272 それは古き伝承の中にて
「……ふーむ……それでクリフ殿の雰囲気がかなり違うのですな」
「実感はあまりないけどね」
俺たちが聖王国魔法大学を去ってからの話をトニーに伝えると、彼はかなり驚きながらもすんなりと内容を受け入れて納得してくれていた。
というのも昔の雰囲気からすると俺は相当に変わっているらしい……魔法大学時代はそれでも少し飛び抜けた魔力を持っている魔法使い、という印象だったらしいが今のトニーが見る俺は、正直いうとかなり異質な印象を受けるらしい。
言葉にするのはかなり難しいのですが……という注釈付きではあったが、大きな魔力がそのまま息をしているような感じ、と伝えられた。
「これでも抑えているのですよね?」
「ああ、ただ息をするだけでも魔力が回復していくから……抑えられているのかよくわからないよ」
「魔王とはそんな存在なのですなあ……羨ましい」
「普通に魔王とか言っちゃってるけど……その、怖くないの?」
「何をおっしゃる……某であれば筋肉の魔王とか呼ばれたいくらいなのですから……誇るべきですぞ」
トニーは非常に人懐っこい笑顔でその上腕二頭筋を盛り上げるが……そうだった、彼はそういうのにあまり執着や恐怖感を感じているタイプではなかったんだ。
そして彼は優しい微笑みを浮かべながらアイヴィーとアドリアに向かって微笑む……たった数年前だけど、俺達は共に仲間として混沌と戦っている。
本当は一緒に行動してほしいという話もしたんだけど、彼自身は冒険者として旅をすることを拒み、そして俺達は魔法大学を去っている。
聖王国魔法大学は今もまだ再開の見込みはなく、結果的に聖王国の魔法研究はかなり弱体化をしているのだそうだ。
「アイヴィー殿もアドリア殿もクリフ殿と共にいられてよかったですな」
「……ま、一人だとこの人すぐ死んじゃいそーですからね」
「私はまあ、楽しんでいるし……ところであの時なぜ私達との旅に来なかったの?」
「某が一緒にいると色々邪魔だろーなと思いましてね、それくらいわかりますよ」
「な! ……そういうのやめてもらえます?」
トニーの言葉に顔を真っ赤にして二人は黙り込む……そうだった、この人そういう余計な気遣いしちゃう人だったんだ。
あの頃俺とアイヴィーは人目を忍んで色々いちゃついてたし、それをどこかで見られていた気もする……そしてその時に起きた出来事でアドリアも俺との関係を持ち始めていたのを勘づいていたのだろう。
現状すでに俺と二人が恋人関係……まあむしろ結婚も視野に入れているというのはわかっているのだろうし、俺の友人は少しよく分からないけどある意味鋭い人間でもあるのだな。
そんな二人を見ながらヒルダとロスティラフが顔を見合わせて笑う……そんな俺たちを見ながら、トニーは少し真面目な顔をしながら高級そうなカップに入ったお茶を啜ると本題に入るとばかりに口を開いた。
「それで混沌の話ですが……お分かりの通りこのブランソフ王国は混沌の支配下にあります」
「そうだろうな……」
「某も過去の文献などを調査していてわかりましたが、根が深い問題のようです」
トニーの話によるとブランソフ王国はかなり以前より混沌の手先が入り込んでいたそうだ……本格的に汚染が始まったのは俺たちが生まれる前。
高位貴族の一部が力を求めて混沌へと魂を売り渡したのが最初だそうだ、いつの時代もそういう連中は絶対にいるものなのだ。
その時期から獣魔族の供給などを王国の暗部で実行しており、人知れず行方不明になるものなどが続出していたのだとか。
だが、それも全て王国は黙認し全てが闇に放られ続けてきていた……その状況を変えようとする者もいたにはいたらしいのだが、そう言った連中は全て土の下にいるとか。
「レヴァリア戦士団はどうなんだ?」
「確かに混沌の戦士がいるとはいえ、彼らの大半は関係ないよ」
「そうなんですか? 某はてっきり仲間なのかと……」
針葉樹の槍がそう告げるのを聞いて、トニーが驚いたように応えた。
それは俺も同じで……レヴァリア戦士団の法螺吹き男爵ことカイ・ラモン・ベラスコは混沌の戦士と共に行動しているからだ。
俺が彼らの謀でヒルダのことを自分のものとした後、俺の前へと姿を現したのがその証左ではないか? とは思うのだが。
だが、針葉樹の槍は首を振ってそれは違うとばかりの仕草を見せる。
「これは私の考えだけど……あのカイという戦士と混沌の戦士は愛情で繋がっていると思う」
「え、ええ……? 混沌との愛情……?」
「団長であるラウール・フロイデンタールは汚染されていない、トニーも見たろ?」
「はい……確かに奇妙な雰囲気は感じませんでしたが……」
「そしてカイという男もまた汚染はされていない」
するとカイとネヴァンはそう言う仲で……ちょっと気持ち悪くなってきたけど、愛情で混沌と繋がるなんてちょっとおかしくない……なんてことはないわよ?
私は貴方を愛しているし、今貴方の中に溶け込んでいるのはもうこれは愛でしかないのだから……ってアルピナが出てきているのはどうにかならんのか。
俺は心の中で喚き立てるアルピナを黙らせるように頬を叩くが、そんな俺の様子を見て不思議そうな瞳でトニーが見つめていた。
「どうしましたか? いきなり頬など叩いて……クリフ殿は昔から変わっておりましたが、今も変わりませんな」
_(:3 」∠)_ 愛ゆえに愛
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