美咲
光一があの女を切り捨てた時は嬉しかった。あんな地味な女は光一にふさわしくない。
あの女が認められたくて光一の手伝いをしているのは知っていたが、書類をまとめるくらい誰でも出来る。
型は決まっているのだから、そこに当てはめていけばいいだけだ。
それなのに、おこぼれ目的で手伝おうとコピー機からでた原稿を、重ねてホチキスで止めたら、
「ちゃんとページ番号をみて、順にかさねてホチキスはまっすぐに止めて」と注意された。
「手伝おうと思ったんです。山本さんが大変そうだから」と涙ぐんで反論したら
「高橋君、ありがとう。よく見てくれているんだね。塚本君もそんな言い方はよくないね。ちゃんと教えてあげると高橋ちゃんもすぐ覚えるよ」とかばってくれた。
その後教えて貰ったけど、山本さんが言ったより複雑な事を言い出した。わざと仕事を増やしたんだ。
「ページの順にまとめて、ホチキスはこの線に合わせて止める。ページの順にまとめる時、内容に口出しはできないけど、単純に日付が違っていたりとか、単位が違っていたりとか・・・そうね、前に先方から送られた規格書にインチとセンチが混ざっていたことがあってね。おかしいと思った時はそっと担当に話してね。守秘義務も絡むから部内でも静かにね」
「もういいです。わざと難しいことを言って意地悪して・・・・もういいです。やりません」と怒鳴って部屋を出た。
狙った通り山本さんが追いかけて来た。
「高橋ちゃん、大丈夫? あいつ細かいから・・・・高橋ちゃんはちゃんとやってるよ」と慰めてくれた。
「そう言っていただけると、なんだか嫌われているみたいで、わたしにだけ当たりがきついんです・・・・・でも山本さんがそう言って下さって・・・頑張れます」
と言うと
「固いなぁ、そこが高橋ちゃんのいいとこだけど、ほら僕の事は二人の時は光一って呼んでよ」
「それなら、光一さんもわたしのことは美咲って」
「うん、美咲。負けるなよ」
「はい。光一さん」
「さんはい・ら・な・い。光一」
「光一」って呼んではにかんで下を向いたら、光一は頭を撫でて
「いい子だ」と言った。それから
「さて、あの女の作った書類で仕事だ。行って来る」と去って行った。
光一はほんとに仕事が出来るようで、大きな仕事をどんどんまとめて行った。まとめた後も信頼されているようで、更に大きな仕事を紹介されてはまとめて行った。
わたしはあの女がまとめた書類を配るのを手伝おうとしたら、断られた。確かに前に一度配達先を間違えたけど・・・
社内だからいいじゃない、第一、粟原と栗原って区別しにくのよ・・・・
そしてあの女が会社をやめてから、光一の手伝いをするのはわたしと、書類を丁寧にまとめてちゃんとページの順に重ねたし、ホチキスも言われた通りにした。
そして、あの女がいなくて少し浮かれていたわたしは、つい学生の時、地味子をいじめるノリで
「うけるーーー」とか騒いで光一の失敗を広めてしまった。
契約は先方がいい人で今回はなんとかなったが、次回は条件が厳しくなるだろうと言われている。なんだか、間違いがまだあったみたい・・・
わたしは書類をまとめただけだから、ちゃんと完璧にまとめたし、お咎めはなかったが、なんだかみんな冷たい。
そして光一は左遷された。田舎の支所に転勤になった。廃止しようかと検討していた場所らしいが、営業所となって光一が営業所長となったらしい。オメデトウ!!
勿論一緒に行くことは断った。冗談じゃない・・・・・
そしてわたしも所属を移動した。
倉庫の整理係でも、都会のこの会社にしがみついてやるんだ。いまに見てろ・・・・
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