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ティアートロリアの謎  作者: えりせすと
第一章
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そう言ったよね

 短剣を抜くと、真ん中に深々とした傷跡が見える。

 光にかざすと、向こう側が見える程に確りと刃が貫いている。


 六つの品々のうち、この手帳がイズシェラリスをもっとも強く形成していたのだろう。

 だからこの手帳ご恐らく、主体となって術式を構成していたのだと、思う。


 あくまで想像でしかないが。

 そして最後に、イズシェラリスかユノか、どちらかわからないがある術韻を言い残した。


『ティアートロリア』


 恐らくこれが、ユノを人形(マリアーネ)としている術式だ。

 古ソルシエ語でもウィセド語でもなく、初めて聞く音。

 紋章術式のように、半永続的効果を持つ力のある術詞のようだ。


 考えても仕方ないのかも知れないが。

 必ずその謎を解いてみせる、と密かに決意する。

 ユノを人形の器として扱われ続けているのも気に入らないし、それに何より。

 結局曾祖父は、曾祖母しか見ておらず。

 しかも最終的にユノの身体に彼の望むイズシェラリスを固定し定着させ、更にユノ自身を消滅か同化させることにより新しく最愛の恋人を作り出そうとしていた。

 やり方が気に入らない、いったい女を――人を、何だと思っているのか。


 そうぷりぷりと怒りを顕にしても、ユノは淋しそうに微笑むだけだった。



 ジークルトを無事に宿まで運べたのは、ユノのお陰だった。

 彼女は自らが持ち出した転移の紋章術式である家紋を、宿に残していた。

 その為にフィアナは扉を開けば、それで良かった。

 辺りの源素やフィアナ自身の体内源素は略空であったが、それはユノの源素蓄積器としての役割を利用させてもらった。

 元々、ユンゲニールが術式師として活動できていたのは、ユノが側に居たからだ。


 ユノ自身が術式を打ち消す力を持っていたから、フィアナは人形を源素崩壊球だと判断した。

 彼女が側にいるときのユンゲニールが使用する術式の威力が異様に跳ね上がった為に、アレッサは人形を源素増幅器だと、思っていた。


 どちらも正しくどちらも誤りだ。

 実際は、最終的にフィアナが判断した『源素蓄積器』が正しい。

 ユノはあくまで蓄積器との扉の役割であり、幾つもの術式を保存している。

 ユンゲニールはその保存された術式を、都度引き出して使っていたのだろう。


 尊敬する曾祖父は、実際にはなんの尊敬にも値しない人物だった。

 それでもフィアナがあまり悲観せずに居られるのは。


「任せろ、って言ってくれたでしょう?」


 生まれて初めて、何かを任せられる人がいた。基本的には優れた立場にいるフィアナは、誰かに何かを任せると言う事自体がない。


「ユノを、お姉ちゃんを助けてくれるって」


 辛うじて幼少期に、ユノとは対等であったのかもしれない。

 けれどユノ自体には術式を扱う才能がなく、更には曾祖父と共にある彼女を、結局フィアナが頼ることはなかった。

 依存はしていたのかもしれないが、フィアナにとってユノは安心して背中や身体を預けられる存在ではなかったのだ。


「そう言ったよね」


 ベッドに横たわるジークルトに、何を話し掛けても反応は同じだった。

 何時までも彼のそばを離れないフィアナを心配したレオノーラが、シャルロッテに連絡して気分転換にでもとレオンハルトが遊びに来ているという事実をフィアナは知らない。

 レオンハルトはフィアナが自分以外の男へ懸想しているかもしれない、と聞いても、驚きもせずに笑っていった。

『女の浮気も我が儘も、どーんと受け止めてあげなさいってお母さまが言ってたよ!』

 その教育方針には思うところがあるが、とりあえず少年がいることによってフィアナはジークルトの側を離れた。


 日に日にジークルトの体内源素は、減少している。

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