27 奴隷たちの話し合い
同じ日、サミーが寝室に引っ込むと、ガイツが決死の表情で、こう言った。
「魔法陣を取るから手伝ってくれ」
「サミー様を守る力が必要だからか?」とジークが言うと
「あぁ必要だろ!」とガイツが言うと
「確かにそうだな。だが駄目だったんだろ?」
「もう一度、サミー様のポーションにすがりたい」とガイツが言うと
「そうだな」とジークとレオンがうなづきあった。
ガイツは頼んでベッドに縛り付けて貰った。そしてジークがナイフで魔法陣と肉を削ぎとり、そこにレオンがポーションをかけて行ったのだ。
肉を削ぐまでは経験していた。だから耐える自信はあった。だが、ポーションをかけると苦痛が増した。
奴隷二人はもがき苦しむガイツを見て、同情はした。だが、傷がきれいに治るのを見て、顔を見合わせた。
「ガイツ、普通にきれいになってるけど」とジークがちょっと冷たく言った。
「ウォォ」と言うのがガイツの答えだった。
二人は淡々と作業をすすめた。ガイツは遠慮なくわぁわぁ騒ぎたて、チャーリーも「ワォワォォ」と鳴いた。
「ぐぇぇぇ」「終わったぞ」「ぇぇぇ?え?」とガイツが痛い顔のまま言うと
「終わったぞ。魔法陣ないぞ」とレオンが笑いながら言った。
「え?下からでてない?」
「ない!」とレオンが答えた。
起き上がったガイツが自分の腹を見てさわって、
「ほんとにない」と震える声で言った。
「ガイツさぁほんとに自分で肉削ったり、焼いたりしたの?」
「した・・・ほんとにした・・・」
レオンとジークはガイツの肩を叩いた。三人は笑いあった。
「あの男がサミー様の番で間違いないよな」とレオンが言うと
「多分、そうだと思うが、どうしてあの男はあんな落ち着いているんだ?番封じをつけてなかったよな」とガイツが言った。
「ここに番がいるはずがない。と言う理性が働いたのではないか?」とジークが言うと
「それって逆に厄介なやつじゃないか?」とガイツが言うとチャーリーが「ヴァォ」と吠えた。
「あの男大急ぎで家に戻ってサミー様がいないと気づいたら大急ぎで戻って来て、サミー様に求愛するだろう」
とレオンが言うと
「サミー様はどうするかな?」と言うジークの問いに、誰も答えなかった。
「あの番って面倒じゃないか?」とジークが言うと
「あぁあのお姫様がついてるんならそうだろうな」とレオンが首を横に振りながら言った。
「まぁ軍隊連れて来ても俺が撃退するがな」とガイツが笑いながら言うが、
「サミー様は気にしてるけど、それだけだ。関わらせないほうがいい」とレオンが締めくくった。
「それで、どこに行く?」とジークが言うと
「最初は、静かな古都で良いと思う。そこが騒がしくなればイースト皇国へ行くのもいいかも」とガイツが答えた。
「おもいきり暴れたい」とガイツが言うと
「火の海か?サミー様が言っていたな。魔法と言えば火の海らしいな」とジークが言うと
「いっそ襲って来ればいいのに」とガイツが言えば
「ガイツ、おまえ本当に魔法陣はなんともないのか?」とジークが言うのに答えて、
「あぁ問題ない。ポーションが痛いって言うのには驚いたが。耐えたかいがあった。あの何度も血肉から蘇る魔法陣に勝った」とガイツが遠くを見ながら言った。
「所でこんなややこしい魔法陣を、なんでわざわざ腹に刻んだんだ?」とレオンが聞くと
「わざわざってなんだ! 騙されたんだよ。番になれるって」
「「は?」」「「フッフッフフーー」」
「いや、笑ってすまん・・・だがな・・・ハハハハハハフォハハ」
「番ができれば能力とか魔力が上がるって言われてるだろ。だから・・・強くなりたいと思って・・・俺、それなりに強いけど・・・上には上が・・・だから・・・」とガイツが言うと
「確かに番って言うのには憧れるよな」とジークがしみじみ言った。
「だが、もう番はいい。なんというか、サミー様見たし、番は、腹いっぱいだ」
魔法陣の付いた皮は、さんざん迷った後、ガイツ自ら、火の魔法で燃やした。
奴隷たちの戦力はあがったが、彼らは懸命な判断をした。逃げる事にしたのだ。あんなややこしい女はごめんだ。
少しだけ番のあの男への嫉妬。サミー様を蔑ろにした事、不安にさせた事、悲しませた事への仕返しの気持ちがあるのを誰も認めなかったが。
後始末を引き受けたガイツを残して、そうそうに出発した。
借家の掃除を終えた。掃除はもともとガイツの得意分野でもあり、魔法を使えるようになったので、見違える程きれいになった。家主はそれに感動して違約金は発生しなかった。
ギルドマスターは定期的に商品を届けると言うと喜んで、サミーたちの後を追って行こうとするものを妨害すると約束した。
そして、ガイツは途中でサミーたちを追い越すと古都の小さな宿に部屋を借りて一行の到着を待った。
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