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異世界のんびり素材採取生活  作者: 錬金王
火山採取編
133/218

火山で涼を

書籍1巻は明日発売です。

Amazonでも予約でき、電子版もありますのでよろしくお願いします。


「……あ、あの、お願いがあるのですが、一つよろしいでしょうか?」


「なんですか?」


 フランリューレがおずおずと尋ねてくる。


 彼女がそこまでして言いづらそうにするお願いとは何だろうか? 女性からそのように言われると、ちょっと怖い。


「もし、水が余っていれば分けてもらえないでしょうか?」


 なんだ。ただ水が欲しいだけか。


 想像よりも簡単なお願いにホッとした。


 とはいえ、ここは水が生命線ともいえるレディオ火山だ。そんな場所で命にも等しいものを分けてくださいと言うのだ。一般的な常識に照らし合わせれば、言いづらいのも当然か。


 フランリューレが言いにくそうにするのも無理はない。


「あれ? 湧き水筒を持っていませんでしたか? それにネルネさんが水魔法を使えるとかお店で言っていたような?」


「それが、水の生成速度を甘く見積もってしまって……」


「……今の速度で水魔法を使うと、私の魔力が尽きる」


 どうやら湧き水筒が水を生み出すよりも早いペースで飲んでしまったようだ。


 この殺人的な暑さは異常だからな。身体からドッと汗をかいてしまい、水分を失ってしまう。すると、身体が大量に水分を欲してしまうのだ。


 冷気を身に纏う前は、俺も同じ状態に陥りかけたのでよくわかる。


「アレクがガブガブ飲むからだ」


「うるせえ。ギールスだって、へばって結構飲んでただろうが」


 ドロガンから話を聞いて、入念に準備していた俺でもここの暑さは予想以上のものだった。


 それよりももっと甘く見積もっていた彼女たちの今は、もっときついだろうな。


 俺のように冷気を纏えるわけでもないし、マジックバッグを持っているわけでもない。


 四人ともかなりの汗をかいて、肌に玉のような汗をかいていた。


 もし、俺から水を貰えなければ脱水症状で倒れてしまう。あるいは、ネルネが少ない魔力を減らして、魔物との戦闘に支障をきたすかもしれない。


 そんなことになれば、ひどく寝覚めが悪い。


 過酷な環境に入った以上は自己責任であるが、助けを求める少年少女を振り払うようなことはしたくなかった。


「あの、お金をお支払いいたしますのでどうか……ッ!」


「別にいいですよ」


 フランリューレが必死に頭を下げようとするので、それを制止させてあっさりと答える。


「本当ですの!?」


「シュウさん、いい奴だな!」


「いいのですか? ここでは水がかなり重要で……」


「水ならば、魔法でいくらでも出せるので」


 ギールスたちの不安や罪悪感を重くしないように、容易く水球を出してみせる。


「……魔力も有限だけど?」


「魔力量には自信がありますので」


 この程度の魔法であれば、何百、何千回でも行使できるだろう。それぐらい俺の魔力は膨大だ。


「なので、お金も要りませんよ。厳しい環境にいるからこそ、助け合っていくべきだと思いますか

ら」


 少し臭い台詞かもしれないが、この世界では間違いではないと俺は思う。


 過酷な環境と魔物に対抗するに人間一人の力はあまりに小さい。だからこそ、俺たちは手を取り合って立ち向かうべきだと思う


 この世界について何もわからない俺に、この世界の住人たちはそのようにしてくれた。


 だから、俺も今まで出会ってきた人たちのように、そうしてあげたい。


「何という気高い志ですの。冒険者でなければ、我が家の騎士にしたいところですわ」


「光栄ですが、自由を愛する冒険者ですので……」


 そんな台詞がフランリューレの心には響いたようで、かなりうっとりとしたご様子。


 そのまま流されると、うっかりと貴族に取り込まれてしまいそうなのできっぱりと断っておいた。


「水筒などがあれば、自由に水を汲んでください」


「ありがとうございます!」


「やった! 水だ!」


 各々の水筒を取り出して、水球から水を補給するフランリューレたち。


 水筒に補給したものをごくごくと喉を鳴らして飲む。それがなくなると、またすぐに補給して飲む。


 よほど喉が渇いていたんだな。


「…………」


「どうかしましたか?」


 水球を追加で出して見守っていると、ネルネが眉根を寄せながらこちらを見てきた。


「シュウさんの周りだけ、なんか涼しい?」


「ああ、氷魔法で冷気を身に纏っていますので」


「はい!?」


 俺たちの会話を聞いていたのかフランリューレが素っ頓狂な声を上げた。


「……それって、ずっと?」


「ええ、ここは暑いですから」


「マジかよ。道理で汗ひとつかいてないわけだぜ」


「それほどの魔力があれば、見ず知らずの僕たちに気安く水を分けられるのも納得だ」


 正直、レディオ火山の暑さは異常だ。氷魔法がなければやっていけない。


 俺からすれば、氷魔法無しでここまでやってきているギールスたちの方がすごいと思う。


「……ガシ」


 などと思っていると、ネルネが急に腰に手を回して抱き着いてきた。


 少女の突拍子のない行動に驚きを通りこし、動くこともできない。


「ネルネ、何をしているんですの!?」


「……ああ、涼しい。シュウさんに密着すれば、涼しさの恩恵を受けることができる。ここは天国。フランリューレも密着するといい」


「だからといって、殿方に密着するのは淑女としてはしたないですわ!」


 そうだ。いくら冷気があるからといって、年ごろの少女が男性に抱き着くというのはいかがなものか。


「……今はそんな矜持よりも身と心の安全が大事。暑さで倒れてしまっては意味もない」


「それはそうかもですが……」


「こっちは涼しくて気持ちがいいよ? 呼吸も快適だし、暑さで頭もボーっとしない。フランリューレも楽になりなよ」


「…………」


 ネルネの甘い誘いにフランリューレが無言になってしまった。


 きっと、彼女の脳内では淑女としての矜持と快楽に向かいたい自分がせめぎ合っているに違いない。反論できなくなっている辺り、大分矜持が押されているようだが。


 ともあれ、少女に抱き着かれるのは俺の精神衛生上よろしくない。


 学生服の少女に抱き着かれるなんて前世じゃ、確実にお巡りさんにしょっぴかれる案件だ。ここは異世界なのでそこまで過剰にならなくてもいいとはわかっているが、いけないことをしている気分になる。


「冷気も付与してあげますよ」


 俺の心の平和のためにも、全員を冷気で包んであげる。


「「あぁ……涼しい」」


 一瞬にして楽園にたどり着いた少年少女は、実に幸せそうな表情をした。


 暑い外からクーラーの効いている涼しい部屋に帰ってきた時のような――いや、それの何倍もの幸福を味わっていることだろう。


「もう学園の課題とかどうでも良くなってきましたわ」


「まったくだね」


 あまりにも心地良さ過ぎて、真面目なフランリューレやギールスまでアレクのように適当なことを言うようになってしまった。


 これは、ちょっとやり過ぎてしまったかもしれないな。






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『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用だった~』

― 新着の感想 ―
[一言] まさに餓鬼の所業。 貴賤が明確に存在し、貴の立場にあるその立場を利用して無理を平然と押しつけてくる存在、貴族。 それに媚を売り糧・利を売る下賤の者で成立つ世界であることがよくわかって描けてい…
[一言] 対応が甘いと言ってる方の意見も解るけど 場所柄仕方ないのでは? 居るだけで死ぬような場所だし 注意するのは戻ってからでも出来ますから
[一言] 善人そうな貴族の卵ですから、少しサービスするくらいはいいですよね。
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