26 逃げるぞ
「品物はそこにあるだけです。買ったら帰って下さい」と言っていると
別の男性が入ってきて、
「君が店主?こんな所はやめて僕の国に来なよ」と言った。するとアーネストが
「黙れ、マーク」と怒鳴りつけた。
「ご店主、迷惑をかけた。商品は全部買い取らせて貰う。それに迷惑料も受け取ってくれ。ひとり怪我したお方もいるようだ」と言ったのでガイツを見ると
「大した事ない」と教えてくれた。
「わかりました」と商品を並べると
アーネストは
「金貨百枚だ。今日の所はこれで、後日追加を持って来る」と頭を下げた。
金貨の枚数に驚いたが、口を挟む隙がなかった。
姫様の侍女が合図を送ると護衛がさっと商品を持って出て行った。
「しっかりしてるな、クロエのやつ。金払ったのは誰だよ」とマークと呼ばれた男は肩をすくめると
「じゃ、店主のお嬢さん。またね」と言うと出て行った。
「護衛を忘れるな。あの女のだがな」とガイツはアーネストに言うと
「外に出すのを手伝うよ」と護衛を通りまで運んだ。
「ありがとう。どうも」と護衛を掴んだアーネストとわたしは、また目が合った。首を振ったアーネストは店を出て行った。わたしはずっと目で追ってしまった。
「ジークが元気なら、すぐに出発しましょう」とわたしが言うと
ガイツとレオンは顔を見合わせて、
「明日の朝の出発で行きましょう」と返してきた。
「ジークはどうなの?」と言いながら、
奥へ向かうと、ジークが出てきた。
「ポーション、飲んだので大丈夫です」と笑った。
「全く、変なのが出たわね。念の為に自家用のポーション作っておこう」
「そうですね。サミー様、食べたいものがありますか?作りますよ」とガイツが笑うのに
「なんでも美味しいからなぁ」と答えた。
夕食はお子様メニューのハンバーグとポテトサラダだった。コーンスープもちゃんとあった。
なんかいろいろあった上に、ポーションも作ったので、すごく疲れたわたしは、早めに休んだが、なぜかあのアーネストの顔が浮かんでなかなか寝付けなかった。できればもう一度会いたい。
またお店に来るかもしれない、町に残る? いや、あのお姫様がいて、番がいるなんて・・・近寄らないほうがいいよね・・・知り合う前に終わるとは・・・
悩んだせいか変な夢をみた。奴隷三人が大騒ぎしているのだ。「ギャー」とか「煩い」とか「ウオー」とかなぜか、チャーリーも「がんばるワン」とか「すごいワン」「サミー様がワン喜ぶワン」とか喋って騒いでいるのだ。
朝、目が覚めたのはいつもより遅い時間で、何故か馬車の中だった。
「サミー様目が覚めましたか?起こしても起きなかったので、馬車に乗せました。着替えるなら僕は外を走ってますから」とレオンは走っている馬車から飛び降りて、走りながらドアを閉めた。
なんだか、いつもと違う。なんというか張り詰めている。それだけ、良くない状況なのかな?
着替え終わったわたしは、馬車の天井をノックした。
返事がノックで返って来て、馬車のドアが開いてレオンが入って来た。
「この先にちょっとした静かな町があります。今までの所から比べると小さい町ですが、図書館もありますし、昔、王都だったので、町並みも綺麗です。サミー様が好きだといいんですが・・・・街道で二泊すればその町に着きます。今、馭者をしているのはジークです。ガイツは後から来ます・・・・・実は家を片付けてます。家を引き払いました。
勝手をして申し訳ないですが、サミー様の安全の為に仕方なかったとご理解下さい」
「ちょっと待って、そんなにまずかった?あの人達だよね」
「えぇあれは力ずくで言う事を聞かせようとする人種です。近寄るのはよくない」とレオンが真剣な顔で言うのを聞いて
「わかった、護衛がわたしの安全を考えた結果だよね。その三人とも同じ意見なの?」
「はい、ガイツが合流したら説明します」
いつになく、重い雰囲気だけど、馬車はのどかな街道を走って行く。
わたしはチャーリーを相手に、
「こんにちワン」とか「すごいワン」とか言って
「本当は喋れるのよね。話して見てワン」とか話しかけたが、「ワオ?」と首をかしげられただけだった。




