02_初恋リベンジ②
リナのたった一つの嘘。
それは、最初の夫と離婚したあとに気づいた事実だ。
リナの防御魔法は、決して暴走などしていない。
半年以上悩み続けて王女に相談した時に、「もしかして……」と言いながら差し出された王女殿下の手を、リナは普通に握ることができたのだ。今までは夫も父も研究者もすべて指一本触れられなかったのに。
そこでふと気がついた。
『強すぎる防御魔法が消えてくれないから誰も触れられない』のではなく、『好きな人以外に身体を許したくない』という乙女心が原因なのだと。
今までずっと、無意識に発動してしまっていたのだと。
――こんなことがバレたら、侯爵家は潰されてしまう。
格上の公爵家から迎えた花婿を、結婚式でキスしようとした瞬間に、大勢の参列者の見ている前で弾き飛ばすという、ただでさえ申し訳ない真似を披露してしまったのに、『あなたに触られるのが嫌で無意識に防御魔法を使ってたみたいです』などとは口が裂けても言ってはいけない。誰にもバレてはいけない。あまりにも不敬すぎる事実なのだ。
そして、防御魔法が強すぎて暴走しているのなら、それが制御できるようになるまでは次の縁談など決まらない、というのが父の認識だ。
王女殿下の薦めでもあるし、『魔法制御の練習相手として猛毒公爵と期間限定で結婚したい』というリナの主張に、父は渋々頷いた。
父はリナを金の成る木として見ており、この結婚についても「お前を落ちぶれていく猛毒公爵家になんて、もったいない」と実際言われている。その言い分には腹が立つが、リナだって貴族として生きるならば結婚は家同士のものだとわかっている。好きな人とは結婚できない。――そもそもエドガルドはリナのことが嫌いだし、在学中から彼には他に好きな人がいる。どんなにリナが密かにエドガルドを想い続けていようが、彼との未来は実現しない。
だけど、一回でいいから。
もしも初めてのキスさえ初恋の人であるエドガルドと出来たなら、きっとその思い出だけで満足し、『好きな人以外とは誓いのキスすら無意識に弾いてしまう』なんてことにはもうならないだろう。きちんと大人になれる気がする。エドガルドだってリナを練習相手にして毒魔法を制御できるようになれば、誰かを傷つける心配をしなくて済むようになり、本当に好きな人と結婚できるようになるかもしれない。リナ以外と結婚する彼を想像するとつらいけれど、彼にはちゃんと幸せになってほしい。
――そう、リナはこの恋を終わらせに来たのだ。




