55 王家の終わり
フィルは笑顔でアーネストを迎えたが、アーネストはいつもの困った顔をしてくれなかった。だが、フィルはそれに気がつかないふりをして、いつもより早口で始めた。
「困ったよ。ほんとに今回は参ったよ。マークもクロエも番って大騒ぎしたのに・・・だいたい番を得たら、かしこくなるって嘘なんじゃないか? アーネスト、君の番は能力ないけど、君はもともとなんでも出来るから、変化がわからないよね。
マークなんか番の事でちやほやされて・・・もともと調子いいやつだが、タガが外れて・・・
番なんて、単なる便利な言い方に惑わされた・・・
だいたい君がスミノードに楯突くような事をしただろ。やっぱり能力のない番とくっついて愚か者になったと思ってさ。それならと、二人をスミノードとその娘の家の養子にしたんだよ。あのスミノードだよ。おもいきり君を蹴落としてやろうと・・・
やっと君に勝てると思ったのに・・・」と一気に言ったものの最後はため息とともに呟いた。
「もう、話す事はない。終わりだ。王位を退いてくれ。新しく王家を擁立する」
「なんだと?」とフィルが信じられないと目を見張って言うと
「国庫に手をつける不誠実な王家はいらないな」と軽く返事が返って来た。
フィルはいつかこんな日が来るとわかっていたと思う一方、まさかアーネストがこんな・・・逆らうなんて・・・と相反する気持ちが渦を巻いて
「うそだ・・・うそだ・・・うそだよな」と言葉が出ていた。そしてアーネストが手渡してくれたハンカチを見て自分が泣いているのを意識した。
「悪かったこれを持っているのを忘れていて、傷が深くなるまえに終わりにすればよかった」といつかの誓約書をアーネストが取り出して、
「こんなもので引導を渡すのもと思ったのだが、そのほうが良かったな。済まなかった」と言うと二つに裂くのを見たフィルは、本当に終わったとなぜかほっとした。
国王は王位をフィルに譲り前国王となり、王都にほど近い王領の別邸に移り住んだ。
フィルは即位して、最後の国王となり、魔石取引の不正を行っていた一族を優遇した責任をとって王位から降りた。
ブルーリード公爵令息を新たな王に推す者は、多かったが彼は大公家のウィルヘルムを推薦した。
血筋も力も申し分ないと欠点はまだ若いと言う事だが、すぐにおぎなえると保証した。
アーネストが後ろ盾になる事はわかっているので、反対する者はいなかった。
ウィルヘルムは新たに初代グリーンクリフ王家としてグルーンバレー王国の国王となった。
アーネストはブルーリード家を出て、ウエスト公爵となり、ブルーリード家は潰された。
アーネストの父親は前国王の居候となり母親は修道院に入れられた。
そしてある日、攻略の印のバイコーンスネークの皮と角二本が、王宮前の広場に飾られた。
王家の断罪よりこちらの方が衝撃が強かった。
十階のボスを倒したと言う事で、ウィルヘルムは、とりあえず認められた。
次は十五階を目指すとウィルヘルムは、がんばっている。
そして、ダンジョンに空の魔石を蒔いた効果なのか、魔石二個持ちが出現した。
それを聞いたギルドは本格的に魔石リサイクルを始めた。冒険者はダンジョンに入るときに空の魔石を持って行くようになり、どの階層に何個、蒔いたかを記録するようになった。
これらの記録はダンジョンを育てる上で役に立つだろう。
そして、サミーは、王都を散歩している時に気づいた事を、アーネストたちに相談した。
思いもよらない話だった。
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