パーティーの重要性
『Aランク冒険者のスローライフ』のコミック3巻は本日発売! よろしくお願いします。
ブリザードを使ってマグマを凍らせて、時短移動することしばらく。
俺はフランリューレたちを伴って、再びヴォルケノスの巣へとやってきていた。
ヴォルケノスの索敵範囲に入らない遠目の岩垣から様子を窺う。
「あれがヴォルケノスですのね」
「でっけえー。Bランクの魔物にもなると迫力も違うぜ」
ヴォルケノスを見て、フランリューレとアレクが小声で慄く。
マグマゴーレムとは一線画する、生物としての格の違いを感じ取ったようだ。
「かなり警戒心が強いようですね」
ギールスが額に汗をにじませながら呟いた。
ヴォルケノスの怒りは既に落ち着いており、先程のように暴れ回っている様子はない。
大人しく座り込んでいる。ただ、視線は周囲を警戒しており、卵はしっかりと体に覆われている。
誰にも渡してやるもんかという意思がヒシヒシと感じられた。
「……あれから卵を奪うって無理じゃない?」
「だから、ネルネさんたちの力が必要なんですよ」
「いや、シュウさんなら俺たちの力なんて必要ないんじゃね? ブリザードで凍らせれば一発だろ?」
「忘れましたのアレク? ヴォルケノスの成体を討伐してはいけないんですのよ?」
「学園の課題が可愛く思えるくらい理不尽だな」
別にヴォルケノスを倒してしまってもいいのであれば、氷魔法をぶっ放して氷漬けにするだけで済む。
しかし、今回の依頼ではそうはいかないのでフランリューレたちに協力してもらっているのである。それに運搬中は他の魔物たちが邪魔してくるしな。
「どういたしますか?」
「俺がヴォルケノスの注意を惹き付けるので、ゆっくりと近付いて卵を回収してください。回収ができたら、牽制しながら撤退しましょう」
俺の提案に異論はないのか四人はこくりと頷いた。
ヴォルケノスの様子を見ながら左回りへと移動していくと、フランリューレたちがゆっくりと右回りに移動していく。ヴォルケノスに気配を悟られないように。
調査で魔力の波動を飛ばすと、フランリューレたちが岩陰で立ち止まっているのがわかった。
多分、あれ移行近付くことはできないと判断しての待機なのだろう。
それを察した俺は気配を忍ばせるのをやめて、ヴォルケノスの前に躍り出る。
すると、ヴォルケノスは素早く反応して視線をこちらに向けた。
見覚えのある侵入者に相手の瞳にメラメラと炎が宿るのがわかった。
「ガギャアアアアアアアアッ!」
甲高いヴォルケノスの咆哮。レッドドラゴンほどの迫力でないが、近距離で浴びせられると鼓膜にかなり響く。
咆哮を終えると、ヴォルケノスは短い手足を動かし、体を蛇のようにくねらせて突撃してきた。
俺は背中を向けて距離をとる。できるだけ情けなく逃げ惑って、ヴォルケノスに追いかけさせる。
ここで一番困るのはヴォルケノスが卵を取られることを警戒して巣から離れないこと。
しかし、卵を盗まれ、一度顔を見せているせいかヴォルケノスは卵から離れて迎撃を選択してくれた。俺が至近距離にいるのも原因だろう。
またいつ卵を取りにくるかわからない。そんな風にずっと警戒するのは疲れてしまうからな。目の前にその原因がいれば、排除したくなるというものだ。
卵から離れればフランリューレたちが回収してくれる。
現に視界の端ではフランリューレとアレクが走り出すのが見えた。ネルネとギールスは撤退のための援護として控えている。
「よし、ここで俺が時間を稼げば――って、うわぁっ!?」
岩陰に隠れようとすると、ヴォルケノスが突っ込んできた。
思わず横に飛んで回避すると、ヴォルケノスがその巨体で岩を押し潰した。
まるで巨大な重機だ。それが車のような速さで突っ込んでくるので恐ろしいことこの上ない。
「ブリザードライン!」
再び突進されては敵わないので、自分との間を隔てるように氷壁を生成。
ヴォルケノスは前足を振り上げて氷壁をガンガンと削っていく。
範囲を狭くしたために壁の分厚さはそれなりだ。すぐに破られることはない。
「フランリューレ! 卵はどうだ!」
「無事に回収できましたわ!」
フランリューレがよく通る声で返事してくれた。その傍ではアレクが重そうにしながらもヴォルケノスの卵を抱えて走っている。
「撤退です! 俺が殿を務めます!」
「わかりました!」
卵を回収した以上、これ以上長居する必要はない。
フランリューレたちが一目散に斜面を降りていく。
「ギャオオオオッ!」
俺もそれに続きたいところであるが、そうはいかないようだ。
ヴォルケノスが氷壁を砕いて顔を出してきた。
喉が大きく膨らんで、何かがこみ上げるような動作。
ブレスを打ち出そうとしているのがすぐにわかった。モンモンハンターで数えるのがバカらしくなるくらい見てきた技だ。
こんな至近距離でブレスをしたら、そっちも被弾するだろう。しかし、冷静に考えると相手は強靭な鱗に守られた魔物。
少しくらい被弾しても痛くも痒くもないのだろう。なんという力押し。
「だったら、こっちはこうだ! ライトボール!」
こちらにブレスを当てようとしている時は、相手がしっかりとこちらを視認している時。
つまり、そこがチャンスとなるのがゲームでも定番なのだ。
「ギャオオオオッ!?」
眩い光がヴォルケノスに瞳を焼き尽くし、堪らずブレスは中断。
巨体を大きく仰け反らせて、相手は苦悶の声を上げた。
その魔法の眩しさは俺が身をもって知っている。それに今回はあの時とは比にならないくらい魔力を込めたしな。
ヴォルケノスだろうとすぐに視力が回復することはないだろう。
「よし、今のうちだ!」
ヴォルケノスが悶絶しているのを見て、俺もすぐに撤退した。
◆
ヴォルケノスに光を浴びせて撤退すると、洞窟内部で走っている学生服の一団が見えた。
「おーい!」
「おわっ! シュウさん、ヴォルケノスは!?」
「魔法で目くらましをしました。すぐに追ってこられないと思います」
俺がそう言うと、アレクたちはホッと安心したような顔になる。
「そ、そうでしたのね。安心いたしましたわ」
「……ヴォルケノスまで一緒に連れてこられたかと思った」
「さすがにそんな酷いことはしませんよ」
ヴォルケノスを連れたまま逃げるだなんて鬼畜過ぎる所業だからね。最低限時間稼ぎをして撒いておかないと。
「ヴォルケノスの卵は無事ですか?」
「ああ、この通りだ!」
アレクが両腕に抱えた卵を見せてくる。
間違いなくそれはヴォルケノスの卵だった。
「俺が持ちますよ」
「いや、俺に持たせてくれ。シュウさんを自由にしていた方が絶対にいい!」
「その方が効率的です」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
自分の依頼物なので運ぼうとしたが、そのように言ってくれるのであれば有難い。
「では、予定していたルートで戻りましょう」
俺たちは卵を運搬するアレクを囲み、彼の運搬スピードに合わせて進んでいく。
先程見せたルートをしっかりと覚えているようで、俺が先導しなくても皆予定ルートを進んでくれていた。これは楽で助かる。
さてさて、第一関門だ。ここのマグマの中にはマグマレスがたくさん泳いでいるからな。
周囲の魔物を警戒するために魔石調査を発動。
すると、マグマの中にマグマレスがたくさん潜んでいた。中にはこちらの存在に気付いているのか、ひっそりと近付いてきているものもいる。
両手が自由な今であれば容易に迎撃ができる。
「ブリザード!」
俺はひっそりと近付いてきているマグマレスたちに氷魔法を叩き込む。
今まさに正面から顔を出そうとしていたマグマレスは、マグマごと氷漬けとなった。
地中にマグマレスが慌てて散っていったのがわかるが、まだちょっかいをかけるのは諦めていないよう。
マグマから近付いてくるマグマレスを警戒していると、俺のスキルに新たなる魔物の反応が示される。シルエットからしてリザードマンだ。
「正面からリザードマンが四体です」
「わたくしたちが迎撃しますわ!」
俺はマグマレスの迎撃に集中したいのでフランリューレたちが対応してくれて嬉しい。
正面の洞窟からリザードマンが剣を掲げてやってくるが、ネルネの水球で弾き飛ばされ、フランリューレの雷の矢で感電していた。
いくら盾で防ごうとも、あのコンボを避けるのは難しいだろうな。
リザードマンたちはピクピクと体を痙攣させている。
事切れるほどのダメージを与えていないが、わざわざ討伐する必要もないし、そんな暇はないのでスルーだ。
倒れたリザードマンの傍を通り抜けると、左側にある小さなマグマ溜まりからマグマレスが顔を出した。
調査スキルで捉えていたとはいえ、そんな小さなマグマ溜まりがあったとは。
「ストーンバレット!」
咄嗟のことで反応が遅れるも、ギールスが石弾で迎撃。
直撃こそはしなかったがマグマレスを追い払うことができたようだ。
「ギールスさん、ありがとうございます!」
「シュウさんが広い範囲を警戒していたので、近くに専念できただけです」
カバーしてくれたギールスに礼を言うと、彼はカッコよく眼鏡をクイッと上げて返事した。
「……ギールス、照れてる」
「照れてなんかない」
一人で運搬していた時は大分違う。
誰かが周囲を警戒して、迎撃してくれるだけでこんなにも楽になるんだな。
パーティーを組むことの重要性を今更ながらにも実感した気がした。
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