第35話
予想通りと言うべきか、チュートリアル村から逃げ出した女、子供が向かっていた方向に歩いて行っていると、ギリギリ辺りが暗くなる前に街が見えてきた。
「……キュー」
小狐は呑気にも寝息を立てながら俺に抱き抱えられながら腕の中で眠っている。
……本当に親狐のことが無かったら絶対置いていってやるのにな。
内心でそう思いつつ、絶対に態度に出さないように気をつけながら、俺は小狐を服の中に隠した。
隠すことを考えれば眠ってるのは静かでいいな。
……まぁ、明らかに服が膨らんでるし、ちょっと……いや、かなり隠せるかは心配だけど、街に入って人間の情報が欲しい以上、入るしかない、よな。
頼むからそのまま動かずに眠っててくれよ。
そう思いつつ、俺は何食わぬ顔でそのまま街に向かって歩き出した。
街に出入りしている人間見えてきた。
俺もあそこから自然と行けたらいいんだが、門番のような男たちに一人一人話しかけられているし、素通りって訳にはいかなそうだ。
……人化しても心臓は無いままなのか、ドキドキはしていない。そのおかげで顔にも緊張している様子は出ていないし、誰かに胸の辺りを触られたら魔物だと気が付かれる危険性はあるけど、少なくとも今は好都合だ。
「そこで止まれ」
そして、門番の人達の前を通り抜けようとしたところで、俺はそう声をかけられた。
俺じゃない誰かに言っている……なんてことは無いだろうし、無視をして何か邪なことがあるのではと怪しまれる訳にもいかないから、俺は直ぐにその場に立ち止まった。
「……はい。なんでしょうか」
……大丈夫。少なくともまだバレてないはずだ。
「あぁ、そう緊張しなくてもいい、単純に義務としてこの街に来た用件を聞いているだけさ」
予想通りバレては無かったけど、俺がここに来た用件……? どうする? なんて言う? まさかバカ正直に人間のこと……いや、この世界のことを知るために来た、なんて言えるわけないしな。
近くの村から街に興味があって来たとでも言うか? ……ダメだな。村の名前を聞かれた瞬間終わりだ。
「……旅をしていて、たまたまこの街が見えてきたので、来ました」
俺は苦し紛れにそう言った。
これもこの街に来る前に居た街の事を聞かれたら終わるけど、流石にそこまでは聞いてこない……と思う。
俺が明らかに怪しい見た目だったのならともかく、多分違うと思うから。
自分の顔をまだ知らない以上、あくまで多分なんだけどさ。
「そうか。通っていいぞ」
……え? いいの? もう? セキュリティが甘すぎないか? ……そこまで大きくない街だからこそなのか、たまたまこの男があまり真面目なタイプじゃなく、適当なのか。
……多分どっちもだな。
もっと大きな街だったら、もっと真面目な男を雇えただろうし。
そんなことを思いつつも、門番の人の前を通り過ぎようとしたところで、肩に手を置かれた。
……なにかバレたか? ……流石にここで騒ぎを起こして指名手配みたいな感じになったら困る。……逃げるか? ……いや、逃げても顔を見られてる以上、結果は同じか。
「何も無いところだが、ゆっくりしていけよ」
「……え? あ、あぁ、ありがとう」
全然バレてなかった。
それどころか、気だるげな感じはしたけど、普通に良い奴だった。
……まぁ、俺にとってはどうでもいいことだし、さっさとバレないうちに街の中に入ってしまおう。
「キュー……?」
そして、タイミングが良いと言うべきか、少しだけ歩いて門のところから離れたところで服の中に隠していた小狐が目を覚ましたみたいでそんな鳴き声が聞こえてきた。
「少しだけ待ってくれ」
「キュー」
今暴れられたら困るから、俺はそう言って分かりやすく人気が少ない路地裏まで移動した。




