非常に骨格が柔らかく、それを隠すために大きな貝殻を背負っている。何かを背負わずにはいられない性格であり、貝殻以外のものでも背負うことがある。
鑑定してみると、やはりシザーズであった。
シザーズは発達した爪を使って必死に地面を掘っては口に入れている。恐らく、地中にいる貝などを食べているのだろう。
ギチギチと不気味な音を鳴らしながら食事している風景はちょっと不気味であるが、レイルーシカの言った通り、傍を通り過ぎても襲いかかってくることはなかった。
「問題ありませんでしたね」
「今は食事で忙しいのだろう。カイシードルのいる水辺はもうすぐだ。このまま進もう」
妙な光景にほっこりしながらも、俺たちは洞窟の奥に進んだ。
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