47 夕食で アーネスト目線
部屋の安全はレオナルドとジークフリードがしっかりと確認した。実際に寝るときは三人で相談して身を守るだろう。
夕食はウィルヘルムの異母弟ダニエルも一緒だった。
事前に教えていなかったのか、こいつがおもしろい失言をしてくれた。
「あれ?犬っころが帰って来たって聞いたけど・・・間抜け面は変わらないな」と言った。
ウィルヘルムは黙って相手を見ると、ふっと笑った。
「ダニエル様、殿下へたいして無礼ですよ」とジークフリードが言うと
「どうしてだい?無礼になるはずがない。僕が上だよ」とダニエルが言うと
「ブルーリード様、後継は生まれた順番を考慮致しますが、大切なのは後を継いでからです。やはり後ろ盾がしっかりしているダニエルがふさわしいですね。もちろん、今のダニエルの態度はいけません。今後きびしく躾ます」
と大公が言うと
「ご存知ですね、わたくしの実家、スミノード侯爵家の事」と夫人が自信満々な口調で言った。
そう確かにスミノード家は権力を持っている。魔石を扱う権利を持っているのだ。あほな王家が権利を与えたのだ。
本来ならばギルドで買い取った物を皆が買えればいいのだが・・・
王家をすげ替えればスミノードも落とせるが、いっそあの王太子の誓約書を使うか! いや、それだけでは力をそげない。徹底的にやりたい・・・先に大公家の始末をつけるほうがいいか・・・こいつら見てると胸糞悪い。
だが、ウィルヘルムは成長したな。それに比べると大公もダニエルも陳腐な小物だ。
「自分を鷹だと勘違いしたカラスほど滑稽で悲惨な物はないな。身の程を教えるのは親の役目だ」と俺がせせら笑うと、夫人が立ち上がりかけた。
その間、会話に注意してしっかりと聞いていながらウィルヘルムは落ち着いて綺麗な所作で食事を続けている。
なんとも頼もしい。余計な情報は与えないし、矜持は保っている。
「おい、こんなのを食べた事はないだろう。犬ころには勿体ないからな」とダニエルが言うと
「犬ころがどう思うかは知らないけど、こんなのはないね。ポタージュは火にかけすぎてるね。ミルクが凝固しはじめて口当たりが落ちてるし、風味が飛んでるね。それに彩りが綺麗になるからとパセリと入れるのは、いただけないな。パセリの匂いが風味の邪魔をしてる。よくあるクルトンもいいけど、わたしはよく泡立てた生クリームを入れたいな。あれが溶けていくのを見るのが好きなんだ」とウィルヘルムがさらっと言った。
「なにわからないことを言ってるんだ」とダニエルが言った所でジークフリードが
「そうか、どうしてこのスープがいまいちなのかわかりました。そうか腕の問題か」と哲学を語るように重々しく言った。
「うちのコックは実家からのコックで王家より腕がいいんですのよ。くだらないこと、言わないで」と夫人がいきりたつので俺が
「ウィルヘルム、誰もが皆、一流の食事を食べているわけではないのですよ。夫人に謝りなさい」と言った。
ウィルヘルムはしぶしぶ立ち上がると
「えーと夫人、ポタージュがまずいと言って申し訳ありません。悪気は・・・いえ申し訳ありません。でも食べられないことなかったですよ。ちゃんと我慢して食べました」と頭を下げた。
「夫人、彼を見つけてから教育をしてるんですが、間に合わなくて・・・この家にいるときはなにも教わってないようで」
「もう、けっこうです」と夫人が途中で遮ると
「跡取り教育は急ぎませんとね」と俺はウィルヘルムの肩を抱きながら言った。
「なに言ってるんだ。後継は俺だぞ。魔石を止めるぞ」とダニエルが声を荒らげた。
「魔石を・・・なるほど」と俺は夫人を見て笑ってやった。
夕食はこうやって終わり、勝ったと得意顔のダニエルはウィルヘルムを睨みつけて去って行った。
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