32 彼女の元へ
神殿を出ると、一路彼女のいる町を目指す。途中で愛馬を引き取った。大切にして貰っていたのがよくわかる。
ちょっと寂しげな愛馬は、
「お前が頼りだ」の声でしゃきっとなった。
国境の町で一行を見つけた。俺を見つけた護衛たちが走り寄って来る。なにか言いたげな彼らを無視して馬を進めた。
この町で、また迷惑をかけているのだろう。まぁここはグリーンバレー王国だ。大抵のことはもみ消せる。
「アーネスト」と呼びかけて来たのは、予想通りマークだ。
「まだ、こんな所でぐずぐずしているのか?」と言えば
「だって、クロエがアーネストを探し出すとか言って動かないし、叔父上たちの腰が・・・」
「置いていけばいいだろ。護衛もいるし」
「それが、侍女が泣くから・・・」とマークがことさら困った顔をするのを見て
「いい情報があるんだ」と囁いた。マークは気づいてないが、侍女が二人隠れているのを確認してアーネストは続けた。
「屋敷に帰ったら、母上が妙にきれいで若返っていたんだ。それで不思議に思って侍女長に聞いたら、随分勿体ぶっていたが、教えてくれたんだ。なんでも少し前から王都でお茶が密かに出回っているとか・・・それを母上も飲んでるそうなんだ。
なるほどと思ったよ。母上がね・・・それでいろいろ手を回してお茶を手に入れたんだ。無駄に権力を使ったよ。王室も知らないルートだ。
これを少しやるから、その侍女に渡してやれ。気にいってるんだろ! どこの令嬢か?」
「伯爵家の三女だが、母親の身分は低いようだ」
「そんなのはどうとでもなるだろ」と笑いかけると
「アーネスト、ありがとう。迷惑をかけたのに」
「いいさ。じゃクロエに見つかる前に行くよ」と言えば
「え?帰らないのか?番がいるんだろ」とマークが不思議そうに言うのに
「番は能力もない娘だ。様子を見るよ。当分帰らない。だから、お前は気にするな」と答えると
「そうか、心が通じると番じゃなくても大切に思えるもんな」と笑って言うマークにお茶を渡すと
「お茶をクロエに取られるなよ」と言って一旦離れて、もう一度戻って、
「そうだ、これは侍女たちが、うわさしてた物で、くれたんだ。縁が深まるとか・・・侍女の言うことだし安物だけど、よければ使ってくれ」
とピアスを渡した。
「侍女の間で、流行っているなら、喜ぶだろう。これだけあれば皆に渡せる。ありがとう」
「気にするな。俺の事はしばらく探さないでくれ」と言うとさっさとその場を離れた。
さて、我がお相手はどこにいるだろうか?
あの優秀な護衛と一緒ならどこにでも行けるしどこでも安全だろう。その点は安心だ。
さて、馬の向くまま行ってみるか。
俺は手綱を緩めた。
「おまえの行きたい所に連れて行ってくれ」
振り向いて俺をみた馬は、ふんと息を吐くと妙に気取って歩き出した。
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